2020年01月24日

世界の観光市場における日本の立ち位置を考える~2030年訪日客6000万人は達成可能か?

金融研究部 准主任研究員 渡邊 布味子

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4――「アジア・太平洋」における日本の立ち位置

(1)「アジア・太平洋」は世界平均を上回る高成長。2010年代の「日本」の成長率は突出して高い
UNWTOによると、世界のインバウンド市場(2018年)は、「ヨーロッパ7.1億人(51%)」、「アジア・太平洋3.5億人(25%)、うち日本0.3億人(2%)」、「米州2.2億人(15%)」の順に高く、アウトバウンド市場と同様、3エリア合計で全体の9割を占める(図表-6)。1990年の構成比率(「ヨーロッパ60%」、「米州21%」、「アジア・太平洋13%」)と比較した場合、「ヨーロッパ」が60%から51%へ低下する一方で、「アジア・太平洋」は13%から25%へ倍増し、「米州」を抜いて第2位の規模に拡大している(図表-7)。実数でみても、1990年の「アジア・太平洋」は「ヨーロッパ」の1/5の規模であったが、現在は1/2にまでその差を縮小している。
図表-6  世界のインバウンド市場(エリア別、2018年)/図表-7 インバウンド市場の構成比率の推移
過去30年でみると、「アジア・太平洋」は1990年・2000年・2010年の全ての年代において世界平均(年率3~5%)を上回る高成長(年率7%)を実現している(図表-8)。こうした中、「日本」の成長率は2000年代まで「アジア・太平洋」を下回る水準にとどまっていたが、2010年代は年率17%と突出して高い成長を示し、「アジア・太平洋」における「日本」の占率は4%から9%へ急上昇している。
図表-8 過去30年のインバウンド市場の成長率 (年率、エリア別)
(2)今後の「アジア・太平洋」の成長率は年率4.2%、世界平均を上回る見通し
また、「アジア・太平洋」のインバウンドの成長率は今後も世界平均を上回る見通しである。UNWTOの2030年までの長期予測(2017年公表)によると、世界のインバウンド市場が14.1億人から2030年に18.1億人(年率2.9%成長)へ拡大するなか、「アジア・太平洋」の成長率(4.2%)は「アフリカ」の成長率(4.6%)に次いで高く、インバウンド客数は3.5億人から5.4億人(占率25%から30%)へ増加する見込みである(図表-9、10)。
図表-9 2030年の世界のインバウンド市場の構成比/図表-10 世界のインバウンド市場の見通し(2020年~2030年、エリア別)
(3)「中国」、「タイ」と比較し、「日本」の特徴を確認する
続いて、同一エリア内にある「日本」・「中国」・「タイ」のインバウンド客数の構成比を比較し、「日本」の特徴を確認する。まず、「アジア・太平洋」の観光客はどのエリアから訪れているのであろうか。筆者の推計によると、「アジア・太平洋」の構成比(以下、エリア平均)は、「アジア・太平洋75%」・「ヨーロッパ18%」・「米州4%」となる3(図表-11)。これに対して、「日本」・「中国」・「タイ」の構成比(実績値)は、日本(2018年)が「アジア・太平洋88%」・「ヨーロッパ5%」・「米州7%」、「中国」(2018年)が「アジア・太平洋66%」・「ヨーロッパ20%」・「米州12%」、「タイ」(2017年)が「アジア・太平洋75%」・「ヨーロッパ18%」・「米州4%」となっている。

3カ国を比較すると、「日本」は「アジア・太平洋」の比率が高く(エリア平均比+13%、中国比+22%、タイ比+13%)、その分、「ヨーロッパ」の比率が低い(エリア平均比▲13%、中国比▲15%、タイ比▲13%)。また、「中国」は「米州」の比率が相対的に高い(エリア平均比+8%、日本比+6%、タイ比+8%)。これに対して、「タイ」は「エリア平均」に近似しておりエリアの偏りがなくグローバルに観光客を誘致できていることが分かる。
図表-11 「日本」・「中国」・「タイ」のインバウンド客数の構成比
このようにしてみると、日本は「アジア・太平洋」への高い依存度が特徴として挙げられるが、これは決して悪いことではない。「アジア・太平洋」は今後も高い成長が期待される市場であり、そのエリアで人気「日本」はその恩恵を大いに受けることができそうだ。一方で、欧米からのインバウンド客数を増やしていくには、対外プロモーションなど「中国」や「タイ」の取り組みに学んで参考にできることも多いのではないだろうか。
 
3 「アウトバウンド市場のエリア別構成比」と「エリア内観光率」を用いて推計した。
 

5――2030年訪日客数6000万人達成には、欧米からの集客増が不可欠

5――2030年訪日客数6000万人達成には、欧米からの集客増が不可欠

それでは、日本は2030年訪日客数6,000万人を実現できるかどうか、以下で簡単に試算したい。まず、UNWTOの予測を前提に、「日本」が「アジア・太平洋」と同水準の成長(年率4.2%)を実現した場合(試算①)、2030年訪日客数は5,080万人となる。今後10年で1.6倍に拡大するものの政府目標には届かない水準となる。次に、試算①に加えて「ヨーロッパ」と「米州」からの訪日客誘致に成功し同比率を「エリア平均」並みに高めることができた場合(試算②)、2030年訪日客数は6,000万人となり、政府目標を達成する。(図表-12)。

本稿では、世界の観光市場について、「ヨーロッパ」の占率が依然として高いものの成長のけん引役は「アジア・太平洋」であること、そのなかで、「日本」は高い観光競争力を有するとともに「アジア・太平洋」の成長の恩恵を受けるポジションにあることを確認した。

一方、日本の観光市場におけるヨーロッパの構成比の低さは課題であり、また伸びしろとなっている。2020年はオリンピック・パラリンピックが開催されて、諸外国からの日本への関心が高まり、世界の観光市場へアピールする絶好の機会である。2010年代にアジア近隣諸国へアピールして高い成長を実現したように、2020年代は欧米から多くの観光客を誘致することで、日本の観光市場はさらに大きく成長することができるだろう。
図表-12  今後のインバウンド客数の見通し
 
 

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金融研究部   准主任研究員

渡邊 布味子 (わたなべ ふみこ)

研究・専門分野
不動産市場、不動産投資

経歴
  • 【職歴】
     2000年 東海銀行(現三菱UFJ銀行)入行
     2006年 総合不動産会社に入社
     2018年5月より現職
    ・不動産鑑定士
    ・宅地建物取引士
    ・不動産証券化協会認定マスター
    ・日本証券アナリスト協会検定会員

    ・2022年、2023年 兵庫県都市計画審議会専門委員

(2020年01月24日「基礎研レポート」)

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