2019年03月29日

韓国における無償保育の現状や日本に与えるインプリケーション

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中

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(1) 保育手当
オリニジップを利用する際の助成金は、親保育料と基本保育料、そして緊急保育バウチャーという形で提供されている。基本クラス(1日12時間)に対しては、親保育料と基本保育料が提供され、短時間利用クラス(1日6時間)に対しては親保育料と基本保育料、そして緊急保育バウチャーが提供される。親保育料は、保育手当の対象となる子育て世帯に支給される助成金で、政府が支援する保育料が子育て世帯が自ら銀行に登録・発行した電子カード(アイヘンボック6カード7)に振り込まれると、親は「アイヘンボックカード」から直接保育料を決済する仕組みである。

オリニジップは、国公立オリニジップのように保育教師などに対する人件費を支援している「政府支援施設」と、民間や家庭が運営しているオリニジップのように人件費を支援していない「政府未支援施設」に区分される。「政府支援施設」の場合は、基本的に人件費を助成しており、例えば院長や満0~2歳の児童を担当する教師に対しては人件費の80%が、また、満3~5歳の児童を担当する教師に対しては人件費の30%が国から支給される。

一方、「短時間利用クラス」を利用している子育て世帯に対しては追加的にオリニジップを利用する場合に使える「緊急保育バウチャー」(1ヶ月に15時間)を支給している。
2019年3月現在における年齢別の親保育料(月額)は、「基本クラス」の場合、満0歳が454,000ウォン、満1歳が400,000ウォン、満2歳が331,000ウォン、満3~5歳が220,000ウォンに設定されている(図表6、図表7)。
図表6 保育料の支援内容
図表7 保育料の支援金額(2019年基準)
 
6 子ども幸福という意味の韓国語。
7 2014年まではオリニジップの保育料の支払いには「アイサランカード」、幼稚園の幼児学費の支払いには「アイジュルゴウンカード」が使われていたものの、2015年の1月1日からは2つのカードをまとめた「アイヘンボッカード」でオリニジップと幼稚園の保育料を払うことになった。2014年までに2枚のカードを別々に発行しなければならなかった理由としては、オリニジップは政府の保健福祉部が、幼稚園は教育部が担当しているからである。
(2) 養育手当
養育手当の助成金(月額)は、児童が0~11ヶ月の場合は200,000ウォンが、12~23ヶ月の場合は150,000ウォンが、そして、24ヶ月以上~86ヶ月未満の場合は100,000ウォンが支給される(農漁村養育手当や障がい児童養育手当は別途設定、図表8)。図表8からも分かるように養育手当は保育手当と比べて金額が小さい。
図表8 養育手当の支援金額(2019年基準)

4――オリニジップの利用実態と待機児童の現状

4――オリニジップの利用実態と待機児童の現状

嬰幼児養育支援政策が拡大されることにより、1995年に9,085か所であったオリニジップは、2013年には43,770か所でピークに達した。最近では国公立オリニジップは増加しているものの、社会福祉法人や民間、そして家庭のオリニジップが減少することにより、オリニジップの数は2014年から減少傾向にある(図表9)。全オリニジップの中で、国公立オリニジップが占める割合は1998年の7.2%から2017年には7.9%に増加している。2017年7月に発表された「文在寅政府国政運営5ヶ年計画」では公保育の拡大目標として、国公立オリニジップの利用率を40%まで引き上げることを目標として設定している。
図表9 類型別オリニジップの推移
一方、オリニジップを利用している児童の数は、1998年の55.6万人から2014年には149.7万人まで増加した。しかしながらその後は出生率の低下で新生児数が減少することによりオリニジップを利用している児童の数は毎年減少傾向にある(図表10)。
図表10 類型別オリニジップを利用している児童の推移
韓国保健福祉部と育児政策研究所は、3年ごとに待機児童の実態を調査しており、最近の調査である2015年の調査結果によると、調査対象の中で待機児童(嬰・幼児)がいるオリニジッブの割合は65.0%に達することが明らかになった。これは2009年の35.6%と2012年の64.2%より高い数値である。施設類型別にみた待機児童(嬰・幼児)がいるオリニジッブの割合は、人気が高い国公立オリニジッブの場合が93.4%で、他の施設を大きく上回った。また、大都市と規模が大きいオリニジッブで待機児童(嬰・幼児)割合が高いことが分かった(図表11)。
図表11 待機児童(嬰・幼児)がいるオリニジッブの割合
待機児童が発生する理由としては、「プログラム・運営方式がいいので」が36.8%で最も高く、次いで「国公立と職場の施設を選好するので」(22.6%)、「優秀な教師がいるので」(12.5%)が挙げられた(図表12)。
図表12待機児童が発生する理由
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生活研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

金 明中 (きむ みょんじゅん)

研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
    独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職

    ・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
    ・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
    ・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
    ・2021年~ 専修大学非常勤講師
    ・2021年~ 日本大学非常勤講師
    ・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
    ・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
    ・2024年~ 関東学院大学非常勤講師

    ・2019年  労働政策研究会議準備委員会準備委員
           東アジア経済経営学会理事
    ・2021年  第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員

    【加入団体等】
    ・日本経済学会
    ・日本労務学会
    ・社会政策学会
    ・日本労使関係研究協会
    ・東アジア経済経営学会
    ・現代韓国朝鮮学会
    ・韓国人事管理学会
    ・博士(慶應義塾大学、商学)

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