2019年07月16日

韓国でも外国人労働者が増加傾向-外国人労働者増加のきっかけとなった雇用許可制の現状と課題を探る

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中

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4――外国人労働者受け入れ政策

韓国における外国人労働者の受入れ戦略は大きく「非専門外国人労働者の効率的活用政策」と「優秀専門人材の誘致戦略」に区分することができる。非専門人材の効率的活用政策としては「雇用許可制」が、優秀外国人労働者の誘致戦略としては、「電子ビザの発給」、「点数移民制の施行」、「留学生の誘致及び管理強化」、「投資移民の活性化」等が挙げられる。本章では、まず、韓国における外国人労働者受け入れ政策の変遷過程を述べてから、「非専門外国人労働者の効率的活用政策」である雇用許可制とそれ以外の「優秀専門人材の誘致戦略」について論ずる。
(1)韓国における外国人労働者受け入れ政策の変遷過程
韓国政府は1993年に外国人産業技術研修制度を導入することで単純機能の外国人労働者を合法的に受け入れ始めた。外国人産業技術研修制度を導入する前には、単純技能の外国人労働者の受け入れは原則的に禁止されていたものの、実際には違法な雇用が発生しており、その規模すら把握できない状況であった。韓国政府は開発途上国との経済協力を図り、1980年後半から急速に増加した人件費負担や3K業種への就職忌避現象などによる労働力不足の問題を解決するために、外国人産業技術研修制の導入を決めた。この制度は、産業研修生として入国した外国人が事業場で一定期間、研修を受けてから帰国する仕組みであった。しかしながら、労働力不足が深刻な事業場では、彼らが研修生の資格であるにもかかわらず、研修はおざなりにして、すぐに労働に従事させるなどの問題が発生した。また、外国人研修生が指定された事業場から離脱して不法滞在者になるケースも頻発した。さらに、外国人研修生の資格で働く場合の賃金や労働権、労働者の地位や保険、悪質な送出機関やブローカーの存在などが新しい問題として浮上した。

韓国政府は、外国人産業技術研修制と外国人労働者管理の問題点を解決するために、2000年から既存の外国人産業技術研修制を修正して「研修就業制」を実施した。 研修就業制は、外国人労働者が国内の事業場で技能を習得する産業研修生という身分で研修を受けてから、研修就業者という資格で制限的に労働者の地位を認め、決まった期間の間に合法的に就業を可能にした制度である。2000年から産業研修生は2年の研修を受けると1年間就業することが可能になった。また、2002年以降は1年の研修後、2年間就業ができるように就業期間を拡大した。そして、2002年には単純サービス分野の労働力不足を解消するために、韓国国籍ではない外国の同胞、特に中国同胞と旧ソ連地域の同胞が一部のサービス業種で働くことを許可する「就業管理制」が導入された。さらに、2003年には「外国人労働者の雇用などに関する法律」が制定・公布され、2004年からは単純技能の外国人労働者の導入を合法的に許可する雇用許可制が施行されることになった。その結果、既存の外国国籍の同胞を対象にした就業管理制は雇用許可制の特例制度として雇用許可制に統合されることになった。

他方、海外専門人材の導入の場合、関連政策は科学技術政策の一環として始まった。韓国政府は1968年から遅れていた韓国の科学技術の水準を向上させるため、「在外韓国人科学技術者誘致事業」を実施した。この事業は1990年代まで持続される。韓国政府は、1990年代以降、韓国の産業構造が急速に高度化すると、国家競争力において科学技術及び専門知識などの重要性を認識し、海外の優秀な外国人人材の誘致にも力を入れることになった。1993年には新経済5ヵ年計画により、科学技術分野でBrain Pool制度が設けられ、その結果、「海外高級科学頭脳招聘活用事業」が実施され、既存の関連事業もこの事業に吸収されることになった。その後、科学技術人材の誘致支援は人文社会系列の優秀人材分野にも拡大されて1999年からはBK21事業、2004年からはStudy Koreaプロジェクト、2008年からはWCU、そして1年後にはWCI事業が実施された。そして、BK21事業とWCU事業の後続事業として、2013年からはBK21プラス事業が、2015年からはKRF事業が実施されている。
(2)非専門外国人労働者の効率的活用政策:雇用許可制
1) 雇用許可制の基本概念
雇用許可制が導入される前に、企業は外国人産業研修生制度を利用し、制限的に外国人産業研修生を受け入れることにより、人材不足を少しは解消することができたものの、2003年6月の臨時国会で外国人労働者の雇用などに関する法律が成立し、2004年8月17日から雇用許可制が施行されることにより、より幅広く、そして合法的に外国人労働者を雇用することが可能になった。

雇用許可制は、慢性的な労働力不足に苦しんでいる中小企業が政府から外国人雇用の許可を受け、合法的に外国人労働者を労働者として雇用する制度である。外国人労働者を合法的・透明的に管理し、労働力不足の問題を解決することが目的であるものの、すべての企業が利用できる制度ではなく、外国人労働者をいつまでも雇用できる制度でもない。

雇用許可制は、純粋外国人労働者の雇用を許可する一般雇用許可制(E-9)と韓国系外国人(在外同胞)を対象とした特例雇用許可制(訪問就業制:H-2)に区分される。一般雇用許可制の対象国は、フィリピン、タイ、インドネシア、ベトナム、モンゴル、ウズベキスタン、カンボジア、パキスタン、中国、バングラデシュ、キルギス、ネパール、ミャンマー、スリランカ、東ティモール、ラオスの16カ国であり、韓国政府は16カ国政府との間でMOU2を締結し、毎年、決める外国人労働者の受け入れ人数枠に合わせて外国人労働者を受け入れている。図表6は、雇用許可制による2018年度新規外国人労働者割当計画を示している。
図表6 雇用許可制による2018年度新規外国人労働者割当計画
外国人労働者に対する雇用許可制が適用される業種は、製造業(常用労働者300人未満あるいは資本金80億円以下の事業場)、農畜産業、漁業、建設業、サービス業(廃棄物処理、冷凍倉庫等)の 5 業種である。一方、特例雇用許可制は中国や旧ソ連地域など11カ国の韓国系外国人(在外同胞)が対象であり、38業種に対する雇用を許可している(図表7)。また、業種別に雇用許容人員と新規雇用許可書発給限度を定めている。

韓国政府は国務総理室に「外国人材政策委員会」を設置し、毎年の国内の労働力需給動向と連携し外国人労働者の導入規模及び許容業種等を決め、送出国を選定している。「外国人材政策委員会」は、企画財政部、外交通商部、法務部、知識経済部、雇用労働部の次官、中小企業庁の庁長(長官)及び大統領が定める関連中央行政機関の次官(文化体育観光部、農林水産食品部、保健福祉部、国土海洋部)等を委員とした委員長(国務総理室長)を含めた20人で構成されている。また、雇用労働部は「外国人材政策委員会」に上程される議案を事前に議論する「外国人材雇用委員会」(雇用労働部の次官が委員長)を設けて運営している。外国人労働者の受け入れ、送出国との連絡、労働契約の締結等実務と関連した業務は韓国産業人力公団が担当する。中小企業協同組合中央委員会、大韓建設協会、農業協同組合中央会、水産業共同組合中央会等は民間代行機関として指定され、便宜提供業務、就業教育、事後管理を含めた使用者代行業務をしている。就業教育は過去には韓国産業人力公団と国際労働協力院が担当してきたものの、2007年7月からは一般外国人労働者の教育は国際労働協力院(ベトナム、モンゴル、タイ、中国)、中小企業協同組合中央会(その他の国家)、大韓建設協会、農業協同組合中央会、水産業協同組合中央会等の民間代行機関に移管された。
図表7 外国人労働者に対する雇用許可制が適用される業種
2) 雇用許可制の基本原則
雇用許可制は基本的に次のような基本原則に基づいて運営されている。
 
1.単純労務分野限定の原則
雇用許可制では、雇用できる外国人労働者を非専門就業(E-9)と訪問就業(H-2)に限定し、就業できる業種を製造業、建設業、サービス業、農畜産業、水産業のうち、単純労務分野に制限している。
 
2.労働市場補完の原則
雇用許可制は、内国人の雇用を保護するために労働市場補完性の原則を適用している。この原則は外国人労働者の雇用が韓国の労働市場に否定的な影響を与えてはならないという趣旨に基づき、足りない労働力は高齢者、女性等国内の人財を優先的に活用し、補充的に外国人労働者を活用するようにしている。この原則はドイツの外国人雇用許可制と類似である。つまり、ドイツの場合も国内労働市場でドイツ人労働者の雇用ができない場合のみ外国人の雇用を許容している。
 
3.需要主導的制度(demand driven system)の原則
雇用許可制は、需要主導的制度(demand driven system)を原則としており、企業が自由に外国人労働者を選択することを保障している。企業は雇用が許可された範囲(人数)内で外国人労働者の雇用を申し込むことが可能であり、事前に求職者(外国人労働者)の経歴、写真などの人的事項を確認することができる。企業は企業が提示した労働条件を受け入れた外国人労働者から選別し、雇用契約を締結する。
 
4.選定や導入手続の透明性の原則
外国人労働者の選定や導入手続きを透明にし、外国人労働者の送出過程で発生する不正行為や副作用を最大限抑制しようとしている。そのために外国人労働者の導入過程で民間機関の介入を排除しており、送出国と了解覚書(MOU)を締結して外国人労働者の選抜条件、方法、機関、相互間の権利義務事項などを規定している。韓国国内でも外国人労働者の紹介や就業斡旋などは、雇用労働部(以前は労働部)の雇用支援センターが担当するなど、公的機関が外国人労働者の受け入れ関連業務を担当することにより、プロセスの透明化と不正の減少を図っている。
 
5.定住化防止の原則
外国人労働者を短期にローテーションさせることにより定住化を防止している。外国人労働者の就職許容期間(雇用期間)は3年に制限しており、使用者が継続雇用を希望する場合に限って1年10ヶ月までの雇用延長を許可している。
 
6.差別禁止及び均等処遇の原則
合法的に就業した外国人労働者に対する不当な差別を禁止すると同時に、国内の労働関連法を同等に適用し、外国人労働者の権益を保護することを原則にしている。つまり、外国人労働者も内国人と同様に、労働関連法が適用され、労災保険、雇用保険、国民年金、健康保険、最低賃金、労働三権が利用できるなど基本的な権益が保障されている。
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生活研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

金 明中 (きむ みょんじゅん)

研究・専門分野
労働経済学、社会保障論、日・韓における社会政策や経済の比較分析

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