2020年01月17日

米民間設備投資の動向-10-12月期まで3期連続のマイナス成長の可能性も20年は緩やかに持ち直しへ 

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.はじめに

GDPにおける民間設備投資は19年7-9月期に前期比年率▲2.3%と前期の同▲1.0%から2期連続でマイナスとなったほか、マイナス幅が拡大した(前掲図表1)。住宅投資が7期ぶりにプラス成長に転じたのとは対照的に設備投資は不振が続いている。

民間設備投資が軟調な要因として、原油価格の下落に伴う米国内の資源関連の建設投資の減少、鉱工業生産の頭打ちに加え、トランプ大統領の通商政策に対する不透明感を背景に企業経営者が設備投資に慎重になっていることなどが挙げられる。また、足元の経済指標からは10-12月期も設備投資の回復がもたついている可能性が高いことが示唆されている。

本稿では、不振が続く設備投資の現状やその要因、今後の見通しについて論じたい。20年の見通しについて結論を先に言えば、世界経済の回復や緩和的な金融環境などの追い風に加え、米中貿易戦争の小康もあって緩やかな持ち直しを見込むというものだ。
 

2.民間設備投資の動向

2.民間設備投資の動向

(19年7-9月期の振り返り):建設投資に加え、設備機器も減少
19年7-9月期の実質ベースの民間設備投資の内訳をみると、知的財産は前期比年率+4.7%(前期:+3.6%)と、ソフトウエアや研究開発の回復が続いていることもあって、プラス成長を維持した(前掲図表1、図表2)。しかしながら、建設投資が▲9.9%(前期:▲11.1%)と2期連続で大幅なマイナスとなったほか、民間設備投資額のおよそ半分を占める設備機器投資が▲3.8%(前期:+0.8%)と前期からマイナスに転じ全体を押し下げた。
(図表2)民間設備投資の内訳(実質ベース)
建設投資では、鉱業等が前期比年率▲29.5%(前期:▲15.6%)と大幅な落ち込みとなった。鉱業等は、原油価格の下落に伴い油田などの資源関連の建設投資が減少した影響が大きいとみられる。

設備機器投資は、前期に高い伸びとなった反動もあってコンピュータ機器が▲29.2%(前期:+34.7%)と大幅なマイナスとなったほか、産業機器を除きすべての部門でマイナスとなり、減速が際立っている。

もっとも、設備機器投資は19年1-3月期も▲0.1%のマイナス成長と、19年を通じて軟調となっており、18年の前年比+6.8%からの伸び鈍化が際立っている。このような設備機器投資の弱さは、鉱工業生産や稼働率の低下、製造業在庫の積み上がりなどが影響しているとみられる。

実際に、これらの指標をみると、鉱工業生産指数および設備稼働率は16年春先以降回復基調が持続していたが、18年末にピークをつけた後は19年10月まで低下基調が持続した(図表3)。

また、製造業の在庫/出荷比率も16年から18年秋口にかけて低下がみられたものの、その後は19年11月にかけて在庫増加が出荷を上回っており、在庫が積み上がる状況となっている(図表4)。
(図表3)鉱工業生産指数および設備稼働率/(図表4)製造業在庫/出荷比率
(図表5)設備投資計画と民間設備投資伸び率 一方、大企業の設備投資計画は18年1-3月期から下方修正が続いている。業界団体のビジネス・ラウンドテーブルによれば、今後6ヵ月の設備投資計画に関するDI調査1は18年1-3月期の115.7から19年10-12月期に64.5まで低下した(図表5)。

ビジネス・ラウンドテーブルは、経営者が慎重になっている要因として、通商政策の不透明感、世界経済の成長鈍化、米国の製造業部門の減速を挙げている。このため、米中をはじめとするトランプ大統領の保護主義的な通商政策が企業経営者のマインド悪化を通じて設備投資の抑制要因となった可能性が高いとみられる。
 
1 150~▲50で変動。50超が設備投資の増加示唆
(19年10-12月期見込み):設備投資の回復に遅れ
今月末に発表が予定されている19年10-12月期の民間設備投資は3期連続でマイナスとなる可能性が高くなっている。
(図表6)米国製造業の耐久財受注・出荷と設備投資 設備投資の先行指標とされる国防、航空を除くコア資本財受注(3ヵ月移動平均、3ヵ月前比、年率)は、19年11月が▲1.3%と9月の横ばいから、さらにマイナス幅が拡大しており、設備機器投資の回復が遅れている可能性を示唆している(図表6)。
また、前期に大幅なマイナス成長となった建設投資も資源関連を中心に減少が続いているとみられる。米国内油田の稼働リグ数をみると、原油価格が18年10月の70ドル台半ばから19年末に55ドル台半ばに低下したこともあって、19年初の877をピークに低下基調が持続しており、19年12月には663まで減少したことが分かる(図表7)。

さらに、非住宅建設支出(3ヵ月移動平均、3ヵ月前比)は、19年11月が▲1.1%とマイナス成長が続いているほか、9月の▲0.5%からマイナス幅が拡大しており、19年10-12月期も建設支出が減少していることを示唆している(図表8)。

このため、前期同様設備機器投資、建設投資の減少から10-12月期の設備投資の回復は遅れている可能性が高い。
(図表7)原油価格と稼働リグ数/(図表8)非住宅建設支出(民間)

3.今後の見通し

3.今後の見通し

民間設備投資の回復は足元でもたついているものの、20年には緩やかながら回復することが見込まれる。設備投資を取り巻く環境をみると、世界経済の成長率は金融危機後では最低となった19年の前年比+3.0%から20年は3.4%に上昇することが予想されている(図表9)。これはおもに新興国の成長率が加速することが大きい。さらに、19年に前年比+0.9%まで低下した財輸出も20年は+3.2%に加速が見込まれており、20年の世界需要は回復が見込まれる。
(図表9)世界経済、財輸出見通し/(図表10)金融環境指数
また、企業が設備投資を行うための資金調達環境は非常に良好である。シカゴ連銀が推計している金融環境指数は、直近(1月10日)が▲0.79と18年以降で最も緩和的であった水準に近くなっており、企業にとって資金調達が容易な環境となっている(前掲図表10)。このため、設備投資を取り巻く環境は良好と言えよう。

さらに、1月15日に米中政府が通商協議で「第一段階」合意に署名を行ったことで18年から続く米中の関税競争は小康となり、早期の実現は難しいものの、今後は米中関税の段階的な見直しに向かう可能性が高くなっている。昨年以降の設備投資抑制の要因の一つとなっていた通商政策の不透明感が一部緩和されることは、企業が設備投資の意思決定をし易くなるため、通商政策の動向も設備投資には追い風とみられる。
(図表11)S&P500企業の設備投資アナリスト予想 現状、株式アナリストによるS&P500企業の設備投資予想は、20年が前年比+2.0%と19年からは低下するものの、プラス成長が見込まれている(図表11)。

「公益」や「エネルギー」セクターでは、設備投資の削減が見込まれているものの、「コミュニケーション」が+6.7%(前年:+4.9%)と前年に続き高い伸びが見込まれるほか、「IT」や「産業」「素材」セクターで前年から伸びが加速するとことで、全体が押し上げられるとみられている。

これまでみたように、世界的な需要の回復、緩和的な資金調達環境、通商政策の不透明感の一部払拭などを背景に20年の民間設備投資は緩やかながらも持ち直しに転じる可能性が高いとみられる。
 
 

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窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

(2020年01月17日「Weekly エコノミスト・レター」)

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