2019年04月22日

データで見る「エリア出生率比較」政策の落とし穴-超少子化社会データ解説-エリアKGI/KPIは「出生率」ではなく「子ども人口実数」

生活研究部 人口動態シニアリサーチャー 天野 馨南子

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3――女性逃避エリアに子ども人口の未来なし

そのエリアをふるさととする子ども人口は前出の通り、
A<エリアの母親候補の数> × B<出生率> = エリアで生まれる子どもの数
で計算される。
繰り返しになるが、この式に男性という文字がないことに注意したい。
 
「そもそも男性がいなければ妊娠しないじゃないか」という議論は間違いない。しかし、2018年の筆者のレポート、初婚・再婚別にみた「年の差婚の今」(上)-未婚少子化データ考- 平成ニッポンの夫婦の姿、そして、初婚・再婚別にみた「年の差婚の今」(下)-未婚少子化データ考-変わり行く2人のカタチ、で示したように、日本の男女の未婚割合には生涯を通して大きな格差があり、50歳時点では、女性の7人に1人程度結婚歴がないのに対して、男性は実に4人に1人程度も結婚歴がない。これは、再婚男性が初婚女性を何度も獲得するという「タイムラグ式の一夫多妻制化」が明確となってきていることが背景にある。
 
つまり、単に親候補となる年齢ゾーンの男女同数をエリアに誘致すればよい、ましてや、昭和・平成と行われてきた男性に仕事を提供する男性誘致産業政策を行えば人口問題は解決するだろう、などという問題ではないのである。男性は人口再生産の主役にはなりえないため、従来どおりの男性誘致産業政策は、一時の打ち上げ花火的な人口増加と税収アップをエリアにもたらしたとしても、ともすると現状でも未婚化の著しい男性の未婚化だけを将来的には進展させ、いわゆる「おひとり様」「孤独死」「介護問題」といった近年顕在化している現象をエリアにおいて促進することにもなりかねない。
 
結局は、どれだけ若い女性を誘致できるかどうかがエリアをふるさととする子ども人口にかかっているのである。
 
参考までに、若い女性が好むエリア考察に関して示唆的なデータとしては、若い女性の専業主婦理想が18%にまで低下しているというデータ、また若い女性が結婚相手に求める条件として、バブル期を代表する勝ち組男性ワード「三高」条件は不人気といったデータなどが挙げられる(図表5、図表6)。
【図表5】 専業主婦を理想のライフコースと回答した18歳~34歳の独身女性割合(%)
【図表6】 20代・30代独身女性「結婚相手に選ぶならどんな人がいいか」
若い女性が生まれた地元と他のエリアを比較した時に、同様の学校、事務・サービス仕事、同じ保育園、同じショッピングモールがもしあるのであれば(それさえもないとなると事態はもっと深刻である)、「理想のライフコースを叶えられる男性がいる、いそうなエリアで暮らしたい」、そんな若い女性の視点を地方政策にもつことが出来なければ、多種多様な地方からの移民を受け入れ続けている「超他民族エリア」東京都に流出していく若い女性を引き止めることは容易ではないだろう。
 

4――おわりに

4――おわりに

母親候補人口流出という状況下において、他のエリアと出生率を比較して上下だけを競うことは、エリア人口問題の解決に意味がないことを本稿では示した。
 
もし、いまだに地方の政策において「いかに出生率を上昇させるか」を少子化対策のKGIやKPIとしているのであれば、それは早急に改めることを人口データは示している。
出生率をKPI、KGIとしても政策に問題がない(もしくは正解)といえるのは、エリア間移民による人口流出を考えなくても良い、全国や東京都においてのみの議論である。
 
これは国際問題で考えればよりわかりやすい。
ある国Xから大量に女性流出が他国へ生じている中で、「しかし、X国は出生率が非常に高い。ゆえに女性に優しい国である。子どもを育てやすい国である」という解釈は難しい。
その国の方針が受け入れられる女性だけがそこに残り、その国に残ることが可能な女性たちだけでフル回転で出産している、ということになる。このような状況でその国の人口の未来が明るいと感じる人はいないだろう。
 
全国からの女性を集める東京都の子ども人口はこの20年程度増加の一途であり(図表7)、2045年の東京都の総人口は2015年よりもわずかに増加する(100%超)との推計である。
【図表7】 1995年からの東京都の子ども人口の増加状況(1000人)
「沈まぬ東京人口」を支えているのは、他でもない、全国各地から流入してきた、男性よりもその奪還を地方に重視されていない(データで見る「東京一極集中」東京と地方の人口の動きを探る(下・流出編)-人口デッドエンド化する東京の姿-参照)、地方で生まれ育った若い女性たちなのである。
【参考文献一覧】

国立社会保障人口問題研究所.「出生動向基本調査」
 
厚生労働省.「人口動態調査」
 
厚生省人口問題研究所(1992)「独身青年層の結婚観と子供感」
 
国立社会保障・人口問題研究所. 「人口統計資料集」2018年版
 
総務省総計局. 「2015年 国勢調査」
 
国立社会保障人口問題研究所.「日本の地域別将来推計人口(平成30(2018)年推計)」
 
天野 馨南子.“データで見る「東京一極集中」東京と地方の人口の動きを探る(上・流入編)-地方の人口流出は阻止されるのか-”ニッセイ基礎研究所「基礎研レポート」2018年8月6日号
 
天野 馨南子.“データで見る「東京一極集中」東京と地方の人口の動きを探る(下・流出編)-人口デッドエンド化する東京の姿-” ニッセイ基礎研究所「基礎研レポート」2018年8月13日号
 
天野 馨南子.“初婚・再婚別にみた「年の差婚の今」(上)-未婚少子化データ考- 平成ニッポンの夫婦の姿” ニッセイ基礎研究所「基礎研レポート」2018年5月14日号
 
天野 馨南子.“初婚・再婚別にみた「年の差婚の今」(下)-未婚少子化データ考-変わり行く2人のカタチ
ニッセイ基礎研究所「基礎研レポート」2018年5月28日号
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生活研究部   人口動態シニアリサーチャー

天野 馨南子 (あまの かなこ)

研究・専門分野
人口動態に関する諸問題-(特に)少子化対策・東京一極集中・女性活躍推進

経歴
  • プロフィール
    1995年:日本生命保険相互会社 入社
    1999年:株式会社ニッセイ基礎研究所 出向

    ・【総務省統計局】「令和7年国勢調査有識者会議」構成員(2021年~)
    ・【こども家庭庁】令和5年度「地域少子化対策に関する調査事業」委員会委員(2023年度)
    ※都道府県委員職は就任順
    ・【富山県】富山県「県政エグゼクティブアドバイザー」(2023年~)
    ・【富山県】富山県「富山県子育て支援・少子化対策県民会議 委員」(2022年~)
    ・【三重県】三重県「人口減少対策有識者会議 有識者委員」(2023年~)
    ・【石川県】石川県「少子化対策アドバイザー」(2023年度)
    ・【高知県】高知県「中山間地域再興ビジョン検討委員会 委員」(2023年~)
    ・【東京商工会議所】東京における少子化対策専門委員会 学識者委員(2023年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する情報発信/普及啓発検討委員会 委員長(2021年~)
    ・【主催研究会】地方女性活性化研究会(2020年~)
    ・【内閣府特命担当大臣(少子化対策)主宰】「少子化社会対策大綱の推進に関する検討会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府男女共同参画局】「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府委託事業】「令和3年度結婚支援ボランティア等育成モデルプログラム開発調査 企画委員会 委員」(内閣府委託事業)(2021年~2022年)
    ・【内閣府】「地域少子化対策重点推進交付金」事業選定審査員(2017年~)
    ・【内閣府】地域少子化対策強化事業の調査研究・効果検証と優良事例調査 企画・分析会議委員(2016年~2017年)
    ・【内閣府特命担当大臣主宰】「結婚の希望を叶える環境整備に向けた企業・団体等の取組に関する検討会」構成メンバー(2016年)
    ・【富山県】富山県成長戦略会議真の幸せ(ウェルビーイング)戦略プロジェクトチーム 少子化対策・子育て支援専門部会委員(2022年~)
    ・【長野県】伊那市新産業技術推進協議会委員/分野:全般(2020年~2021年)
    ・【佐賀県健康福祉部男女参画・こども局こども未来課】子育てし大県“さが”データ活用アドバイザー(2021年~)
    ・【愛媛県松山市「まつやま人口減少対策推進会議」専門部会】結婚支援ビッグデータ・オープンデータ活用研究会メンバー(2017年度~2018年度)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータアドバイザー会議委員(2020年度~)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータ活用研究会委員(2016年度~2019年度)
    ・【中外製薬株式会社】ヒト由来試料を用いた研究に関する倫理委員会 委員(2020年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する意識調査/検討委員会 委員長(2020年~2021年)

    日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)
    日本労務学会 会員
    日本性差医学・医療学会 会員
    日本保険学会 会員
    性差医療情報ネットワーク 会員
    JADPメンタル心理カウンセラー
    JADP上級心理カウンセラー

(2019年04月22日「基礎研レポート」)

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