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人口減少社会データ解説「なぜ東京都の子ども人口だけが増加するのか」(上)-10年間エリア子ども人口の増減、都道府県出生率と相関ならず-
生活研究部 人口動態シニアリサーチャー 天野 馨南子
2――子ども人口計算式のもう1つの要因の影響力は?
A<エリアの母親候補の数> × B<出生率> = エリアで生まれる子どもの数
という計算式で算出されることを解説した1。その中で、B<出生率>の高低が、必ずしもエリアの子ども人口増減率の高低の主要因とはならない、ということを示した。
そこで当レポートでは、2005年の国勢調査から2015年の国勢調査の間の10年間におけるもう1つの指標、A<エリアの母親候補の数>について、同期間の子ども人口増減への影響力を計量的にみてみたい。もともとのエリア女性人口を変化させ、エリアの母親候補数に影響をもたらす「女性の都道府県間移動(社会移動)」による10年間の女性社会増減数と、都道府県子ども人口増減率との関係性を示したものが次のグラフである(図表5)。
その結果、東京都をいれてもいれなくても、データの傾向に変化はほぼなかった。いずれにしても、女性人口の社会増減と子ども人口増減の間には、強い相関関係(依存関係)があることが判明した。
つまり統計的には、2015年までの10年間の都道府県の子ども人口は「出生率の高低」ではなく、「そのエリアの女性人口社会増減」と強く関係していた、ということが示されたのである。もっというと、出生率の高低による影響を女性人口の社会移動が打ち消してしまっている、ということになる。
1 出生率(合計特殊出生率)は、そのエリアの15歳から49歳の未婚・既婚問わず全ての女性の出生力を表す指標であり、「夫婦のもつ子どもの数ではない」ことを確認しておきたい。
既婚女性に対して「3人産むようになればいい」は、あくまで既婚者出生率の議論であり、未婚化が進むことによって生じる出生率ほぼ0グループの増加による少子化、という概念が欠落して起こる発言である。
実際、日本の夫婦が最終的に持つ子ども数はほぼ2人で長期推移しており、日本の少子化は未婚化の影響が大きいことがわかっている。
3――「子育て支援」政策効果を揺るがす、女性人口の流出
もし、エリアXにおいて、いわゆる「アラサー前の段階」(平均初婚年齢から考えて主にステップ1の段階)で女性が多く社会流出してしまうとすると、自治体のせっかくの子育て支援政策をそのエリアで生まれ育った女性が享受する前に、そのエリアから消えてしまうことになる。
つまり、子育て支援政策効果が十分に発揮される前に、そもそもの政策のターゲットが消えていく(ゼロに何をかけてもゼロ)ということである。地方における子育て支援策が、関東エリアにおけるそれと同様の子ども人口への効果を示せない理由はそこにある。
「なぜ東京都の子ども人口だけが増加するのか」レポートの次号では、都道府県の子ども人口増減(東京都の子ども人口の増加、地方の子ども人口の減少)に、統計的にみると多大な影響を及ぼしていることが判明した「エリア女性人口の社会移動」が、実際どのように都道府県間で起こっているのか、見ていくこととしたい。
2 子育て世帯の誘致によって子ども人口を変化させる政策については、このシリーズにおいて別途解説。
国立社会保障人口問題研究所.「出生動向基本調査」
厚生労働省.「人口動態調査」
国立社会保障・人口問題研究所. 「人口統計資料集」
総務省総計局. 「国勢調査」
国立社会保障人口問題研究所.「日本の地域別将来推計人口(平成30(2018)年推計)」
天野 馨南子.“データで見る「東京一極集中」東京と地方の人口の動きを探る(上・流入編)-地方の人口流出は阻止されるのか-”ニッセイ基礎研究所「基礎研レポート」2018年8月6日号
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天野 馨南子.“データで見る「エリア出生率比較」政策の落とし穴-超少子化社会データ解説-エリアKGI/KPIは「出生率」ではなく「子ども人口実数」” ニッセイ基礎研究所「基礎研レポート」2019年4月22日号
天野 馨南子.“データで知る、「本当の少子化」の震源地-47都道府県 子ども人口の推移(1)~子ども人口シリーズ 戦後65年・超長期でみた真の勝ち組エリアとは?” ニッセイ基礎研究所「研究員の眼」2019年4月26日
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(2019年06月10日「基礎研レポート」)
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