2019年06月11日

年金改革ウォッチ 2019年6月号~ポイント解説:パート労働者への厚生年金の適用

保険研究部 上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任 中嶋 邦夫

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1 ―― 先月までの動き

企業年金・個人年金部会は、前回から個別論点の議論に移っており、今回は普及拡大について活発に意見を交換した。働き方の多様化を踏まえた社会保険の対応に関する懇談会では、適用拡大の要否や拡大時の影響等について、テーマごとに議論が進められた。年金広報検討会では、現状での広報の取組みや課題などが説明され、今後の展開に関して議論が行われた。
 
○社会保障審議会  企業年金・個人年金部会
5月17日(第5回) 企業年金の普及・拡大、厚生年金基金の特例解散等に関する専門委員会における議論の経過
URL https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_04714.html (資料)
 
○年金広報検討会 (年金局)
5月29日(第3回)  若年者向けライフプラン教育に関する調査(年金シニアプラン総合研究機構)、
年金広報コンテスト、年金生活者支援給付金の広報、年金広報の現状と今後の検討課題、その他
 URL https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000212815_00010.html (資料)
 
○働き方の多様化を踏まえた社会保険の対応に関する懇談会 (年金局)
5月31日(第6回)  働き方の多様化を踏まえた社会保険の対応に関する諸論点、その他
 URL https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000208525_00011.html (資料)
 

2 ―― ポイント解説:パート労働者への厚生年金の適用

2 ―― ポイント解説:パート労働者への厚生年金の適用

先月末の働き方の多様化を踏まえた社会保険の対応に関する懇談会では広範な議論が行われたが、本稿ではパート労働者への厚生年金の適用について*1、これまでの経緯や議論の見通し確認する。
 
*1 パート労働者以外への適用拡大(例:士業やサービス業の個人事業所への適用拡大)については、本年4月号を参照。また、その場合の年金財政への影響については、2018年10月号を参照。
図表1 関連する法改正の経緯 1|経緯:検討規定をてこに、導入・拡大
パート労働者への厚生年金の適用は、2004年改正の過程で具体的な検討が始まり、改正法の附則に5年以内に検討して必要な措置を講じることが盛り込まれた。これを踏まえて自公政権下の2007年4月に具体的な制度が法案化されたが、同年7月の参議院選挙の結果いわゆる「ねじれ国会」となり、2009年の衆議院解散で廃案となった。
図表2 改正法附則等(検討規定等)の経緯 民主党政権下の2012年には、社会保障と税の一体改革の一環として適用範囲が拡大された法案が提出された。審議過程で民自公の「3党合意」がまとまり、適用範囲や附則が修正されて成立した。

3党合意では、附則の内容が「範囲を拡大する」から「範囲を検討する」へと拡大に消極的な表現に変わったが、2013年に自公政権下で成立した社会保障改革プログラム法では「拡大」が明示された。
2|見通し:社員規模や勤務期間が今後の論点か
2016年改正では社員500人以下の企業でもパート労働者への適用が任意で可能になったが、今回の検討会では強制適用の範囲が議論されている。

労働時間については、老後保障の観点から週20時間未満の仕事を掛け持ちしている労働者*2への適用が大きな課題だが、事務の効率化や雇用保険との整合性の問題もあり早急な変更は難しい状況である。賃金水準については、各企業で判定する際の事務の繁雑さや就業調整による労働力減少への影響を指摘する意見のほか、最低賃金を引き上げる政府方針との関係を考慮すべきという意見もある。勤務期間については、保険料や事務の負担から据置を求める意見もあるが、9割が現行基準を満たしており要否が問われている。学生については、インターンやリカレント教育等による多様化が指摘される一方で、適用になった場合には就業調整が起こって人員確保への影響が大きいという意見もある。社員規模については、改正法の附則で規定された当分の間の措置で、企業間の競争条件を不公平にしているという指摘や、人手不足の下でも2016年改正で可能になった任意適用が低調な現状もある。

老後保障の広がりが現役世代の安心を生み出して社会や経済の好循環につながっていくためには、取引や商品での価格上昇など、適用拡大に伴うコストを社会全体で負担する視点も必要だろう。
図表3 厚生年金の強制適用範囲 (概要)
 
*2 適用範囲に該当するかは勤務先の事業所ごとに判定される(例えば、週19時間のパートを2つ掛け持ちしていても、厚生年金は適用されない)。厚生年金の適用対象になれば、将来は基礎年金(国民年金)に加えて厚生年金を受給でき、厚生年金保険料の半額は企業が負担する。
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保険研究部   上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任

中嶋 邦夫 (なかしま くにお)

研究・専門分野
公的年金財政、年金制度全般、家計貯蓄行動

(2019年06月11日「保険・年金フォーカス」)

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