2019年10月23日

改正債権法の解説(4)-フリマアプリトラブル、どうなる?

保険研究部 常務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長 松澤 登

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1――はじめに

2020年4月1日施行の改正債権法(新民法)解説の4回目は売買契約と契約の不履行について説明を行いたい。

ネット社会になっていろいろな変化が現れたが、そのうちのひとつにフリマアプリの浸透によって「C to C」取引(カスタマー to カスタマー、個人間取引)が盛んになってきたということがある。経済産業省の資料によれば、2018年のフリマアプリの市場規模は6,392億円(前年4,835億円、前年比32.2%増)に達したとのことである1

フリマアプリに限らず、売買契約では売り手側、買い手側の約束の不履行を如何に防ぐか、ということが課題である。たとえばフリマアプリではフリマアプリ運営業者が買い手側から代金を預かって、きちんと商品が買い手側に届いたことが確認されてから売り手側に支払う。また、買い手側が代金を支払ったものの物品が届かないケースで一定の条件を充たした場合は、フリマアプリ運営業者が代金相当分を買い手側に補填するなど、安心して取引できる環境確保のためのさまざまな仕組みを採用している。

フリマアプリを利用した売買の注意点としては、(1)出品者が所有している「特定」の物品の売買となるため、その物品にもともと不具合があったような場合に代替の物品を出品者から手に入れることができないこと、また(2)出品者が通常、プロではないため修理がきかないこと、(3)買主もプロではないため、ちょっと手にとって確認すればすぐ分かるような不具合に気づかないことがあることなどが挙げられる。そもそも商品売買を業としてない個人同士の話なので、双方ともトラブルに慣れていないことも多いと思われる。

本稿では、改正債権法が売買契約のトラブルにどのような規律を当てはめているかを見て行きたい。中でも売り手側に悪意が無い場合をケースとして取上げる2。なお、各アプリの取扱の詳細は各事業者の利用規約をお読みいただきたい。

さて、本稿では、最近ひそかなブームとなっているアナログレコードのプレーヤーをフリマアプリで売買したというケースを取上げて検討を加えたい(図表1)。
アナログレコードのプレーヤーをフリマアプリで売買したというケース
 
1 https://www.meti.go.jp/press/2019/05/20190516002/20190516002.html 参照。
2 売り手の悪意(故意)等を立証できない場合も同様である。
 

2――売主の契約内容不適合責任

2――売主の契約内容不適合責任

1現行民法の規律-瑕疵担保責任
本稿ではプレーヤーの一部機能に不具合があるという状況を想定する。具体的には33回転では正常に作動するが、45回転では動きにムラがあるとする(図表2、以下本ケース)。アナログレコードを知らない世代向けに説明すると、レコードには一分間に33回転するものと45回転するものがあり、概ねシングル(表裏一曲ずつのみ収録)は45回転、アルバム(表裏6曲程度ずつを収録)は33回転である。
プレーヤーの一部機能に不具合があるという状況
売主はもともと33回転のレコードしかもっておらず、その問題には気づいていなかった。したがって出品に当たってもそのことを表示していなかった。

落札者も多くは33回転レコードを聴く予定ではあったが、持っていた45回転レコードを聴いたところ問題が発覚したとする。この場合、「特定」された物品の売買で、その「特定」の物品に不具合があったということから現行民法では「隠れた瑕疵(かし)」(=見えない欠陥や不具合)の問題として処理されてきた (現行民法第570条) 3。特定物の不具合の場合には、現行民法では損害賠償請求を行なうか、契約の目的が達成できないと考えられる場合には契約解除ができる(図表3)。なお、不特定物の不具合は別のルールで処理されるが、説明は割愛する4
契約解除できる場合
 
3 レコードプレーヤーではレコードを再生することが通常の機能であり、通常機能を有することを前提として購入しているのは明らかと考えれば、錯誤として無効とすることもできると考えられる(現行民法第95条、なお、改正債権法では錯誤の効果は表意者(=落札者)からの取消とされた(新民法95条)。
4 たとえばプレーヤーの製造・販売業者なら同じ型の商品の在庫がたくさんあるはずで、この場合は不具合のない商品を提供しなかった債務不履行の問題として処理される(現行民法415条)。
2改正債権法の規律―売主の契約内容不適合責任
改正債権法では、①契約の目的が達成できる場合と、②契約の目的が達成できない場合で処理が異なる。最初に全体像を示すと図表4の通りである。
①契約の目的が達成できる場合と、②契約の目的が達成できない場合
以下、説明すると、まず①契約の目的が達成できるとした場合、次に「目的物が種類、品質または数量に関して契約の内容に適合」するかどうかを判断することとなる(特定物・不特定物を問わない)。そして適合しない(たとえば品質が不十分である)場合は追完(ついかん、交換や修理をすること)を求めることができる(新民法第562条)。追完の方法は原則として買主が指定できる。

買主が追完の催告を行っても、売主が応じない場合には代金減額を請求できる(新民法第563条第1項)。ただ、特に個人間売買では通常は売主が修理できるとも思えないので、催告も必要とせず、直ちに代金減額請求権を行使することができる場合が多いものと思われる(新民法第563条第2項第1号)。

たとえば、本ケースでも、プレーヤー自体が数の少ない名品であり、買主が保有すること自体にも価値を感じているような場合は、②のような契約解除権を行使するのではなく、代金の減額を請求することにメリットがある。また、本ケースとは別の例、たとえばプレーヤーのカバーの開け閉めに異音がするなどの問題があるが、プレーヤーとしての機能自体には問題が無いようなケースなどでは契約解除はできず、追完または代金減額請求だけができる可能性がある。

次に②契約の目的が達成できない場合についてであるが、本ケースではそもそも45回転のものだけとはいえ、レコードの再生自体に問題があるというのであるから、通常は品質において契約の目的が達成できないと考えられる。したがって次項で説明するように、債務不履行として契約を解除し、代金を返還してもらうことができる (新民法第564条で準用する第541条、第542条)。

新旧のルールを比較すると図表5の通り。
新旧のルール比較
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松澤 登 (まつざわ のぼる)

研究・専門分野
保険業法・保険法|企業法務

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