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インシュアテック企業「オスカー」は、米国医療市場でデータヘルスの先駆けとなるか
松岡 博司
ドクターオンコールサービスは、24時間年中無休、無料の、いわゆる電話による遠隔医療サービスを提供している。リクエストには夜中はダメ等の制限がない。
コンシェルジュチームに連絡を取ると、15分以内にほとんどの遠隔医療の予約が完了する。
コンシェルジュチームは、当該メンバーからの距離、利用可能性、手続き量、保険金請求関連のデータ、医師の経験、およびメンバーからの医師レビュー結果等の判断基準を使って最適な医師を見つけることができる。予約が完了すると医師からの電話によるコールバックがある。メンバーは、電話とあわせて症状の写真をオンラインで送ることもできる。ドクターオンコールで処方箋をかかりつけ薬局に送ってもらうこともできる。
なお顧客はオスカーアプリの「Doctor on Call」をタップするだけで、自分で医師を検索することもできる。
(5)ウェブサイトやオスカーアプリで医師を探し予約できる
メンバーが自分の症状をウェブサイトやオスカーアプリに入力すると、推奨医師、推奨医療機関が表示され、予約を取ることができる。メンバーが求められそうな自己負担額の推定額も表示される。
(6)歩くだけで報酬が得られるトラックステップス
顧客はオスカーアプリを使用して自分の歩数を管理することもできる。オスカーアプリが自動的にApple HealthまたはGoogle Healthを通じて同期、連携して歩数を管理し、設定されたステップゴールに到着した日ごとに、Amazon®ギフトカードの報酬が1ドルずつ積み上がっていく仕組みである。ユーザーは年間上限の最大240ドルまで、毎年報酬を稼ぐことができる。わが国でも最近流行りの歩く健康増進保険のはしりとも言える。
専用アプリを通じて、コンシェルジュチーム、医師へのアクセスとともに、処方薬の記録、医療履歴等へのアクセスも可能とすることにより、自らの健康を管理する能力をメンバーに提供することが目的である。
(9)優良で質の高い病院や医師の治療を受けることができる
ほとんどの医療保険会社が、請求があってから14日~16日程度で支払いを行っているのに対して、オスカーは3~4日での支払いを達成している。保険金支払の正確さは99%のとのことである。
4――データを基軸に経営するオスカーの事業方向
テクノロジーを通じた顧客エンゲージメント
オスカーを見る上で重要な用語が、「エンゲージメント」である。これは「交流度を図る指標」とされる用語で、機関投資家の「スチュワードシップ責任」論の中では、投資先企業と機関投資家の間で行われる経営に関する議論や提案を意味しているとされる。本稿でも「エンゲージメント」を、そうした、つながり、対話、交流といった、関与のあり方を意味する言葉と考えて使用する。
オスカーはメンバーとの「エンゲージメント」を最重要の課題としている。
オスカーのメンバーのエンゲージメント率は、他の医療保険会社のメンバーのエンゲージメント率よりも高い。41%のメンバーが、健康を管理するために、毎月、オスカーのウェブやアプリに積極的に目を向けている。
メンバーのエンゲージメントを高める上で特に重要な役割を果たしているのが、コンシェルジュチームである。チームは、メンバーが最善のケアを見つけることから、慢性疾患を管理すること、医療プロバイダーやラボからの請求に対処することまで、あらゆるヘルスケア体験に付き添い、ナビゲートする。2018年だけで、コンシェルジュチームは、メンバーの77%から寄せられた120万の質問に回答したとのことである。55歳未満のメンバーでは75%が、55歳以上のメンバーでは83%がコンシェルジュチームに連絡を取った。健康状態で区分すると、健康なメンバーの70%が、臨床的に深刻な状況にあるメンバーの92%が、コンシェルジュチームに連絡を取った。
最近保険金請求を行ったメンバーの30%近くが、オスカーを信頼する最大の理由として、コンシェルジュチームの存在を挙げた。
また2017年にコンシェルジュチームに連絡を取ったメンバーは、ネットワーク外で医療を受ける可能性が10%低く、そのおかげでネットワーク外コストが36%低かった。
バーチャルケア
メンバーが医療機関に出向くことなく、医師との電話や写真の送信等を通じて、軽微な症例の治療等に取り組むことができるようにすることにより、メンバーの手間と時間を節約し、医療費を低減する。こうしたバーチャルケアは、軽微な症例を治療し、患者のケアへのアクセスを向上させる有効な方法である。また急性の疾病についても、バーチャルな第一次診療医が症例を判断し、必要とあれば専門医を紹介、予約することで、メンバーの症状への対応を一段早めることができる。
そのため、オスカーはバーチャルインタラクション(バーチャルな環境下での相互のやり取り、対話)を重視している。
オスカーはメンバーをバーチャルケアプラットフォームに案内する。そこでは、遠隔医療の医師(バーチャル第一次診療医)、コンシェルジュチームの専門看護師(医師の務めの多くを遂行できる看護師)、とメンバー個々の病歴に精通しているケアガイド等が、メンバーの心配に対応する。
2017年には、メンバーのヘルスケアへの取り組みの63%がバーチャルで行われた(2016年は46%であった)。
コンシェルジュチーム、バーチャル第一次診療医、リアルな医療プロバイダーの間のデータを統合して構成されるオスカーのバーチャル第一次診療システムを通じて、メンバーの日常的なヘルスケアの問題の多くは解決できる。
コンシェルジュチームは、医師のアポイント取りから処方箋や保険金請求書の発行まで、ヘルスケアをナビゲートする。属人化されたバーチャルケアプラットフォームを使って、予測的、予防的に、シームレスに、メンバーを必要でリーズナブルなケアに導く。
遠隔医療を提供するドクターオンコールはバーチャルケアシステムの鍵である。2017年にはメンバーの約25%がドクターオンコールによる遠隔医療を利用した(この数値は2016年には14%であった)。これは、雇用主が提供している大規模団体の医療保険の全国平均3%の8倍を超える利用率である1。
バーチャル第一次診療医は、日常的な健康上の問題に対してメンバーに低コストの選択肢を提供するために慎重に選ばれた。ほとんどの遠隔医療のアポイントメントは、依頼してから15分以内の間に行われる。
メンバーのエンゲージメント率が高いおかげで、オスカーは、診療所、緊急治療室(ER)、緊急治療施設(UC)等への訪問の代替策として、低コストのバーチャルケアのより高い利用率を達成することができている。
リアルなプロバイダーのツールやデータに直接アクセスできるバーチャルケアプラットフォームにより、バーチャル第一次診療医は、次のことも可能である。
メンバーの健康履歴を確認しながら、各メンバーの契約している医療プランの給付に関する質問に答える。
メンバーの医療プランの内容に応じた医薬品を処方する。
メンバーを専門医に紹介する。
メンバーに代わって専門医のアポイントをとる
オスカーのバーチャル第一次診療医が電話による遠隔医療において、緊急治療室(ER)、緊急治療施設(UC)に患者を紹介する比率は3.2%である。これは、別途オスカーが使用してきた全米に知名度のあるナショナルベンダーの遠隔医療医の同比率が9.6%であることと比べると、非常に低い。
遠隔医療の結果、専門医への紹介が必要と判断されると、メンバーは担当のコンシェルジュチームから、専門医のリストを掲載した提案メッセージを受け取る。メンバーの77%がこの提案を参考に専門医を選んでいる。メンバーは、メッセージを読み、自分のアプリで提案された医師を閲覧し、予約の可否を確認し、他のメンバーによる医師レビューを見て、どの専門医が最適なのかを判断できる。
1 オスカーの開示情報より。素資料は「National Business Group on Health, Surveys of Large Employers」
オスカーアプリ中のステップトラッキングは、健康なメンバーがオスカーとエンゲージし続けるようにしむける有効なツールである。これにより健康なメンバーはオスカーのツールに精通し、ケアを必要とするときにオスカーのツールを使用する傾向が強くなる。
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