2019年04月25日

具体化しつつあるデジタル・プラットフォーマー規制

総合政策研究部 常務理事 チーフエコノミスト・経済研究部 兼任 矢嶋 康次

中村 洋介

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1――着々と進む規制の議論

GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)に代表される、デジタル・プラットフォーマーへの規制に関する議論が進んでいる。2018年12月には、経済産業省、総務省、公正取引委員会が、「プラットフォーマー型ビジネスの台頭に対応したルール整備の基本原則」を策定した。取引慣行の透明性や公正性確保に向けたルールを整備することや、個人情報等のデータと引き換えにサービスを受ける消費者に対して不公正な扱いがあった場合に、独占禁止法上の「優越的地位の濫用」を適用すること等が掲げられている。足もとでは、公正取引委員会による実態調査が進められている他、規制の具体的な姿が示されつつある。本稿では、その最新動向に触れていきたい。
 

2――公正取引委員会によるアンケート調査結果

2――公正取引委員会によるアンケート調査結果

公正取引委員会が、デジタル・プラットフォーマーの取引慣行等について実態調査を進めている。その一環として、オンラインモールやアプリストアを利用する事業者及びデジタル・プラットフォームサービスを利用する消費者に対してアンケート調査を実施し、4月17日にその中間報告を公表した。
1デジタル・プラットフォーマーと事業者(中小企業等)との関係
オンラインモールやアプリストアを利用する事業者へのアンケートでは、その運営者であるデジタル・プラットフォーマーへの不満が浮き彫りになった(図表1)。

例えば、オンラインモールに関しては、規約が一方的に変更されることや検索結果の順位等を決める基準が不透明であることについて不満が示されている。独占禁止法上で禁じられている圧倒的な地位を盾にした「優越的な地位の濫用」や、取引条件の不透明さが論点になりそうだ。また、米国勢と同様に、日本勢に対しても根強い不満があることも分かった。「GAFA規制」という言葉が強調されてきたが、この流れで行けば日本のデジタル・プラットフォーマーに対しても、政府や世の中の風当たりが厳しくなりそうだ。
(図表1)オンラインモール運営事業者の取引実態 に関するアンケート調査(抜粋)
この4月には、公正取引委員会が、日本企業も含めた宿泊予約サイト3社に立ち入り検査に入っている。ホテルや旅館に対し、他の予約サイト等に提示される価格と同等かそれより安い価格を出すよう、いわゆる「最恵国待遇条項」を求めていた疑いがあると報じられている。今後、実態調査等を通じて課題視される日本勢が増えてくる可能性もあるだろう。

2デジタル・プラットフォーマーと消費者との関係
事業者だけでなく、消費者にも不満や懸念の声があることも示唆された(図表2)。

約3分の1が自身の個人情報や利用データに経済的な価値を持っていると思うと回答している。個人情報や利用データを勝手に利用することはやめてほしいという回答も多いが、サービスが便利になるのであれば積極的に活用してほしい、活用されても仕方がないという回答も多い。

そして、個人情報や利用データの収集、利用、管理等について、約75%が懸念ありと回答している。データ収集や情報管理等への懸念が示されている一方、懸念はあるもののサービス利用を止めるほどでもないという回答も多い。また、約15%は具体的に何らかの不利益を受けたと感じたことがあるとの回答だが、約67%は不利益を受けたと感じたことはないと答えている。

巨大プラットフォーマーが圧倒的な市場シェアを持ち、他の競合サービスという選択肢がない中で、自らのデータと引き換えに、サービスを利用せざるを得ない状況に消費者が追い込まれているのであれば問題だ、というのが公正取引委員会のスタンスだ。公正取引委員会は、この調査結果も踏まえつつ、対消費者に対する優越的地位の濫用の適用について、引き続き検討を進めていくとしている。今後、この調査結果がどのように評価されるのか、注目されるところだ。
(図表2)デジタル・プラットフォームサービスの利用者(消費者) に対するアンケート調査(抜粋)

3――規制の具体化に向けた動き

3――規制の具体化に向けた動き

2019年4月24日、デジタル・プラットフォーマーへの規制について検討している経済産業省,公正取引委員会、総務省の検討会1が規制の方向性について案を示した(図表3)。独占禁止法を積極運用すること、及びそれを補完する新たな法律等の規律を導入することが掲げられている。独占禁止法の積極運用については、ガイドラインの制定や強制調査の実施等が案として示された。また、新たな規律としては、規約や運用ルールの一方的な変更、規約や審査基準等の不明確さ、検索結果やランキングの不透明さ等に対応すべく、運営者の開示・明示義務や行為義務・禁止行為等を設けることが案として示されている。新しい規律については、実効性の確保を図るために行政処分等を視野に入れるとともに、対象については差し当たりオンラインモールとアプリストアの運営事業者とする方針が示された。今後の実態調査等によって対象を広げていくことも示唆されている。

あわせて、消費者(利用者)のサービス乗り換えを容易にし、競争を促進するための「データポータビリティ(自由に個人のデータを他のサービスに移せる仕組み)規律も検討される。こちらも、サービスやデジタル・プラットフォーマー、対象となるデータの範囲は一定限定されることが示唆されており、今後より詳細な検討が進められるものと見られる。

規制強化の方針は6月の成長戦略に盛り込まれる予定だ。新しい規律として検討される法案が、早ければ来年の通常国会に提出されるとも報じられている。規制の具体化が着々と進められている状況だ。
(図表3)検討会で示された案(主なもの)
 
1 デジタル・プラットフォーマーを巡る取引環境整備に関する検討会
 

4――イノベーションとのバランス、健全なデータ活用促進に向けて

4――イノベーションとのバランス、健全なデータ活用促進に向けて

経済産業省,公正取引委員会、総務省の検討会による案では、過剰規制でイノベーションを阻害することがないよう、バランスの取れたルール整備の必要性が認識され、言及されている。デジタル・プラットフォーマーを利用する事業者や消費者が不当な扱いを受けたり、個人情報が不適切に利用、管理されたりするのは望ましくない。一方、急速なデジタル化が進む中で、イノベーションが次々と生まれている分野であることも間違いない。データ駆動型社会の実現、日本発プラットフォーマーの育成、世界で戦えるベンチャーの創出等、成長戦略を考える上でもイノベーションとのバランスは重要だ。今回の案では、イノベーション等への配慮から、新たな規律が及ぶ範囲は一定限定されることが示唆されたが、今後規制の対象や範囲を拡大する議論をする上で、過度にイノベーションの芽を摘むことがないよう配慮が求められる

今回の規制の話は、GAFAに限った話ではなく、日本勢にも影響してくる。そして、IT企業だけでなく、今後デジタル領域でのビジネスを拡大していこうと目論む企業であれば、この議論の動向には留意しておく必要があろう。AIやIoT等の先端技術の発展によって、「リアル」と「デジタル」が融合していくことが考えられる。米国のアマゾンは高級食品スーパーマーケット・ホールフーズマーケットを買収し、中国のアリババもスーパーマーケット・フーマーを手掛けている。反対に、日本の製造業や小売業等がリアル領域からデジタル領域に手を広げ、消費者のデータを収集し、活用することで商機を拡大していくことも選択肢の一つになる。モノのシェアリングサービスや、サブスクリプション(定額利用)サービス等でも、それぞれの消費者の好みや利用状況を分析して、最適化されたサービスを提供することが消費者の利便性向上、差別化に繋がる。また、消費者(個人)のデータを活用して、それぞれの興味や関心に合うよう最適化された広告や情報を配信するようなインターネット広告、ウェブマーケティングは、既に多くの企業が活用している。今回の規制は、その情報の集め方や利用、管理の方法について、一石を投じることになる。たとえ、今回の新たな規制の直接的な影響が及ばなかったとしても、新しいビジネスモデルやマーケティングを考える上では、個人情報やプライバシーへの配慮、規制の方向性には留意しておく必要があるだろう。

今夏にまとめられる成長戦略に向け、詳細な検討が進められる。デジタル・プラットフォーマーの取引慣行に関して、透明性や公正性の向上を通じて健全な競争環境が整えられるとともに、イノベーションとのバランス、健全なデータ活用促進にも配慮した議論となることを期待したい。
 
 

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総合政策研究部

矢嶋 康次 (やじま やすひで)

中村 洋介

(2019年04月25日「基礎研レター」)

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