2019年06月10日

2019・2020年度経済見通し-19年1-3月期GDP2次速報後改定

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1. 2019年1-3月期は前期比年率2.2%へ上方修正

6/10に内閣府が公表した2019年1-3月期の実質GDP(2次速報値)は前期比0.6%(年率2.2%)となり、1次速報の前期比0.5%(年率2.1%)から上方修正された。1-3月期の法人企業統計の結果が反映されたことにより、設備投資が前期比▲0.3%から同0.3%へ上方修正されたことがその主因である。一方、1次速報時点で未公表だった基礎統計の結果を受けて、住宅投資(前期比1.1%→同0.6%)、公的固定資本形成(前期比1.5%→同1.2%)が下方修正された。

2019年1-3月期の2次速報と同時に2018年10-12月期以前の成長率が遡及改定され、2018年4-6月期(前期比年率2.2%→同2.3%)、10-12月期(前期比年率1.6%→同1.8%)が上方修正される一方、2018年7-9月期(前期比年率▲2.5%→同▲2.6%)が下方修正された。この結果、2018年度の実質GDP成長率は0.6%から0.7%へ上方修正された。
 
2019年1-3月期は潜在成長率を上回る高い成長となったが、その主因は国内需要の低迷を反映した輸入の減少と最終需要の弱さに起因する在庫の積み上がりによるもので、内容は悪いとの評価は1次速報時点と変わらない。また、2018年10-12月期のプラス成長(前期比年率1.8%)は、7-9月期に自然災害による供給制約の影響で大きく落ち込んだ(前期比年率▲2.6%)反動による部分が大きかった。2018年度後半の日本経済は基調としては低迷が続いたと判断される。
(前年比二桁増益も、純粋持株会社を除けばほぼ横ばい)
6/10に財務省から公表された法人企業統計では、2019年1-3月期の全産業(金融業、保険業を除く、以下同じ)の経常利益が前年比10.3%(10-12月期:同▲7.0%)と2四半期ぶりの増加となった。製造業は前年比▲6.3%(10-12月期:同▲10.6%)と3四半期連続で減少したが、非製造業が前年比18.4%(10-12月期:同▲4.9%)の大幅増益となり、全体を大きく押し上げた。
経常利益の推移 ただし、1-3月期の経常利益は純粋持株会社が前年比251.2%の急増となったことにより大きく押し上げられており、純粋持株会社を除く経常利益は前年比0.1%とほぼ横ばいにとどまる。純粋持株会社の大幅増益に持続性があるとは考えられず、経常利益は基調としては製造業を中心に低迷していると判断される。

2019年1-3月期の設備投資(ソフトウェアを含む)は前年比6.1%と10四半期連続で増加し、10-12月期の同5.7%から伸びを高めた。製造業(10-12月期:前年比10.9%→1-3月期:同8.5%)は前期から伸びが低下したが、非製造業(10-12月期:前年比2.7%→1-3月期:同5.0%)が前期から伸びを高めた。
設備投資/キャッシュフロー比率と期待成長率の関係 設備投資は2018年度を通して堅調に推移したが、これは過去最高水準を更新する好調な企業収益による潤沢なキャッシュフローを背景としたものであり、キャッシュフローに対する設備投資の比率が低水準にとどまるなど、必ずしも企業の投資スタンスが積極化しているわけではない。内閣府の「企業行動に関するアンケート調査(2018年度)」によれば、今後5年間の実質経済成長率の見通し(いわゆる期待成長率)は前年度から0.1ポイント低下の1.0%となり過去最低水準に並んだ。

日銀短観2019年3月調査では、輸出の減少を主因とした企業収益の悪化を受けて、製造業ではすでに投資計画を先送りする動きが見られた。2019年度入り後の設備投資は、非製造業では人手不足対応の省力化投資、都市再開発関連投資の拡大などが引き続き下支えとなるものの、企業収益が大きく悪化している製造業を中心に減速に向かう可能性が高いだろう。
 

2. 実質成長率は2019年度0.4%、2020年度0.8%

2. 実質成長率は2019年度0.4%、2020年度0.8%

(2019年4-6月期はマイナス成長の公算)
2019年1-3月期のGDP2次速報を受けて、5/21に発表した経済見通しを改定した。実質GDP成長率は2019年度が0.4%、2020年度が0.8%と予想する。2019年1-3月期の成長率の修正が小幅だったこと、先行きの見方も変えていないことから、成長率見通しは5月から変更していない。
実質GDP成長率の推移(四半期)/実質GDP成長率の推移(年度)
GDP1次速報後に公表された2019年4月の経済指標は下げ止まりを示すものが多い。2019年1-3月期に大きく落ち込んだ輸出、鉱工業生産は、4月にはいずれも前月比で上昇した。
輸出数量指数、鉱工業生産の推移 また、日本銀行作成の実質消費活動指数(旅行収支調整済)は2019年1-3月期に前期比0.0%の横ばいにとどまった後、4月は前月比1.6%の上昇となった。消費税率引き上げ前の駆け込み需要が見られる自動車などの耐久財が前月比4.5%の高い伸びとなったことに加え、10連休の効果で旅行、レジャーなどのサービスも前月比1.0%と堅調だった。

ただし、輸出、生産は10連休を控えた前倒しの反動、消費は連休明けの節約志向の高まりから、5月には大きく落ち込む可能性もあるため、2018年秋以降の落ち込みに歯止めがかかったと判断するのは尚早だろう。財務省の貿易統計によれば、5月上中旬の輸出金額は前年比▲13.4%(輸入は同1.3%)となっており、輸出が再び落ち込む可能性が高いことを示唆している。
2018年度後半は高めの成長となったが、景気は基調としては弱い動きとなっており、2019年4-6月期は海外経済の減速を背景とした輸出の低迷や在庫調整による成長率の下押しなどから前期比年率▲0.7%と3四半期ぶりのマイナス成長となるだろう。
世界半導体売上高(前年同月比) 今回の予測では、グローバルなITサイクルの調整が過去平均並みの1年半程度で終了し、2019年後半には底打ちすることを想定しており、日本の輸出も情報関連財を中心に2019年後半には持ち直すことを見込んでいる。

ただし、ITサイクルの底打ち時期については不確実性が高いこと、米中貿易戦争が一段と激化する可能性があることから、輸出の低迷は長期化するリスクがある。

2019年7-9月期は2019年10月に予定されている消費増税前の駆け込み需要によっていったん成長率が高まるが、増税直後の2019年10-12月期は前期比年率▲1.9%とマイナス成長となることが避けられないだろう。現時点では、大規模な消費増税対策が講じられることから、成長率のマイナス幅は前回増税時(2014年4-6月期の前期比年率▲7.1%)よりも小さくなると予想しているが、輸出の回復が遅れれば内外需がともに悪化し、景気後退が決定的となる可能性がある。その場合には、景気のピークは2018年秋頃となり、戦後最長の景気回復は幻となるだろう。

2020年度は東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年7-9月期までは高めの成長となるが、オリンピック終了後の2020年度下期は、押し上げ効果の剥落から景気の停滞色が強まることは避けられない。消費増税対策の効果一巡がオリンピック終了と重なることで、景気の落ち込みを増幅するリスクがあることには注意が必要だろう。
(物価の見通し)
消費者物価(生鮮食品を除く総合、以下コアCPI)は、エネルギー価格の上昇幅縮小をその他の品目の上昇幅拡大が打ち消す形で、ゼロ%台後半の推移が続いている。原油価格(ドバイ)は2018年末の50ドル程度から70ドル程度まで上昇した後、足もとでは60ドル程度まで下落している。このため、エネルギー価格の上昇率は2019年夏頃には前年比でほぼゼロ%程度まで鈍化する可能性が高い。
消費者物価(生鮮食品を除く総合)の予測 また、サービス価格との連動性が高い賃金は伸び悩みが続いているが、2019年の賃上げ率は前年を若干下回ることが見込まれる。外食、食料品を中心に原材料費、物流費、人件費などのコスト増を価格転嫁する動きが一部に見られるが、物価全体への影響は今のところ限定的である。コアCPI上昇率はエネルギー価格の上昇幅縮小に加え、携帯電話通信料の大幅値下げの影響もあり、夏場にかけてゼロ%台半ばまで鈍化する可能性が高い。基調的な物価上昇圧力が高まる材料は見当たらず、物価は当面低空飛行を続けることが予想される。

コアCPI上昇率は2019年度が前年比0.7%、2020年度が同0.5%と予想する。

 
日本経済の見通し(2019年1-3月期2次QE(6/10発表)反映後)
 
 

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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

(2019年06月10日「Weekly エコノミスト・レター」)

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