2019年07月16日

韓国でも外国人労働者が増加傾向-外国人労働者増加のきっかけとなった雇用許可制の現状と課題を探る

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中

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3) 雇用許可制の手続き
1.使用者
雇用許可制により外国人労働者を雇用することを希望する使用者は、まず管轄雇用センターに求人申請をする必要がある。つまり、雇用許可制は、内国人の雇用機会を保護するために、外国人労働者の雇用を希望する使用者に一定期間、内国人の求人努力を義務化 (農畜産業、水産業:7日、製造業、建設業、サービス業:14日)しており、このような努力(市場テスト)をしたにもかかわらず、雇用ができなかった事業場に限定して、単純技能外国人労働者の雇用を許可している。雇用許可制を利用するために事業場は次の条件を満たす必要がある(図表8と図表9は、一般外国人に対する求人手続きと一般外国人の就業手続きを示している)。
 
・外国人労働者の許容業種及び雇用可能な事業(事業場)であること。
  許容業種:製造業、建設業、サービス業、農畜産業、漁業
・一定期間(7日∼14日)の間、内国人労働者を雇用するために求人活動(労働市場テスト)3を行っていたにも関わらず、内国人労働者(全員あるいは一部)が雇用できなかった事業場であること。
・内国人に対する求人申請をした前日の2ヶ月前から雇用許可書の発給日まで雇用調整により内国人労働者を離職させないこと。
・求人申請をした日の5ヶ月前から雇用許可書の発給日まで賃金の未払いがないこと。
・申請日現在、雇用保険及び労災保険に加入していること。
図表8一般外国人に対する求人手続き
図表9 一般外国人の就業手続き
一方、特例外国人の使用を申し込む使用者は、まず雇用労働部の雇用センター(Work-Net)に求人申請をする必要がある。一般事業者の場合は、on-line申請が可能であり、家政婦や看護人等の使用を希望する個人は、訪問及びファクス手続きによる申請のみ可能である。申請期限は、内国人の求人努力(7日~14日、労働市場テスト)をしてから3ヶ月以内であり、特例として雇用できる外国人の数は内国人の求人を申請した際の不足人員のうち、特例雇用可能確認書の発給申請日まで採用できなかった人員に制限している。申請時には、特例雇用可能確認発給申請書、事業者登録証(家庭の場合には住民登録謄本)及びその他の書類(業種別)の提出が必要である。

個人における看護人の雇用は、認知症などにより、身動きが不便な患者がいる場合や80歳以上の高齢者がいる場合に制限している。また、病院に入院中の者の看護のために外国国籍の同胞を雇用することも可能である。

家政婦の雇用は、一人以上の子どもがいる共稼ぎ夫婦であることを証明できた世帯や6ヶ月以上の身動きが不便な長期患者がいる場合にのみ許容される。但し、3ヶ月未満の短期滞留者、研修就業(E-8)、非専門就業(E-9)、訪問就業(H-2)の滞留資格を持つ外国人の雇用は許可していない。

使用者と特例外国人労働者は標準勤労契約書を使用し、勤労契約を締結すべきであり、勤労契約の内容には勤労契約期間、就業場所、業務内容、始業及び終業時間、休日、休憩時間、賃金、賃金の支給時期等を記載するようにしている。図表10と図表11は、特別外国人に対する求人手続きと就業手続きを示しており、一般外国人に対する手続き(図表8と図表9)に比べるとかなりシンプルであることが分かる。
図表10 特例外国人の求人手続き
図表11 一般外国人の就業手続き
 
3 例外的に新聞・放送・生活情報誌等を通じた求人活動をした場合は7日(製造業、建設業、サービス業)と3日(農畜産業、漁業)に短縮
4) 点数制の実施
韓国政府は、農畜産業など一部の使用者が雇用許可書の発給を受けるために、雇用センターの前で長時間待機するという申請者の不便を解消するために、従来の先着順方式を点数制に変更し、2013年度の新規人財の配置からすべての業種に対して点数制を実施している。

雇用センターでは事業場に対して雇用許可書の発給要件及び欠格事由を検討し、発給要件を満たし、欠格事由がない事業場に対しては電算プログラムにより点数を算定し、点数が高い事業場から雇用許可書を発給している(雇用センターに訪問する日時を通知)。点数制評価指標は基本項目、加点項目、減点項目に区分される。
5) 外国人労働者の雇用管理
1.外国人労働者の雇用変動等の申告
使用者は、外国人労働者の勤務中の離脱、負傷、死亡、勤労契約の更新等、外国人労働者の雇用と関連した変動事項が発生した場合は、その理由を把握した日から15日以内に雇用センターと法務部の出入国管理事務所に申告をする義務がある。違反した場合には100万ウォン未満の罰金を負担しなければならない。
 
2.外国人労働者の事業場変更
外国人労働者は最初に働き始めた一つの事業場で勤務を続けるのが原則である。 但し、事業場の休業や廃業、そして賃金未払いなどにより、正常的な労働関係の持続が困難であると認められる場合に限って、外国人労働者の基本的な人権保障のために例外的に事業場の移動を最大4回まで許容している。
 
3.外国人労働者の雇用許可の取り消し及び制限
使用者が入国前に労働者と契約した賃金その他の労働条件を違反する場合には雇用許可が取り消される場合がある。また、雇用許可書が発給されていない外国人労働者を雇用した場合には3年間、外国人労働者の雇用が制限される。
 
4.不法滞在者の雇用禁止
使用者が不法滞在者を雇用した場合、健康保険の未適用による人権侵害問題、安全事故の問題、不法滞在者の取締りの過程で発生し得る事故など様々な問題が発生する恐れがあるので、不法滞在者の雇用を禁止している。使用者が不法滞在者を雇用して摘発された場合、使用者は「出入国管理法」により罰金賦課及び刑事処罰(3年以下の懲役あるいは2千万円以下の罰金)の対象になると共に、合法的な外国人労働者の雇用が制限される。
 
5.外国人労働者の専用保険や公的社会保険
外国人労働者を使用する使用者は外国人労働者のために出国満期保険や保障保険に加入する必要がある。一方、外国人労働者には帰国費用保険や傷害保険への加入が義務化されている(図表12)。
図表12 外国人労働者の専用保険
4大公的社会保険に対しては、健康保険及び労災保険は義務加入が、雇用保険は任意加入が適用される(労働者が加入を希望する場合、雇用センターに「外国人雇用保険加入申請書」を提出)。また、国民年金は相互主義原則に基づいて図表13のように適用される。
図表13 国別国民年金の適用状況
6.外国人労働者の入国及び就業規則
外国人労働者が雇用許可制を通じて韓国で働くためには、韓国語能力試験を受ける必要がある。韓国産業人力公団は、外国人労働者の選抜過程における公正性や透明性を維持し、国内の早期定着のために、2005年8月から外国人雇用許可制韓国語能力試験(Employment Permit System-Test of Proficiency in Korean, EPS-TOPIK)を実施している。応募者は、満18歳以上~満39歳以下であること、禁錮以上の犯罪経歴がないこと、過去に韓国から強制退去及び出国された経歴がないこと、出国に制限(欠格自由)がないことという条件を満たす必要がある。韓国語能力試験の評価基準は、韓国生活に必要な基本的な意思疎通能力、産業安全に関する基本知識及び韓国文化に対する理解を求めるように設定されており、総得点80点以上の者(200点満点)から高得点者の順で選抜している。合格の有効期限は合格者の発表から2年間である。

非専門就業(E-9)のビザを受けた外国人労働者は、送出国の関係者と共に国内に入国し、入国場(仁川国際空港)で韓国産業人力公団の関係者に引き継がれて確認の手続きをする。その後、各国家別⋅業種別の就職教育機関の引率者と共に、就業教育機関に移動し2泊3日(16時間)間の就業教育を受けることになる。使用者は、外国人労働者が入国後15日以内に外国人就労教育機関で国内活動に必要な就業教育を受けさせる必要があり(外国人雇用法第11条)、就業教育期間は勤労基準法上の労働時間として見なされる。

就職教育は、製造業⋅サービス業の場合は二つのグループに分けて、ベトナム、モンゴル、タイは労使発展財団が、それ以外の国は中小企業中央会が担当している。一方、農畜産業は農協中央会が、漁業は水協中央会が、そして建設業は大韓建設協会が担当することになっている。就職教育にかかる費用は一般外国人労働者の場合は使用者が負担4(製造業・サービス業195,000ウォン、農畜産業・漁業210,000ウォン、建設業224,000ウォン)し、外国国籍の同胞の場合は労働者本人が負担(合宿148,000ウォン、非合宿102,000ウォン)する。就業教育の目的は外国人労働者の早期定着であり、その内容は韓国語、韓国文化の理解、関係法令、産業安全保健、基礎機能等で構成されている。

就職教育期間中に使用者は退職金対策の出国満期保険や賃金未払い対策の保証保険に加入する必要があり、外国人労働者は帰国費用保険や傷害保険に加入することが義務化されている。
 
4 一般外国人労働者の就職教育費用は、雇用保険の能力開発事業から一部金額の支援が受けられる。
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生活研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

金 明中 (きむ みょんじゅん)

研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
    独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職

    ・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
    ・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
    ・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
    ・2021年~ 専修大学非常勤講師
    ・2021年~ 日本大学非常勤講師
    ・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
    ・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
    ・2024年~ 関東学院大学非常勤講師

    ・2019年  労働政策研究会議準備委員会準備委員
           東アジア経済経営学会理事
    ・2021年  第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員

    【加入団体等】
    ・日本経済学会
    ・日本労務学会
    ・社会政策学会
    ・日本労使関係研究協会
    ・東アジア経済経営学会
    ・現代韓国朝鮮学会
    ・韓国人事管理学会
    ・博士(慶應義塾大学、商学)

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