2020年02月17日

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1. はじめに

東京都心部Aクラスビル1の空室率は、2018年第4四半期以降、1%を下回る低水準で推移しており、足元では過去最低水準の0.6%に達した。成約賃料は、極めて逼迫した需給環境を反映し、リーマンショック後の最高値を更新した。本稿では、東京都心部Aクラスビル市場の動向を概観した上で、2024年までの賃料と空室率の予測を行う。
 
1 本稿ではAクラスビルとして三幸エステートの定義を用いる。三幸エステートでは、エリア(都心5区主要オフィス地区とその他オフィス集積地域)から延床面積(1万坪以上)、基準階床面積(300坪以上)、築年数(15年以内)および設備などのガイドラインを満たすビルからAクラスビルを選定している。また、基準階床面積が200坪以上でAクラスビル以外のビルなどからガイドラインに従いBクラスビルを、同100坪以上200坪未満のビルからCクラスビルを設定している。詳細は三幸エステート「オフィスレントデータ2020」を参照のこと。なお、オフィスレント・インデックスは月坪当りの共益費を除く成約賃料。
 

2. 東京都心Aクラスオフィス市場の現況

2. 東京都心Aクラスオフィス市場の現況

2-1. 空室率および賃料の動向
東京都心部Aクラスビルの空室率は、2018年第4四半期(0.8%)以降1%を下回る低水準で推移しており、2019年第4四半期末には過去最低水準の0.6%となった。こうした需給環境の逼迫を受けて、Aクラスビルの成約賃料(オフィスレント・インデックス2)は上昇基調で推移しており、2019年第4四半期には42,242円/月・坪(前期比+6.6%、前年同期比+7.0%)と、リーマンショック後の最高値を更新した(図表-1)。
図表-1 都心部Aクラスビルの空室率と成約賃料
東京都心部ではAクラスビルだけなく、BクラスおよびCクラスビルでも空室は非常に少なくなっている。2019年第4四半期末の空室率は、Bクラスビルで0.6%、Cクラスビルで0.6%と、ともに過去最低水準まで低下した(図表-2)。極めて逼迫した需給を反映し、Aクラスビルと同様に、B・Cクラスビルの成約賃料も上昇基調で推移している。2019年第4四半期のBクラスビルの成約賃料は22,521円(前年同期比+5.1%)、Cクラスビルの成約賃料は20,133円(前年同期比+8.5%)となった。Bクラスビルの成約賃料は、2001年以降の最高値(2008年第3四半期)の79%、Cクラスビルでは95%の水準まで回復した(図表-3)。
図表-2 東京都心部の空室率/図表-3 東京都心部の成約賃料
賃料と空室率の関係を表した賃料サイクル3は、2012年を起点とした「空室率低下・賃料上昇」局面が継続している(図表-5)。ただし、空室率は既に1%を切る水準まで低下しており、「空室率上昇・賃料上昇」あるいは「空室率上昇・賃料下落」局面に近づきつつある。
図表-4 東京都心部の成約賃料(前年同期比)/図表-5 東京都心部Aクラスビルの循環図
 
2 三幸エステートとニッセイ基礎研究所が共同で開発した成約賃料に基づくオフィスマーケット指標。
3 賃料サイクルとは、縦軸に賃料、横軸に空室率をプロットした循環図。通常、(1)空室率低下・賃料上昇→(2)空室率上昇・賃料上昇→(3)空室率上昇・賃料下落→(4)空室率低下・賃料下落、と時計周りに動く。
2-2. オフィス市場の需給動向
三幸エステートによると、東京都心Aクラスビルの賃貸可能面積は、2012年上期から2019年下期までに、188.5万坪から213.6万坪へと25.1万坪増加した。これに対して、テナントによる賃貸面積は、173.1万坪から212.3万坪へと39.2万坪の増加となり、賃貸可能面積の増加を大きく上回った(図表-6)。
図表-6 東京都心Aクラスビルの賃貸可能面積・賃貸面積・空室面積
この結果、空室面積は2012年末の16.0万坪をピークに減少傾向で推移し、2019年末には1.3万坪となり、前回ファンドバブル期のボトムである1.1万坪(2006年上期末)と並ぶ水準となった。

四半期毎の増減を確認すると、大規模ビルの竣工等に伴い、賃貸可能床面積が大幅に増加した時期は賃貸面積も大きく増加しており、ハイスペックな大規模ビルへの力強い需要がみられる(図表-7)。
図表-7 東京都心Aクラスビルの賃貸可能面積・賃貸面積・空室面積の増減
2-3. 旺盛なオフィス需要を支える要因
旺盛なオフィス需要が新規供給を上回り、東京都心部Aクラスビルの空室率は過去最低水準まで低下した。こうした旺盛なオフィス需要を支えている要因として、(1)ITやプロフェッショナルサービスを中心としたオフィスワーカー数の増加、(2)働き方改革に後押しされたオフィス環境の改善に対する意識の高まり、(3)市場拡大が続くサードプレイスオフィスが挙げられる。
(1) ITやプロフェッショナルサービスを中心としたオフィスワーカー数の増加
都心5区のオフィスワーカー4の業種内訳をみると、「情報通信業(IT)」の占める割合(23%)が最も大きく、次いでプロフェッショナルサービスが含まれる「学術研究,専門・技術サービス業」(12%)、続いて「卸売業,小売業」(10%)、「製造業」(10%)、「金融業,保険業」(9%)となっている(図表-8)。区別にみると、千代田区では「金融業」、中央区では「卸売業,小売業」と「製造業」、港区と渋谷区では「情報通信業」の占める割合が大きい。
図表-8 オフィスワーカーの業種内訳
総務省「労働力調査」によれば、東京都の就業者は、2015年第1四半期を100とした場合、2019年第3四半期には111まで増加している(図表-9)。産業別にみると、都心5区のオフィスワーカーに占める割合の大きい「学術研究,専門・技術サービス業」は123、「情報通信業」は122と、大幅に増加している。
図表-9 東京都の産業別就業者(2019年第3四半期)
森ビル「2019年 東京23区オフィスニーズに関する調査」(以下、「オフィスニーズ調査」)によれば、オフィス内のワーカー数について、前年と比較して「増加した」との回答は、「減少した」との回答を上回っている(図表-10)。

「情報通信業」や「学術研究,専門・技術サービス業」を中心に、館内増床などのオフィス賃借面積拡大のニーズは強く、旺盛なオフィス需要を支えていると考えられる。
図表-10 前年と比べたときのワーカー数の変化
 
4 従業地による職業別就業者のうち、専門的・技術的職業従事者、管理的職業従事者、事務従事者の合計。
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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

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【「東京都心部Aクラスビル市場」の現況と見通し(2020年)】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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