2019年07月12日

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(3) 子育て世帯の消費の変化~消費抑制傾向が強まる一方、必需性が高いと判断すれば買う4つのもの
祖父母によるランドセル購入が増えた理由の1つでもあるが、子育て世帯では親世代の経済状況が厳しくなる中で、消費にも変化があらわれている。詳細は既出レポート8をご覧頂きたいが、総務省「家計調査」にて、核家族で子どもが2人いる共働き世帯と専業主婦世帯について、2000年以降の家計収支の状況を見ると、どちらも世帯収入が減る一方、税・社会保険料負担が増える中で収入以上に可処分所得が減少している。その結果、消費支出も減少し内訳が変化している。食費や通信費などの必需的消費の割合が高まり、娯楽費や交際費などの選択的消費の割合は低下し、できるだけ不要な消費を減らし貯蓄として手元に留める傾向が強まっている。裏を返すと、今の子育て世帯では必需性が高いと判断したものにお金を向けるということになる。実際に支出が増加傾向にあるものが4つある。

1つは「通信」だ。通信については、もはや社会インフラとしてニーズの高いものであり消費者全体で見られる変化だが、子育て世帯の通信費は、2000年と比べて2017年では1.5~6倍に膨らんでいる(共働き世帯1.16万円→1.89万円、専業主婦世帯1.05万円→1.64万円)。

2つ目には「住居」があげられる。可処分所得が減る中で高額な支出が増えることは不思議なようだが、子育て世帯の持ち家率は高まっている(同様に共働き世帯73.4%→81.7%、専業主婦世帯56.1%→74.0%)。背景には、税制改正(住宅ローン減税の拡充や祖父母や親からの資産移転に向けた贈与税非課税枠の拡大等)や金利低下の影響などがあるのだろう。消費者のニーズが高い領域に適した政策が走ると、消費抑制傾向が強くても消費へ向かう好例なのかもしれない。

3つ目は「教育」だ。子育て世帯のうち、もともと可処分所得の多い共働き世帯では2000年と比べて大きな違いはないが、より可処分所得の少ない専業主婦世帯では教育費がじわじわと増加傾向にある(2.7万円→3.1万円)。背景には進学熱の高まりがあるのだろう。
図表2-12 電動アシスト車の出荷台数と自転車販売台数全体に占める割合 4つ目は統計で捉えにくい部分もあるが「電動アシスト自転車」だ。出荷台数は右肩上がりで(図表2-12)、平均単価も上昇傾向にある(2006年4.8万円→2018年8.2万円)。電動アシスト自転車は、高齢者の利用や通学用途などもあり、必ずしも子育て世帯のみが購入しているわけではない。しかし、今、住宅街や街中では電動アシストのママチャリに未就学児を乗せた姿が散見される状況もある。また、平均単価が10万円近くにもなる比較的高額な商品の販売が伸びていることは、子育て世帯でも消費者全体でも世帯あたりの消費が必ずしも増えていない中では特筆すべき事象だ。
 
8 久我尚子「共働き・子育て世帯の消費実態(1)~(3)」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レポートおよび基礎研レター(2017/3~2018/3)
(4) 子育て世帯の共働き消費~キーワードは時短ニーズと代行ニーズの強さ
子育て世帯の消費で増えているものには「共働き消費」もある。これは単純に子育て世帯で共働きが増えているためだ。

共働き消費の特徴は、専業主婦世帯と比べて子ども1人あたりの教育費が多いことや、世帯あたりの自動車や携帯電話保有台数が多いために自動車関係費や通信費がかさむこと、そして、食費の内訳で調理食品や外食が多いことだ(図表2-13・14)10。また、妻がフルタイムで働く共働き世帯ほど家事代行の利用も多い。時間がないために全体的に時短ニーズや代行ニーズが強い。また、最近、子どもの教育関連のサービスでは、平日に子どもの習いごとの送迎ができない共働き世帯に向けた習いごと送迎専用のタクシーサービスや習いごと教室が併設された小学生の学童保育が人気とも聞く。
図表2-13 子育て世帯の消費内訳(2017年)/図表2-14 子育て世帯の「食料」費の内訳(2017年)
3暮らしの変化に注目した商品・サービスを
2章では、「家族」に注目して消費の変化を捉えた。現在、家計消費は世帯数が未だ増加局面にあるために緩やかに増加しているが、世帯数が減少局面に入る2020年あたりから減少し始める9

今後、人口が減り世帯数も減る中で消費市場が縮小することは自然なこととも言える。しかし、本稿で見てきたように、この平成の30年余りの間に家族の形が変わることで、売れる商品や求められるサービスが変化している。従来から存在する商品であっても、消費者の暮らし方やニーズの変化に対応することで、むしろ拡大する市場もあるだろう。今後とも単身世帯の増加と高齢化、共働き世帯の増加は続く見込みであり、現在のところ、特に共働きに向けたサービスでは需要に対して供給が足りずにインフレ気味のものも見られる10

人口が減り世帯数も減るとしても、まだ拡大の余地のある市場もある。また、人口が減り世帯数が減るとしても、一人あたり、あるいは世帯あたりの所得が増えれば消費は増える可能性もある。この点については、次章で詳しく述べるが、平成の三十年余りで経済力の増した女性に大きく期待できるのではないかと考えている。
 
9 久我尚子「増え行く単身世帯と消費市場への影響(1)」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レター(2018/5/9)
10 前項で簡単に触れたが、習いごと送迎専用のタクシーサービスは1回5千円、習いごと教室が併設された小学生の学童保育は月10万円を越えるものもあるが予約を受けきれないほどという話も聞く。また、保育園待機児童問題を見れば、保育サービスの需要に対して供給が足りていないことは明らかだ。
 

3――高まる女性の消費力とその課題

3――高まる女性の消費力とその課題~「おひとりさま」「ママでもキレイ」「パワーカップル」消費の登場と就業継続の壁

1平成は女性の経済力が増した時代
2章で述べた通り、子育て世帯では共働きが過半数を超えて、働く女性が増えている。長らく続いた景気低迷の中で夫の収入が減少したために家計を支えるという経済的な理由もあるが、女性の社会進出がさらに進んだ影響もある。
図表3-1 年収階級別に見た男女単身勤労者世帯の消費性向 平成は男性と同じように進学し、男性と同じように働く女性が増えた時代だ。外で働く女性が増え、女性の経済力が増すことで、これまでにはない消費行動もあらわれた。未婚化の進行で「おひとりさま」市場が広がりを見せるとともに、結婚後や出産後も家族のための消費だけでなく、ファッションなどの自分のための消費も楽しむ女性が増えている。また、共働き世帯では妻が夫並みに稼ぐ「パワーカップル」の存在感が増し、都心の高額マンション市場の牽引役としても注目を集めている。

女性の経済力が増すことで消費市場は底上げされる可能性がある。男女の消費性向を年収階級別に比べると、おおむねいずれの階級でも女性が男性を上回る(図表3-1)。つまり、同じだけお金を持っていれば女性の方が多く使うということだ。

一方で、女性の就労環境には依然として課題は多い。家庭との両立の困難さなどから、就業希望があっても働くことができていない女性は、人手不足の中でも約300万人も存在する。

3章では「平成における消費者の変容」のうち「女性」に注目して暮らしや消費の変化を捉えるとともに、女性の消費をさらに活性化させるための課題を述べたい。
2女性の就業環境の変化と高まる大学進学率~消えゆく「女の子だから短大」「寿退社」という価値観
平成の特にはじめの十年は、女性の就業環境に大きな変化があった時期だ。バブル景気とともにはじまった平成だが、すぐにバブルは崩壊し就職氷河期が到来した。さらに、平成7年(1995年)にWindows95が発売されオフィスのIT化が急速に進み、1990年代後半には「労働者派遣法」の改正が続いたことで、女性で多い一般事務職の採用は特に絞られていった。

「労働者派遣法」の適用対象は、1986年の施行当初はソフトウェア開発や通訳、秘書等の専門知識を要する13業務であり、正社員の業務を代替するおそれの少ないものが意図されていた。しかし、1996年の改正で対象業務は26業務に拡大され、1999年には原則自由化された。このような中で企業の一般事務職は派遣スタッフに代替されるようになった。

一方で、平成のはじめは、女性の就労環境の整備が進んだ時期でもある。1997年の「男女雇用機会均等法」の改正では、これまでは努力義務だった職業の募集・採用、配置・昇進などについて男女差別が全面的に禁止されるようになった。看護婦は看護師、保母は保育士と名称が改められるようになったのもこのタイミングだ。

女性の社会進出が進む中で、1991年には「育児休業法」が成立した。育児休業を理由に労働者を解雇することが禁止され、時間短縮勤務などの努力義務も盛り込まれた。1995年には介護休業制度も創設され、名称は「育児・介護休業法」に改められた。さらに、育児や介護を行う労働者の時間外労働の規制や育休期間の延長が定められ、2016年の改正では、就職氷河期世代を中心に増えている非正規雇用者の育休取得要件が緩和された。
図表3-2 大学進学率・短大進学率の推移 就労の面で進んだ男女平等は、教育の面でも広がった。女子のみの必修科目であった家庭科が、1993年度から中学校で、1994年度から高等学校で男女共修となった。つまり、現在のおおむね30代以下の世代は男女とも家庭科を学んでいることになる。

これらの社会環境の変化を背景に、1996年から女性の大学進学率は短大進学率を上回り、男性に追随するようになっている(図表3-2)。1996年入学は今年43歳(現役入学)を迎える年代だ。つまり、女子も大学進学世代は男子も家庭科必修世代とおおむね同年代ということになる。

男女が肩を並べて学び、肩を並べて働くことが自然となる中で、昭和の時代に存在した「女の子だから成績が良くても短大」「寿退社」という価値観は消えつつある。現在では結婚後も9割の女性が仕事を続けている11
 
11 国立社会保障人口問題研究所「第15回出生動向基本調査(2015年)」より、2010~2014年に結婚した女性のうち、結婚前に就業していて結婚後も就業継続している割合は89.8%。
3|未婚化の進行と「おひとりさま」消費
(1) 未婚化の進行~30代後半の女性の4分の1が未婚、7人に1人は「おひとりさま」の世の中へ
平成は社会環境が変化し、女性の生き方が多様化した時代だ。昭和の時代は皆同じような年齢で結婚や出産をしていたが、平成は未婚化が進行し「おひとりさま」という言葉が浸透していった。かつては30代後半ともなると結婚していることが当たり前だっただろうが、2015年では男性35.0%、女性23.9%が未婚であり、決して少数派ではない(図表3-3)。なお、2010年頃から20~30代の未婚率は頭打ちとなっているが、40代の未婚率は未だ上昇傾向にある。生涯未婚率は2015年で男性23.4%、女性14.1%となり、現在の日本では男性の4人に1人、女性の7人に1人が結婚をしなくなっている。
図表3-3 未婚率の推移
(2) 「おひとりさま」消費~「ひとり○○」サービスの広がり、レジャー(コト消費)も「おひとりさま」で
「おひとりさま」の存在感が増す中で、消費市場にも変化があらわれている。2章で示した通り、単身世帯が増えることで、カレーやコーヒー、野菜をはじめ従来商品のコンパクト化が進んでいるが、モノだけでなくレジャーなどのコト消費でも、「おひとりさま」向けのものが広がっている。

かつて、女性の一人旅は敬遠された時代もあったが、今では全くめずらしいものではない12。また、数年前から「ひとりカラオケ」や「ひとり焼肉」というサービスも耳にするようになった。これまでは複数人で楽しむ印象の強かったコトでも、現在では1人で楽しめる環境が広がり、世間的にも認知されつつあるようだ。

ひとりでもレジャーを楽しめるという流れは、スマートフォンやSNSが加速させている部分もあるだろう。SNSでは共通の趣味を持った他人と簡単に繋がることができる。例えば、インスタグラムでは「#○○好きさんとつながりたい」というハッシュタグが使われており、この「○○」には自分の好きなものや趣味が入る。好きな芸能人の名前を入れるとファン同士でつながることができ、約束をして一緒にコンサートなどへ行ったりすることもあるようだ。これは、必ずしも独身の「おひとりさま」に限らないが、SNSによってひとりでも気軽に参加できる環境は広がっている。
 
12 例えば、現在、「楽天トラベル」や「じゃらんnet」などで「おひとりさま」と検索すると、300件以上の件数があがる。
図表3-4 女性の労働力率の変化 4|M字カーブの底上げと妻・母の消費行動の変化
(1) M字カーブの底上げ~最近の底上げ要因は未婚化ではなく既婚女性の労働力上昇による影響

働く女性が増え、M字カーブの底上げが進んでいる(図表3-4)。2001年~2016年までの15年間のM字カーブの上昇要因を分析したところ13、2001~2006年では未婚化の影響が大きく、30歳代の労働力率上昇の半分程度が未婚化によるものであった。しかし、2006年以降は未婚化の影響は弱まり、既婚女性の労働力率の上昇による影響が強まっている。その結果、2012年~2016年におけるM字カーブの上昇には未婚化による影響はほぼ見られなくなり、主に既婚女性の労働力率上昇によるものとなっている。
 
13 久我尚子「『M字カーブ』底上げの要因分解」ニッセイ基礎研究所、基礎研レター(2017/12/21)
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

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レポート紹介

【平成における消費者の変容】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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