2019年04月16日

欧州大手保険グループの2018年末SCR比率の状況について(2)-ソルベンシーIIに基づく数値結果報告-

中村 亮一

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6|Aegon    
Aegon は、2017年までは四半期報告を行い、SCR 比率の動向分析についても四半期毎に説明してきていたが、2018 年からは、事業の長期的な性格とコアな投資家と株主の長期的焦点を反映して、四半期毎の報告を取りやめて、半期と年間報告にすることを公表している。

(1)SCR比率の推移
2018 年上期における一時的な要因(米国における商品撤退及び Aegon Ireland の売却完了等により +6%ポイント)の影響によって、2018年上期末のSCR比率が、2017年末の201%から215%に14%ポイ ント上昇していた。下期は、市場の影響(米国株式市場の低下、オランダにおける不利な信用スプレッドの動き)が大きくマイナスに働いたが、好調な事業成績による資本形成もあり、2018年下期のSCR比率の低下が4%ポイントに留まった。結果的に年間を通じては、2018年末のSCR比率は10%ポイント上昇して、211%となった。

モデル&前提変更による影響のうち、上期の▲2%ポイントはUFRの15bps引き下げによるものであり、下期は主としてオランダにおいて、信用モデルの変更等によりSCRが低下したことと、前提変更が自己資本を引き下げたことによるものである。なお、米国の税制改革の影響は、変額年金キャプティブの除去によって相殺されている。2017年には、グループのSCR比率で▲5%ポイント(米国のRBC比率で▲16%ポイント)の影響となるが、2018年以降は毎年1億ドルの資本形成効果があるとしている。
AegonのSCR比率推移の要因
(2)感応度の推移
以下の図表においては、感応度の基準が年度毎にいくつか変更されているので、注意が必要である。

まずは、信用モデルの変更が感応度を増加させたと説明されている。さらに、2017年末に比べて、米国事業を中心に株式の感応度が高くなっている。一方で、金利感応度は低下している。さらに、長寿に対する感応度も低下している。
Aegonの感応度の推移
(参考)Aegonのソルベンシー算出方法及び目標範囲の見直し
Aegonは、2017年において、1) 米国の転換方法の改正、2) オランダの計算方法の修正等、を行うことに加えて、3) 米国のランオフ事業の大部分の売却(SCR比率への影響+ 5%ポイント)、4) Rothesay Part VIIの移転関連(+2%ポイント)等により、2016年末に比べて、SCR比率を44%ポイント上昇させた。これらの詳しい内容等については、保険年金フォーカス「欧州大手保険グループの2017年末SCR比率の状況について(2)-ソルベンシーIIに基づく数値結果報告-」(2018.4.16)及び基礎研レポート「欧州大手保険グループの2018年上期末SCR比率の状況について-ソルベンシーIIに基づく数値結果報告-」(2018.10.1)で報告しているので、これらのレポートを参照していただきたい。

併せて、これらの見直しに基づいて、従来の140~170%のグループソルベンシー比率の目標範囲を150~200%に引き上げた。さらに、ローカルベースでも、オランダ(150~190%)及び英国(145~185%)のソルベンシーII目標範囲の更新を行った。なお、米国のRBCの目標範囲は350~450%となっている。

(3-2)地域別のソルベンシー比率
地域別のソルベンシー比率は、以下の図表の通りとなっている。

オランダでは、税制の変更及びRobidusの買収の影響が反映されており、米国では、税制改革の悪影響や変額年金キャプティブの撤廃による恩恵等の効果が相殺された形になっている。
Aegonの地域別ソルベンシー比率
(3)トピック
Aegonは、2025年末までに、グランドファザー証券3をソルベンシーII対応証券に置き換えることを計画しており、2018年も計画に従って着実に借り換えを進めていく、としていた。具体的には、2018年4月には、ソルベンシーIIの下でTier2資本として適格な劣後債800百万ドルを発行したが、一方で、同じく4月にグランドファザーTier2証券にあたる5.25億ドルの劣後債を償還し、5月にグランドファザーTier1証券にあたる2億ユーロの永久資本証券を償還している。さらに、2017年に発行された5億ユーロの1年シニア無担保債券を償還している。

なお、9月には、米国の2つの会社の合併により、準備金のリリースと分散化効果の結果として、米国のRBC比率に50%ポイント又は10億ドルの一時的な資本形成効果が見込まれる、と公表した。これによるグループのSCR比率への影響は、2018年下期の米国の税制改革の影響で殆ど相殺されるとしていた。また、この合併は、今後10年間の毎年の資本形成には重大な影響はないとしている。
 
3 既得権認容ルール適用証券
7|Zurich
Zurichは、ソルベンシーII制度の対象会社ではないが、ソルベンシーIIに同等と考えられているSST(スイス・ソルベンシー・テスト)による数値と社内の経済ソルベンシー比率であるZ-ECM(Zurich Economic Capital Model)を公表している。Z-ECMはソルベンシーIIやSSTとは異なり、UFRを使用していないことから、EU諸国を親会社としている保険グループと比べて、金利低下の影響をより受けることになる。

(1)Z-ECM比率の推移
引き続き着実な営業利益の計上で資本形成を図ったが、市場の影響がマイナスに働いて、Z-ECM比率は2017年末の132%から2018年末の125%(ただし、+/-5%ポイントの変動の可能性有り)へと7%ポイント低下した。

ZurichのZ-ECMの目標範囲は、AA格付けに相当する100%~120%となっており、2018年末の125%という水準はこの範囲を超えている。Z-ECMがこの範囲に収まっている場合には、リスクテイクや資本調達等の面で何らのアクションも要求されないが、この水準を超える場合には、リスクテイクの増加等の手段を検討するとしている。
ZurichのZ-ECMの必要資本のリスク別内訳/ZurichのZ-ECMの必要資本の事業別内訳/Zurichのソルベンシー比率(Z-ECM)推移の要因
(2)感応度の推移
感応度については、他社とは異なり、業績表示が米ドル建で行われていることから、米ドルの為替レートの影響を含めている。金利に比べて、信用スプレッドによる感応度がかなり高いものになっている。
Z-ECM比率の感応度の推移/SST比率の感応度の推移
(3)トピック
Zurichは、2018年2月に約10億ドルの自社株買いを公表していたが、5月に174万株の自社株買いを完了している。一方で、2018年2月と4月には5億ドルの期限付劣後債を発行し、5月には3.5億豪ドルの優先債務、6月には3.5億スイスフランの優先債務の発行を行っている。

(参考)SST(スイス・ソルベンシー・テスト)について
SSTの報告は年1回であるが、2018年のFCR(Financial Condition Report:財務状況報告書)については、2019年4月30日までに公表されることになっている。ただし、2018年末のSSTはZ-ECMと類似の動きをすると想定されている。

SST比率は2015年末に、規制の変更等により、低下しているが、2016年末の数字に関しても、監督当局であるFINMAとの交渉により、1) 農業者代理人サービス契約に帰する価格の調整、2) 市場リスクと信用リスクの間の分散化効果の引き下げ、3) 準備金リスクの見直し、により、従前ベースの227%のSST比率が204%に低下していた。
 

3―まとめ

3―まとめ

以上、各社のプレス・リリース資料等に基づいて、欧州大手保険グループの2018年末におけるSCR比率の水準等について報告してきた。

2016年1月1日に新たなソルベンシー制度であるソルベンシーIIがスタートして、3 年が経過した。この間も、各社は自社の考え方をベースとしつつも、新たなソルベンシー制度に適切に対応すべく、各社各様の方策で資本管理への対応を行ってきている。

これらの内容については、これまでの四半期毎の報告書や、SFCR(Solvency and Financial Condition Report:ソルベンシー財務状況報告書)において開示や説明がなされてきている。ただし、これまでのレポートで触れてきたように、一般の投資家が理解を深めるにはまだまだ十分とはいえない面があるように思われる。今後5月下旬以降に公表されてくる2018年のSFCR等の開示資料や説明資料において、さらなる工夫・充実が図られていくことを期待したい。

いずれにしても、欧州の大手保険グループのソルベンシーIIを巡る状況やそれへの各種対応については、日本の保険会社にとっても大変参考になるものがあることから、今後とも継続的にウォッチしていくこととしたい。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2019年04月16日「保険・年金フォーカス」)

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