2019年06月05日

高齢者を狙う振り込め詐欺-受け子についての最高裁判所の判断

保険研究部 常務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長 松澤 登

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1――はじめに

1振り込め詐欺とは
高齢者を狙った振り込め詐欺が多発し、社会問題となって久しい。当初はオレオレ詐欺などと言われていたが、手口が多様化し、2004年に振り込め詐欺と呼ばれるようになった。現在、警察庁はこれらに類する詐欺をまとめて特殊詐欺と呼んでいる。特殊詐欺とは面識のない不特定の方に対して、対面することなく、電話、メール等を使って、預貯金口座への振込み等をさせる詐欺のこととされている1。平成30年の特殊詐欺の認知件数は16493件(対前年比-1719件、-9.4%)、被害額は356.8億円(対前年比-38.0億円、-9.6%)と対前年で減少したが、依然として高水準で推移している(図表1,2)。
【図表1】認知件数
【図表2】被害額
詐欺は騙し取るという言葉からもわかる通り、犯罪者から見ると「だます」という行為と「受け取る」という行為の二つの側面がある。
 
特殊詐欺における「だます」の類型であるが、警察庁は以下のように分類している(図表3)。
【図表3】特殊詐欺の内訳
特に高齢者に被害者が多いのがオレオレ詐欺と還付金詐欺である。オレオレ詐欺は周知の通り、子や孫のふりをしてトラブル解決のためにお金が必要とかたり、被害者から金銭をだまし取るものである。「今日中に」と時間を区切るなどと被害者を慌てさせて冷静な判断ができないような状況に追い込むなどの手口が使われている2

還付金詐欺は医療費の還付金があるなどとだまし、ATMを操作させて被害者の口座から犯人の口座に振り込ませるという詐欺である。

架空請求詐欺は世代に限らず多発していて、使ってもいない有料サイトの利用料の請求をしたり、施設利用優先権や株式の購入権が被害者にあるので譲って欲しいとの連絡をし、譲渡を承諾すると今度は別の架け子が名義貸しは犯罪になると脅して金銭を騙し取ったりする。あるいは被害者の個人情報が登録されており、削除には費用がかかるなどとだまして金銭を支払わせるようなことも行われている。
 
次に「受け取る」の類型であるが、主なものとして、預貯金口座への振込型、現金手交型、キャッシュカード手交型、現金送付型、電子マネー型、収納代行利用型に分類されている。オレオレ詐欺では現金手交型やキャッシュカード手交型が多い。還付金詐欺ではATM操作をさせるためであろうか、ほとんど振込型となっている。

また、近時の報道では、事前にアポをとったうえ、金融機関の職員、警察官等を装い、「キャッシュカードが悪用されているので、キャッシュカードと暗証番号を書いた紙を封筒に入れて保管してほしい」と申し向け、その封筒と偽のカードの入った封筒をすり替えるなどして、だまし取るといった行為が行われている3。さらにはアポ電強盗なる凶悪な犯罪も行われている4
 
1 警察庁「平成30年における特殊詐欺認知・検挙状況等について」参照。
2 警察庁「オレオレ詐欺被害者等調査の概要について」p2参照。
3 日本経済新聞2019年2月25日
4 電話で現金が自宅にあることを確認して、その家に押し込み強盗を行う犯罪。
2振り込め詐欺における受け子とは
特殊詐欺においては銀行口座へ振り込ませることが多かったが、銀行口座の開設が難しくなってきたことや、引き出す際にATMに防犯カメラが設置されていることから足がつきやすく、現在では、他のさまざまな手段を用いるようになってきている。そのひとつとして「受け子」を利用するということが行われている。

この態様の特殊詐欺では、電話をかけてだます役の「架け子」や、騙し取ったお金を受領する「受け子」といった形で分業が行われる。特に受け子は特殊詐欺グループに捜査の手が及ばないように、グループに属さない人間が使われることが通例である。受け子は被害者宅まで現金を取りに行くか、あるいは被害者に宅配便などを利用させ現金を受け子宛に送付させることが行われ、受け子は中身を知らずに荷物を受け取ったと主張することが多い。

このうち、宅配便を受け取る形態の受け子に関する最高裁の判決が、平成30年12月に二つ下された。いずれも、高裁(原審)で無罪となった受け子に、有罪判決を下したものである。平成29年12月にも受け子に関する重要な最高裁決定5が出ているので、この三つを紹介することとしたい。
 
5 判決と決定の違いだが、判決は口頭弁論(原告と被告がそれぞれ法廷で意見を述べる手続き)を経て下されるものである一方で、決定は口頭弁論を経ずに裁判所が判断を下す。
 

2――受け子をどのような罪に問えるのか

2――受け子をどのような罪に問えるのか

1受け子を詐欺罪に問うための二つの問題点
通常、特殊詐欺は刑法の詐欺罪(刑法246条)に該当する。条文には「人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する」とある。若干付言すると、まず詐欺を行おうとする者が被害者に対して財物を交付するように欺き、騙された被害者が財物を交付し、財物を移転させることが犯罪の構成要件である。

このような構成要件を踏まえて、受け子に関しては、大きく二つの問題が議論されている。まず、(1)受け子を詐欺罪に問えるのか、という根本的な問題である。受け子は詐欺の一連の流れのうち、「お金を受け取る」という行為だけをしており、被害者をだますという行為を行っていないことをどう考えるかという問題がある。

特に、被害者をだましたという事情を聞いていない受け子が、宅配便等で単に荷物を受け取っただけのケースで詐欺罪に問えるのかという問題がある。詐欺罪で処罰するには、被害者からお金を騙し取るという意図(故意)が必要であり、たとえば警察官や金融機関の職員を名乗って金銭を騙し取るというやり方の受け子にはだますという故意が比較的簡単に認められるが、単に荷物を受け取っただけの受け子に故意があると言えるのか。受け子が逮捕されたときに、通常は「自分は何も知らない」と主張することから特に問題となる。

次に(2)被害者が送金前に詐欺であることに気づき、いわゆる「だまされたふり作戦」によって詐欺を防止し、受け子が逮捕されることがある。この場合、詐欺が未遂となることが客観的に確定した時点より後に加担した受け子について詐欺未遂罪に問えるのか、という問題がある。

判決・決定の出された年月とは順番が逆になるが、平成30年12月の二つの判決は(1)に関して判断をし、平成29年12月の決定は特に(2)について判断しているので、先に平成30年12月の二つの判決から見て行きたい。
2平成30年の二つの最高裁判決
二つの判決のうち、先に出た平成30年12月11日最高裁第三小法廷判決6 (以下、A判決)では、元同僚から依頼を受けた受け子が、約20回異なるマンションの空室に赴き、都度指定された名宛人に成りすまして、宅配便を受け取ったうえ、回収役に渡していた。受け取るたびに報酬1万円と交通費2,3千円を受け取っていた。また受け子は何らかの犯罪行為に加担していることは認識していたと認めている。このような事実関係の下でA判決は「自己の行為が詐欺に当たるかもしれないと認識しながら荷物を受領したと認められ、詐欺の故意に欠けるところはなく、共犯者との共謀も認められる」とし、高裁の無罪判決を覆した。結果、一審の下した覚せい剤取締法違反の罪(使用・所持)とあわせた懲役4年6ヶ月が確定することになった。

続いて下された、平成30年12月14日最高裁第二小法廷判決 7(以下、B判決)では、受け子が知人の暴力団員から依頼を受け、5,6名分の運転免許証の写しとプリペイド式携帯電話機を渡された上、自宅で別人に成りすまして5回ほど荷物を受け取り、直後に現れたバイク便の男に荷物を渡しそれぞれ5千円から1万円の報酬を受け取った。受け子は荷物の中身について金地金等である可能性があると考えたと供述するほか、詐欺の被害品である可能性を認識したという趣旨の供述もしていた。このような事実関係の下でB判決は「自己の行為が詐欺に当たるかもしれないと認識しながら荷物を受領したと認められ、詐欺の故意に欠けるところはなく、共犯者との共謀も認められる」とA判決と同一文言の判断を下している 。B判決も高裁の無罪判決を覆し、覚せい剤取締法違反とあわせ一審の下した懲役2年6ヶ月が確定することとなった。
 
A判決とB判決を読み解くにあたっては、二つのことを知っておく必要がある。

一つ目は、詐欺という犯罪においては、前述の通り、人をだますという行為がなされたのち、だまされた人が財物を渡し、それを受け取るという行為がなされる必要があるということである。言い換えると、詐欺罪が既遂となるには受け取るという行為が必要となることから、受け子に詐欺の故意があった場合においては、受け子を共同正犯(正犯)と見るべきことが検討されることになる。

そして、受け子のように犯罪行為が行われる流れの中で途中から参加した者を正犯と見る考え方として、いわゆる「承継的共同正犯」論がある。この場合の承継的共同正犯とは、先行者(架け子)が既に詐欺行為の一部(被害者をだます行為)を行った後、後行者(受け子)が事情を知った上で、犯罪行為に途中から参加(金銭の受け取り)することである。後行者には先行者の行為を利用する意図、あるいは少なくとも意思の連絡(共同実行の意思または共謀)が必要となる8

二つ目は、詐欺は故意犯のみを罰することとなっている(刑法第246条)が、いわゆる未必の故意でもよいということである。未必の故意とは、犯罪事実の確定的な認識・予見はないが、その蓋然性を認識・予見している場合である 。蓋然性とは聞きなれない言葉だが、可能性が相当程度高い場合を指す。つまり、詐欺を行っていると確定的に思っていなくとも、おそらく詐欺であろうと思った、あるいは詐欺でも構わないと思っている場合が未必の故意である9

以上から、受け子が、首謀者等から荷物を受け取るべきことおよび受け取りの仕方の指示を受けるなかで、詐欺が行われているのではないか、そして詐欺により送られてくる財物を自分が受け取る役割を負っているのではないかということを確定的でなくても認識したといいうることが、受け子が詐欺の共同正犯に問われるために必要になると考えられる(図表4)。
(図表4)<詐欺の流れ>
 
6 裁判所HP参照。
7 裁判所HP参照。
8 松澤伸「振り込め詐欺を巡る諸問題」早稲田大学社会安全政策研究紀要5号p19参照。
9 山口厚「刑法」[第3版](有斐閣、2016年)p111参照。
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松澤 登 (まつざわ のぼる)

研究・専門分野
保険業法・保険法|企業法務

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