2019年05月07日

年金改革ウォッチ 2019年5月号~ポイント解説:老後準備支援の包括化

保険研究部 上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任 中嶋 邦夫

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1 ―― 先月までの動き

働き方の多様化を踏まえた社会保険の対応に関する懇談会では、前回までのヒアリングの結果を踏まえ、今後の適用拡大には十分な検討が必要などの意見が寄せられた。企業年金・個人年金部会では、企業年金のあり方についての総論から、拠出限度額を万円単位にして分かりやすくすべきなどの各論まで、幅広い意見交換が行われた。
 
○社会保障制度の新たな展開を図る政策対話 (社会保障担当参事官室)
4月15日(第3回) 金融関係についてのヒアリング
 URL https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000093476_00003.html (資料)
 
○働き方の多様化を踏まえた社会保険の対応に関する懇談会 (年金局)
4月16日(第5回) 関係団体に対するヒアリング結果等、その他
 URL https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000208525_00009.html (資料)
 
○社会保障審議会  企業年金・個人年金部会
4月22日(第4回) ヒアリング等における主な意見、拠出時・給付時の仕組み
URL https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000204064_00008.html (資料)
 
また、4月16日に、年金広報検討会で紹介された公的年金に関するポータルサイトが開設された。

年金の仕組みや手続きについて調べるための入口として活用できるサイト、となっている。
「わたしとみんなの年金ポータル」 https://www.mhlw.go.jp/nenkinportal/ 
 

2 ―― ポイント解説:老後準備支援の包括化

2 ―― ポイント解説:老後準備支援の包括化

先月の企業年金・個人年金部会では、厚生労働省年金局が所管する私的年金制度の拠出時・給付時の仕組みについて、2018年10月の政府税制調査会での議論も踏まえながら、広範な議論が行われた。本稿では、議論の背景や今後の課題を確認する。
図表1 老後準備支援の諸制度 1|背景:私的年金の役割の変化と支援制度の分立
従来の公的年金制度は基本的に給付水準を維持する仕組みであり、私的年金はゆとりある老後のための上乗せと位置づけられる傾向があった。しかし、公的年金は2004年改正でマクロ経済スライドが導入されて給付水準が低下する仕組みとなったため、現在ではこの低下を補う役割も期待されている*1

その一方で、私的年金などの老後準備を支援する制度は分立しており(図表1)、利便性の悪さだけでなく、個人の働き方や勤務先で享受できる支援が異なることが問題視されている。
図表2 厚労省年金局が所管する制度の拠出限度額 2|当面の課題:企業年金がない会社員への支援充実など
当面の大きな課題は、企業年金がない会社員への支援充実である。勤め先が確定給付型の企業年金を実施していない場合、企業が確定拠出年金を実施する際の拠出限度額は年66万円なのに対して、従業員が個人型の確定拠出年金(iDeCo)に加入する際の拠出限度額は年27.6万円になっている*2。このため、企業年金がない分を自助努力で補おうとする人に対して支援が見劣りする点が、問題視されている。

また、勤め先に確定給付型の企業年金がある場合でも、その企業年金の給付水準と関係なく一律に確定拠出年金の拠出限度額が決まっている点も問題視されている。
 
*2 拠出限度額の水準に関する制度創設時の考え方は、企業型では当時の確定給付型の企業年金(厚生年金基金の上乗せ部分)の望ましい水準を達成できる水準、個人型では厚生年金基金の上乗せ部分に対する企業の実際の拠出額の概ね9割をカバーする水準、であった(企業年金研究会(2008.6.27) 資料1参考資料)。その後、個人型の拠出限度額は、確定給付企業年金や企業型確定拠出年金も含めた拠出額の概ね9割をカバーする水準に変更(引上げ)された。
3|将来の課題:包括的な税制優遇枠と退職一時金への課税方法
将来的な課題は、拠出者が企業か個人かを問わず、かつ確定給付か確定拠出かも問わない、包括的な税制優遇枠の導入である。企業年金がなかったり少なかったりする分を自助努力で補うという機会の公平性の観点をさらに拡大したものであり、カナダと英国で実施中で、日本でも以前から提案されてきた*3。導入への主な課題は、拠出に上限がない確定給付企業年金を取り込むには寛大な優遇枠が必要になるが、寛大な優遇枠はいわゆる「金持ち優遇」になる点である*4

また、退職一時金*5への課税方法も課題である。退職一時金への課税を優遇する根拠は累進課税だが、現行制度の導入時(1959年)等と比べて所得税の累進度は大きく下がっている*5。人々の人生設計に組み込まれているという理由で温存されてきたが、上記の包括的な枠組みとも関係する課題である。
 
*3 例えば、臼杵政治・松浦民恵(2002)「退職給付税制改革に関する試論-働き方に中立で公平な老後準備への優遇策の検討-」『ニッセイ基礎研所報』Vol.25, pp.62-97(※これまでは補論等が欠けたPDF(p.84まで)を弊社ホームページに掲載していましたが、2019年4月24日より補論等を含む全体版(p.97まで)を掲載しています)。
*4 この課題への対応の1つとして、ドイツや英国における補助金や給付付き税額控除のような方法が提案されている。
*5 例えば宮島(2016)は、1/2課税と分離課税を廃止し、退職所得控除での平均課税(総合課税)を提案している。
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保険研究部   上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任

中嶋 邦夫 (なかしま くにお)

研究・専門分野
公的年金財政、年金制度全般、家計貯蓄行動

経歴
  • 【職歴】
     1995年 日本生命保険相互会社入社
     2001年 日本経済研究センター(委託研究生)
     2002年 ニッセイ基礎研究所(現在に至る)
    (2007年 東洋大学大学院経済学研究科博士後期課程修了)

    【社外委員等】
     ・厚生労働省 年金局 年金調査員 (2010~2011年度)
     ・参議院 厚生労働委員会調査室 客員調査員 (2011~2012年度)
     ・厚生労働省 ねんきん定期便・ねんきんネット・年金通帳等に関する検討会 委員 (2011年度)
     ・生命保険経営学会 編集委員 (2014年~)
     ・国家公務員共済組合連合会 資産運用委員会 委員 (2023年度~)

    【加入団体等】
     ・生活経済学会、日本財政学会、ほか
     ・博士(経済学)

(2019年05月07日「保険・年金フォーカス」)

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