2019年06月11日

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1. はじめに

仙台のオフィス空室率は、2013年以降、新規供給が限定的であったことを反映し、低下傾向で推移している。こうした需給の逼迫を反映し、伸び悩んでいた成約賃料も上昇している。本稿では、仙台のオフィス市況を概観した上で、2023年までの賃料予測を行う。
 

2. 仙台オフィス市場の現況

2. 仙台オフィス市場の現況

2-1. 空室率および賃料の動向
仙台のオフィス空室率は、全国主要都市と同様に低下傾向で推移している。三幸エステートによると、仙台市の空室率(2018年12月時点)は5.7%となり、2017年末の7.2%から大幅に低下した(図表1)。仙台では、2013年以降、オフィスの新規供給量は、年間3,000坪を上回ることはなく、低水準に留まっている。一方、IT関連企業やコールセンターを中心とした新規出店や面積拡張、立地改善を目的とした拠点集約、等を背景にオフィス需要は旺盛で、まとまった空室は減少している。

仙台市の空室率を規模1別にみると、2016年以降、規模が大きいビルと中型未満のビルの間に、格差が生じてきている。2018年12月時点の空室率は、「大規模ビル」が4.3%、「大型ビル」が5.4%であるのに対して、「中型ビル」が8.5%、「小型ビル」が8.6%と高水準であった。特に、移転集約等を受け皿となる高スペックな大規模ビルの空室は少ない模様である(図表2)。
図表-1 主要都市のオフィス空室率/図表-2 仙台オフィスの規模別空室率
仙台市の成約賃料は、空室率の改善を背景に上昇基調で推移している。2018年下期の成約賃料の上昇率は前期比+4.6%、前年同期比+5.9%となった。ただし、大阪市や名古屋市、札幌市ではファンドバブル期(2006年~2008年頃)のピークを上回ったのに対し、仙台市はファンドバブル期のピーク水準の88%に留まっている(図表3)。
図表-3 主要都市のオフィス成約賃料(オフィスレント・インデックス)
2018年の空室率と成約賃料の変化を主要都市で比較すると、仙台市では、空室率は大きく改善している一方で、賃料上昇率は下位に留まった。(図表4)。

賃料と空室率の関係を表した仙台市の賃料サイクル2は、2010年上期を起点に「空室率低下・賃料上昇」局面が長期にわたり続いている。ただし、過去のサイクルと比較すると、空室率が大きく低下しているのにもかかわらず、賃料の上昇幅は小幅なものとなっている(図表5)。
図表-4 2018年の主要都市のオフィス市況変化/図表-5 仙台オフィス市場の賃料サイクル
 
1 三幸エステートの定義による。大規模ビルは基準階面積200坪以上、大型は同100~200坪未満、中型は同50~100坪未満、小型は同20~50坪未満。
2 賃料サイクルとは、縦軸に賃料、横軸に空室率をプロットした循環図。通常、(1)空室率低下・賃料上昇→(2)空室率上昇・賃料上昇→(3)空室率上昇・賃料下落→(4)空室率低下・賃料下落、と時計周りに動く。
2-2. オフィス市場の需給動向
三鬼商事によると、仙台ビジネス地区では、総ストックを表す賃貸可能面積は、低水準の新規供給が続いた影響や、築古ビルの取り壊し等が進んだことで、2012年末の46.9万坪から2018年末の46.0万坪へと6年間で0.9万坪減少した。一方、テナントによる賃貸面積は、2012年末の40.5万坪から2018年末の44.0万坪へと6年間で3.5万坪増加した(図表6)。
図表-6 仙台ビジネス地区の賃貸可能面積・賃貸面積・空室面積
過去6年間の月次の増減を確認すると、賃貸可能面積が増加したのは、2017年に「野村不動産仙台青葉通ビル」が竣工した時期のみである(図表7)。一方、賃貸面積は、着実な増加を示しており、仙台のオフィス需要の底堅さが窺える。

この結果、仙台ビジネス地区の空室面積は2010年末の9.0万坪をピークにして減少し、2018年末には2.0万坪(前年比▲0.9万坪)となり、ファンドバブル期のボトムである3.5万坪(2007年末)を大幅に下回った。
図表-7 仙台ビジネス地区の賃貸可能面積・賃貸面積・空室面積の増減
2-3. 空室率と募集賃料のエリア別動向
2018年末時点で最も賃貸可能面積が大きいエリアは、「駅前地区(35.3%)」で、次いで「一番町周辺地区(31.9%)」、「駅東地区(14.2%)」、「県庁・市役所周辺地区(13.2%)」の順となっている(図表8)。

2018年は、築古ビルの滅失等によって「一番町周辺地区」(前年比▲0.4万坪)や「駅東地区」(▲0.1万坪)で、賃貸可能面積が減少した(図表9)。
図表-8 仙台ビジネス地区の地区別オフィス面積構成比(2018年)/図表-9 仙台ビジネス地区の地区別オフィス需給面積増分(2018年)
一方、賃貸面積は、「一番町周辺地区」を除く全ての地区で増加した。この結果、空室面積は、全ての地区で減少し、計▲0.9万坪減少した。

エリア別の空室率(2018年12月末)を確認すると、「駅前地区3.10%(前年比▲1.79%)」や「一番町周辺地区3.19%(▲1.69%)」、「駅東地区6.12%(▲2.06%)」の空室率が大幅に改善しているのに対し、「県庁・市役所周辺地区7.34%(▲0.09%)」や「周辺オフィス地区8.11%(前年比▲0.51%)」の空室率の改善は限定的であった(図表10左図)。

募集賃料は、空室率が大きく低下した「駅前地区」、「一番町周辺地区」、「駅東地区」では上昇基調で推移したのに対し、空室率の低下が小幅であった「県庁・市役所周辺地区」と「周辺オフィス地区」は横ばい圏で推移した。募集賃料の動きについてはエリア間で格差もみてとれる(図表10右図)。
図表-10 仙台ビジネス地区の地区別空室率・募集賃料の推移(月次)
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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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【「仙台オフィス市場」の現況と見通し(2019年)】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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