2019年07月12日

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図表4-7 30歳未満の単身勤労者世帯の消費支出および消費性向の推移 4|「今の若者はお金を使わない」?~消費性向の低下、経済状況によらず堅実・合理的な諸費態度
「今の若者はお金がない」わけではないが、「お金を使わない」傾向はあるようだ。

総務省「全国消費実態調査」にて、1989年と2014年の30歳未満の単身勤労者世帯の消費支出を比べると、男性は15.4万円から15.6万円へ(+2.2万円)、女性は15.3万円から16.1万円へ(+0.8万円)と名目ではやや増えているが(図表4-7)、実質では減っている(▲9.3%、▲5.4%)。なお、2009年までは男性は実質増加傾向にあったが、女性は1994年と1999年は減少している19。つまり、可処分所得は一貫して増えていたが、消費支出は必ずしも増えているわけではない。さらに、消費性向を見ても、男女ともおおむね低下傾向にある。

つまり、若年単身勤労者世帯の可処分所得は増えているが、増えた所得を必ずしも消費へ回すわけではなく貯蓄へ向けている。そして、その割合は増えており、若者の貯蓄志向は高まっている。

この背景には、目先の収入は案外あるものの、非正規雇用者の増加や正規雇用者でも賃金カーブが低下していること(後述)、少子高齢化による将来の社会保障不安などから、倹約志向が高まっている影響があるのだろう。一方で技術革新やデフレの恩恵を受けて「お金を使わなくても楽しめる」環境は広がっている。今の若者は「お金がない」わけではないが、将来不安から「お金を使わない」、一方で消費社会が成熟化し「お金を使わなくてもすむ」環境が広がっている影響も無視できない。
図表4-8 消費態度についての「あてはまる」割合 ここで1つ興味深いデータを示したい。今の若者は全体としては「お金を使わない」傾向が強まっているが、やはりいつの時代も消費意欲が旺盛な層もある。

当研究所の生活者1万人を対象とした調査によれば、若者では全体と比べて「ものは買うより、できるだけレンタルやシェアで済ませたい」「計画的な買い物をすることが多い方だ」「毎月、決まった額の貯金をしている」「日常的におサイフケータイを使い買物やポイントサービスを利用している」などの堅実な消費態度に当てはまる割合が高い(図表4-8)。

一方で、年収400万円以上の若者(同調査で30代の上位4割、20代の上位2割)では、これらに当てはまる割合が高まるとともに、「多少高くても品質の良いものを買うほうだ」「普及品より、多少値段がはってもちょっといいものが欲しい」といった贅沢さを求める割合も高まる。

なお、今の若者は上昇志向が弱く、内向き志向だなどと言われるようだが、年収400万円以上の若者では「基本的には潜在的な成功を追い求めている」(56.1%)にあてはまる割合が全体(44.0%)より+12.1%ptも高い。

今の若者は、経済状況によらず共通して堅実かつ合理的な消費態度を持ちながら、経済的に余裕のある若者では、こだわりのあるものにはお金を使うような高級志向も持っている。
 
19 対1989年実質増減率は、1994年は男性+1.3%、女性▲3.2%、1999年は男性+5.7%、女性▲1.1%、2004年は男性+7.1%、女性+4.9%、2009年は男性+8.5%、女性+5.3%。
図表4-9 二人以上世帯の消費水準指数の推移/図表4-10 業態別売上高の推移 5消費構造の変化~モノからコトへ、デパートからネットへ、BtoCからCtoCへ
消費社会の成熟化や技術革新により、若者の価値観が変わるだけでなく、消費者全体で構造変化が生じている。

総務省「家計調査」によると、1990年から2017年にかけて、二人以上世帯の消費支出では、「被服及び履物」が半減する一方(1990年=100とすると2017年は49.5)、「交通・通信」は大幅に増え(100→161.9)、「保険医療」も増えている(100→112.7)(図表4-9)。つまり、消費支出はファッションなどのモノから、通信や医療などのサービス(コト)へと移っている。

また、若者ほどスポーツ観戦や映画などのコト消費への意欲が高いという調査結果もある。

消費者庁「平成28年度消費者意識基本調査」によると、現在お金をかけているもののうち「スポーツ観戦・映画・コンサート鑑賞」の割合は、15~19歳(34.6%)で最も高く、20代(26.6%)が続く。一方で30~70代は15%以下である。

モノを買う場所も変化している。小売業の売上高は、1990年では百貨店が最も多かったが、1990年代半ばにスーパーが、2009年にはコンビニが上回り、近年はネット通販の伸びが著しい(図表4-10)。さらに、ネットやスマホの浸透で、足元ではシェアリング・エコノミーが急成長し、これまで事業者が消費者へ提供してきたモノやサービスが、消費者間で直接売買できる環境が整いつつある。
図表4-11 雇用者に占める非正規雇用者の推移(男性)/図表4-12 雇用形態別に見た平均年収(男性)/図表4-13 大学・大学院卒正規雇用者の賃金カーブの変化(男性) 6若者の雇用安定化と可処分所得の引き上げ、社会保障制度の持続性確保を
景気低迷の中で生まれ育ってきた今の若者だが、実は目先の収入はバブル期より多く、「お金がないわけではない」。しかし、貯蓄志向が高く、堅実かつ合理的な消費者へと姿を変えている。それは、不景気の中で培われた節約志向に加えて、技術革新やデフレの恩恵を受けて、「お金を使わなくても楽しめる」「お金を使うことが必ずしもすごいことではない」という価値観が形成されたためだ。

このような価値観を持つ若い世代の消費を増やすことは簡単ではないだろう。しかし、節約志向に起因する消費抑制意識を緩和することは、比較的容易なのではないか。

目先の収入は案外あっても、若い世代ほど将来の見通しは立ちにくい。不安定な立場で働く非正規雇用者が増え(図表4-11)、正規雇用者と非正規雇用者の年収差は、年齢とともに拡大する(図表4-12)。正規雇用者でも安泰ではなく、10年前と比べて賃金カーブは低下し、特に30~40代で平坦化している(図表3-13)。この平坦化した部分を推計すると、およそ1千万円にもなる。さらに、少子高齢化による社会保障の世代間格差も広がる。

裏を返すと、雇用が安定し、社会保障制度の持続性が確保され、将来に向けて明るい見通しを立てられるようになれば、節約志向に起因する消費抑制意識は緩和される可能性がある。

若者の経済基盤の安定化に向けて、1つ1つの課題を丁寧に解決していくことで、若者は、堅実かつ合理的な消費態度を持ちながらも、ちょっとした贅沢を楽しむようになるのかもしれない。
 

5――拡大するシェア経済と消費構造への影響

5――拡大するシェア経済と消費構造への影響

1ネット社会の進展とシェアリング・エコノミー
平成は情報通信技術が著しく進化した時代だ。平成の初めに大学や研究機関での利用から始まったインターネットは、今や老若男女を問わず日常的に利用されるものになっている。肩掛けのショルダーフォンとして登場した携帯電話は、手のひらサイズのスマートフォンへと進化した。ネットやケータイ、SNSに親しみながら育ってきたデジタルネイティブ世代では、情報は無料で得られるもの、ゲームやアプリも無料で楽しめるものという価値観を持つようになっている。ネット社会の進展は、今の若者で特徴的な「お金がなくても楽しめる」消費態度に拍車をかける。

ネットやスマホが生活に浸透し、いつでもどこでも誰でも、情報を得て発信できるようになる中で、情報の流れが変化している。テレビや新聞などのマスメディアから一般消費者へという一方向の流れだけではなく、SNSを通じた横の輪が無数に生じるようになっている。今では、マスメディアで注目されたものが爆発的に流行るというわけではない。無数にある横の輪の中で注目されたものが、それぞれの輪で流行るという構図へと変わり、消費者が求めるものは多様化している。

さらに、足元で広がるシェアリングエコノミー(シェア経済)は、消費行動の土台を変えるような影響力をあらわしつつある。シェア経済では、ネット上のプラットフォームを介して、不特定多数の個人がつながり、個人が有する資産情報を容易に共有できる。これまでは事業者から新品を買うことが、あるいは事業者が提供するサービスを利用することが常識であった。しかし、多くの消費領域で個人間取引の存在感が増し、消費者の選択肢を増やしている。さらに、シェアという選択肢は、若者を中心に消費者で広がる「所有」から「利用」へという価値観の変化を加速させている。

5章では、「インターネット」の中でも、今後とも消費行動にも多大な影響を及ぼすであろう「シェア経済」の現状を捉えていく。


2|シェア経済の現状
(1) シェア経済とは~ネットを介した個人間のモノや移動手段、空間、スキル、お金のシェア
内閣府によれば、シェア経済とは「個人等が保有する活用可能な資産等をインターネット上のマッチングプラットフォームを介して他の個人等も利用可能とする経済活性化活動」20を言う。また、シェア経済登場の背景には、1) AI・IoTの進展により、これまで見えなかった個人資産(モノやスペース、スキルなど)に関する情報をリアルタイムに不特定多数の個人で共有できるようなったこと、2) SNSの普及により、これまで顔が見えにくく信頼性に乏しかったネットの向こう側にいる他者について、ある程度の信用度が可視化されるようになったことなどがあげられる21

シェア経済では、多くの場合、事業者はプラットフォームの運営に徹して手数料を取るのみであり、個人が値付けしたモノやサービスを個人間で直接取引する。よって、提供(販売)側が得られる金額が高く、利用(購入)側の支払う金額は安くなる傾向があり、双方に利点がある。

図表5-1に、現在、日本で提供されているサービスの一部を示す。シェアリングサービスは、「モノ」や「移動手段」、「空間」、「スキル」、「お金」に大別できる。

モノのシェアでは、スマホのフリマアプリを利用した中古品売買が代表的だが、洋服やバッグの貸し借りに特化したサービスもある。移動のシェアでは、使っていない自動車を貸し借りするカーシェアのほか、同じ目的地へ向かう者同士が1台の自動車に同乗して、ガソリン代や高速代などの実費を割り勘するライドシェアもある。空間のシェアでは、空いている部屋を貸し借りする民泊サービスのほか、空いている駐車場や会議室等の貸し出しもある。スキルのシェアでは、家事・育児や介護などの生活面をサポートするサービスのほか、語学や投資等の知識供与型のものもある。お金のシェアは、クラウドファンディングと呼ばれるもので、起業や製品開発などの何らかの目的を持つ個人が、不特定多数の個人から寄付を募るものだ。

図表5-1 シェア経済の領域マップ
 
20 政府CIOポータル シェアリングエコノミー促進室HP:https://cio.go.jp/share-eco-center/
21 参考:総務省「平成30年版情報通信白書」
    


(2) 従来のビジネスモデルとの違い~CtoCで価格・多様さに利点、スマホで多数と瞬時につながる
とはいえ、シェアリングサービスと同様のものは昔から存在していたのではないだろうか。例えば、貸衣装やレンタカー、下宿、家政婦、自治体や互助会などがあげられるが、これらとの違いは何か22

まず、大きく異なるのは、従来のビジネスモデルは基本的にBtoCだが、シェアリングサービスはCtoCという点だ23。よって、前述の通り、費用面で利点があるほか、提供される商品やサービスが多様になっている。従来は、消費者は事業者が提供する定型的なサービスの中から自分のニーズに近いものを選択していたが、シェアリングサービスでは個人が提供する多種多様なモノやサービスから選択する。個人の裁量で柔軟な対応もしやすく、ニーズとの合致度が高まる可能性がある。

一方で、従来でもフリーマーケットや互助会など、CtoCの形態を取るものもある。それらとの違いは、シェアリングサービスではプラットフォームを介して普段の生活では知りえない不特定多数の個人が瞬時につながり、多くのやりとりがネット・スマホで済む点だ。互助会は知り合い同士の助け合いであり、公園などで開催されるフリーマーケットは、その場へ行かないと利用できない。

不特定多数の個人がつながることは安全面に懸念をもたらす。しかし、利用者と提供者の取引終了後の相互評価や過去のコメントのやりとりを閲覧できる仕組み等により、ある程度の自浄作用が働いている。なお、政府の動きとしては、2016年11月に内閣官房IT総合戦略室内に「シェアリング・エコノミー推進会議」が設置され、シェアリングサービスの情報提供・相談窓口機能を持つほか、自主的ルールの普及・促進をはじめシェア経済の促進に関する取組みを推進している。また、2015年12月に、シェア経済の普及や発展を目的に、一般社団法人シェアリング・エコノミー協会が発足している。
 
22 詳細は、久我尚子「なぜ今、シェアリングサービスなのか?」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート(2018/10/18)
23 個人をマッチングするプラットフォーム事業者をあわせて、CtoPtoC、CtoBtoCとも表現される。
図表5-2 シェア市場の内訳(2016年) (3) 日本の市場規模~2016年で約5千億円、うち3千億円のモノのシェアは2017年に1.5倍へ成長
2013年から2025年にかけて、世界のシェア経済の市場規模は150億ドルから3,350億ドルへと20倍以上に拡大するという予測がある24。このような中、昨年夏に、内閣府は初めて日本のシェア経済の市場規模の試算結果を公表した。2016年でシェア経済全体では4,700 億~5,250 億円、内訳ではモノが圧倒的に多く6割弱、次いでスペースが3割強を占める(図表5-2)。

300兆円を越える個人消費と比べれば、シェア市場は大きくないが、その成長は著しい。経済産業省「電子商取引に関する調査」によれば、モノのシェアの代表格であるフリマアプリ市場は、2016年から2017年にかけて、3,052億円から4,835億円へと1年で1.5倍以上に拡大している。
 
24 PwC「Consumer Intelligence Series: The sharing economy」(2016/2)
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

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