2019年05月08日

【東南アジア経済】ASEANの貿易統計(5月号)~4ヵ月連続の輸出減、米国向けが鈍化して貿易停滞リスク高まる

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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19年3月のASEAN主要6カ国の輸出(ドル建て、通関ベース)は前年同月比4.1%減(前月:同3.2%減)と低下した(図表1)。輸出の伸び率は昨年前半まで堅調に推移していたが、年後半からは海外経済の減速やITサイクルのピークアウト、米中貿易摩擦、コモディティ価格の下落などを受けて低下傾向で推移、直近4ヵ月は小幅のマイナス成長が続いている。

ASEAN6カ国の仕向け地別の輸出動向を見ると、3月は東アジア向け(同6.7%減)と東南アジア向け(同5.3%減)、EU向け(同4.5%減)がそれぞれ低迷した(図表2)。北米向け(同4.7%増)は2月の一時的な上振れの影響(タイで実施した大規模軍事演習後の武器の出荷)が剥落した後も増加傾向を維持した。もっとも昨年から概ね二桁成長を続けた北米向けの伸び率が一桁台まで鈍化したことにより牽引役不在の厳しい状況に陥る展開も想定され、貿易停滞が長期化する懸念は高まったと言える。
(図表1)ASEAN6カ国の輸出額/(図表2)ASEAN6ヵ国仕向け地別の輸出動向
タイの19年3月の輸出額(ドル建て、通関ベース)は前年同月比4.9%減(前月:同5.9%増)と低下した。輸出は今年2月に大規模軍事訓練後の武器の出荷と貨幣用金が牽引して一時的に急伸したものの、基調としては昨年後半から米中貿易摩擦や世界経済の減速など先行きの不透明感が強まるなかで電子機器を中心に減少傾向にある。一方、輸入額は前年同月比7.6%減(前月:同10.0%減)とマイナス幅が縮小した結果、貿易収支は20.0億ドルの黒字となり、前月から20.3億ドル悪化した(図表3)。

輸出を品目別に見ると、全体の約8割を占める主要工業製品は同6.0%減(前月:同7.5%増)と低下した(図表4)。工業製品の内訳を見ると、自動車・部品(同5.3%増)こそプラスに転じたものの、主力の電子機器(同17.3%減)や家電製品(同5.0%減)、機械・装置(同5.0%減)、石油化学製品(同7.9%減)など幅広い品目が低迷した。また2月の輸出を押し上げたその他製造品(同2.7%増)と非貨幣用金(同0.7%増)は鈍化した。鉱業・燃料は同13.8%減(前月:同1.2%減)と、石油製品を中心に大きく減少した。一方、農産物・加工品は同3.2%増(前月:同0.9%減)と上昇だった。コメ(同7.7%減)は低迷したものの、国際市況が上昇している天然ゴム(同6.5%増)がプラスに転じたほか、ゴム製品(同16.2%増)も一段と拡大した。
(図表3)タイの貿易収支/(図表4)タイ輸出の伸び率(品目別)
ベトナムの19年3月の輸出額(ドル建て、通関ベース)は前年同月比7.2%増(前月:同3.3%減)と上昇した。輸出の伸び率は今年2月に旧正月に伴い営業日数が減少した影響で一時的に減少したものの、牽引役のアパレル関連が堅調に拡大しており、緩やかな増加傾向を維持している。また輸入額も前年同月比11.3%増(前月:同4.5%増)と上昇した結果、貿易収支は16.3億ドルの黒字となり、前月から23.9億ドル改善した(図表5)。

輸出を品目別に見ると、まず輸出全体の約2割を占める電話・部品が同2.3%増(前月:同2.0%増)と小幅に拡大、コンピュータ・電子部品が同23.8%増(前月:同2.5%増)と大きく上昇した(図表6)。アパレル関連では、織物・衣類が同8.8%増(前月:同19.6%減)とプラスに転じたほか、履物が同9.8%増(前月:同2.1%増)と復調した。農産品は、野菜(同13.0%増)と天然ゴム(同25.9%増)が増加する一方、カシューナッツ(同12.3%減)やコーヒー(同26.3%減)、コメ(同11.2%減)などが減少した。

輸出を資本別に見ると、全体の7割を占める外資系企業が同5.5%増(前月:同2.9%減)、地場企業が同11.5%増(前月:同4.2%減)となり、それぞれプラスに転じた。
(図表5)ベトナムの貿易収支/(図表6)ベトナム輸出の伸び率(品目別)
マレーシアの19年3月の輸出額(ドル建て、通関ベース)は前年同月比4.8%減(前月:同9.2%減)とマイナス幅が縮小した。輸出の基調は昨年から主力の電気・電子製品を中心に増加傾向を維持してきたが、年後半からはベース効果の剥落やパーム油の出荷減少により増勢が鈍化、今年1月には石油需要の低迷を受けて2016年10月以来のマイナス圏に突入した。また輸入額も前年同月比4.4%減(前月:同13.1%減)とマイナス幅が縮小した結果、貿易収支は35.2億ドルの黒字と、前月から8.1億ドル黒字が拡大した(図表7)。

輸出を品目別に見ると、全体の約4割を占める機械・輸送用機器は同6.9%減(前月:同1.4%減)と、主力の電気・電子製品(同6.1%減)を中心に低迷した(図表8)。また動植物性油脂(同15.3%減)と化学製品(同3.8%減)が前月に続いて減少した。一方、鉱物性燃料は同0.3%増(前月:同21.9%減)と小幅のプラスとなった。原油(同36.4%減)こそ大幅減となったが、石油製品(同11.2%減)と天然ガス(同12.2%増)がそれぞれ二桁増へ急上昇した。
(図表7)マレーシア貿易収支/(図表8)マレーシア輸出の伸び率(品目別)
インドネシアの19年3月の輸出額(ドル建て、通関ベース)は前年同月比10.0%減(前月:同11.2%減)とマイナス幅が縮小した。輸出は昨年前半までは主力のパーム油やゴム製品、石炭などの資源関連が落ち込むなかでも自動車・同部品を支えに堅調に推移してきたが、昨年後半からは世界的な需要減退と商品価格の下落を背景に鉱産物や機械類が振るわず、直近5ヵ月連続でマイナス成長となっている。また輸入額も前年同月比6.8%減(前月:同13.8%減)と低迷した結果、貿易収支は5.4億ドルの黒字となり、前月から2.1億ドル改善した(図表9)。

輸出を品目別に見ると、全体の9割を占める非石油ガスが同9.2%減(前月:同10.2%減)、石油ガスが同18.3%減(前月:同20.2%減)となり、それぞれ低迷した(図表10)。非石油ガスの内訳をみると、まず輸出全体の7割を占める製造品が同8.1%減(前月:同8.3%減)と低迷した。製造品のうち、有機化学製品(同16.6%増)や紙製品(同3.2%増)がプラスに転じた一方、鉄鋼製品(同27.8%減)が減少、天然・養殖真珠(同5.1%増)が鈍化した。また鉱業品が同15.4%減(前月:同20.8%減)と石炭価格の下落を受けて大幅に減少、農産品も同3.9%減(前月:同0.9%減)と2カ月連続のマイナスとなった。
(図表9)インドネシアの貿易収支/(図表10)インドネシア輸出の伸び率(品目別)
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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

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