2020年02月10日

女性の生活満足度を高める要因は何か?-経済的な豊かさより時間のゆとり、20~30歳代は結婚も

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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3――女性の生活満足度の決定要因~経済的な豊かさより時間のゆとり、若い女性は結婚の影響も

1女性全体の結果~生活満足度を高めるのは、(1)時間のゆとり、(2)経済的豊かさ、(3)結婚
前節で見た通り、女性の生活満足度には収入や家族形態をはじめとした様々な要因が影響を与えている。本節では、どのような要因が女性の生活満足度へ与える影響が大きいのかについて、重回帰分析を用いて分析する。

分析対象は25~59歳の女性全体とし、生活満足度を目的変数、年齢や最終学歴7、就業形態8、世帯金融資産9、未既婚10、同居あるいは近居の病気がち・療養中の家族の有無11、実家との距離12、時間のゆとり13、体力の程度14、5つの性格因子についての因子得点15を説明変数とする重回帰分析を試みた16。なお、本人年収は就業形態と、子の有無は未既婚と中程度の相関が見られたため、説明変数から除外している。

分析に用いた説明変数間の相関係数は中程度以下であり、多重共線性の問題はないと考えられる(図表11)。変数は強制投入とした。重回帰分析の結果、重決定係数は0.282であり、1%水準で有意な値であった。それぞれの説明変数から目的変数への標準回帰係数を示す(図表12)。
図表11 各測定値の基礎統計量と相関係数(n=4,642)
図表12 女性の生活満足度についての重回帰分析結果
図表12より、女性の生活満足度に対して正の影響を与えるのは、影響の大きな順に、(1)時間のゆとりがあること、(2)世帯金融資産が多いこと、(3)既婚であること、(4)体力があること、(5)開放性(進歩的な・多才のなど)の高い性格であること、(6)高学歴であることであり、負の影響を与えるのは、(1)情緒不安定性の高い性格であること、(2)年齢が高いこと、(3)非調和性(短気・自己中心的など)の高い性格であること、(4)病気・療養中の家族がいること、(5)就業していることである。

つまり、女性の生活満足度を高めるのは、何よりも時間のゆとりである。経済的な豊かさがあることで、時間のゆとりが生まれるという考え方もあるかもしれないが、図表11に示す通り、時間のゆとりと世帯金融資産の相関は弱い(0.161)。確かに経済的な豊かさも生活満足度を高める影響はあるが、この結果を見ると、経済的に必ずしも恵まれていなくても、時間のゆとりを感じる生活を心がけることで、生活満足度を上げることはできると言える。

なお、就業形態の代わりに本人年収を用いて分析すると、本人年収の高さは生活満足度に正の影響を与える傾向がある。また、未既婚の代わりに子の有無を用いて分析すると、子がいることは生活満足度に正の影響を与える傾向がある。
 
7 中学卒=1、高校卒=2、高等専門学校卒=3、専門学校卒=4、短期大学卒=5、大学卒=6、大学院卒=7とし、便宜上、順序尺度に見立てているが、例えば、専門性の高さなどの軸で見ればこの通りではない。
8 非就業=1、就業=2
9 50万円未満=1、50~100万円=2、100~300万円未満=3、300~500万円未満=4、500~1,000万円未満=5、1,000~2,000万円未満=6、2,000~3,000万円未満=7、3,000~5,000万円未満=8、5,000万円以上=9
10 未婚=1、既婚=2
11 病気がち・療養中の家族なし=0、病気がち・療養中の家族あり=1
12 同居=1、近居(同一区市町村内)=2、別居(同一区市町村外)=3、その他(すでに亡くなっているなど)=4のうち、4以外が分析対象。
13 時間のゆとりのない方だ=1、あまり時間のゆとりのない方だ=2、どちらともいえない=3、やや時間のゆとりのある方だ=4、時間のゆとりのある方だ=5
14 体力がない方だ=1、どちらかと言えば体力がない方だ=2、どちらともいえない=3、どちらかと言えば体力がある方だ=4、体力がある方だ=5
15 脚注8に示したように、調査では「外向性」「誠実性」「情緒不安定性」「開放性」「調和性」という5つの性格因子に対応する表現に対するあてはまり度合いを5段階で尋ねて得ており、そのデータに対して因子分析を行って得た因子得点。
16 前節で見た配偶者年収や義理の実家との距離(分析対象に未婚や配偶者と離死別した既婚女性を含むため)、ライフステージ(必ずしも未婚→結婚→出産といった順序で進むわけではないため)は今回の分析には含めていない。
2年代別の結果~若い年代ほど結婚、年齢とともに時間や経済的な豊かさが生活満足度を高める
同様に年代別に重回帰分析を実施した。いずれの分析においても独立変数間の相関係数は中程度以下であり、多重共線性の問題はないと考えられる(基礎統計量等の図表は省略)。重決定係数は、25~29歳の分析では0.282、30歳代では0.222、40歳代では0.308、50歳代では0.359であり、それぞれ1%水準で有意な値であった。それぞれの説明変数から目的変数への標準回帰係数を図表13に、また、標準化係数βの値を基に、生活満足度決定要因を順位としてまとめたものを図表14に示す。

以下に年代別の結果から見えたポイントを述べる。
図表13 女性の生活満足度についての重回帰分析結果(年代別)
図表14  女性の年齢と生活満足度決定要因のイメージ
i)若い女性では「結婚」と「時間」が生活満足度を高める二大要因
全体では生活満足度を最も高めるのは「時間」であったが、25~29歳では結婚がわずかに上回り、「結婚」と「時間」が二大決定要因と言える。なお、「結婚」の影響は年齢とともに小さくなる。
図表15 日常生活における悩みの内容で「結婚」を選択した割合(未婚女性) この年齢に伴う変化は、若い年代ほど未婚者が多いことに加えて、年齢とともに生活で重きを置く事柄が変わっていくことが考えられる。20歳代では前者の影響が大きいが、40歳代以上では後者の影響が大きいのではないかと考えている。

それは、未婚者が日常生活における悩みやストレスの内容として「結婚」を選択した割合を見ると、20~30歳代と比べて、40歳代以降では大きく低下しているためだ(図表15)。
ii)年齢とともに「結婚」より「時間」や「お金」、「安定した心」が生活満足度を高めるようになる
図表14を見ると、25~29歳では「結婚」が首位だが、30歳代で「時間」が、40歳代で「お金」が、50歳代で「安定した心」や「体力」の影響が「結婚」を上回るようになる。これは、年齢とともに既婚者の増加や収入の増加といった変化もありつつ、生活に重きを置く事柄が変わっていく影響もあるだろう。

なお、30歳代全体では「時間」が首位だが、これは既婚女性が増えた影響が大きく、未婚女性では「結婚」の影響が大きいと考えている。図表15に示す通り、未婚女性の悩みで「結婚」を選択する割合は、30歳代が最も高くなっている。

また、40歳代で世帯金融資産の影響が大きな理由は、住居の購入や子どもの教育等の出費がかさむ時期であるためだろう。
iii)最終学歴は30歳代で生活満足度を高める影響が大きい
最終学歴は30歳代でのみ有意に正の影響を与えるが、これは、30歳代は最終学歴による年収差、そして、年収差による生活満足度の差が出やすい年代であるためだろう。

30歳代は管理職への登用などによって年収の差が出始める時期だ。また、今の30歳代は、出産退職が多かった上の世代と比べて、出産後も仕事を続けて、男性同様に管理職になる女性も増えており、最終学歴が年収につながりやすい世代とも言える。
iv)若い女性ではコミュニケーション能力が、年齢とともに安定した心が満足度を高める
生活満足度へ負の影響を与える変数を見ると、全体では情緒不安定性の高い性格の影響が最も大きいが、25~29歳では非調和性(短気・自己中心的など)の高い性格の影響が若干上回る。なお、年齢とともに、非調和性の影響は小さくなる一方、情緒不安定性の影響は大きくなっていく。

裏を返すと、若い女性ほど周囲と調和できるようなコミュニケーション能力の高さが、年齢とともに精神的に安定していることが生活満足度を高めるようになると言える。この背景には、コミュニケーション能力は、ある程度年齢による経験で高められることに加えて、年齢とともに決まった人間関係の中で生活するようになることで、そもそも新たなコミュニケーションが必要な場が減ることもあげられる。
vi)その他
全体では就業していることは生活満足度に負の影響を与えるが、25~29歳では正の影響を与える。これは、未婚者の多い20歳代の非就業と、既婚者の多い30歳代以上の非就業の意味合いが異なるためだろう。後者は、配偶者の経済的な支えのある専業主婦が多く、専業主婦の割合は25~29歳で24.3%、30歳代で34.9%、40歳代で31.9%、50歳代で35.4%となっている。
 

4――おわりに

4――おわりに~今がどんな時期なのかを意識しつつ、心身の健康を土台に時間のゆとりを持った生活を

25~59歳の女性の生活満足度の決定要因を分析したところ、影響の大きな順に、(1)時間のゆとりがあること、(2)世帯金融資産が多いこと、(3)結婚していること、(4)安定した心、(5)体力があること、となっていた。世帯金融資産の影響を時間のゆとりが上回ったことは、多くの女性にとって救いとなるのではないだろうか。なお、分析では、時間のゆとりと世帯金融資産には相関がなかった。

また、ライフステージ別に生活満足度を見ると、女性の生活満足度は結婚や出産期に高まり、子どもの思春期(反抗期)頃の教育問題や親の介護問題に直面する時期には下がるものの、老後に向けて再び上がっていくという流れも見えた。現在、大変な時期にあったとしても、この時期を過ぎれば、再び生活満足度の高い生活ができるという明るい見通しが立てられることは、ごくわずかであっても現在の負担感の軽減につながらないだろうか。

一方で、未婚あるいは独身女性では生活満足度が低くなっていたが、年齢とともに、結婚より時間のゆとりなどの影響が大きくなっていく様子がうかがえた。つまり、20~30歳代では結婚をしていないことが生活満足度を大きく低下させていたとしても(ただし、時間のゆとりの影響も同様に大きいのだが)、年齢とともに、時間やお金、安定した心、体力といった別の要因で生活満足度を上げやすくなる。

年齢とともにライフコースを変えることは難しくなる。しかし、その時、その時で、何が生活満足度の決定要因となっているのかを意識する、あるいは、生活満足度が高まりやすい時期なのか、そうでないのかなどを自覚するだけでも、日々の生活に対して折り合いをつけて、前向きな姿勢を持つことにつながるのではないだろうか。

また、体力や安定した心の影響は、年齢とともに相対的に大きくなるが、年齢によらず、一定の影響を与え続ける要因でもある。考えてみれば当たり前のことかもしれないが、心身の健康を土台に、時間のゆとりを心がけた生活をすることで、確実に生活満足度は高まる。
なお、今後は就業女性や既婚女性、未婚女性をはじめとした属性別に、より詳細な分析を実施することを予定している。
付表 25~59歳の女性の生活満足度
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

(2020年02月10日「基礎研レポート」)

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