2020年01月24日

EUソルベンシーIIにおけるLTG措置等の適用状況とその影響(1)-EIOPAの2019年報告書の概要報告-

中村 亮一

文字サイズ

4|SCR比率への影響(EEA全体及び国別)
MA、VA、TRFR、TTPのうちの少なくとも1つの措置を適用している会社ベースでみると、措置の非適用によるSCR比率への影響は、EEA全体及び国別に、次ページの図表の通りとなっている。

EEA全体では、SCR比率は、適用前の235%から159%に76%ポイント低下する。

これを国別に見てみると、低下する絶対的な「%ポイント」水準が最も大きいのは英国で、154%から45%に109%ポイント低下する。次がドイツで、373%から268%に105%ポイント低下する。オランダは199%から120%に80%ポイント低下する。一方で、主要国では、フランスは216%から167%への49%ポイントの低下、イタリアは223%から203%への20%ポイントの低下に留まっている。

影響度を割合で見てみると、英国が154%から45%へと、適用時の29%の水準に低下して、他の国々に比べて、はるかに大きな影響を受けている。これに続くのはオランダで199%から120%に60%の水準に低下、ポーランドも181%から122%に67%の水準に低下する。なお、ドイツの影響度は72%の水準となっている。

また、英国のSCR比率は、各種措置の非適用ベースでは、45%と100%を大きく下回り、加盟国中の最低水準で、100%を下回ることになる唯一の国となっている。

VA非適用の影響が大きいことから、各国とも、前回の報告書に比べて、各種措置の非適用ベースの影響度が上昇しており、また各種措置の非適用ベースのSCR比率も低下している傾向にある。
図表 MA、VA、TRFR、TTPの少なくとも1つの措置を適用している会社のそれらを非適用とした場合のSCR比率に対する平均的影響
5|SCR比率への影響(会社別)
MA、VA、TRFR、TTPのうちの少なくとも1つの措置を適用している会社ベースでみると、措置の非適用によるSCR比率への影響は、会社別に、次ページの図表の通りとなっている。

図中の各点は1つの会社を表しており、各会社の種類は点の色で示されている。横軸は、措置MA、VA、TRFR及びTTPを非適用としたSCR比率である。全ての措置の影響を考慮したソルベンシー比率(現在のSCR比率)は縦軸に示されている。会社がソルベンシーIIに基づいて保有することが要求されるSCR比率100%は、追加の垂直線及び水平線によって示されている。実線の対角線は、措置の影響を受けない会社に対応している。このラインにある会社は、措置の有無にかかわらず同じSCR比率を有する。対角線から離れるほど、措置の影響が大きくなる。破線の対角線は、SCR比率に対する100、200、400%ポイントの影響に対応している。

これによると、少なくとも1つの措置を適用している会社の80%で、その影響は0と100の%ポイントの範囲内にある。

措置の適用が無かった場合、16%の会社のSCR比率は100%を下回っていた。さらに、1%の会社でSCRをカバーする適格自己資本がマイナスになっていた。

これらの数値も前回の報告書に比べて、悪化する方向となっている。
図表 措置適用有無によるSCR比率の変化(会社別)の分布状況
6|適格自己資本やSCRへの影響
MA、VA、TRFR、TTPのうちの少なくとも1つの措置を適用している会社ベースで、措置の非適用による適格自己資本やSCR への影響をみると、以下の図表の通りとなっている。

EEA全体では、適格自己資本は17.4%減少し、SCRは21.7%増加する。

国毎に、適格自己資本とSCRのそれぞれの影響度は、どの措置を適用しているのかによって異なってくる。英国はいずれの影響度も50%以上と極めて高くなっており、オランダの影響度はそれぞれ40.9%及び▲15.5%と高い。ドイツやフランスの影響度も両方とも2桁となっている。一方で、イタリアにおいては、それぞれの影響度が5.3%及び▲4.3%と低いものとなっている。さらに、スペインはSCRの影響度は低いが、適格自己資本への影響度は高い。一方で、デンマークはSCRへの影響度は25.0%と高いが、適格自己資本への影響度は低くなっている。ポルトガルの適格自己資本への影響度も▲26.6%と高いものとなっている。
図表 MA、VA、TRFR、TTPの少なくとも1つの措置を適用している会社のそれらを非適用とした場合のSCR適格自己資本及びSCRに対する平均的影響
7|技術的準備金への影響
MA、VA、TRFR、TTPのうちの少なくとも1つの措置を適用している会社ベースで、措置の非適用による技術的準備金への影響については、以下の図表の通りとなっている。

これによれば、EEA全体で、3.2%の増加となるが、国別の内訳では、スペインが7.1%で最も高い影響を受けており、次が英国で6.0%、ドイツが5.2%、ポルトガルが5.0%、ギリシアが4.9%と続いている。

一方で、フランスは1.7%、イタリアは1.0%と影響が低くなっている。
図表 MA、VA、TRFR、TTPの少なくとも1つの措置を適用している会社のそれらを非適用とした場合の技術的準備金に対する平均的影響
8|影響のまとめ
MA、VA、TRFR、TTPのうちの少なくとも1つの措置を適用している会社ベースで、措置の非適用による影響をまとめると、以下の図表の通りとなる。

ここに、青のボックスのボトムが25パーセンタイルを、トップが75パーセンタイルを、黒い帯が50パーセンタイルを示している。一方で、線の両端の黒い帯は10パーセンタイルと90パーセンタイルを示し、その外部は10パーセンタイルより低い、又は90パーセンタイルより高い外れ値を点で示している。

これによれば、例えば、BoF(Basic Own Fund:基本自己資本)への影響については、措置の非適用は、約90%のケースでBoFの減少をもたらし、75%のケースで少なくとも0.1%、50%のケースで少なくとも0.7%、25%のケースで少なくとも3.4%のBoFの減少をもたらす。

一般的に、全ての関連変数は歪んだ分布とかなりの数の異常値を示していることがわかる。前年度の報告書7と比較して、全ての変数の分布はあまり分散されていない。
図表 措置を適用している会社で全ての措置を非適用とした場合の影響

7―まとめ

7―まとめ

以上、EIOPAの報告書に基づいて、ソルベンシーIIにおけるLTG措置や株式リスク措置についての保険会社の適用状況やその財務状況に及ぼす影響について、全体的な状況の概要を報告してきた。

これにより、移行措置を含むLTG措置が、欧州保険会社によって幅広く適用され、SCR要件の遵守において重要な役割を果たしていることが明らかになっている。今回の報告書の中では、まとめてLTG措置として分類されているが、MAやVAのようないわゆる「狭義のLTG措置」と、TRFRやTTPのような「移行措置」とは、その意味合いが異なっており、これらを分けて、その影響を考えていく必要がある。移行措置の適用による影響が大きい国の保険会社は、移行期間中に計画的に適切な対応を行っていくことが求められることになる。

次回のレポートでは、報告書の主として第3のセクションから、UFRの使用及びMAの適用状況について、その国別の適用会社数やSCR比率への影響等を報告する。
Xでシェアする Facebookでシェアする

中村 亮一

研究・専門分野

(2020年01月24日「保険・年金フォーカス」)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【EUソルベンシーIIにおけるLTG措置等の適用状況とその影響(1)-EIOPAの2019年報告書の概要報告-】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

EUソルベンシーIIにおけるLTG措置等の適用状況とその影響(1)-EIOPAの2019年報告書の概要報告-のレポート Topへ