2019年04月01日

日銀短観(3月調査)~大企業製造業の景況感悪化が鮮明に、設備投資計画はまずまずだが下振れリスク大

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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3.需給・価格判断:内外需給はかなり悪化、価格引き上げの動きも弱まる

(需給判断:内外需給はかなり悪化、先行きも改善は見込まれず)
大企業製造業の国内製商品・サービス需給判断D.I.(需要超過-供給超過)は前回比5ポイント低下、非製造業も1ポイントの低下となった。製造業の海外需給に至っては前回から8ポイントも低下している。内外需給がかなり悪化したことが示されている。

先行きの需給についても総じて改善は見込まれていない。国内需給は製造業で横ばい、非製造業で2ポイントの低下が見込まれている。また、製造業の海外需給は1ポイントの上昇が見込まれているものの、足元の低下分を殆ど埋められないとの見通しだ。

中小企業の国内需給については、製造業が5ポイント低下する一方で、非製造業が1ポイント上昇した。製造業の海外需給は3ポイント低下している。

先行きについては、国内需給は製造業で2ポイント、非製造業で3ポイント低下、製造業の海外需給も3ポイントの低下と、総じて悪化が示されている(図表4)。
(価格判断:販売価格引き上げの動きが弱まる)
大企業製造業の販売価格判断D.I. (上昇-下落)は前回から5ポイント低下、非製造業も1ポイント低下した。製造業のD.I.低下は2四半期連続となる。仕入価格下落が販売価格に反映された影響があるが、需給悪化も販売価格引き上げの逆風になったとみられる。

仕入価格判断D.I.は製造業で7ポイント低下、非製造業では4ポイントの低下となった。この結果、差し引きであるマージンは製造業・非製造業ともにやや改善している。

販売価格判断D.I.の3ヵ月後の先行きは、製造業で3ポイント、非製造業で1ポイントの低下が見込まれている。企業の値上げの動きに活発化の兆しはうかがわれない。一方、仕入価格判断D.I.の先行きは製造業で1ポイントの低下、非製造業で1ポイントの上昇となっていることから、マージンはともに小幅に悪化するとの見通しが示されている(図表5)。
 
中小企業の販売価格判断D.I.は製造業で1ポイント低下したが、非製造業では1ポイント上昇した。一方、仕入価格判断D.I.は製造業で4ポイント低下、非製造業では横ばいであったため、差し引きであるマージンは製造業、非製造業ともにやや改善した。

先行きの販売価格判断D.I.は、製造業、非製造業ともに2ポイント上昇している。しかしながら、仕入価格判断D.I.はそれぞれ3ポイント、5ポイントの上昇が見込まれているため、マージンはともにやや悪化することが見込まれている。
(図表4)製商品需給判断DI(大企業・製造業)・製商品需給判断DI(中小企業・製造業)/(図表5) 仕入・販売価格DI(大企業・製造業)・仕入・販売価格DI(中小企業・製造業)

4.売上・利益計画: 2018年度収益は小幅下方修正、2019年度は増収減益計画に

4.売上・利益計画: 2018年度収益は小幅下方修正、2019年度は増収減益計画に

18 年度収益計画(全規模全産業)は、売上高が前年比2.4%増(前回は2.7%増)、経常利益が1.5%減(前回は0.8%減)となった。売上高・経常利益ともに小幅に下方修正された。例年、企業は年度始に保守的な利益計画を策定したのち、年度末にかけて上方修正していく傾向が強いものの、今回は海外経済減速の影響が下方修正に繋がった形だ。
 
なお、18年度想定為替レート(大企業製造業)は109.50円(上期109.64円、下期109.38円)と、前回(109.41円)からごくわずかな修正に留まっている。ただし、同年度の平均レート(実績)は110.91円とさらに円安であったため、今後6月短観で円安方向に修正される可能性が高い。
 
また、今回から集計・公表された19年度収益計画(全規模全産業)は、売上高が前年比0.8%増、経常利益が0.7%減と、増収減益計画になっている。

経常利益計画はマイナスとなったが、既述のとおり、企業の利益計画は年度始時点では保守的になる傾向が強い。実際、今回の計画は例年の年度始時点と比べると遜色のない水準にある(図表8)。
 
なお、19年度想定為替レート(大企業製造業)も108.87 円(上期108.80円、下期108.93円)と、足下の実勢よりも2円余り円高水準に設定されており、こちらもやや保守的だ。
 
上記のとおり、2019年度計画では、企業収益の大幅な悪化は見込まれていない。ただし、事業環境の先行きが極めて流動的であるため、現段階では具体的な計画に反映しづらかったという面もあるとみられる。
(図表6) 売上高計画
(図表7) 経常利益計画
(図表8) 経常利益計画(全規模・全産業)

5.設備投資・雇用:人手不足感は一服、設備投資計画はまずまず

5.設備投資・雇用:人手不足感は一服、設備投資計画はまずまず

生産・営業用設備判断D.I.(「過剰」-「不足」)は全規模全産業で前回から横ばいの▲5となった。また、雇用人員判断D.I.(「過剰」-「不足」)も前回から横ばいの▲35となり、企業の人手不足感の高まりは一服している。例年12月調査から3月調査にかけては人手不足感が強まる傾向が強いという季節性があるが、今回は、生産の減少やインバウンド需要の鈍化などが人手不足感の抑制に働いたと考えられる。ただし、同D.I.のマイナス幅が記録的な水準を維持していることには変わりがない。
 
上記の結果、需給ギャップの代理変数とされる「短観加重平均D.I.」(設備・雇用の各D.I. を加重平均して算出)も前回から横ばいの▲23.9ポイントとなり、大幅なマイナス(不足超過)が続いている。
 
なお、雇用人員判断D.I.の内訳を見ると、これまで同様だが、製造業(全規模で▲26)よりも、労働集約型産業が多い非製造業(全規模で▲40)で人手不足感が強い。また、企業規模別では、人材調達力や賃金水準の違いによるものとみられるが、中小企業が▲39と大企業の▲23を大幅に下回っている。

人手不足は製造業・非製造業や企業規模を問わず幅広く共有されているが、特に中小企業非製造業において深刻な状況になっている。
 
先行きの見通し(全規模全産業)は、設備判断D.I.で横ばい、雇用判断D.I.で1ポイントの低下が見込まれている。企業の人手の不足感はやや強まるとの見通しが示されているため、「短観加重平均D.I.」も▲24.5ポイントへと若干低下する見込み(図表9,10)。
(図表9) 生産・営業用設備判断と雇用人員判断DI(全規模・全産業)/(図表10) 短観加重平均DI
2018年度の設備投資計画(全規模全産業)は、前回調査において前年比10.4%増へと上方修正され、12 月調査としては2006年度以来の高い伸びとなっていたが、今回調査でも横ばいの10.4%増となり、2005年度以来の高い伸びとなった。

また、今回から新たに調査・公表された2019年度の設備投資計画(全規模全産業)は、2018年度見込み比で2.8%減となった。例年3月調査の段階ではまだ計画が固まっていないことから翌年度計画が前年割れでスタートする傾向があるため、マイナス自体にあまり意味はない。そこで、近年の3月調査との比較が重要になるわけだが、今回の伸び率は概ね例年並み(直近5年平均は3.2%減)となった。確かに昨年3月調査(0.7%減)や一昨年3月調査(1.3%減)における翌年度計画の伸びを下回っているものの、伸び率が目立って低いわけではない。

事業環境の先行きへの警戒感は強いものの、人手不足に伴う省力化需要や依然として高い企業収益水準が下支えとなっている。

しかしながら、事業環境の先行きが極めて流動的であるため、現段階では具体的な計画に反映しづらかったという面もあるとみられる。今後、貿易摩擦や世界経済減速の影響がより顕在化してくれば、設備投資計画の下方修正圧力になる。下振れリスクは依然として高い状況にある。
 
なお、18年度設備投資計画(全規模全産業)は事前の市場予想(QUICK 集計9.0%増、当社予想も9.0%増)を上回る結果であった。また、19年度設備投資計画(全規模全産業)も市場予想(QUICK 集計3.9%減、当社予想も3.9%減)を上回る結果であった。
(図表11) 設備投資計画と研究開発投資計画
(図表12) 設備投資計画(全規模・全産業)
(図表13) 設備投資計画(大企業・全産業)
 
 

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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

(2019年04月01日「Weekly エコノミスト・レター」)

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