2020年01月27日

中国経済の現状と今後の注目点~新型ウイルス肺炎の影響など4つの注目点

三尾 幸吉郎

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1.中国経済の概況

中国経済の成長率は、19年10-12月期に実質で前年比6.0%増となり、6四半期ぶりに減速に歯止めが掛かり前四半期の同6.0%増と同率で横ばいとなった(図表-1)。
(図表-1)中国の実質成長率 ここ数年の中国経済を振り返ると、チャイナショックが起きた15年には、成長率が7%台から6%台へと落ち込んだため、中国政府(及び人民銀行)は15年10月に小型車減税を開始、基準金利を段階的に引き下げて、景気を支えた。その後17年10月に共産党大会(19大)を無事に終えると、そもそも過剰と認識していた債務がさらに増大したことを懸念して、中国政府は債務圧縮(デレバレッジ)に乗り出した。その影響でインフラ投資が頭打ちとなり景気が減速し始める中で、18年夏には米中対立が激化して追い打ちを掛けたため、中国経済は18年7-9月期から5四半期連続で減速することとなった。これを受けて中国政府は18年12月、「反循環調節(景気減速の押し戻し政策)」と呼ばれる景気対策に舵を切り、「地方債券の発行規模を大幅に増やす」とともに、金融政策を「穏健中立」から「穏健」に切り替えて、金融(預金や融資)の伸びをGDP名目成長率につり合う伸びに設定、デレバレッジ推進を事実上棚上げした。しかし、米中対立の悪影響が広がり、景気の減速は続いた。そこで中国政府は8月に消費拡大策(自動車購入規制の段階的緩和や深夜営業など20項目)を打ち出し、9月には地方政府特別債券の発行とその使用を加速する措置を発表、さらに、新たに導入したローンプライムレート(LPR)を貸出基準金利より低めに設定してそれを段階的に引き下げるなど金融緩和に動いた。これらの景気対策を受けて、中国経済は前述の通り6四半期ぶりに下げ止まることとなった。
また、19年通期の成長率は実質で前年比6.1%増と、前年の同6.7%増を0.6ポイント下回り、2年連続の減速となった。リーマンショック後の中国経済は、大型景気対策の効果で10年には前年比10.6%増まで回復したものの、そこで抱えた過剰設備・債務が足かせとなり、回復は長続きしなくなってきた。なお、中国経済を需要別に見ると19年は最終消費の寄与が57.8%で最大、産業別に見ると情報通信・ソフト・ITサービスが前年比19.8%増と高い伸びを示した(図表-2)。
(図表-2)中国の成長率と需要別寄与度/実質成長率の産業別内訳

2.需要項目別の動き

2.需要項目別の動き

1|個人消費
個人消費の代表的な指標である小売売上高の動きを見ると、19年は前年比8.0%増の約41兆元で、日本円に換算すると約650兆円(1元=15.8円)だった。18年の同9.0%増を1.0ポイント下回った。足元の動きを見ると、19年に入りネットセールとその前の買い控えや反動減などで乱高下したものの、基本的には緩やかな減速傾向を示している(図表-3)。

業種別の内訳が分かる限額以上企業の統計を見ると、日用品類は前年比13.9%増と18年の同13.7%増を上回り、化粧品は同12.6%増と18年の同9.6%増を上回り、飲食も同7.1%増と18年の同6.4%増を上回ったものの、住宅販売の低迷を背景に家電類が同5.6%増、家具類も同5.1%増と低位に留まるとともに18年の伸びを下回り、自動車は同0.8%減で2年連続の前年割れとなった。但し、足元の動きを見ると、12月の自動車販売は前年比0.1%減まで持ち直しており、自動車生産が2ヵ月連続でプラスになるなど底打ちの兆しが見えてきている(図表-4)。

なお、個人消費への影響が大きい雇用情勢を見ると、都市部の登録失業率は3.62%と低位を維持、都市部の求人倍率も1.27倍と1倍を上回っているものの、都市部の調査失業率が5.2%と高止まりしている点が懸念材料だ。また、消費者信頼感指数は引き続き高水準を維持している。
(図表-3)小売売上高の推移/(図表-4)自動車の生産と販売
2|投資
投資の代表的な指標である固定資産投資(除く農家の投資)の動きを見ると、19年は前年比5.4%増の約55兆元で、日本円に換算すると約870兆円(1元=15.8円)だった。18年の同5.9%増を0.5ポイント下回った。足元の動きを見ると、10月の前年比3.4%増(ニッセイ基礎研の独自推計)を直近ボトムに、11月は同5.2%増、12月は同7.6%増と2ヵ月連続で持ち直してきた(図表-5)。

投資を3大セクター別に見ると、不動産開発投資は前年比9.9%増と18年の同9.5%増を小幅に上回り、インフラ投資は同3.8%増で横ばいだったものの、製造業が同3.1%増と18年の同9.5%増を大幅に下回った。製造業の投資が低迷している背景には、米中対立の影響がある。槍玉に挙げられたのが「中国製造2025」で、その関連投資に対する不確実性が高まったからである。また、関税引き上げ合戦が激化したため、対米輸出拠点を中国以外へ移転する動きが広がったことも背景だ。

但し、製造業の投資には底打ちの9月は兆しがでてきている。足元の動きを見ると、4-6月期の前年比1.4%増(ニッセイ基礎研の独自推計)を直近のボトムとして、7-9月期には同1.5%増、10-12月期には同4.6%増と2四半期連続の回復となった(図表-6)。その回復を牽引しているのが「中国製造2025」の柱のひとつであるコンピュータ・通信・電子設備製造で、10-12月期には同32.2%増と極めて高い伸びを示し、19年1-3月期の同5.5%増をボトムにV字回復してきた(図表-6)。米中対立の長期化を覚悟した中国政府が、国民に「自力更生」の必要性を訴えかけるとともに、5Gへの移行を積極的に推進し始めたことが背景にある。
(図表-5)固定資産投資(除く農家の投資)/(図表-6)製造業とコンピュータ・通信・電子設備製造の投資
3|輸出
消費・投資と並ぶ第3の柱である輸出(ドルベース)を見ると、19年は前年比0.5%増の約2.5兆ドルとなり、18年の同9.9%増から大幅に伸びが鈍化した。足元の動きを見ると、19年に入り±0%を挟んで一進一退を繰り返していたが、12月には前年比7.0%増と持ち直した(図表-7)。また、輸出の先行指標となる新規輸出受注指数を見ても12月には19ヵ月ぶりに拡張・収縮の境界(50%)を上回った。但し、今年は春節(旧正月)が1月で駆け込みが早まった可能性もあるため、上向いたか否かは1-2月期の動向を見てから判断しても遅くないだろう(図表-8)。また、米中両政府はこの1月15日に「第一段階の合意」に達したが、制裁関税の引き下げはほんの一部に限られる上、ファーウェイ問題を象徴とする覇権争いは今後も続くと見られるため、対米輸出拠点を中国以外に移す流れは、ペースはダウンしても止まらず、輸出の持ち直しは小幅に留まるだろう。
(図表-7)輸出(ドルベース)の推移/(図表-8)新規輸出受注
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三尾 幸吉郎

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