2019年10月15日

医師の分布構造-今後増加する高齢の医師には、どういう医療を担ってもらうか?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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1――はじめに

人口の高齢化が進み、高齢の患者が増加している。それとともに入院中心の医療から、自宅等で暮らしつつ受療する地域医療へと、医療のかたちは多様化している。併せて、医師の高齢化も進んでいる。一方、大学医学部定員はやや引き上げられており、今後、若手医師の養成が進むものとみられる。

本稿では、医師の分布にスポットライトをあてて、その構造をみていくこととしたい。
 

2――医師の年齢ごとの推移

2――医師の年齢ごとの推移

まず、医師の年齢分布、すなわち世代構造について概観していく。

1医師資格の付与は、時代ごとに異なる
医師になるには、医師資格が必要である。そこで、医師になろうとする若者は、医学の研鑽を積んで医師資格の取得を目指す。ただし医師資格の付与は、各時代ごとに異なってきた。

戦前、国公立大学の医学部および医学校を卒業した者や、文部大臣の指定を受けた私立大学の医学部や医学校の卒業者には、無試験で医師免許が与えられていた。特に、1937年の日中戦争勃発以降1945年の第二次世界大戦終戦までの戦時下には、軍医として医師の増員が要望され、大学の臨時附属医学専門部や医学専門学校が各地に新設された。また、医学の教育年限の短縮も図られた。これにより、1920年代生まれの世代から多くの医師が生まれた。1

戦後、1946年に医師の国家試験が開始された。1949年には新たな学制がスタートし、戦前の大学医学部や医学校は、新制大学に移行した。医学専門学校は新制大学に転換されるものと、廃止されるものに二分された。そして、各大学には定員が設定された。定員数は、1960年代まで毎年3,000人前後とされていた。1970年代には、医学部未設置県の解消を図るために一県一医大構想が掲げられて、医学部が新設され、定員数が引き上げられた。1980年代半ばには、8,000人台でピークを迎えた。1979年の琉球大学医学部以降、医学部の新設はなく、定員数は8,000人程度で推移した。2010年頃より、既存医学部の定員増や2つの医学部の新設が行われた2。2019年度に、定員数は9,420人となっている。
図表1. 大学医学部定員数の推移
 
1 1945年には、医学部、医学校の定員と、医学専門部、医学専門学校の入学者数の合計は1万人を超えており、現在(2019年度)よりも多かった。(「医学部入試の変遷と今後の方向」石原賢一(日本内科学会雑誌104巻12号, 2015年)を参考に、筆者がまとめた。)
2 2016年に東北医科薬科大学、2017年には国際医療福祉大学が、医学部を開設した。
2戦争末期の資格付与者が、医師数の増加に寄与してきた
医師資格の付与の増減の効果は、数十年の時をおいて中高齢の医師数の増減に表れる。この様子を、戦争末期の医師の養成増加についてみてみよう。この世代は1920年代の生まれで、1986年には60歳前後、2006年には80歳前後となっている。10年ごと、10歳ごとの医師数の推移を示すグラフで表してみると、たしかに、この世代は前後の世代に比べて医師数3が多いことがわかる(緑点線枠囲み)。
図表2. 年齢層別医師数
 
3 本稿では、医師数は、医療施設従事医師数を表すこととする。なお、図表2以降の図表の出典は、いずれも「医師・歯科医師・薬剤師調査」(厚生労働省)。
31970年代の定員数の引き上げが、現在の60歳前後の医師の増加に結びついている
つぎに、この同じグラフから、1970年代の定員数の増加の影響を読みとってみよう。1970年代の定員増加は、1950年代生まれ以降の世代に影響している。1950年代生まれは、1996年には40歳前後、2016年には60歳前後となっている。グラフをみると、この世代以降は、それ以前の世代よりも医師数が多いことがわかる(青点線枠囲み)。将来を見通すと、この世代は2026年には70歳前後、2036年には80歳前後と高齢にシフトするため、今後、高齢の医師は増加するものとみられる。
 

3――女性医師割合の変化

3――女性医師割合の変化

つぎに、医師全体に占める女性医師の割合をみていこう。

1女性医師割合は年々上昇している
女性医師割合の推移をグラフで表すと、徐々に上昇しており、2016年には21.1%となっている。2000年代以降、医学部入学者や医師国家試験合格者の女性割合が30%台前半で推移している4ことを踏まえると、女性医師割合はいずれこの水準にまで上昇していくものと考えられる。
図表3. 医師の性別別推移
 
4 「女性医師キャリア支援モデル普及推進事業の成果と今後の取組について」(平成29年度女性医師キャリア支援モデル普及推進事業に関する評価会議(資料3), 厚生労働省, 2018年3月14日)に掲載のグラフより、筆者が読みとったもの。
2女性医師割合は高齢ほど低い
女性医師割合(2016年時点)を年齢層別にみると、30歳前後は30%台前半で、高齢に進むに連れて低下している5。65歳以降では、女性医師割合は10%未満となっている。ただし今後は、現在の若手層が中高齢層へとシフトするに連れて、中高齢層でも女性医師の割合は徐々に高まるものと考えられる。
図表4. 性別・年齢層別医師分布 (2016年)
 
5 ただし、85歳以上などの超高齢層では、男女の平均寿命の違いにより女性医師割合が高まる。(85歳以上では、12.5%)
 

4――病院・診療所別の医師の分布

4――病院・診療所別の医師の分布

つづいて、病院と診療所別に医師の分布をみていこう。図表4を、病院と診療所に分解してみる。

1病院の医師は若手が中心
病院では、30歳代、40歳代の若手の医師が多い。特に、女性医師は30歳前後の層がもっとも多い。一方、高齢に進むにしたがって、医師数は減少している。これは、多くの勤務医が中高齢期になると開業して病院の医師から診療所の医師に変わる、という医師のキャリアパスを表しているとみられる。
図表5-1. 病院の性別・年齢層別医師分布 (2016年)
2診療所の医師は60歳前後がピーク
診療所では、中高齢の医師が中心となっている。60歳前後で、診療所の医師数が病院の医師数を上回る。性別ごとにみると、男性は60歳前後がピークなのに対して、女性は50歳前後が最も多い。また、女性医師割合は、総計では病院のほうが高いが、世代別にみるとどの世代でも診療所のほうが高い。若手医師が多い病院と、高齢医師が多い診療所の分布の違いが、こうした状況の背景にある6
図表5-2. 診療所の性別・年齢層別医師分布 (2016年)
 
6 このように、個別要素ごとにみた場合と総計でみた場合とで、割合の大小関係が異なるケースは、「シンプソンのパラドックス」として知られている。詳しくは、「シンプソンのパラドックス-合計で見ると、結果が変わる?」篠原拓也(ニッセイ基礎研究所, 研究員の眼, 2017年5月2日)を参照いただきたい。
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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1992年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員

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