2019年09月06日

ケアプランの有料化で質は向上するのか-本質は報酬体系の見直し、独立性の強化

保険研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 三原 岳

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3――ケアプラン有料化を巡る動き

1質の問題と絡めて有料化を求める財政制度等審議会の主張
利用者負担がないことで利用者側からケアマネジャーの業務の質についてのチェックが働きにくい構造となっていると考えられるため、ケアマネジメントの質の向上を図る観点等から、居宅介護支援等にも利用料負担を設ける必要がある――。2018年5月の財政審建議には以上のような文言が盛り込まれた17

その後、年2回の頻度で公表される建議でも同様の文言が入っており、2019年4月の議論18では利用者本位を高める観点に立ち、利用者がサービス事業者ごとの価格を比較検討できる機会を確保すべきだと訴えた。具体的には、利用者から求められなくても、ケアマネジャーがケアプラン作成に際して、複数の事業者からサービス内容や利用者負担(加算減算などによる差額)について説明を受けることを義務付ける制度改正を提案した。

つまり、利用者の自己負担を導入することで、ケアマネジャーに対する利用者の適切な選択を促すとともに、価格を比較できるようにすることで、ケアマネジャーや事業者を選ぶ利用者の目を養う必要があるとしている。そのイメージは図3の通りである。

もちろん、ケアプラン有料化は歳出抑制策の側面を持っている。2018年5月の財政審建議19では、ケアプラン有料化を「制度の持続可能性を踏まえた保険給付範囲」に関する制度改正の一つに位置付けられている。
図3:財務審が提示したケアマネージャーに関する改革案
 
17 2018年5月23日、財政制度等審議会「新たな財政健全化計画等に関する建議」を参照。
18 2019年4月23日、財政制度等審議会財政制度分科会資料を参照。
19 2018年5月23日、財政制度等審議会「新たな財政健全化計画等に関する建議」を参照。
2有料化に向けて検討すると記述した骨太方針
こうした財政審の指摘を踏まえ、2018年6月の「経済財政運営と改革の基本方針2018」(骨太方針2018)ではケアプラン有料化について、「給付の在り方を検討する」と規定した。その後、同年12月に改訂された「新経済・財政再生計画改革工程表」でも、2021年度制度改正に向けて、ケアプラン作成に関する給付と負担の在り方を検討した上で、必要な措置を講じるという趣旨の文言が盛り込まれており、社会保障審議会(厚生労働相の諮問機関)介護保険部会の議論でもケアプラン有料化の是非は制度の持続可能性確保の一つとして論じられる予定だ。

なお、2019年6月に公表された自民党の参院選政策集20ではケアマネジャーの国家資格化を目指す方針とともに、「誰でも公平にケアマネジメントが受けられるように、介護保険制度で全額を賄う現行制度を堅持します」との考えを示している。
 
20 2019年6月17日、自民党「総合政策集2019 J-ファイル」を参照。
3有料化に反対する日本ケアマネ協会の主張
こうした議論に対し、日本介護支援専門員協会(以下、日本ケアマネ協会)は反対姿勢を崩していない。特に、複数の事業者からの説明を義務付ける財政審の案について、日本ケアマネ協会は今年4月の意見書で、「ケアマネジャーの6割近くは利用者から費用の比較を求められていない」「サービス事業所の選定に際して、費用が影響していないと考えるケアマネジャーは半数程度に及ぶ」とする緊急調査(有効回答は259人)を引用し、(1)「加算を算定しない事業所の方が安くていい」という誤解を与え、利用者による正当な事業者の評価を阻害する可能性がある、(2)利用者の多くは複数の事業所の紹介を求めていない、(3)利用者の事業所選択で費用負担は重視されていない――と指摘した21

こうした議論を踏まえると、歳出抑制の観点で「ケアプラン有料化が必要」という議論が強まっており、財政審はコストの問題と質の問題をリンクさせている。これに対し、日本ケアマネ協会は「利用者のニーズに合っていない」「現場の実情に沿っていない」といった理由で反対している。

では、ケアプラン有料化の論点として、どのようなことが想定されるだろうか。以下、コストと質の2点について詳しく探る。
 
21 日本介護支援専門員協会が2019年4月26日に公表した「サービス価格の透明性向上・競争推進(在宅サービスの在り方の見直し)についての意見表明」を参照。
 

4――ケアプラン有料化の論点(1)~財源論からの視点~

4――ケアプラン有料化の論点(1)~財源論からの視点~

1自己負担を導入した場合の給付抑制効果は500億円程度
まず、ケアプランを有料化した場合の給付抑制効果を探ろう。ケアプランを有料化した場合、利用者は原則として1カ月当たり1,000~1,500円程度の負担増を強いられるが、ケアプランの作成費に相当する居宅介護支援費は5,000億円前後であり、仮に一律で1割負担を導入したとしても、全体の給付抑制効果は約500億円にとどまる。現在、ケアプラン作成費を除く他の介護保険サービスは所得に応じた2~3割負担を導入しており、これに準じる形でケアプランの有料化を実施すれば、給付抑制の規模は少し大きくなるが、約10兆円に及ぶ全体の介護総予算(自己負担を含む)に比べれば、正に「雀の涙」に過ぎない。

もちろん、危機的な財政状況を踏まえれば、ケアプラン有料化は一つの選択肢だが、その場合、どんな影響があるのか予想した上で、利害得失を考慮する必要がある、以下、1) 利用控えの懸念、2) 自己作成者の増加――という2点でマイナス面の影響を予想する。
2|有料化によるマイナス面の予想 1) ~利用控えの懸念~
第1に、利用控えの懸念である。ケアプラン有料化は利用者のアクセス悪化をもたらし、低所得者を中心に介護保険サービス全体の利用控えが起きる可能性が想定される。この場合、給付抑制は約500億円よりも大きくなる反面、適切に介護保険サービスが行き届かくなるリスクも想定される。そこで、ケアプラン有料化を実施する場合も、低所得者は引き続き無料または定額の自己負担にとどめるなど、所得に応じた配慮が必要になると思われる。この選択肢を採用すると、給付抑制効果は一層、小さくなる。
3|有料化によるマイナス面の予想 2) ~自己作成者の増加による市町村の負担増~
第2に、自己作成者が増加することによる影響である。実は、ケアマネジャーの業務は独占ではなく、本人または家族による自己作成が可能22とされており、日本ケアマネ協会は2018年4月の意見表明23で、「利用者負担の導入(ケアプランの有料化)→利用者・家族による自己作成の増加→過度にサービスに依存するケースの増加」という経路24を経て、ケアプラン有料化が給付費の増加に跳ね返る危険性を指摘した。

ただ、これは一方的な見方に映る。自己作成者の場合、本人または家族がサービス担当者会議を開催するだけでなく、給付管理は保険者である市町村が担うことになり、過度にサービス依存したケアプランを一定程度、抑制できる仕組みがある。さらに、先に触れた通り、ケアマネジャーが「金庫番」としての側面を持っているにしても、日本ケアマネ協会の主張は「専門職であるケアマネジャーが無知な利用者の過度な利用を抑えている」というパターナリズム(父権主義)に映る。

確かにケアプラン有料化で自己負担者が増加した場合の懸念材料として、給付管理を担う市町村の事務負担に留意する必要がある。その場合でも、自己作成者は非常に少ない25上、事務負担が煩雑で難しい点などを踏まえると、ケアプラン有料化で自己作成者が急増するとは考えにくい。
 
22 セルフケアプランなどの名称があるが、本レポートは本人または家族のケアプラン作成を「自己作成」と呼ぶ。
23 日本介護支援専門員協会が2018年4月26日に公表した「居宅介護支援費の利用者負担導入論についての意見表明」を参照。
24 それ以外にも、自社サービスに偏った自己作成を代行するサービス業者が生まれる危険性に言及している。
25 全国マイケアプラン・ネットワーク編(2010)「全国保険者調査から見えてきたケアプラン自己作成の意義と課題」(老人保健事業推進費等補助金)によると、2009年7月現在で要介護者の0.01%、要支援者の0.04%だった。
4|本質は「質」の問題
このような議論を踏まえると、介護保険財政の逼迫を含めた厳しい財政事情の中、有料化は一つの選択肢になり得るが、「雀の涙」程度の給付抑制効果しか期待できない以上、財源論だけ見れば大きな争点になるとは言えない。

確かに自己負担なしで実施されてきた約20年間の経緯を踏まえると、有料化は「介護保険の変質」を示すシンボルになる可能性がある。中でも、ケアマネジメントとケアプラン作成は介護保険サービスにアクセスする際の「入口」に相当するため、有料化を実施する場合でも所得基準を導入しつつ、利用控えへの影響を見極める必要があると思われる。

以上のように考えると、本質はコストの問題ではなく、むしろ「質」の問題と言える。
 

5――ケアプラン有料化の論点(2)~質の観点~

5――ケアプラン有料化の論点(2)~質の観点~

1コストと質を同時に議論している財政審の問題点
財政審の案によると、複数の事業者のサービスを盛り込んだケアプランを作成することをケアマネジャーに義務付けることで、価格競争を期待しているようだ。

確かに介護保険制度は創設時、部分的に市場原理を採用した経緯があるため、価格競争を全て否定できない。具体的には、介護保険サービスを使う際、利用者はケアマネジャー、サービス事業者とそれぞれ契約する仕組みを採用するとともに、利用者の選択肢を広げるため、株式会社やNPOなど幅広い業態の市場参入を認めることで、競争原理を取り入れている。一方、価格や施設基準などについては、政府がコントロールするため、市場経済と計画経済の中間を意識する「準市場」(quasi-market)の考え方となっている。その意味では、ケアマネジャーが中心となり、事業者ごとの競争を促す財政審の主張は準市場の概念に沿っていると言える26

しかし、財政審の主張は価格競争しか考えていないように映る。一般の財やサービスの場合、消費者は価格だけで判断していないし、生活の質に深く関わる介護保険サービスについて、利用者が単純に安さだけでサービスを選ぶとは考えにくい。

さらに日本ケアマネ協会が指摘する通り、財政審の案は現在の介護報酬体系と符合しない面が多い。具体的には、3年に一度の介護報酬改定に際して、厚生労働省は「人員を手厚くしたら加算、満たさなかったら減算」「認知症の人を受け入れたら加算」といった形で、数多くの加算や減算を付けることで事業者の経営を誘導し、質を高めようとしている。つまり、「加算を取得していない事業者は質が悪く、加算を取得している事業者は良質」という前提に立っている。

ただ、この状況で単純に価格だけで比べると、加算を取っていない、あるいは減算措置を受けている事業者が選ばれるようになり、「加算を取っていない質の悪い事業者」、より正確に言えば「加算を取っておらず、質を確保していないと報酬上、評価されている事業者」が選ばれやすくなる。

以上の点を踏まえると、財政審の提案には限界があり、「質の向上」と言いつつ、実態は「コストの抑制」の問題を論じていると言える。もちろん、財政再建を重視する財政審がコスト抑制に繋がる制度改正を提唱するのは止むを得ない面があるが、質とコストの問題は切り離して考えた方がいいのではないだろうか。
 
26 実際、2018年度介護報酬改定では、ケアプラン作成に際して、利用者への説明義務が強化された。具体的には、▽複数のサービス事業者を紹介、▽サービス事業者をケアプランに位置付けた理由――といった点について、利用者がケアマネジャーに説明を求められる点を利用者に周知する義務がケアマネジャーに対して課された。さらに、利用者がケアマネジャーの説明を理解したことを示すため、署名を利用者から得なければならないとした。
2良質なケアプラン、良質なケアマネジメントとは何か
では、「良質なケアマネジメント」「良質なケアプラン」とは何だろうか。一般的にケアの質は構造(structure)、過程(プロセス)、成果(outcome)の3つで測定するが、ケアマネジメントやケアプランで支えられる生活は複雑かつ多様であり、一つの指標だけで検証するのが難しい。この結果、介護の場合、医療のように客観的な数字に基づく標準化が難しく、利用者とケアマネジャーの対話や、両者の信頼関係に基づく納得感や満足度など、両者の間で交わされるプロセスが重要になる。

その点で言うと、「ケアプランの短期目標が具体的ではない」「情報収集が不十分」といったプロセス面の問題点27は改善されなければならないが、ケアマネジメントやケアプランで支えられる生活に「正解」を見出すのが難しいのと同様、ケアマネジメントやケアプランに「正解」は存在しない。最終的な評価は本人のQOLが深く絡む分、その評価は難しいと言わざるを得ず、質の面だけで見れば「介護保険サービスを多く入れたケアプランが悪い」とは一概に言えない難しさがある。介護保険制度の創設に関わった元厚生省幹部も「偉い専門家たちが頭を傾げるような“愚かな”ケアプランでも、介護保険はその選択(筆者注:利用者の選択)を尊重しなければならない」と原則を述べている28
 
27 ケアプランを詳細に検証したケースとしては、日本総合研究所(2012)「ケアプラン詳細分析結果報告書」(老人保健事業推進費等補助金)を参照。
28 堤修三(2018)『社会保険の政策原理』国際商業出版p260を参照。
3の向上に欠かせない利用者の納得感
では、質を担保する上では、どんな仕組みが想定されているのだろうか。ケアマネジメントでは本人の意思決定を支援しつつ、サービス担当者会議を通じて様々な視点を加味したり、サービス開始後も検証したりする前提になっている。やや正確性を犠牲にして分かりやすい言葉で言うと、「正解」が存在しない以上、利用者の意向を含めて、多くの関係者の知恵や経験を持ち合って暫定的な答えを出した後、必要に応じて見直していくプロセスが重視されていると言える。

もちろん、介護保険サービスを多く入れたケアプランを推奨するわけではないが、こうしたケアプランが増えた場合も、要介護度別に定められた区分支給限度基準額(以下、限度額)で上限が定められており、一定の歯止めが掛かっている。さらに介護保険制度では負担と給付の関係が明確になっている29ため、サービスを多く利用すれば、利用者の自己負担だけでなく、市町村ごとに定めている高齢者の介護保険料が上昇する仕組みとなっており、負担面でも住民参加のシステムの下、一定程度の牽制が働くようになっている30

分かりやすく言うと、「現場に近いところで、負担と給付の関係を意識しつつ、より良質なケアプラン、より良質なケアマネジメントに向けて、利用者を交えた合意形成を関係者で進めることで、利用者の納得感を高めて下さい」という前提になっていると言える。

では、現在のケアマネジャーが上記で述べた機能や役割を果たしているだろうか。以下、(1)介護保険サービスをケアプランに組み込まなければ、ケアプラン作成に関わる介護保険の報酬を受け取れない「報酬体系の問題」、(2)ケアマネジャーの勤める居宅介護支援事業所が他の介護保険サービス事業所に併設されており、利用者の代理人機能が発揮されにくい「独立性の問題」――という2つの制度的な問題点を指摘する31
 
29 ここでは詳しく述べないが、その一例として、国民健康保険のように赤字補填目的とした市町村税の追加投入(法定外繰入)が認められていない。
30 なお、65歳以上高齢者が支払う介護保険料が財源に占めている割合は23%であるため、「保険料の上昇として跳ね返る部分が小さい」という批判が想定される。しかし、介護保険制度は3年に1回の見直しに際して、第1号被保険者と第2号被保険者のシェアを人口比に応じて変更しており、高齢者に応分の負担を求める仕組みとなっている。実際、2000年度の制度創設後の動きを見ると、高齢者人口の増加を受けて、第1号被保険者の割合が1%ずつ増加、第2号被保険者の割合が1%ずつ減っており、現在は第1号が23%、第2号が27%の割合となっている。
31 それ以外の問題点として、サービス担当者会議が実質的な議論の場となっておらず、ケアプランの原案にお墨付きを与える場になっている点が挙げられる。あり方検討会の中間整理でも「サービス担当者会議における多職種協働が十分に機能していない」と指摘されている。
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保険研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

三原 岳 (みはら たかし)

研究・専門分野
医療・介護・福祉、政策過程論

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【ケアプランの有料化で質は向上するのか-本質は報酬体系の見直し、独立性の強化】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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