2020年02月18日

2019~2021年度経済見通し(20年2月)

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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2. 実質成長率は2019年度0.2%、2020年度0.3%、2021年度0.9%を予想

(新型肺炎終息で景気は持ち直すが、オリンピック終了後に再び正念場)

2019年10-12月期は消費税率引き上げに伴う国内民間需要の急速な落ち込みを主因として前期比年率▲6.3%の大幅マイナス成長となった。2020年1-3月期は駆け込み需要の反動が和らぐことから、民間消費、設備投資が持ち直すものの、新型肺炎の影響で財、サービスの輸出がともに減少し、外需が成長率を大きく押し下げるため、前期比年率▲1.0%と2四半期連続のマイナス成長になると予想する。

今回の見通しで新型肺炎の終息時期と想定している2020年4-6月期は一時的な押し下げ要因の剥落、挽回生産などから前期比年率2.9%の高成長となった後、東京オリンピック・パラリンピックが開催される7-9月期も同2.2%と潜在成長率を明確に上回る成長が続くだろう。ただし、新型肺炎の感染拡大が長期化すれば、景気の底打ち時期は後ずれする。また、オリンピック終了後の2020年度後半から2021年度前半にかけては、押し上げ効果の剥落から景気の停滞色が強まることは避けられない。ポイント還元制度などの消費増税対策の効果一巡がオリンピック終了と重なることで、景気の落ち込みを増幅するリスクがある。

実質GDP成長率は2019年度が0.2%、2020年度が0.3%、2021年度が0.9%と予想する。
 
(消費は低迷が継続)

民間消費は2019年度が前年比▲0.4%、2020年度が同▲0.4%と2年連続で減少した後、2021年度は同0.5%と緩やかに持ち直すと予想する。民間消費の伸びは、2014年度から2018年度まで5年連続で実質GDP成長率を下回っているが、この関係は今回の予測期間である2021年度まで変わらないだろう。

労働需給は引き締まった状態が続いているが、ここにきて雇用情勢の改善には陰りもみられる。失業率は2%台前半の低水準で推移しているが、雇用者数の伸びは2018年中の前年比2%程度の伸びから1%程度まで鈍化している。また、労働市場の需給関係を反映する有効求人倍率は引き続き高水準を維持しているものの、2019年4月の1.63倍をピークに12月には1.57倍まで低下し、新規求人数は前年比でマイナスに転じている。生産活動の低迷を受けて製造業の減少幅が特に大きくなっている。
 
賃金については、労働需給の引き締まりが反映されやすいパートタイム労働者の時給は大きく上昇しているが、一般労働者(正社員)の所定内給与は伸び悩みが続いている。

労務行政研究所が2/4に発表した「賃上げに関するアンケート調査」によれば、2020年の賃上げ見通しは(対象は労・使の当事者および労働経済分野の専門家約500人)の平均で2.05%となり、前年を▲0.10ポイント下回った。厚生労働省が集計している主要企業賃上げ実績は同調査の見通しを若干上回る傾向があるが、前年からの変化の方向は概ね一致しているため、2020年の春闘賃上げ率は前年を下回る公算が大きい。ここにきて新型肺炎の感染拡大によって景気の先行き不透明感が高まっていることが、これから本格化する賃上げ交渉に影響を及ぼす可能性がある。当研究所は、2020年の春闘賃上げ率は前年から▲0.10ポイント低下の2.08%と予想している。7年連続のベースアップは実現するものの、消費者物価上昇率で割り引いた実質の伸びはほぼゼロ%にとどまるだろう。
 
また、業績との連動性が高いボーナス(賞与)は基本給以上に厳しいものとなっている。
毎月勤労統計の2019年夏季賞与(6~8月の特別給与のうち賞与として支給された給与を特別集計したもの)は、前年比▲1.4%(事業所規模5人以上)と4年ぶりの減少となった。足もとの企業収益は製造業の悪化が目立っているが、日銀短観2019年12月調査の経常利益計画では、2019年度下期は消費税率引き上げの影響もあって、製造業、非製造業ともに減益となっている。法人企業統計の経常利益は2012年度から2018年度まで7年連続で増益となっていたが、2019年度は減益に転じる可能性が高く、2019年の年末賞与に続き、2020年の賞与も減少する可能性が高い。

1人当たり賃金の伸び悩み、雇用者数の増加ペース鈍化から実質雇用者報酬の伸びは2018年度の前年比2.3%から2019年度が同0.9%、2020年度が同0.2%、2021年度が同0.5%と3年連続でゼロ%台の低い伸びにとどまるだろう。


 
また、超低金利の長期化に伴う利子所得の低迷、マクロ経済スライドや特例水準の解消による年金給付額の抑制、年金保険料率の段階的引き上げなどによって、家計の可処分所得の伸びは雇用者報酬の伸びを大きく下回っており、この構図は予測期間中も変わらないだろう。実質可処分所得の伸び悩みを主因として予測期間を通じて消費は低迷が続くことが予想される。
 
(企業収益の悪化を受けて設備投資の牽引力は弱まる)

2019年10-12月期の設備投資は前期比▲3.7%と3四半期ぶりの減少となったが、2019年7-9月期に簡易課税制度を採用する中小企業の駆け込み需要や軽減税率・キャッシュレス決済対応の需要によって高い伸びとなった反動による部分が大きい。高水準の企業収益を背景に、人手不足対応の省力化投資、都市再開発やインバウンド関連の建設投資、研究開発投資を中心に設備投資は増加基調を維持していると判断される。

ただし、これまでの設備投資の回復はあくまでも企業収益の大幅な増加に伴う潤沢なキャッシュフローを背景としたもので、キャッシュフローに対する設備投資の比率は引き続き低水準にとどまっている。企業収益が悪化している製造業の設備投資はすでに弱い動きとなっているが、先行きは消費増税に伴う個人消費の低迷や新型肺炎によるインバウンド需要の落ち込みを受けて、小売、宿泊・飲食サービスを中心に収益の悪化が見込まれるため、非製造業の設備投資も抑制気味となるだろう。

日銀短観2019年12月調査では、2019年度の設備投資計画(全規模・全産業、含むソフトウェア投資、除く土地投資額)が9月調査から▲0.2%下方修正され、前年度比5.8%増となった。増加基調は維持されているが、同時期(12月調査)の2018年度の伸び(前年度比11.6%)を下回った。

人手不足対応の省力化投資、研究開発投資など景気循環に左右されにくい需要は引き続き旺盛で、設備投資が大崩れする可能性は低いが、これまでのような高い伸びは期待できないだろう。
 
(積極的な予算を反映し公的固定資本形成は増加が続く)

公的固定資本形成は2019年1-3月期から10-12月期まで4四半期連続で増加している。

公共事業関連予算はアベノミクス開始後に大幅に増やした後は抑制気味だった。しかし、2018年12月に閣議決定した「防災・減災、国土強靭化のための3か年緊急対策」に基づき、2018年度の第2次補正予算で公共事業関係費を大幅に積み増した後、2019年度の当初予算でも公共事業関係費を前年比15.6%の大幅増加とした。人手不足による制約はあるものの、公共事業関連予算の積み増しが公的固定資本形成の持続的な増加につながっている。

先行きについては、1/30に成立した2019年度補正予算で1.6兆円の公共事業関係費が追加されており、2020年度入り後の公的固定資本形成を押し上げることが見込まれる。ただし、2020年度の政府予算案では公共事業関係費が前年度の当初予算比で▲0.8%となっているため、2020年度も補正予算の編成が必要となるだろう。
 
(輸出は弱めの動きが続く)

外需寄与度は2019年10-12月期に3四半期ぶりに成長率の押し上げ要因となったが、消費増税後の国内需要の落ち込みを反映し輸入が大きく減少したことが主因で、輸出は弱い動きが続いている。輸出を地域別にみると、グローバルなITサイクルの底打ちを反映し、アジア向けは持ち直しつつあるが、欧米向けが資本財、自動車関連を中心に大きく落ち込んでいる。

先行きについては、前述したように2020年入り後は新型肺炎の影響で輸出がいったん大きく落ち込むことは避けられない。新型肺炎が終息すれば、輸出は持ち直しに向かうが、今回の見通しでは海外経済は低めの成長が続くことを想定しており、輸出の回復ペースは緩やかにとどまるだろう。財・サービスの輸出は2019年度に前年比▲2.0%と7年ぶりの減少となった後、2020年度が同1.4%、2021年度が同2.6%と予想する。
 
(物価の見通し)

消費者物価(生鮮食品を除く総合、以下コアCPI)は、2019年4月の前年比0.9%をピークに鈍化傾向が続き、9月には同0.3%となった。2019年10月には消費税率が引き上げられたが、それと同時に幼児教育無償化が実施されたため、コアCPI上昇率は0.4%と前月から0.1ポイントの拡大にとどまった。その後、エネルギー価格の下落幅縮小を主因として12月には同0.7%まで伸びが高まったが、制度要因(消費税率引き上げ+幼児教育無償化)を除いた上昇率は引き続きゼロ%台前半で、基調的な物価上昇圧力が高まっているわけではない。

外食、食料品を中心に原材料費、物流費、人件費などのコスト増を価格転嫁する動きは継続しているが、先行きは消費税率引き上げ後の個人消費の低迷を受けて需給面からの物価上昇圧力が弱まることは避けられないだろう。

また、サービス価格との連動性が高い賃金は伸び悩みが続いているが、2020年の賃上げ率は2年連続で前年を下回る可能性が高く、賃金面からの物価上昇圧力も高まらないだろう。消費者物価上昇率はゼロ%台の低空飛行が続く可能性が高い。

コアCPI上昇率は2019年度が前年比0.6%(0.4%)、2020年度が同0.4%(0.3%)、2021年度が同0.5%と予想する(括弧内は、消費税率引き上げ・教育無償化の影響を除くベース)。
 
 
 

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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

(2020年02月18日「Weekly エコノミスト・レター」)

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