2019年12月06日

2020年はどんな年? 金融市場のテーマと展望

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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1.トピック:2020年はどんな年?金融市場のテーマと展望

師走に入り、今年も残すところ1カ月を切った。少々早いものの、今年の金融市場を振り返り、来年の市場のテーマと動向を展望したい。
2019年の主な出来事 (2019年の振り返り・・・貿易摩擦に一喜一憂させられた一年、米利下げが心の拠り所に)
まず、2019年のこれまでの市場の動きを振り返ると、ドル円レートは年初111円でスタートした直後にフラッシュクラッシュで急激な円高に見舞われ、一時105円を割り込んだ。春にかけては米中通商協議の進展期待によってリスクオンの円売りが進む形で一旦持ち直したものの、その後は米中摩擦激化とそれを受けた米利下げによって円高が進み、夏には再び105円の節目を割り込んだ。秋以降は米政権による追加関税発動延期や米中による合意に向けた協議再開・継続を受けて摩擦緩和期待が高まったことで円安が進み、現在は108円台後半で推移している。

一方、日本株(日経平均株価)は年初20000円を割り込んでスタートしたが、春にかけては米中協議の進展期待によって持ち直した。その後、米中摩擦の激化を受けて一時的に20000円台に下落する局面もあったものの、秋以降は摩擦緩和期待の高まりを受けて上昇し、現在は23000円台で推移している。

米国が利下げに転じたことがドル円ではリスクオフを緩和すると同時にドルの上値を抑えたため、年初から足元にかけてのドル円の値動きは乏しく、方向感も欠けた。一方で、日本株は利下げによる米株高が追い風となる形で明確に上昇している。

なお、長期金利(10年国債利回り)は、米中摩擦激化による安全資産需要と米利下げに伴う米金利低下の影響によって秋口にかけて大きく低下し、一時過去最低の▲0.3%に肉薄したが、その後は米中摩擦の緩和期待と日銀による国債買入れ減額を受けて上昇し、言わば「行って来い」の形になっている。
今月もまだ米政権による対中関税(第4弾の残り)発動予定や英国の総選挙といった重要なイベントを残しているものの、2019年は「貿易摩擦の動向と影響に一喜一憂させられた一年」と総括できる。また、株式投資家にとっては「米利下げが心の拠り所になった一年」とも言えるだろう。
2019年のドル円相場と株価(直近まで)/2019年の日米長期金利(直近まで)
(2020年はどんな年?)
それでは、来年2020年は金融市場にとってどのような年になるのだろうか?来年のスケジュールを確認しつつ(表紙図表参照)、内外の注目材料を点検してみる。

(1)海外材料
1) 米国:貿易摩擦と景気、大統領選の行方
a.貿易摩擦と景気の行方
まず、米国に関しては、米中貿易摩擦の行方が引き続き最大の注目点になる。現在は第一弾合意の署名に向けた協議が行われているため、目先は第一弾合意署名の有無と対中関税第4弾(残りの部分)の発動有無、既存の追加関税引き下げの有無が焦点となる。ただし、仮に第一弾合意が成立したとしても、それで米中摩擦が解決するわけではない。第一弾の合意が終わった後には、ほぼ手付かずとなっている中国の構造問題(中国の産業補助金問題など)是正も含めた交渉が続く可能性が高い。
米製造業景況感と物価上昇率 今後も貿易摩擦がますます激化していけば、中国による報復関税や世界経済の減速を通じた輸出の減少、対中関税の価格転嫁による物価上昇、先行き不透明感に伴う設備投資の減少などを通じて米経済への下押し圧力が強まりかねない。一方で、今後も一筋縄には行かないものの、段階的な合意を経て貿易摩擦が緩和し、既存の追加関税も引き下げに向えば、米国経済への逆風が緩和し、景気回復の支援材料になるだろう。

なお、FRBは今年10月のFOMCを境に利下げ停止を示唆している。今後、仮に貿易摩擦が緩和し、景気回復に伴って物価上昇率が大きく上昇することになれば利上げも再開されることになるが、来年中に物価上昇率が物価目標である2%を大きく上回る可能性は低い。また、来年は終盤に大統領選を控えることから、金融政策の変更が行いにくいという事情もある。従って、来年中に利上げが再開されることはないだろう。
b.米大統領選の行方
米国に関して、次に注目されるのは来年11月上旬に行われる米大統領選の行方だ。
米大統領選サイクルとダウ平均株価(年間騰落率) ここで、1990年代以降について、大統領選のサイクルと米株価(ダウ平均株価)の関係性を振り返っておくと、大統領選の年の株価騰落率はあまり芳しくない。リーマンショックとその反動の影響で株価が撹乱されたオバマ政権の1期目(2008年~2011年)を除外しても、大統領選の年の平均的な株価上昇率は、その翌年や3年後(大統領選前年)に及ばない。

もちろん、株価は景気や金融政策、国際政治など様々な要因の影響を受けるため一概には言えないが、過去の推移を見る限り、大統領選の実施が株価に特定の大きな影響を与えた形跡は確認できない。

ただし、来年の選挙は過去の事例と様相が異なる可能性がある点には注意が必要だ。それは、トランプ大統領を含めて有力候補者の政策が極端であるという点だ。誰が次期大統領に選ばれるかによって政策の振れ幅が大きくなるため、大統領選の株価への影響も増幅される可能性がある。

現時点で有力候補とされるのは、トランプ大統領(共和党)、バイデン元副大統領(民主党)、ウォーレン上院議員(民主党)だが、反保護主義的で中国にも融和的なバイデン元副大統領が勝利した場合が最も株価・ドル円にポジティブに働くと考えられる。トランプ大統領が勝利した場合も、政策の連続性が保たれ、不透明感が緩和することでややポジティブな反応が予想される。一方で、保護主義的かつ反ビジネス色の強いウォーレン上院議員が勝利した場合には、株安・ドル安が進む可能性が高いだろう。

また、大統領選と同時に行われる上下院議会選挙の結果も重要になる。現在は大統領(共和党)、上院(共和党過半数)、下院(民主党過半数)の間で「ねじれ」状態にあるが、もし「ねじれ」が解消することになれば、政策実行力向上への期待からポジティブな反応が予想される。
2) 中国:景気の行方(減速は止まるか)
中国経済の行方も来年の市場にとって引き続き重要なテーマになるだろう。中国経済は減速基調が続いており、直近7-9月期の実質GDP成長率は前年比6.0%まで低下している。米中貿易摩擦の激化によって輸出や投資などへの逆風が強まった影響が大きい。こうした中、中国政府は減税やインフラ投資促進策、実質的な金融緩和措置といった景気対策を相次いで打ち出してきたが、今のところ効果は限定的に留まっている。

従って、中国の景気の行方を考えるうえでは、米中貿易摩擦の今後の動向と影響、中国政府による景気対策の効果発現度合いがポイントになる。
中国の実質GDP成長率(四半期)/中国の固定資産投資とインフラ投資
3) その他地域:欧州の政治と中東などの地政学リスク
欧州の注目材料は政治だ。英国のEU離脱問題は未だ解決に至っていない。今月12日の総選挙で保守党が過半数を獲得すれば、1月末までに「合意有り離脱」となり、離脱移行期間に入ると見込まれるが、過半数を割り込めば、政局が流動化し、先行きが極めて不透明になる。また、離脱移行期間入りしたとしても、2020年末の移行期間期限までにEUとの間でFTAがまとまらず、かつ英政権が離脱を優先して移行期間の延長を申請しない場合には、再び「合意無き離脱」に陥るリスクがある。

また、景気後退の瀬戸際にあるドイツのメルケル政権が、現在は否定的である大規模な財政出動に踏み切るかどうかも注目される。
OPEC加盟国の原油生産量(2019年10月) 欧州以外では、中東や北朝鮮などの地政学リスクが注目材料になる。

とりわけ中東では、今年9月にサウジアラビアの石油関連施設がドローンや巡航ミサイルによる攻撃を受ける事態が起きた。この結果、サウジの生産能力の約半分にあたる日量570万バレルもの生産停止が発生し、原油価格は一時15%も上昇することとなった。

相次ぐタンカーへの攻撃も含めて、サウジ周辺での武力攻撃の背景には米国とイランの関係悪化に伴う中東情勢の不安定化がある。また、石油施設攻撃に対するサウジの防衛体制の脆弱性も明らかになった。米国とイランの緊迫した状況は続いているため、今後もこうした武力攻撃による生産減少リスクは高い。9月の攻撃後には、被災施設の復旧が早期に行われたことで原油価格が短期間のうちに落ち着きを取り戻したが、今後大規模な生産停止が発生し、復旧に時間を要する事態となれば、原油価格は高騰し、高止まりするだろう。
 
また、最近、イランやイラクにおいて政治に不満を持つ民衆による大規模デモが頻発し、政権との衝突が発生している点も気がかりだ。両国はサウジに次ぐ原油生産国であるだけに、大規模な生産停止に繋がれば、原油価格の高騰を招きかねない。

原油価格の高騰は世界経済にとって打撃になる。産油国にとっては一時的にプラスに働くものの、原油高の影響で世界経済が悪化して原油需要が減退してしまっては元も子もなくなる。
夏季五輪開催国の開催年の株価(年間騰落率) (2)国内材料
1) 東京五輪の影響
次に国内に目を転じると、まず来年夏に開催される東京五輪の影響が注目される。五輪の開催は景気にとってプラスに働くため、株価にとっても基本的にはプラスに働くと考えられる。

そこで、2000年以降の夏季五輪5大会分について、開催国の開催年における株価上昇率とダウ平均株価の上昇率とを比較してみるとマチマチであり、「五輪開催国の株価上昇率の方が高い」という明確な傾向は確認できなかった。五輪の開催地は数年前に決まるため、開催年の段階では既に株価に織り込まれている可能性や、五輪関連需要の剥落に伴う開催後の景気の落ち込みが反映されている可能性がある。
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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

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