2020年02月07日

新型肺炎の感染拡大が韓国経済に与える影響は?

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中

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新型肺炎の感染が拡大

中国湖北省の武漢市で発生した新型コロナウイルスによる肺炎(以下、新型肺炎)の感染者数が増え続けている。中国の保健当局、国家衛生健康委員会によると、中国本土の感染者は、2月4日の時点で2万438人に増え、累積死亡者数は425人に達した。日本でも4日現在23人目の感染が確認されるなど新型肺炎の感染は中国のみならず世界各地に広がっている。世界保健機関(WHO)は、新型肺炎の感染が世界各地に広がっている現状を受け、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(Public Health Emergency of International Concern、PHEIC)」を宣言した。これは、今後パンデミック(病気の世界的な流行)を防ぐためには、国際的に対応する必要があることを意味する。専門家は収束までに数カ月間を要すると指摘しており、4月や5月くらいにピークを迎え、7月や8月くらいまでは続く可能性があると予想している。
 

新型肺炎の感染拡大は韓国経済に「青天の霹靂」

新型肺炎の感染拡大は韓国経済に「青天の霹靂」

新型肺炎の感染拡大は世界経済にマイナスの影響を与えることが確かである。さらに、事態が長期化すると世界の工場と呼ばれている中国からの部品や素材の調達がつまずき、各国の生産活動が中断される可能性も高い。特に、中国経済への貿易依存度が高い韓国経済が受ける影響は大きいだろう。昨年、韓国経済は米中貿易戦争の長期化の影響などを受け、輸出が減少し、年間経済成長率(実質)は2.0%に留まった。今年も米中貿易摩擦が続くと、韓国経済の回復は厳しいと予想されていた。しかしながら、1月15日にアメリカと中国が、貿易戦争の緊張緩和を目的とした合意文書に署名したことにより、韓国国内では景気底打ちへの期待感が高まっていた。このような状況の中で中国を震源地として発生した新型肺炎の拡大は、韓国経済にとって「青天の霹靂」のようなものである。
 

韓国企業の休業が続出に

韓国企業の休業が続出

中国政府は感染拡大を防ぐために、1月30日までであった春節の連休を2月2日までに延長した。さらに、上海市、広東省などの地方政府は今月9日まで企業活動の停止や在宅勤務を求める措置を実施している。このような措置は、これらの地域に立地している韓国企業の生産及び販売活動にも影響を与えている。

中国国内に約1,800店舗を展開している大手の化粧品メーカー「アモーレパシフィック」は、武漢市での営業活動を暫定的に中断し、中国現地法人の休業期間を今月の9日まで延長した。また、中国で生産されている部品や素材を使用する韓国国内企業の生産活動にも狂いが生じている。中国製部品の在庫が底をついた中堅メーカーの双竜自動車は、部品を供給する企業の中国工場が9日まで稼働中止を延長したので、中国からの部品供給ができないと判断し、今月の4日から12日までに韓国の平沢(ピョンテク)工場の稼働を停止することを決めた。現代自動車の労使も4日に工場運営委員会を開き、7日から蔚山、全州、牙山の韓国国内3カ所にある全工場の稼働を停止し、11日までに臨時休業に入ることに合意した。

影響を受けるのは製造業だけではない。1月末に一部の中国路線の運休と減便を決めている大韓航空は、今年3月の中国路線の運航を67%減らすと発表した。また、アジアナ航空も中国に就航している26路線のうち、6路線の運航を完全に中断することを決めた。中国政府が海外への団体旅行を禁止していることや、新型肺炎の影響を受け、中国への観光客などが急減し、回復までには時間がかかると予想したからである。
 

新型肺炎の感染拡大が韓国経済に与える影響

新型肺炎の感染拡大が韓国経済に与える影響

韓国の民間シンクタンクである「現代経済研究院」は、1月末に過去SARSやMERSが発生した時の事例に基づいて、新型肺炎が韓国経済に与える影響に関する推計結果を発表した。報告書では、新型肺炎の感染が中国国内に限定される場合、2020年1~4月の韓国への外国人観光客数は61.6万人、観光収入は0.9兆ウォン減少すると予想した。しかしながら、新型肺炎の感染が韓国国内まで拡大された場合、同期間の外国人観光客数は最大202.1万人、観光収入は2.9兆ウォンまで減少し、韓国経済により大きな打撃を与えると予想した。また、新型肺炎の感染が韓国国内まで拡大された場合、消費支出は最大0.4%ポイント減少し、経済成長率は、2020年第1四半期に対前年同期比0.6~0.7%ポイント低下すると推計(年間では対前年比最大0.2%ポイント低下)した。

2019年、韓国の製造業の平均稼働率は72.9%(暫定)で、2018年の73.5%に比べて0.6%ポイント低下した。これはアジア経済危機直後の1998年の67.6%以降最も低い数値である。他の要因もあるものの、米中貿易戦争の長期化の影響が大きい。本文でも言及しているが韓国経済の中国依存度はまだ高い。2019年基準で輸出額の25.1%、輸入額の21.3%を中国が占めており、2位のアメリカ(輸出13.5%、輸入12.3%)と大きな差が出ている。
図表1 製造業の平均稼働率の推移
図表2 韓国における10大輸出国のシェア
図表3 韓国における10大輸入国のシェア

今後の課題

今後の課題

サプライチェーンが一国に偏りすぎると、何か問題が発生した際のリスクが大きい。米中貿易戦争の長期化や中国を中心に感染が拡大している新型肺炎が良い例である。従って、今後韓国政府はリスクを分散し、生産活動への負の影響を最小化するために、中国に偏っているサプライチェーンをより多くの国への分散を目指す必要があるだろう。また、中国に進出している企業が韓国に戻り、国内で企業活動が再開できるように、国内の企業活動に対するビジネスフレンドリー政策を推進すべきであると考える。新型肺炎が韓国政府の経済政策を転換させる良い機会になることを願うところである。
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生活研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

金 明中 (きむ みょんじゅん)

研究・専門分野
労働経済学、社会保障論、日・韓における社会政策や経済の比較分析

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
    独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職

    ・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
    ・2015年~  日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
    ・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
    ・2021年~ 専修大学非常勤講師
    ・2021年~ 日本大学非常勤講師
    ・2019年  労働政策研究会議準備委員会準備委員
           東アジア経済経営学会理事
    ・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
    ・2021年  第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員

    【加入団体等】
    ・日本経済学会
    ・日本労務学会
    ・社会政策学会
    ・日本労使関係研究協会
    ・東アジア経済経営学会
    ・現代韓国朝鮮学会
    ・韓国人事管理学会
    ・博士(慶應義塾大学、商学)

(2020年02月07日「基礎研レター」)

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