2020年02月07日

「東日本大震災による被害・生活環境・復興に関するアンケート」2014年調査結果概要-福島県双葉町民を対象とした第2回調査

保険研究部 准主任研究員 岩﨑 敬子

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1――基本情報

「東日本大震災による被害・生活環境・復興に関するアンケート」調査は、東京大学「災害からの生活基盤復興に関する国際比較」プロジェクト(東京大学大学院経済学研究科 教授 澤田康幸、ニッセイ基礎研究所 研究員 岩﨑敬子)によって、東日本大震災による原子力発電所の事故で全町民が避難を余儀なくされた福島県双葉町の全世帯主の皆様を対象に2013年から行われてきた調査である(過去実施:2013年7月、2014年12月、2016年7月、2017年12月、2019年7月)。本稿では、2014年12月に実施した第2回目のアンケート調査の結果概要を報告する1
表1. 基本情報
アンケート調査の項目には、年齢や性別等の基本的な属性の他、人とのつながり(ソーシャル・キャピタル)や健康状態に関する項目が含まれ、アンケート調査用紙は、双葉町の広報が配布されているすべての世帯(2,900件)に配布させて頂いた。回答は、全国に避難されている双葉町民654名より頂いた(回答率約23%)。

本調査は世帯主の方を対象としており、年齢、性別の分布については図1、図2の通りである。このように、国勢調査の年齢・性別分布に比べると、回答者の年齢分布は60代、70代の方が多く、性別の分布は男性の回答者が多いという偏った分布である。加えて、震災という大変な状況が起こった後にご協力いただいた調査なので、回答者の傾向が一般的なアンケート調査とは大きく異なっている可能性も考えられる。そのため、本調査の結果が、必ずしも双葉町民全体の傾向を示すものではないことにご留意頂きたい
図1. 回答者の年齢構成/図2. 回答者の男女比
 
1 本研究は、以下の研究助成によって実施されてきた。記して深謝する。
 科研費(15J09313、26220502、LZ003)、日本経済研究センター研究奨励金
 また、この調査は東京大学倫理委員会の承認(19-73)のもと実施した調査である。
 

2――社会関係資本の変化について

2――社会関係資本の変化について

社会関係資本とは、信頼関係やネットワークなどを指し、「きずな」ということばであらわされることもある。この社会関係資本は震災復興の鍵概念として注目されている概念である。2013年にご協力頂いた調査の結果からは、双葉町ではこのような社会関係資本に関わる項目が震災によって減少させられている可能性があることが示された。さらに、今回(2014年)の調査で、その社会関係資本の回復には、長い時間がかかる可能性があるということが示された。

社会関係資本を図る指標として一般的に使われている指標はいくつかあるが、ここでは3つの項目に注目した。「一般的な人への信頼感」「近所の人との助け合いの頻度」「近所の人への信頼感」である。図3、図4、図5から、この3つの指標についてはどれも、震災前と比較して減少しており、また、2013年から2014年での回復はほとんど見られない、または、ごくわずかであることがわかる。このことから、震災で減少させられた社会関係資本の回復には長い時間がかかる可能性があることがわかる。
図3. 一般的な人への信頼感
図4. 近所の人との助け合いの頻度
図5. 近所の人への信頼感

3――健康状態について

3――健康状態について

健康状態について、多くの回答者の方が震災前にくらべて、ご自身の健康状態が悪化しているとの自己評価をされている。2013年にご協力頂いた調査と比較しても、2014年の調査でもほとんど変わらない割合の方々の健康状態が悪化している可能性があることが示された。
図6. 主観的健康状態
また、こころの健康状態について、図7のように、国が行った日本全体の調査の結果と比較して双葉町民の回答者の皆さまの回答結果を集計するとK6と呼ばれる全般的なストレス状態を診断する指標の数値が高い(こころのストレスが大きい)傾向がある可能性が示された。K6とは国際的に使用されている全般的なこころの健康状態を示す指標で6つの質問から成り、その合計の点数が高いほど、こころにストレスを抱えている可能性が高いと考えられている。
図7. 双葉町と日本全体のK6
図8. 被災地域のK6
K6の調査は、双葉町以外の被災地でも、震災後に国により調査が行われ、結果が公表されている。図8で見られるように、本調査の回答結果を集計したK6の双葉町における値はこれらの他の被災地での調査の結果と比べても大きい可能性があることがしめされた。将来への不安など、人災と呼ばれる災害が自然災害に比べてより大きな、そして長期的なこころのストレスをもたらす可能性があると私たちは考えている。

また、2013年にご協頂いた調査と2014年、この度の調査でご協力頂いた調査の分布を比較すると、約1年半の間で、若干だが、K6の値が10以上の方の割合が減少した。つまり、他の被災地域と比べても、双葉町の皆様のストレス状態は依然大きい可能性があるものの、少しずつ改善されている可能性があることが示唆される。

しかしながら、この調査結果が必ずしもすべての双葉町の皆さまに当てはまるわけではなく、K6の値が高いからといって精神的な疾患があると断定されるものではない。あくまで、政策的な示唆を行政などに与えるための調査であることを申し添える。

それでは、どういった方が、このような震災被害にも関わらず低いK6の値を保つことができた傾向があるのだろうか。年齢、性別などを考慮に入れて2013年にご協力頂いた調査をもとに、さらなる分析を行った結果、震災後の健康状態の悪化の傾向が少なかった方、震災後の収入の高い方、そして、社会関係資本の値が高い方が、低いK6の値を保つことができている可能性があることが示唆された。そして、社会関係資本がこころの健康状態につながるメカニズムとしては、図9の流れが考えられることが示唆された。
図9. 社会関係資本とこころの健康
図9で見られるように、避難先で多くの双葉町出身の隣人を持つ方、ボランティア活動やお茶会など趣味の会への参加機会がある方の、一般的な人や、隣人への信頼感が高く、さらにそうした方のこころの健康状態が良い傾向があるということが分かった。

また、震災前後の生活を比較して、失ったものが大きい方ほど、こころの健康状態が悪化した可能性があることも示された。具体的には、就労収入が震災前と比較して大きく減少した方、震災前と比較して居住空間が大きく減少した方、また、身体的な健康状態が震災前と比較して悪化した方のこころの健康状態が悪化した可能性があるということが示された。

これらの結果は国内外の学会で発表し、また国際的な学術誌で発表をしてきている。今後も分析を進め具体的な提案につなげていく所存である。

本調査結果は、調査にご協力頂いた約23%の双葉町の世帯の方のご回答のみを集計・分析した結果であり、この結果が双葉町民の方全員の傾向を表すものではございません。震災という大変な状況が起こったあとにご協力いただいた調査であるため、回答者の内訳は一般的なアンケート調査とは大きく異なっている可能性もございます。その為、健康状態の自己評価についての集計や、こころの健康状態についての集計においても、過大評価がされている可能性がございます。結果の解釈には十分な注意が必要であり、この調査結果のみによる断定的な判断は避ける必要がありますことにご留意いただれば幸いです。

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保険研究部   准主任研究員

岩﨑 敬子 (いわさき けいこ)

研究・専門分野
応用ミクロ計量経済学・行動経済学 

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