2019年09月19日

出生率の決定要因や少子化施策の効果に関する分析-埼玉県における少子化対策に関する施策の効果検証を中心に-

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中

日本社会事業大学 社会福祉学部 教授 金子 能宏

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4――出生率と関連指標との相関関係分析

本節では、2015年の出生率と出生率に影響を与えると考えられる関連指標の間の相関関係を分析した。まず、出生率と20歳~39歳人口割合(男性)の相関をみたところ、20歳~39歳人口割合(男性)と出生率の間には正の相関があり、統計的にも有意であった(図表12)。
図表12 20歳~39歳人口割合(男性)と出生率(2015)
20歳~39歳人口割合(女性)と出生率の間にも正の相関があり、統計的に有意であった。相関係数は女性の方が男性に比べて大きい(図表13)。結婚適齢期とも言える20代や30代の男女の人口数が多いことが出生率にプラスの影響を与えたと考えられる。
図表13 20歳~39歳人口割合(女性)と出生率(2015)
一般世帯の世帯人員数と出生率(2015)の相関をみたところ、一般世帯の世帯人員数と出生率の間には負の相関があり、統計的に有意であった(図表14)。
図表14 一般世帯の世帯人員数と出生率(2015)
一方、一般世帯のうち3世代世帯割合と出生率の相関(2015)をみたところ、一般世帯の世帯人員数と出生率の間には負の相関があり、統計的に有意であった(図表15)。一般的に3世代世帯の場合、祖父母が孫の世話をしてくれる印象が強いがなぜこのような結果が出たのだろうか。意識が変化し、孫には会いたいけど世話は嫌だと思う祖父母が増えたかも知れない。あるいは出生率に影響を与えない3世代世帯が最近増えたのが原因である可能性もある。実際、2000年のデータを用いて一般世帯のうち3世代世帯割合と出生率の相関を見たところ、2015年とは反対に3世代世帯割合が高い市町村で出生率が高いという結果が出た(図表16)。
図表15 一般世帯のうち3世代世帯割合と出生率の相関2015年
図表16 一般世帯のうち3世代世帯割合と出生率の相関2000年
次は20歳~39歳の未婚率(男性)と出生率(2015)をみたところ、20歳~39歳の未婚率(男性)と出生率の間には強い負の相関があり、統計的に有意であった。若い女性の未婚率のみならず若い男性の未婚率も出生率に影響を与えていることが明らかになっている(図表17)。
図表17 20歳~39歳の未婚率(男性)と出生率(2015)
女性の場合でも20歳~39歳の未婚率と出生率の間には強い負の相関があり、男性より相関係数が大きく、統計的にも有意であった(図表18)。
図表18 20歳~39歳の未婚率(女性)と出生率(2015)
一世帯当たり課税対象所得と出生率(2015)をみたところ、一世帯当たり課税対象所得と出生率の間には正の相関があり、統計的に有意であった。この結果は、加藤(2017)の「都市部と地方を比較した場合、都市部のほうが労働力や資本等が集中しており,効率性が高く,それが高い所得につながっていることが出生率に正の効果をもたらす可能性がある」の内容と一致する(図表19)。
図表19一世帯当たり課税対象所得と出生率(2015)
また、一般行政費3に占める児童福祉費比率と出生率(2015)の関係をみたところ、一般行政費に占める児童福祉費比率と出生率の間には正の相関があり、統計的に有意であった。児童福祉費比率は少子化対策と関連する指標であるので、埼玉県が取り組んでいる児童福祉政策は出生率の改善にプラスの影響を与えると期待されている(図表20)。
 
3 地方財政計画上の経費の一区分。教育文化施策、社会福祉施策、国土及び環境保全施策等の諸施策の推進に要する経費を始め、地方公共団体の設置する各種公用・公共用施設の管理運営に要する経費等、地方公共団体が地域社会の振興を図るとともに、その秩序を維持し、住民の安全・健康、福祉の維持向上を図るために行う一切の行政事務に要する経費から、給与関係経費、公債費、維持補修費、投資的経費及び公営企業繰出金として別途計上している経費を除いたものであり、広範な内容にわたっている。
図表20一般行政費に占める児童福祉費比率と出生率(2015)
子供のいる世帯当たり保育所等待機児童割合と出生率(2015)をみたところ、子供のいる世帯当たり保育所等待機児童割合と出生率の間には正の相関があり、統計的に有意である結果が出た(図表21)。
図表21子供のいる世帯当たり保育所等待機児童割合と出生率(2015)
15歳~49歳就業率(男性)と出生率(2015)の関係をみたところ、15歳~49歳就業率(男性)と出生率(2015)の間には正の相関があり、統計的に有意であった(図表22)。男性の労働時間と出生率の関係を分析した先行研究では両者の間に負の相関が出るケースが多かった。つまり、日本の男性は育児休業の取得率が低く、家事や育児の担当時間が短いため、男性の労働時間の長さは出生率に負の影響を与えるという結果が出た。埼玉県の分析結果が先行研究と異なる結果が出た理由としては、労働時間の代わりに就業率を用いて分析を行ったからではないかと思われる。家計の主な所得源である男性が働くこと、つまり、家計の所得が上昇することが出生率を引き上げる効果 (所得効果)をもたらしている。

一方、埼玉県の女性についてみると、男性の結果とは逆に15歳~49歳就業率(女性)と出生率(2015)の間には弱い負の相関があった(統計的に有意ではない)。2015年時点の埼玉県の15歳~49歳年齢階層の男女別就業率は、男性が78.8%で女性の64.9%を上回っている。子育てにはある程度の経済的負担が必要であるので、女性に比べて正規職が多く、賃金水準が高い男性就業率が高いところで出生率が高いという結果が出たのではないかと考えられる(図表23)。
図表22  15歳~49歳就業率(男性)と出生率(2015)
図表23 15歳~49歳就業率(女性)と出生率(2015)
次は、2015~2017年度の多子世帯保育料軽減事業の対象児一人当たり公費負担額と出生率の関係を見てみた。埼玉県では2015年以降、全体的に出生率が低下している傾向が強く、出生率を改善する目的などで2015年4月から3人目以上のこども(兄弟姉妹)が同居、生計を一緒にしており、第3子以降の市内に住所を有する保育認定2・3号児童が認可保育所等を利用している世帯で、第3子以降の児童が0、1、2歳児クラスに在籍している児童の保育料が半額となる「多子世帯保育料軽減事業」を実施している。但し、市町村により軽減額に差があり、58市町村は全額免除を実施している半面、5市町村(川越市・所沢市・朝霞市・狭山市・三芳町)は半額免除で対応している。

多子世帯保育料軽減事業と出生率との関係を確認するために、補助対象児当たりの多子世帯保育料補助額と出生率の相関をみたところ、補助対象児当たりの多子世帯保育料補助額(2017年)と出生率(2017年)の間には相関があまりないという結果が出た(図表24の左側)。

但し、施策の実施効果がすぐ現れにくい点、つまり補助金の支給時期と出産時期にずれがあることを考慮し、補助対象児当たりの多子世帯保育料補助額(2015年)と出生率(2016年)の相関をみたところ、補助対象児当たりの多子世帯保育料補助額(2015年)と出生率(2016年)の間には正の相関があり、少しは出生率にプラスの影響を与えるという結果が出た(図表24の右側)。
図表24 多子世帯保育料軽減事業と出生率との相関分析
一方、制度が導入された2015年時点での平均出生率は半額免除を実施している市町村が全額免除を実施している市町村より高く現れた。2015年以降の出生率は両グループともに低下している(図表25)。但し、半額免除を実施している5市町村の2017年の出生率は1.246で、2015年の1.398より-0.152ポイント低下しており、同期間における全額免除を実施している58市町村の出生率の変化-0.125ポイントを上回った(図表26)。全額免除を実施している市町村の出生率の低下傾向が、半額免除を実施している市町村の低下傾向より小さいことが分かる。
図表25 多子世帯保育料軽減事業の金額水準別出生率の動向
図表26 多子世帯保育料軽減事業の金額水準別出生率の動向
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生活研究部

金 明中 (きむ みょんじゅん)

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