2019年07月12日

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4――経済不安でも満足度の高い若者~目先の収入はバブル期より多い、お金を使わず楽しめる消費社会

1若者は貯蓄志向が強く堅実な消費者へ
平成が始まったバブル景気の真っ只中の頃は、休暇のたびに海外旅行を楽しみ、海外の有名ブランド品を求める若いOLの姿や、ローンを組んで新車を買う新入社員の男性の姿などが見られた。若者は消費意欲が旺盛で、流行を牽引する存在であった。しかし、バブルは崩壊し、失われた10年、20年を経て、若者は貯蓄志向が高く、地に足のついた堅実な消費者へと姿を変えている。この様子を見て、バブル期に消費を謳歌した世代は、「今の若者はお金がなくてかわいそう」「お金を使えなくてかわいそう」と思うのかもしれない。

しかし、今の日本では、若者ほど生活満足度は高く、20代以下は8割を越える(図表4-1)。若い世代ほど経済状況が厳しいようだが、30代の所得・収入や資産・貯蓄の満足度は、バブル世代が含まれる50代を越えている(図表4-2)。このギャップには何があるのだろうか。

3章では、「若者」に注目して、この30年の暮らしや消費、価値観の変化を捉える。なお、本稿では「若者」をおおむね35歳未満の未婚者とする。
図表4-1 現在の生活に対する満足度/図表4-2 現在の生活各面での満足度

2|今の若者の価値観が形成された時代背景~景気低迷・技術革新・デフレ・ライフスタイルの多様化
今の若者は、どのような時代に生まれ育ってきたのか。改めて振り返ってみたい。図表4-3は、日経平均株価と流行語の推移を見たものだ。平成元年(1989年)生まれの今年30歳を追っていくと、生まれた直後にバブルが崩壊し、株価は大きく値を下げた。流行語には「カード破産」「複合不況」「就職氷河期」などが並んだ。失われた10年を過ぎると、さらに状況は厳しくなり、「年収300万円」「格差社会」「ネットカフェ難民」「派遣切り」「年金パラサイト」が並んだ。2008年にはリーマンショックが、2011年には東日本大震災が日本を襲った。一方で「アベノミクス」以降は株価が上向き、日本人の消費ではないが「爆買い」「インバウンド」という力強い言葉も並ぶようになった。

一貫して進化し続けたのは情報通信領域だ。「インターネット」「iモード」「ブロードバンド」「iPad」「スマホ」「ソーシャルメディア」「AIスピーカー」と進み、現在でも技術革新は続いている。

若者を中心にライフスタイルも変化した。2000年代は未婚化が進む中で「負け犬」や「婚活」という言葉が登場した。「草食男子」「歴女」「イクメン」「日傘男子」など、男女のライフスタイルのボーダーレス化も進んだ。また、若者の競争意識や消費欲が低下している様子や堅実志向が高まる様子は、「ゆとり世代」「さとり世代」「マイルドヤンキー」と称された。

「バブル世代は消費意欲が旺盛」という印象があるように、消費行動に関わる価値観は、アルバイト代やお小遣いで消費の楽しさを知り始めた学生時代、あるいは、社会人になり自由になるお金が増えた時期の社会環境に影響される傾向がある。

平成元年生まれの価値観が形成されたのは、景気低迷が続く一方、技術革新で世の中が格段に便利になった時期だ。また、デフレが進行し、ファストフードやファストファッションなど、安くて良いモノやサービスが流通した時期でもある。このような中で、今の若者では、節約志向が根底にありながらも、「お金を使わなくても楽しめる」「お金を使うことが必ずしもすごいことではない」という価値観が形成されていったのではないだろうか。
図表4-3 日経平均株価と主な流行語の推移
図表4-4 30歳未満の単身勤労者世帯の可処分所得および貯蓄現在高の推移 3|「今の若者はお金がない」?~バブル期より増える可処分所得、非正規でも約20万円
世間では「今の若者はお金がない」という印象があるようだ。しかし、統計を見ると事実は異なる。過去にも述べた通り16、若者の可処分所得はバブル期よりも増えている。

総務省「全国消費実態調査」にて、1989年と2014年の30歳未満の単身勤労者世帯の可処分所得を比べると、男性は18.4万円から23.0万円へ(+4.6万円、対1989年実質増減率+12.2%)、女性は16.4万円から18.3万円へ(+1.9万円、同+0.5%)と増えている17(図表4-4)。  背景には、初任給が増加傾向にあること(図表4-5)、また、大学進学率の上昇で、初任給の高い大学卒が増えたことなどがあげられる。
図表4-5 大学卒の初任給の推移 さらに、今の若者の可処分所得は、現在の家族世帯の大人と比べても多い。

二人以上勤労者世帯の大人1人当たりの可処分所得は、世帯主の年齢が35~39歳と40~44歳の世帯で最も多く、平均18.7万円である(図表4-6)。2014年の30歳未満の単身勤労者世帯の男性と比べると▲4.3万円も下回る。女性と比べると若干多いものの、家族世帯では、この中から教育費など子どもにかかる支出も出さなくてはならない。よって、家族世帯の大人1人が自由にできる金額は、図表4-6で示す値よりも大幅に少なくなるだろう。
図表4-6 二人以上勤労者世帯の18歳以上の世帯人員1人当たりの可処分所得および貯蓄現在高(2014年) 一方で1人暮らしの若者は、若者の中でも経済的に余裕のある層という可能性もある。

そこで、非正規雇用の若者の可処分所得を推計したところ、25~29歳では男性は月平均19.8万円、女性は17.6万円となり18、非正規雇用者でもバブル期の1人暮らしの若者よりも多い。なお、25~29歳の非正規雇用者の約3割は大卒・大学院卒であり、大卒・大学院卒の非正規雇用者の可処分所得を推計すると、男性22.1万円、女性20.2万円となる。

景気低迷の中で育った今の若者だが、実は目先の収入は案外ある。また、未婚化の進行や初婚年齢の上昇で、かつてより自由に使えるお金を持つ独身の若者が増えている。このことが、図表3-2の所得・収入の満足度の高さにつながるのではないだろうか。
 
16 久我尚子「若者は本当にお金がないのか?統計データが語る意外な真実」(光文社新書、2014)等
17 対1989年実質増減率は、1994年は男性+3.5%、女性+11.3%、1999年は男性+9.6%、女性+6.2%、2004年は男性+16.1%、女性+10.6%、2009年は男性+7.8%、女性+23.0%。
18 厚生労働省「平成25年賃金構造基本統計調査」及び総務省「平成26年全国消費実態調査」より推計。「賃金構造基本統計調査」の最新値を使って推計すると、非正規雇用者の可処分所得はさらに増える。
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

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