2019年05月20日

欧州大手保険グループの2018年の生保新契約動向-新たな規制・低金利環境下での商品タイプ別・地域別の販売動向・収益性の状況はどうだったのか-

中村 亮一

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1―はじめに

欧州大手保険グループの2018年決算数値が、2月から4月にかけて、投資家向けのプレゼンテーション資料やAnnual Reportの形で公表された。

前回のレポート1では、生命保険事業を中心とした地域別の事業展開の状況について報告した。

新たな規制・低金利環境下で、各社とも貯蓄・年金商品等の伝統的な利率保証付商品から、ユニットリンク型商品や保障・医療商品へのシフトを志向している。こうした状況は、グループ全体として基本的には同じ方向に向かっているが、その実態は地域毎に若干異なっている。これらは、各地域の保険市場や運用市場の状況やそれらを反映した保険商品の収益性等に関係している。

今回のレポートでは、2018年の生命保険事業の新契約業績について、商品タイプ別、地域別の販売動向及び新契約マージン等の数値を通じて、欧州大手保険グループの商品シフトの現状及び収益性の状況を報告する。  

2―欧州大手保険グループ各社の新契約業績動向等

2―欧州大手保険グループ各社の新契約業績動向等

この章では、欧州大手保険グループ各社の生命保険事業について、新契約の年換算保険料(Annual Premium Equivalent :APE)や保険料現在価値(Present Value of New Business Premium:PVNBP)及び新契約価値(New Business Value:NBV)や新契約マージン(New Business margin)の状況等について、商品タイプ別、地域別に報告する。

なお、新契約マージン等の定義については、その分母及び分子の考え方等について各社各様であるが、ここでは各社の公表数値に基づいて報告する2。また、以下の図表は、会社が公表している数値に基づいて、筆者が作成したものである。
 
2 新契約価値(NBV)について、Allianz、Generali、Aviva、Aegon、ZurichはMCEV、AXA、PrudentialはEEVベースである。なお、新契約価値の地域別状況等 については、前回のレポートを適宜参照していただきたい。
1|AXA
(1) 全体の状況3
2018年の新契約価値は、2017年に比べて6.5%(為替レートや範囲等を同一とした「比較ベース」では、1%、以下同様)減少して、26.09億ユーロとなった。

新契約マージン(NBV Margin4)(=新契約価値/新契約保険料現在価値(PVNBP))は、2017年に比べて0.4%ポイント(0.4%ポイント)低下して、3.9%となった。

新契約マージン(NBV margin)(=新契約価値/新契約年換算保険料(APE))は、2017年に比べて3.8%ポイント(4.2%ポイント)低下して、39.3%となった。これは、(1)AXA Franceによる団体医療の販売増加、(2)香港における一般勘定貯蓄商品の販売増加及び保障商品の再設計、(3)特に中国における低金利という不利な投資前提、によると説明されている。

また、2017年に比べて、新契約保険料現在価値(PVNBPは、3.9%(9%)増加して、670.19億ユーロとなり、新契約年換算保険料(APE)は、2.5%(9%)増加して、66.31億ユーロとなった。

なお、新契約IRR(内部収益率)は、2.4%ポイント上昇して、18.7%となった。
生命保険事業の新契約の状況
 
3 ここでの具体的な数値は、(2)以下の図表等も参照していただきたい(以下、同様)。
4 これをそのまま翻訳すると「新契約価値マージン」となるが、ここでは他社に合わせて「新契約マージン」と翻訳している。
(2)新契約年換算保険料の商品タイプ別、地域別内訳
新契約年換算保険料66.31億ユーロの商品タイプ別、地域別内訳は、以下の図表の通りとなっている。

商品タイプ別の内訳は、グループ全体では、保障が34%、医療が18%、一般勘定貯蓄が19%、ユニットリンクが21%、ミューチュアルファンド等が8%であった。

これらの商品タイプ別の構成比は、地域別に大きく異なっており、欧州では保障、医療、一般勘定貯蓄、ユニットリンクがほぼ同程度になっているが、米国ではユニットリンクやミューチュアルファンドが中心、アジアではユニットリンクの構成比は低く、保障が中心になっている。
2018年の新契約年換算保険料(APE)の商品タイプ別、地域別内訳
これをさらに各国別で見てみると、欧州やアジア諸国間でも状況は一律ではなく、それぞれの国の保険市場の特徴が現われた形になっている。
新契約年換算保険各国別
(3)新契約マージン(対APE)の商品タイプ別状況
新契約マージン(対APE)の商品タイプ別状況は、以下の図表の通りとなっている。

年換算保険料について、2010年から2018年にかけては、一般勘定の保障・医療の構成比が31%から52%へと21%ポイントと大きく上昇したが、一般勘定貯蓄の構成比は25%から19%へ6%ポイント低下した。ユニットリンクの構成比は年による変動がかなり大きい。

このような商品シフトを反映して、現在のような低金利下においても、販売や収益への影響を相対的に軽減できる対策を講じてきており、その結果として、全体の新契約マージンは2010年の22%から、2018年の39.3%へと大きく上昇している。
新契約マージン(対年換算保険料)の商品タイプ別j状況
(4) 新契約マージン及びIRR(内部収益率)の地域別状況
新契約マージン及びIRR(内部収益率)の地域別状況は、以下の図表の通りである。

これによれば、日本や香港を初めとするアジアの新契約マージンが相対的に高いものとなっている。欧州ではスペイン、ベルギー、ドイツ、スイスが高い水準となっているが、フランスや米国の水準はグループ全体の水準を下回っている。

なお、IRRについては、(1)フランスにおいて、一般勘定貯蓄の生産性向上やユニットリンクの新契約経費の低下及び団体医療のロスレイショの改善により、2.7%ポイント上昇、(2)スイスで団体生命保険の変更により、資本要件を軽減されたこと及びイタリアで軽資本商品に向けた商品構成が改善したことにより、フランス以外の欧州でも1.3%ポイント上昇、(3)日本における保障商品の生産性向上等で、アジアで1.9%ポイント上昇、したことにより、グループ全体でも、16.3%から2.4%ポイント上昇して、18.7%となった。
新契約マージン(対年換算保険料)及びIRR(内部収益率)の地域別状況
Allianz
(1)全体の状況
2018年の新契約価値は、2017年に比べて10.9%増加して、20.87億ユーロとなった。

新契約マージン(New Business Margin)(=新契約価値/新契約保険料現在価値(PVNBP))は、2017年に比べて0.2%ポイント上昇して、3.6%となった。これは会社の目標水準の3%を大きく超えるものであったとしている。

APEマージン(APE margin)(=新契約価値/新契約年換算保険料(APE))は、2017年に比べて1.6%ポイント上昇して、24.9%となった。

また、新契約保険料現在価値(PVNBP)は5.4%増加して585.16億ユーロとなり、新契約年換算保険料(APE)は3.6%増加して、83.92億ユーロとなった。
生命保険事業の新契約の状況
(2) 新契約マージンの商品タイプ別状況
新契約保険料現在価値(PVNBP)及び新契約マージン(対PVNBP)の商品タイプ別状況は、以下の図表の通りとなっている。

新契約保険料現在価値(PVNBP)の構成比は、保証付貯蓄&年金が18%(2017年は24%、以下同様)、高資本効率商品が42%(36%)、ユニットリンクが26%(26%)、保障&医療が15%(14%)、で、高資本効率商品へのシフトが成功裏に行われてきている。これにより、(保証付貯蓄・年金以外の)高資本効率商品等の会社の優先課題商品のシェアは、2015年の64%から2018年の82%に上昇した。

また、2018年の新契約マージンは、2017年に比べて、保障・医療を除く商品で改善した。
新契約マージンの商品タイプ別状況
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中村 亮一

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