2019年06月10日

人口減少社会データ解説「なぜ東京都の子ども人口だけが増加するのか」(上)-10年間エリア子ども人口の増減、都道府県出生率と相関ならず-

生活研究部 人口動態シニアリサーチャー 天野 馨南子

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はじめに-30年後も沈まぬ人口数

少子化対策が叫ばれる日本において、都道府県別に将来人口(2045年)推計結果を見るならば、いまだ少子化対策がまるで必要ないかのように見えるエリアがある(図表1)。

2015年国勢調査結果をもとに導き出された都道府県別地域人口の将来推計では、2010年の結果をベースにした前回推計結果とは異なり、東京都の2045年推計人口だけが100%超のプラスに転じた。
【図表1】都道府県2045年における推計エリア総人口ランキング 
東京都は全国最低水準の合計特殊出生率(以下、出生率)エリアとして知られ、地方では「東京都では、出生率の高い地方より子どもは減っている」「東京都こそ、もっとも少子化している」と考えている人々も少なくない。「東京都の子ども対策こそ、少子化対策の手本」といったような見方さえされかねない状況も見られている。地元からの東京都への人口流出は把握しているものの、それは東京都への大人(労働)人口流出の話であり、東京都の子ども人口に関しては、全国最低の出生率であるから減っているはずだ、という考えに立脚しているようである。
 
しかしながら、東京都における国勢調査ごとの過去の子ども人口推移を追ってみると、2005年から2015年の10年間で、0~14歳の子ども人口がイメージとは逆に107%の増加に転じている(図表2)。1990年から2015年の25年間においては、東京都は全国1位の子ども人口維持率ではあるものの、まだ減少傾向(87.9%)であったことから(「データで知る、「本当の少子化」の震源地-47都道府県 子ども人口の推移(2)~子ども人口シリーズ 四半世紀・25年間でみた子ども人口の推移」参照)、近年、東京都の子ども人口の維持力が、子ども人口推移がプラスに転じるほど増強されたことが読みとれる。
【図表2】都道府県における2005年から2015年の10年間の子ども(0~14歳)人口の変化 
1995年以降、出生率が長期に1.5を切り続ける長期「超低出生率国」の日本において、子ども人口維持力を増強しつつある姿がデータから浮かび上がり始めた東京都。
 
本レポートではシリーズで、その状況が一体何を「力の源」とし、さらに、その力は何によって決定されているのかを詳らかにしていきたい。
 

1――都道府県出生率と都道府県子ども人口の関係性の強さは?

1――都道府県出生率と都道府県子ども人口の関係性の強さは?

まず、東京都が子ども人口増加に転じた2005年~2015年における、各都道府県の出生率の10年間の状況をみてみたい(図表3)。

地方において(東京においても)、「東京都はさすがに一番子どもが減っているだろう」と思われる根拠として考えられがちな東京都の超低水準な出生率状況が示されている。ちなみに、図表からは沖縄県と東京都の出生率が目立って高位と低位で推移していることがわかる。
【図表3】2004年~2015年の都道府県出生率の状況
直感的、視覚的にみて、各都道府県における10年間の子ども人口の変化の図表(図表2)と10年間の出生率の状況の図表がつながらない(図表3)。10年もの間、全国最低出生率で推移した東京都において、最も子ども人口増加率が高いからである。

そこで、この2つの都道府県データ(10年間の子ども人口の変化と出生率の推移)の関係性の強弱を相関分析で確認してみることとする。
 
ここで、各都道府県の10年間の出生率は、2005年~2014年の各年の出生率の単純合計を10で割った平均値とする。子ども人口増減は、2015年子ども人口を2005年の子ども人口で割った値とする。これによって、各都道府県の10年間の合計特殊出生率の平均的な高低と子ども人口の10年間での増減が、どの程度かかわりを持っていたかを分析することが出来る。
【図表4】 都道府県の10年間の出生率の平均値とこども人口増減の相関分析結果
分析の結果、相関係数は-0.101であり「両データ間には、ほぼ関係性がみられない」という結果となった。都道府県の10年間にわたるそれぞれの出生率の相対的な高さ、もしくは低さが、都道府県それぞれの10年間の子ども人口の相対的な増減度合いに反映していない、ということになる。

つまり、出生率の高低を比較することによって、各都道府県の子ども人口増加政策(少子化対策)の成果の多寡をうかがい知ることはできない状況である、ということである。
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生活研究部   人口動態シニアリサーチャー

天野 馨南子 (あまの かなこ)

研究・専門分野
人口動態に関する諸問題-(特に)少子化対策・東京一極集中・女性活躍推進

経歴
  • プロフィール
    1995年:日本生命保険相互会社 入社
    1999年:株式会社ニッセイ基礎研究所 出向

    ・【総務省統計局】「令和7年国勢調査有識者会議」構成員(2021年~)
    ・【こども家庭庁】令和5年度「地域少子化対策に関する調査事業」委員会委員(2023年度)
    ※都道府県委員職は就任順
    ・【富山県】富山県「県政エグゼクティブアドバイザー」(2023年~)
    ・【富山県】富山県「富山県子育て支援・少子化対策県民会議 委員」(2022年~)
    ・【三重県】三重県「人口減少対策有識者会議 有識者委員」(2023年~)
    ・【石川県】石川県「少子化対策アドバイザー」(2023年度)
    ・【高知県】高知県「中山間地域再興ビジョン検討委員会 委員」(2023年~)
    ・【東京商工会議所】東京における少子化対策専門委員会 学識者委員(2023年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する情報発信/普及啓発検討委員会 委員長(2021年~)
    ・【主催研究会】地方女性活性化研究会(2020年~)
    ・【内閣府特命担当大臣(少子化対策)主宰】「少子化社会対策大綱の推進に関する検討会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府男女共同参画局】「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府委託事業】「令和3年度結婚支援ボランティア等育成モデルプログラム開発調査 企画委員会 委員」(内閣府委託事業)(2021年~2022年)
    ・【内閣府】「地域少子化対策重点推進交付金」事業選定審査員(2017年~)
    ・【内閣府】地域少子化対策強化事業の調査研究・効果検証と優良事例調査 企画・分析会議委員(2016年~2017年)
    ・【内閣府特命担当大臣主宰】「結婚の希望を叶える環境整備に向けた企業・団体等の取組に関する検討会」構成メンバー(2016年)
    ・【富山県】富山県成長戦略会議真の幸せ(ウェルビーイング)戦略プロジェクトチーム 少子化対策・子育て支援専門部会委員(2022年~)
    ・【長野県】伊那市新産業技術推進協議会委員/分野:全般(2020年~2021年)
    ・【佐賀県健康福祉部男女参画・こども局こども未来課】子育てし大県“さが”データ活用アドバイザー(2021年~)
    ・【愛媛県松山市「まつやま人口減少対策推進会議」専門部会】結婚支援ビッグデータ・オープンデータ活用研究会メンバー(2017年度~2018年度)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータアドバイザー会議委員(2020年度~)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータ活用研究会委員(2016年度~2019年度)
    ・【中外製薬株式会社】ヒト由来試料を用いた研究に関する倫理委員会 委員(2020年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する意識調査/検討委員会 委員長(2020年~2021年)

    日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)
    日本労務学会 会員
    日本性差医学・医療学会 会員
    日本保険学会 会員
    性差医療情報ネットワーク 会員
    JADPメンタル心理カウンセラー
    JADP上級心理カウンセラー

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