2019年10月31日

2019年7-9月期の実質GDP~前期比0.1%(年率0.2%)を予測~

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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●7-9月期は年率0.2%を予測~消費増税前の駆け込み需要でかろうじてプラス成長~

2019年7-9月期の実質GDPは、前期比0.1%(前期比年率0.2%)と4四半期連続のプラス成長になったと推計される1。外需寄与度が前期比▲0.2%(年率▲0.7%)と2四半期連続で成長率の押し下げ要因となったが、消費税率引き上げ前の駆け込み需要を主因として民間消費が前期比0.5%と高めの伸びとなったこと、公的固定資本形成が前期比1.6%の大幅増加となったことなどから、国内民間需要、公的需要がともに増加し、外需のマイナスをカバーする形となった。

実質GDP成長率への寄与度(前期比)は、国内需要が0.2%(うち民需0.2%、公需0.1%)、外需が▲0.2%と予測する。
 
名目GDPは前期比0.2%(前期比年率0.7%)と4四半期連続の増加となり、実質の伸びを上回るだろう。GDPデフレーターは前期比0.1%(4-6月期:同▲0.1%)、前年比0.7%(4-6月期:同0.4%)と予測する。
 
なお、11/14に内閣府から2019年7-9月期のGDP速報が発表される際には、基礎統計の改定や季節調整のかけ直しなどから、成長率が過去に遡って改定される。当研究所では、2019年4-6月期の実質GDP成長率は設備投資、公的固定資本形成の上方修正などから、前期比年率1.3%から同1.8%へと上方修正されると予測している。
 
2019年7-9月期は消費税率引き上げ前の駆け込み需要を主因としてかろうじてプラス成長を確保したが、前回の消費増税前(2014年1-3月期:前期比年率3.9%)に比べると低い伸びにとどまった。軽減税率の導入、キャッシュレス決済に対するポイント還元などによって駆け込み需要が抑えられたことも一因だが、駆け込み需要を除いた景気の基調が弱いことも影響している。

2019年10-12月期は前回の消費増税時に比べると規模は小さいものの、駆け込み需要の反動減が発生すること、税率引き上げに伴う物価上昇によって実質所得が低下することから、民間消費が大きく減少し、明確なマイナス成長となることが予想される。
 
1 10/31までに公表された経済指標をもとに予測している。今後公表される経済指標の結果によって予測値を修正する可能性がある。
 

●主な需要項目の動向

●主な需要項目の動向

・民間消費~駆け込み需要を主因に増加も、基調は弱い~
 
民間消費は前期比0.5%と2四半期連続の増加を予測する。

軽減税率の導入やキャッシュレス決済に対するポイント還元などの消費増税対策の影響から、前回の消費増税前に比べると駆け込み需要の規模は小さかったが、消費増税直前には家電製品、家事用消耗品(ポリ袋、トイレットペーパー、洗剤等)、衣類など幅広い品目で駆け込み需要が顕在化したとみられる。
消費関連指標の推移 7-9月期の消費関連指標を確認すると、「鉱工業指数」の消費財出荷指数は前期比▲0.8%(4-6月期:同0.1%)と低調だったが、「商業動態統計」の実質小売業販売額指数(小売業販売額指数を消費者物価指数(財)で実質化)は前期比2.9%(4-6月期:同0.4%)の急上昇となった。業界統計をみると、外食産業売上高が前期比0.6%(4-6月期:同0.6%)と堅調を維持し、百貨店売上高が前期比7.4%(4-6月期:同0.5%)、自動車販売台数が前期比3.8%(4-6月期:同4.2%)の高い伸びとなった。自動車販売は消費増税の半年ほど前から駆け込み需要がみられたが、それ以外は増税直前の9月に駆け込み需要が集中した。
消費増税前後の百貨店売上高/消費増税前後の小売業販売額
なお、一橋大学経済研究所経済社会リスク研究機構の「SRI一橋大学消費者購買指数」を用いて消費増税前後の消費動向を確認すると、消費増税前の駆け込み需要は前回増税時を下回ったが、消費増税後には相応の反動減が発生していることがうかがえる。また、キャッシュレス決済に対するポイント還元の対象となっているコンビニエンスストアでは、消費増税前に購入数量が落ち込んだ後、消費増税週(9/30~)には一時的に増加に転じたが、その後は再び前年割れとなっている。
消費増税前後の消費動向(週次ベース)/消費増税前後の消費動向(週次ベース)
2019年7-9月期の民間消費は消費増税前としては低い伸びにとどまった。この一因は駆け込み需要が比較的小さかったことだが、もともとの消費の基調が弱いことも影響している。10-12月期の民間消費は、反動減の影響は前回増税時よりも小さくなるものの、物価上昇による実質所得低下の影響を受けることから、前期比で大幅なマイナスとなることが予想される。
・住宅投資~5四半期連続の増加もすでに反動減が顕在化~
 
住宅投資は前期比1.6%と5四半期連続の増加を予測する。

新設住宅着工戸数(季節調整済・年率換算値)は2018年10-12月期以降の95.5万戸から、2019年1-3月期が94.2万戸、4-6月期が91.8万戸、7-9月期が89.9万戸と減少傾向が続いている。
新設住宅着工戸数の推移 住宅は引き渡しが2019年10月以降の場合、契約が2019年3月末以前でなければ、10%の消費税率が適用される。このため、駆け込み需要は2018年度中にほぼ出尽くしており、着工ベースでは2019年4月以降、反動減が発生している。

住宅着工戸数は減少しているが、居住産業併用建築物の工事費予定額(7割が居住分とみなされる)が8月に急増しており、このことが7-9月期のGDP統計の住宅投資を押し上げた。ただし、これは一時的なものと考えられるため、10-12月期の住宅投資は減少に転じる可能性が高い。
・民間設備投資~高水準の企業収益を背景に堅調維持も、牽引力は低下~
 
民間設備投資は前期比0.5%と2四半期連続の増加を予測する。

設備投資の一致指標である投資財出荷指数(除く輸送機械)は2019年4-6月期の前期比1.9%の後、7-9月期は同1.8%の増加となった。また、機械投資の先行指標である機械受注(船舶・電力を除く民需)は2019年4-6月期に前期比7.5%の増加となった後、2019年7、8月の平均は4-6月期を▲2.2%下回っている。
設備投資関連指標の推移/設備投資計画(全規模・全産業)
日銀短観2019年9月調査では、2019年度の設備投資計画(全規模・全産業、含むソフトウェア投資、除く土地投資額)が6月調査から▲0.3%下方修正され、前年度比6.0%増となった。増加基調は維持されているが、同時期(9月調査)の2017、2018年度の伸びを下回った。

高水準の企業収益を背景に設備投資は堅調を維持しているが、その勢いには陰りがみられる。人手不足対応の省力化投資など景気循環に左右されにくい需要は引き続き旺盛であるため、設備投資が大崩れする可能性は低いとみられるが、企業収益が悪化している製造業を中心に設備投資の牽引力は徐々に低下している。
・公的固定資本形成~補正予算、当初予算の積み増しを反映し、増加が続く~
 
公的固定資本形成は、2018年度第2次補正予算と2019年度当初予算の公共事業関係費の増加を反映し、前期比1.6%と3四半期連続の増加を予測する。
公共工事請負金額、出来高の推移 公共工事の先行指標である公共工事請負金額は、2018年10-12月期以降、4四半期連続で増加し、2019年7-9月期は前年比12.2%の高い伸びとなった。また、公共工事の進捗を反映する公共工事出来高(建設総合統計)は、2019年4-6月期に前年比2.5%と5四半期ぶりの増加となった後、7、8月の平均は同6.4%と伸びを高めている。

政府は、2018年12月に閣議決定した「防災・減災、国土強靭化のための3か年緊急対策」に基づき、2018年度の第2次補正予算で公共事業関係費を大幅に積み増したほか、2019年度の当初予算でも公共事業関係費を2018年度当初予算比で9,310億円増(うち、臨時・特別の措置が8,503億円)、前年比15.6%の大幅増加とした。公的固定資本形成は先行きも増加が続く可能性が高いだろう。
・外需~輸出の低迷、輸入の増加から2四半期連続のマイナス寄与~
 
外需寄与度は前期比▲0.2%(前期比年率▲0.7%)と2四半期連続のマイナスになると予測する。財貨・サービスの輸出が前期比▲0.2%と低迷する一方、消費税率引き上げ前の駆け込み需要への対応もあり、輸入が前期比0.7%の増加となったことから、外需が成長率の押し下げ要因となった。

2019年7-9月期の地域別輸出数量指数を季節調整値(当研究所による試算値)でみると、米国向けが前期比▲5.6%(4-6月期:同▲0.1%)、EU向けが前期比4.1%(4-6月期:同▲5.5%)、アジア向けが前期比▲1.1%(4-6月:同0.4%)、全体では前期比1.1%(4-6月期:同▲0.9%)となった。EU向けは3四半期ぶりに上昇したが、4-6月期に6四半期ぶりに上昇したアジア向けが再び低下し、これまで堅調だった米国向けが自動車を中心に大きく落ち込んだ。

輸出は全体としては低調な推移が続いているが、輸出を大きく押し下げてきた半導体電子部品がアジア向けを中心に2ヵ月連続で前年比プラスになるなど、IT関連品目の輸出が下げ止まりつつあることは明るい材料といえる。
地域別輸出数量指数(季節調整値)の推移/IT関連輸出の推移

 
日本・月次GDP 予測結果
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

(2019年10月31日「Weekly エコノミスト・レター」)

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