2019年05月10日

続・働く女性の管理職希望-「働くママ3.0世代」は仕事も結婚も子ども望む

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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1――はじめに~働く女性の管理職希望は2割弱。管理職希望への影響が大きい要因は何か?

「働く女性の管理職希望」1では、25~59歳の女性5千人を対象とした定量調査のデータを用いて、働く女性の管理職希望について捉えた。その結果、正規雇用者で管理職でない女性のうち、管理職への興味がある割合は2割弱であった。また、管理職への興味については、年齢や最終学歴、年収をはじめ、いくつかの属性で違いが見られた。

本稿では、働く女性の管理職希望には、どのような属性の影響が大きいのかについて、重回帰分析を用いて分析する。
 
1 久我尚子「働く女性の管理職希望」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート(2019/4/24)
 

2――働く女性の管理職への興味に影響を与える要因

2――働く女性の管理職への興味に影響を与える要因~キャリア志向の強さや子どもがいること、年収の高さ、若い世代であること

本稿では、前稿と同じ定量調査のデータ2を用いて、分析対象は正規雇用者で管理職でない女性とする。分析では、管理職への興味に対する各属性の影響度の違いを見るために、管理職への興味を得点化3して目的変数とし、年齢(25~59歳)や最終学歴4、年収5、母親のライフコース6、未既婚7、子どもの有無8、体力の程度9、働き方や恋愛・結婚についての価値観10を説明変数とする重回帰分析を行った。なお、最終学歴については、前稿で短期大学出身者の管理職への興味が「ない」割合が63.5%と全体の56.5%と比べて高いことが特徴的であった。先の最終学歴を順序尺度に見立てた変数では、この要素を分析することができないため、説明変数に短大卒かどうかを示す短大卒フラグ11も加える。
図表1 各測定値の基礎統計量と相関係数(n=1,118)
図表2 管理職への興味についての重回帰分析結果(n=1,118) 分析において、独立変数間の相関係数は中程度以下であり、多重共線性の問題はないと考えられる(図表1)。なお、変数は強制投入とする。重回帰分析の結果、重決定係数は0.285であり、1%水準で有意な値であった。それぞれの説明変数から目的変数への標準回帰係数を示す(図表2)。図表2より、管理職への興味について5%水準で有意な変数のうち、「業績を評価してもらえるのなら出世したい」や「家族との時間を多少犠牲にせざるを得なくても、仕事で成功したい」といったキャリア重視志向の高さは何よりも正の影響を与える(図表2)。このほか、「女性が高い地位や管理職についてもかまわない」や「女性上司のもとで働くことに抵抗はない」といった女性の権利重視志向の高さや子どもがいること、年収の高さは正の影響を、「経済的な問題などがなければ、あまり働きたくない」や「仕事よりもむしろ、仕事以外のことに生きがいを感じる」といった仕事億劫・割り切り志向の高さや年齢の高さ、「恋愛や結婚は人生で、さほど重要ではない」や「結婚で得られるメリットは少ないと思う」といった恋愛・結婚不要志向の高さは負の影響を与える。

つまり、キャリア形成に積極的な考え方は何よりも管理職への興味を高めており、働くことに消極的な考え方は管理職への興味を低減する。なお、恋愛や家族形成に積極的でないことも管理職への興味を低減するが、例えば、何事においても消極的な考え方をする傾向があると、管理職志向も弱いということなのかもしれない12。また、年齢が低いほど管理職への興味は高まるが、若いほど女性の社会進出が進んでいることに加えて、前稿でも触れたが50代などはキャリア形成の後半に差し掛かり、現状に満足しているために興味が低いこともあるのだろう。

なお、子どもがいることは管理職への興味を高める。前稿にて、子どものいる女性で、管理職への興味がない場合、その理由には仕事と家庭の両立の負担感をあげる割合が高かったため13、子どもがいることは管理職への興味を弱める可能性もあるが(両立の負担感を懸念し管理職になることを躊躇する)、重回帰分析の結果では、子どものいる女性の方が子どものいない女性と比べて管理職への興味が高い傾向がある。この点については年代別の結果もあわせて考察したい。

前述の通り、短大卒では管理職への興味が「ない」割合が高いが、重回帰分析の結果では、短大卒であることは負の影響を与える傾向はあるものの、有意な値ではない。最終学歴というよりも、教育環境をはじめ家庭環境などの様々な要因をあわせて形成される価値観等の影響の方が大きいようだ。
 
2 「女性のライフコースに関する調査」、調査時期は2018年7月、調査対象は25~59 歳の女性、インターネット調査、調査機関は株式会社マクロミル、有効回答5,176。本稿の分析対象は正規雇用者で非管理職、最終学歴がその他以外(n=1,118)。
3 ない=0、どちらともいえない=1、ある=2
4 中学卒=1、高校卒=2、高等専門学校卒=3、専門学校卒=4、短期大学卒=5、大学卒=6、大学院卒=7、その他=8のうち、8以外が分析対象。便宜上、順序尺度に見立てているが、例えば、専門性の高さなどの軸で見ればこの通りではない。
5 収入はない=1、150万円未満=2、150~300万円未満=3、300~500万円未満=4、500~700万円未満=5、700~1,000万円未満=6、1,000万円以上=7
6 専業主婦コース(結婚・退職専業主婦コースをはじめ一連の専業主婦コース)=0、再就職コース=1、両立コース=2、その他=3のうち、3以外が分析対象。
7 未婚=1、既婚=2
8 子どもなし=1、子どもあり=2
9 体力がない方だ=1、どちらかと言えば体力がない方だ=2、どちらともいえない=3、どちらかと言えば体力がある方だ=4、体力がある方だ=5
10 詳細は、久我尚子「子育て世帯の消費実態~女性の働き方による違いに注目して」、一般社団法人社会文化研究センター調査補助事業報告書(平成30年8月)及び付表を参照。働き方についての価値観は女性の権利重視志向や仕事億劫・割り切り志向、キャリア重視志向、やりがい重視志向、安定・保守志向、恋愛・結婚についての価値観は伝統的志向や条件重視志向、恋愛・結婚不要志向、リベラル志向、家庭生活重視志向のそれぞれ5つから成る。
11 1=短期大学卒以外、2=短期大学卒
12 この点については、Big5などの性格尺度を用いた分析を検討中である。
13 子どものいる女性で管理職に興味がない場合、その理由として「現在でも家事や育児などの負担が大きいため、これ以上は体力的に/精神的に無理だから」や「家庭やプライベートとの両立が難しくなるから」の選択割合が全体と比べて高い傾向があった。
 

3――年齢別に見た管理職への興味に影響を与える要因

3――年齢別に見た管理職への興味に影響を与える要因~今の30代は結婚も子どももキャリアも望む

次に、年齢による違いを確認するために年齢階級別に重回帰分析を実施する。説明変数は、25~59歳の女性全体の分析で用いたものと同様とする(年齢のみ除く)。

いずれの分析でも独立変数間の相関係数は中程度以下であり、多重共線性の問題はないと考えられる。重決定係数は、25~29歳の分析では0.362、30~39歳は0.298、40~49歳は0.347、50~59歳は0.220であり、それぞれ1%水準で有意な値であった。

重回帰分析の結果、管理職への興味に対して、全体と同様に、いずれの年齢階級でもキャリア重視志向の高さは正の影響を、仕事億劫・割り切り志向の高さは負の影響を与える(図表3)。さらに、30歳代では子どもがいることや、「結婚した女性/男性にとって、家族と過ごす時間は仕事の成功よりも重要だ」といった家庭生活重視志向の高さは正の影響を、「結婚は30歳くらいまでにすべきだ」や「結婚後は、夫は外で働き、妻は家庭を守るべきだ」といった伝統的志向の高さは負の影響を与える。また、40歳代では短大卒であることは負の影響を与える。

30歳代では家庭を重視する考え方は管理職への興味を高め、「妻は家庭」という伝統的な結婚観は管理職への興味を低減する。かつての結婚観からすれば、両者は相反するのかもしれない。男女雇用機会均等法が制定される前の世代、あるいは均等法世代では、キャリアを望む場合、家庭を持つことはあきらめた女性が多かっただろう。一方で、女性の大学進学率が短大進学率を上回り14、女性の社会進出が進んだ世代では、キャリア形成も家庭を持つことも重視する女性ほど管理職志向は高い。家庭生活を重視することと専業主婦として家庭を守ることは必ずしも同意ではなくなっている。

なお、40歳代でのみ、短大卒であることは管理職への興味を低減させるが、これは、40歳代は比較的、短大卒業後に総合職をサポートする一般職に就く女性が多く、管理職を目指す総合職コースと一般職コースとして、明確にキャリアコースが分かれていた世代であるためだろう。
図表3 管理職への興味についての重回帰分析結果(年齢別)
 
14 文部科学省「学校基本調査」によれば、1996年入学から女性の大学進学率は短大進学率を上回り上昇傾向。
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

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