2020年02月28日

中国経済の見通し-新型肺炎で1-3月期の成長率は急減速も、その後はV字回復となり、20年は5.6%と予想

三尾 幸吉郎

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1.中国経済の概況

中国では19年10-12月期の経済成長率が実質で前年比6.0%増と、前四半期の同6.0%増から横ばいに留まり、6四半期ぶりに減速に歯止めが掛かった(図表-1)。

ここ数年の中国経済を振り返ると、チャイナショックが起きた15年には、成長率が7%台から6%台へと落ち込んだため、中国政府(及び人民銀行)は15年10月に小型車減税を開始、基準金利を段階的に引き下げて、景気を支えた。その後17年10月に共産党大会(19大)を無事に終えると、そもそも過剰と認識していた債務がさらに増大したことを懸念して、中国政府は債務圧縮(デレバレッジ)に乗り出した。その影響でインフラ投資が頭打ちとなり景気が減速し始める中で、18年夏には米中対立が激化して追い打ちを掛けたため、中国経済は18年7-9月期から5四半期連続で減速することとなった。これを受けて中国政府は18年12月、「反循環調節(景気減速の押し戻し政策)」と呼ばれる景気対策に舵を切り、「地方債券の発行規模を大幅に増やす」とともに、金融政策を「穏健中立」から「穏健」に切り替えて、金融(預金や融資)の伸びをGDP名目成長率につり合う伸びに設定、デレバレッジ推進を事実上棚上げした。しかし、米中対立の悪影響が広がり、景気の減速は続いた。そこで中国政府は19年8月に消費拡大策(自動車購入規制の段階的緩和や深夜営業など20項目)を打ち出し、同年9月には地方政府特別債券の発行とその使用を加速する措置を発表、さらに、新たに導入したローンプライムレート(LPR)を貸出基準金利より低めに設定してそれを段階的に引き下げるなど金融緩和に動いた。これらの景気対策を受けて、中国経済は前述の通り6四半期ぶりに下げ止まることとなった。

また、19年通期の成長率は実質で前年比6.1%増と、前年の同6.7%増を0.6ポイント下回り、2年連続の減速となった。リーマンショック後の中国経済は、大型景気対策の効果で10年には前年比10.6%増まで急回復したものの、そこで抱えた過剰設備・債務が足かせとなり、回復は長続きしなくなっている。なお、需要項目別の寄与率を見ると、19年は最終消費(個人消費+政府支出)が57.8%、総資本形成(≒投資)が31.2%、純輸出が11.0%となっており、最終消費が6年連続で最大寄与項目となった。また、産業別の実質成長率を見ると、「中国製造2025」において大きな柱となる情報通信・ソフト・ITサービスが前年比18.7%増と高い伸びを示している(図表-2)。
(図表-1)中国の実質成長率/(図表-2)産業別実質成長率

2.需要項目別の動き

2.需要項目別の動き

1|個人消費
個人消費の代表的な指標である小売売上高の動きを見ると、19年は前年比8.0%増の約41兆元、日本円に換算すると約650兆円(1元=15.8円)で、18年の同9.0%増を1.0ポイント下回った。足元の動きを見ると、「独身の日」などのネットセールが変動幅を増幅してトレンドが把握しづらくなっているものの、基本的には緩やかな減速傾向を示している(図表-3)。

業種別の内訳が分かる限額以上企業の統計を見ると、日用品類は前年比13.9%増と18年の同13.7%増を上回り、化粧品は同12.6%増と18年の同9.6%増を上回り、飲食も同7.1%増と18年の同6.4%増を上回ったものの、住宅販売の低迷を背景に家電類が同5.6%増、家具類も同5.1%増と低位に留まるとともに18年の伸びを下回っており、自動車は同0.8%減で2年連続の前年割れとなった。なお、ネット販売(商品とサービス)では、BAT(百度、阿里巴巴、騰訊)を代表とするプラットフォーム企業が新たな消費需要を生み出す流れが続いており、19年は前年比16.5%増と18年の同23.9%増ほどの勢いはないものの、引き続き高い伸びを維持している(図表-4)。

また、個人消費への影響が大きい諸指標を確認すると、消費者信頼感指数は引き続き高水準を維持しているものの、都市部の調査失業率は5.2%と高止まりしており、雇用情勢は予断を許さない。そして、新型肺炎の影響で個人消費が落ち込むのは避けられない状況にある(詳細は後述)。
(図表-3)小売売上高の推移/(図表-4)小売売上高(限額以上企業、2019年)
2|投資
投資の代表的な指標である固定資産投資(除く農家の投資)の動きを見ると、19年は前年比5.4%増の約55兆元、日本円に換算すると約870兆円(1元=15.8円)で、18年の同5.9%増を0.5ポイント下回った。足元の動きを見ると、10月の前年比3.4%増(ニッセイ基礎研の独自推計)を直近ボトムに、11月は同5.2%増、12月は同7.6%増と2ヵ月連続で持ち直してきた(図表-5)。

投資を3大セクター別に見ると、不動産開発投資は前年比9.9%増と18年の同9.5%増を小幅に上回り、インフラ投資は同3.8%増で横ばいだったものの、製造業が同3.1%増と18年の同9.5%増を大幅に下回った。製造業の投資が低迷している背景には米中対立の激化がある。槍玉に挙げられたのが「中国製造2025」で、その関連投資に対する不確実性が高まったからである。また、関税引き上げ合戦の激化で、対米輸出拠点を中国以外へ移転する動きが広がったことも背景にある。

但し、製造業の投資には底打ちの兆しがでてきている。足元の動きを見ると、19年4-6月期の前年比1.4%増(ニッセイ基礎研の独自推計)を直近のボトムとして、7-9月期には同1.5%増、10-12月期には同4.9%増と2四半期連続の回復となった(図表-6)。その回復を牽引しているのが「中国製造2025」の柱のひとつであるコンピュータ・通信・電子設備製造で、19年10-12月期には前年比32.2%増と極めて高い伸びを示し、19年1-3月期の同5.5%増をボトムにV字回復してきた(図表-6)。米中対立の長期化を覚悟した中国政府が、国民に「自力更生」の必要性を訴えかけるとともに、5Gへの移行を積極的に推進し始めたことが背景にある。
(図表-5)固定資産投資(除く農家の投資)/(図表-6)製造業とコンピュータ・通信・電子設備製造の投資
3|輸出
消費・投資と並ぶ第3の柱である輸出(ドルベース)を見ると、19年は前年比0.5%増の約2.5兆ドルとなり、18年の同9.9%増から大幅に伸びが鈍化した。足元の動きを見ると、19年に入り±0%を挟んで一進一退を繰り返していたが、12月には前年比7.6%増と持ち直した(図表-7)。しかし、輸出の先行指標となる新規輸出受注指数を見ると、12月には19ヵ月ぶりに拡張・収縮の境界(50%)を上回ったものの、1月には再び50%を割り込んだ(図表-8)。また、米中貿易協議は「第一段階の合意」に達したものの、制裁関税引き下げはほんの一部に限られる上、覇権争いは今後も続くため、対米輸出拠点を中国以外に移す流れに歯止めが掛かるとは期待できない。さらに、新型肺炎の影響で旧正月(春節)連休明けの生産再開が遅れていることも輸出の足かせとなる。
(図表-7)輸出(ドルベース)の推移/(図表-8)新規輸出受注指数の推移
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三尾 幸吉郎

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