2020年02月25日

女性の生活満足度を決めるのは何か?~共働き編-何より時間のゆとり、お金で時間を作ることは自分への投資にも

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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1――はじめに~共働き女性の生活満足度の決定要因は?

「女性の生活満足度を決めるのは何か?」1では、25~59歳の女性5千名を対象とした調査2を用いて生活満足度の決定要因を分析した。その結果、影響の大きな順に、(1)時間のゆとりがあること、(2)世帯金融資産が多いこと、(3)結婚していること、(4)安定した心、(5)体力があることとなっていた。

年代別に見ると、25~29歳では生活満足度に対する結婚していることの影響は、時間のゆとりの影響をわずかに上回っていたが、30歳代では時間のゆとりが、40歳代では世帯金融資産が、50歳代では安定した心や体力が上回り、年齢とともに生活に重きを置く事柄が変わっていく様子が見えた。

前稿は、専業主婦も就業女性もあわせて女性全体を対象に分析したが、本稿では、「共働き」の女性を対象に分析を行う。分析対象を共働き女性とすると、女性全体の分析で用いた変数に加えて、「本人年収」や「配偶者年収」、「子どもの有無」、「義理の実家との距離」といった変数を加えることができるが、共働き女性の生活満足度は何が決定要因となっているのだろうか。
 
1 久我尚子「女性の生活満足度を決めるのは何か?」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート(2020/2/10)
2 「女性のライフコースに関する調査」、調査時期は2018年7月、調査対象は25~59 歳の女性、インターネット調査、調査機関は株式会社マクロミル、有効回答5,176。本稿では、理想のライフコースが「両立コース」の女性のうち、既婚で配偶者・子ありの女性が対象(n=731)。
 

2――共働き女性全体の結果

2――共働き女性全体の結果~生活満足度は(1)時間のゆとり、(2)経済的豊かさ、(3)安定した心が高める

分析対象は25~59歳の既婚で夫婦ともに就業中の女性とする。生活満足度を目的変数、年齢や最終学歴3、本人年収4、配偶者年収5、世帯金融資産6、子の有無7、同居あるいは近居の病気がち・療養中の家族の有無8、実家との距離9、義理の実家との距離、時間のゆとり10、体力の程度11、5つの性格因子についての因子得点12を説明変数とする重回帰分析を試みた。

分析に用いた説明変数間の相関係数は中程度以下であり、多重共線性の問題はないと考えられる(図表1)。変数は強制投入とした。重回帰分析の結果、重決定係数は0.295であり、1%水準で有意な値であった。それぞれの説明変数から目的変数への標準回帰係数を示す(図表2)。なお、対比のために、前稿で分析した25~59歳の女性全体の結果も記す。女性全体の分析では、未婚者や専業主婦も含むため、「未既婚」や「非就業・就業」という変数がある代わりに、「本人年収」や「配偶者年収」、「子の有無」、「義理の実家との距離」という変数がない。
図表1 各測定値の基礎統計量と相関係数(n=1,317)
図表2より、共働き女性の生活満足度に対して影響を与えるのは、影響の大きな順に、(1)時間のゆとり、(2)世帯金融資産、(3)心の安定(負の影響を与える情緒不安定性の高さの逆転)、(4)年齢の若さ(年齢の高さの逆転)、(5)配偶者の年収、(6)体力、(7)協調性の高さ(非調和性の高さの逆転)、(8)開放性(進歩的な・多才のなど、前向きな姿勢とも言える)の高さ、(9)病気・療養中の家族がいないことだ。

つまり、女性全体と同様に共働き女性でも生活満足度を高めるのは、何よりも時間のゆとりであり、経済的な豊かさの影響を上回る。また、標準化係数の値を見ると、共働き女性では女性全体と比べて時間のゆとりの影響がより大きい様子がうかがえる。共働き女性の分析では、時間のゆとりの標準化係数の絶対値がやや大きく、次いで影響の大きな変数の標準化係数の絶対値との差がひらいている。
図表2 女性の生活満足度の重回帰分析結果
 
3 中学卒=1、高校卒=2、高等専門学校卒=3、専門学校卒=4、短期大学卒=5、大学卒=6、大学院卒=7とし、便宜上、順序尺度に見立てているが、例えば、専門性の高さなどの軸で見ればこの通りではない。
4 収入はない=1、150万円未満=2、150~300万円未満=3、300~400万円未満=4、400~500万円未満=5、500~600万円未満=6、600~700万円未満=7、700~800万円未満=8、800~900万円未満=9、900~1,000万円未満=10、1,000~1,200万円未満=11、1,200~1,500万円未満=12、1,500万円以上=13
5 収入はない=1、150万円未満=2、150~300万円未満=3、300~500万円未満=4、500~700万円未満=5、700~1,000万円未満=6、1,000=7
6 50万円未満=1、50~100万円=2、100~300万円未満=3、300~500万円未満=4、500~1,000万円未満=5、1,000~2,000万円未満=6、2,000~3,000万円未満=7、3,000~5,000万円未満=8、5,000万円以上=9
7 子どもなし=1、子どもあり=2
8 病気がち・療養中の家族なし=0、病気がち・療養中の家族あり=1
9 同居=1、近居(同一区市町村内)=2、別居(同一区市町村外)=3、その他(すでに亡くなっているなど)=4のうち、4以外が分析対象。義理の実家との距離も同じ。
10 時間のゆとりのない方だ=1、あまり時間のゆとりのない方だ=2、どちらともいえない=3、やや時間のゆとりのある方だ=4、時間のゆとりのある方だ=5
11 体力がない方だ=1、どちらかと言えば体力がない方だ=2、どちらともいえない=3、どちらかと言えば体力がある方だ=4、体力がある方だ=5
12 調査では「外向性(社交的・話好き・陽気など)」「非誠実性(ルーズな・いい加減ななど)」「情緒不安定性」「開放性(進歩的・多才の」「非調和性(怒りっぽい・短期など」という5つの性格因子に対応する表現に対するあてはまり度合いを5段階で尋ねて得ており、そのデータに対して因子分析を行って得た因子得点。
 

3――属性別に見た結果

3――属性別に見た結果~パートタイム妻は配偶者の年収、高年収妻は開放性や世帯金融資産の影響も

1年代別の結果~いずれも時間のゆとり、年齢とともに扶養控除枠で働く妻が増えるため配偶者の年収も
同様に年代別に重回帰分析を実施した。いずれの分析においても独立変数間の相関係数は中程度以下であり、多重共線性の問題はないと考えられる(基礎統計量等の図表は省略)。重決定係数は、25~29歳の分析では0.315、30歳代では0.248、40歳代では0.315、50歳代では0.367であり、それぞれ1%水準で有意な値であった。それぞれの説明変数から目的変数への標準回帰係数を図表3に示す。

年代によらず、時間のゆとりの影響が最も大きく、次いで、40歳代までは世帯金融資産、50歳代は配偶者の年収となっている。なお、配偶者の年収は年齢とともに影響が大きくなっている。これは、年齢とともに配偶者の年収が高まるとともに、女性本人の年収との差がひらくことで、家計における配偶者の年収の重要性が増すためだろう。年齢が高いほど、パートタイムなどで夫の扶養控除枠(妻の年収150万円未満)を意識した働き方をする女性は多い傾向がある。共働き女性のうち年収150万円未満の割合は、25~29歳は31.4%、30歳代は51.3%、40歳代は63.0%、50歳代は62.5%である。
図表3 共働き女性の生活満足度についての重回帰分析結果(年代別)
2雇用形態別の結果~パート・アルバイトは配偶者年収、正社員は本人年収が生活満足度を高める
次に、雇用形態別に重回帰分析を実施したところ、いずれの分析においても独立変数間の相関係数は中程度以下であり、多重共線性の問題はないと考えられる(基礎統計量等の図表は省略)。重決定係数は、パート・アルバイトの分析では0.310、正社員・正職員では0.291であり、それぞれ1%水準で有意な値であった。それぞれの説明変数から目的変数への標準回帰係数を図表4に示す。

生活満足度に対して正の影響を与えるものを見ると、雇用形態によらず、時間のゆとりや世帯金融資産の影響が大きいが、パート・アルバイトでは次いで配偶者の年収、正社員・正職員では本人年収が続く。これは、家計における配偶者年収の重要性の違いによるものだろう。

なお、統計的に有意ではないが、義理の実家や実家との距離は、パート・アルバイトでは遠い方が、正社員・正職員では近い方が生活満足度を高める傾向がある。フルタイムで働く正社員・正職員では、仕事と家庭の両立に向けて、義理の実家や実家の手を借りた方が生活満足度は高まるのかもしれない。
図表4 共働き女性の生活満足度についての重回帰分析結果(雇用形態別)
3年収別の結果~年収500万円以上では時間のゆとりより開放性の高さ(前向きな姿勢)や世帯金融資産
最後に、年収別に重回帰分析を実施したところ、いずれの分析においても独立変数間の相関係数は中程度以下であり、多重共線性の問題はないと考えられる(基礎統計量等の図表は省略)。重決定係数は、年収150万円未満の分析では0.307、150~300万円未満では0.282、300~500万円未満では0.304、500~700万円未満では0.611、また、500万円以上(年収700万円以上はサンプル数が少ないため500~700万円未満もあわせて分析)では0.528であり、それぞれ1%水準で有意な値であった。それぞれの説明変数から目的変数への標準回帰係数を図表5に示す。

年収別に見ると、年収500万円未満までは時間のゆとりの影響が最も大きい。なお、標準化係数βの値を見ると、時間のゆとりの影響は、特に年収300~500万円未満で大きい。一方で、年収500万円以上では開放性の高さ(前向きな姿勢)の影響が最も大きい。次いで、年収500~700万円未満では時間のゆとりが、年収700万円以上も含む年収500万円以上では僅差で世帯金融資産が続く。つまり、より高年収層では、世帯金融資産が生活満足度へ与える影響が時間のゆとりを上回る。

この背景には、年収による時間のゆとりの違いがあるようだ。年収別に時間のゆとりを見ると、ゆとりが「ない」と「あまりない」を合わせた時間のゆとりのない層の割合は、年収とともに高まり、年収300~500万円未満をピークに、年収500万円以上では低下していく(図表6)。つまり、年収300~500万円未満の共働き女性は最も時間のゆとりがないために、時間のゆとりが生活満足度へ与える影響が大きいのだろう。

一方で、高年収層ほどフルタイムで働く女性が増えるために、時間のゆとりはなくなりそうなものだが、逆に、時間のゆとりのある層が増えている。この理由には、高年収層ほど、(1)管理職が増えて仕事における自己裁量の幅が広がるために、業務時間の使い方の自由度が増すこと、(2)経済的余裕から家事代行サービスなどを利用できるようになることで、時間を作れるようになること、(3)子どもの年齢が高くなることで、仕事と家庭の両立にかかる時間の面での負担が減ること、など考えられる。

これらを理由に年収500万円以上の女性では、時間のゆとりが生活満足度へ与える影響が弱まることで、相対的に開放性の高さの影響が大きくなるのだろう。また、より高年収層では、お金で時間を買うことができるために、世帯金融資産(お金)の影響が大きいのかもしれない。
図表5 共働き女性の生活満足度についての重回帰分析結果(年収別)/図表6 共働き女性の年収別に見た時間のゆとり

4―おわりに

4―おわりに~時間のゆとりを作るためにお金を費やすのは自分への投資、退職すると生涯所得▲2億円

共働き女性の生活満足度には時間のゆとりの影響が最も大きいが、高年収層では時間を買う余裕が出ること等から、開放性の高さ(前向きな姿勢)や世帯金融資産の影響が上回る。日常的に家事代行などを利用できる女性は限られるだろうが、子どもが小さいうちだけ、繁忙期だけ、あるいは水回りの掃除など家事の一部だけなどと割り切って、お金を出して時間を作ることで、時間のゆとりが生まれ、生活満足度を高められる。また、時間にお金を費やすことは、仕事と家庭の両立を継続するための自分への投資13、あるいは必要経費とも言えるだろう。両立の困難さから、退職して子育てが落ち着いてから復職する女性も多いが、就業継続した場合と比べて約2億円の生涯所得の差が生じる14
 
13 参考:「家事代行という投資術」日経ヴェリタス(2020/2/1 52面)
14 久我尚子「大学卒女性の働き方別生涯所得の推計」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート(2016/11/16)
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

(2020年02月25日「基礎研レター」)

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【女性の生活満足度を決めるのは何か?~共働き編-何より時間のゆとり、お金で時間を作ることは自分への投資にも】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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