2019年04月16日

欧州大手保険グループの2018年末SCR比率の状況について(2)-ソルベンシーIIに基づく数値結果報告-

中村 亮一

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1―はじめに

欧州大手保険グループの2018年決算発表に伴い、ソルベンシーII制度に基づく各種数値等が開示されている。

前回のレポートでは、欧州大手保険グループのSCR比率の水準等について、全体的な状況を報告したが、今回のレポートでは、各社のSCR比率の推移分析や感応度の推移の状況について報告する。
 

2―各社のSCR比率や感応度の推移

2―各社のSCR比率や感応度の推移

各社とも、2016年1月からのソルベンシーII制度の実施に向けて、SCR比率の充実や感応度の抑制に向けた対応を行ってきていたが、2016年以降も、着実に営業利益を積み上げることに加えて、劣後債の発行等で資本の充実を図ってきている。

なお、以下のSCR比率の推移の要因分解は、各社の公表資料に基づいているが、例えば「経営行動(management action)」に何を含めるのか等が、必ずしも統一されているわけではない。さらには、感応度の対象内容やシナリオも各社各様である。

加えて、要因分解に関する情報提供が行われている時期や感応度の対象時期も必ずしも統一されておらず、各社の考え方に基づいている。

なお、2018年上期末の状況については、基礎研レポート「欧州大手保険グループの2018年上期末SCR比率の状況について-ソルベンシーIIに基づく数値結果報告-」(2018.10.1)で報告しているので、こちらも参考にしていただきたい。
1|AXA
(1)SCR比率の推移
米国での IPO の影響もあり、2018 年上期末の SCR 比率は、2017 年末に比べて、 28%ポイントと大きく上昇して、233%となっていたが、2018年末では、9月のXLグループの買収完了の影響を受けて、12%ポイント低下して、193%となった。なお、XLグループの買収完了の影響はAXA Equitable Holdings Incの、IPO及び売出しによるプラスの経済的影響、取締役会が提案する配当を控除した堅調な営業利益の還元、及び株式市場のリスクを軽減するための経営行動によって一部相殺された、としている。
AXAのSCR比率推移の要因
(2)感応度の推移
金利感応度については、2015年末以降は、ほぼ横ばいとなっていたが、2018年末には、ほぼどの項目に対するものも若干拡大している。
AXAの感応度の推移
(3)トピック
AXAは、2018年に、例えば、以下の資本取引を行うこと等を公表して、効率的な資本管理を行ってきているとしている。

・2018年2月21日 アゼルバイジャンにおける損害保険会社AXA MBask Insurance Company OJSCをMr. Elkhan Garibliに売却する契約を締結すると公表
・2018年2月27日 Maestro Healthの買収の完了を公表
・2018年3月22日 2049年満期の20億ユーロの劣後債の発行を公表
・2018年4月10日 AXAのスイスのグループ生命保険事業を変革すると公表
・2018年4月25日 米国のIPO前のIPO再編取引完了から、AXA S.Aによる32億ドルの受領の公表
・2018年5月14日 AXA Equitable Holdings、Inc.のIPOが正常に完了し、XL Groupの買収資金を確保したことを公表
・2018年8月1日 AXAが欧州の変額年金のキャリアであるAXA Life Europeを独占的に処分することを公表
・2018年9月12日 XLグループの買収の完了及びナンバーワンのグローバル損害保険コマーシャルライン保険プラットフォームの創設を公表
・2018年9月17日 シェアプラン2018の希薄化による影響を排除するためのAXA株式の買戻しの公表
・2018年10月23日 ウクライナでのAXAの事業を売却すると公表
・2018年11月20日 AXA Equitable Holdings、Inc.の発行済普通株式の売買が完了したこと及び関連する自社株買いの公表
・2018年11月26日 AXA Tianpingの残りの50%の株式を取得すると公表
2|Allianz
(1)SCR比率の推移
SCR比率は2018年末に229%で2017年末から横ばいだった。

この要因については、下記の図表及び以下の通りとなっている。

・営業利益による資本形成とビジネス進展による影響が+35%ポイント
・38億ユーロの配当支払いや10億ユーロの自社株買い等の資本管理やEuler Hermesの少数株主分のバイアウトやOLBの売却、Multiasistenciaの買収及び台湾のレガシーブックの売却等の経営行動の影響が▲13%ポイント
・第4四半期における株式市場の低下や金利の低下等の市場の影響が▲6%ポイント
・その他の20億ユーロの税金や11億ユーロの譲渡制限の変更による影響が▲13%ポイント
・規制/モデル変更は、モデルの範囲の変更(標準モデルへのAllianz Ayudhya Assuranceの組み込み)、UFRの削減及びAllianz Lifeでの規制上の自己資本の譲渡制限の導入によるもので、これらによる影響が▲3%ポイント
AllianzのSCR比率推移の要因
(2)感応度の推移
感応度については、2016年末に低下していた株式市場の変動に対する感応度が2017年末には上昇して、2015年末の水準に戻っていた。ただし、2018年は、第4四半期に導入したリスク種類間のクロス効果のモデリングの改善により、金利と信用スプレッドの感応度が改善した、としている。
Allianzの感応度の推移
 (3)トピック
Allianzは、2018年7月2日に10億ユーロの株式買戻しプログラムを公表していたが、プログラムは9月30日までに完了した(Allianzは2018年1月3日から5月3日にかけても20億ユーロの株式買戻しを行っている)。

Allianzは、資本の効率化を推進するために、内部再保険会社を積極的に使用している。具体的には、Allianz SEは、イタリアのAllianz SpA、フランスのAllianz IARD、ベルギーのAllianz Benelux SE、スイスのEuler Hermes Re AGを含む様々なグループ子会社との再保険契約を締結している。これにより、子会社の資本要件を軽減し、グループ間の資本代替性を向上させている。
3|Generali
(1)SCR比率の推移
Generaliは、これまで会社の内部モデルに基づくベースと監督ベースの2つのソルベンシー比率を開示してきたが、内部モデルの承認段階にある会社(オーストリアの医療事業とスペイン)の数が減ったことを受けて、監督ベースと経済的ビューによる差異が縮小したことから、2018年12月31日以降、内部モデルベースの経済的ソルベンシー比率は開示しないこととなった(なお、2018年には内部モデルをオーストリアとスイスに拡大することについて承認を得たことにより、15%ポイントの改善が得られたとしている)。

2018年末のSCR比率は、営業利益の計上による資本形成で+18%ポイント、規制上のモデル変更等により+16%ポイントのプラス効果があったが、一方で市場の変動や社債の償還等で▲17%ポイントの影響があったことから、2017年末の207%から9%ポイント上昇して、216%となった。
GeneraliのSCR比率推移の要因(2014年から2017年は会社の内部モデルベース、2018年は監督ベース)
(2)感応度の推移
感応度については、2018年末は、2017年末と比較して、大きな変化は無い。

なお、Generaliは、これまでUFR(終局フォワードレート)を変化させた場合の影響について開示してきていた。また、変動幅については、毎年見直しを行い、2017年末では「UFRを15bps引き下げた場合」の感応度を示していた。

ただし、UFRの段階的な引き下げの実施を受けて、2018年末ではその数値を開示することを止めている。なお、これまでの開示において、今後のUFRの変動幅の上限である15bpsでの影響が限定的であることが示されていた。
Generaliの感応度の推移(2015年末と2016年末は会社の内部モデル、2017年末からは監督ベース
 (3)トピック
Generaliは、2015年から、国際的な事業展開の最適化を図ることに取り組んでいるが、これまでに、売却による10億ユーロのキャッシュ生成という目標に対して、15億ユーロの水準を達成し、さらに署名ベースでは25億ユーロのキャッシュ生成を達成したとしている。

具体的には、この1年間で、例えば以下の取引を通じて、キャッシュ形成等を行ってきている。

・2018年2月 オランダのGenerali Netherland N.V.のオランダの保険会社 ASRへの売却完了
・2018年4月 パナマ及びコロンビアの事業売却完了 
・2018年4月 ベルギーの事業のAthora Holdingへの売却(2019年1月に完了)
・2018年6月 Generali PanEuropeのLCCG(Life Company Consolidation Group)への売却完了
・2018年7月 Generali Worldwide及びGenerali LinkのLCCGへの売却(2019年3月に完了) 

なお、これらの取引によるグループのSCR比率への影響は、例えば、オランダの事業売却で+1.5%ポイント、ベルギーの事業売却で+2.6%ポイント、Generali Worldwide及びGenerali Linkの売却により+0.9%ポイントであるとしている。

さらに、Generaliは、2018年7月にドイツの生命保険ユニットであるGenerali Leben2をViridium Groupに売却することを表明1している。これにより、金利リスクへのエクスポジャーを大幅に削減し、リスク資本収益率を改善させることができ、SCR比率が2.6%ポイント上昇すると想定している。
 
1 Generali Lebenは、Generali Deutschlandの約4百万の保険契約の責任準備金の約36%を占めている。Generali Deutschlandは、2017年において、ドイツで9.6%の市場シェアを有し、160億ユーロの保険料収入がある。
2 このM&Aについては、ドイツの保険監督当局であるBaFinが、2018年7月6日に、集中的に調査し、保険契約者の保護措置に関する懸念が生じないことを慎重に審査することを表明していたが、2019年4月9日に、徹底的な調査の結果、これを拒絶する根拠はないと結論付け、保険契約者の利益がViridium Groupによって十分に保護されていることを確認したと表明している。
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中村 亮一

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