2019年03月29日

中国経済:景気指標の総点検(2019年春季号)~景気の悪化は一旦止まった模様、経済成長の勢いは横ばいへ!

三尾 幸吉郎

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1.中国経済の概況

(図表-1)実質成長率と消費者物価 2018年の中国経済は、党大会後の債務圧縮(デレバレッジ)による景気下押し圧力と、米中貿易摩擦による先行き不透明感の強まりを背景に、経済成長の勢いが鈍化することとなった。

党大会を控えた2015年、中国は輸出の減少と株価の相次ぐ急落で、景気が失速しそうになっていた。そこで、中国政府はインフラ投資の加速や小型車減税の導入で景気テコ入れを図った。そして、16年後半には景気が持ち直し17年に開催された党大会を無事に迎えた。しかし、インフラ投資を加速させた背後では、債務が膨張することとなった。そこで党大会後の17年冬、中国政府は「金融リスクの確実な防止・解消」に舵を切り、デレバレッジを進めたため、18年に入るとインフラ投資が急減速することとなった。それに追い打ちをかけたのが米中貿易摩擦だった。米中対立が激しさを増す中で、それまで好調だった「中国製造2025」関連の投資にも先行き不透明感が強まり、陰りが見え始めた。そして、1月21日に中国国家統計局が公表した18年第4四半期(10-12月期)の経済成長率は実質で前年比6.4%増と、第3四半期(7-9月期)の同6.5%増を下回り、3四半期連続の減速となった。なお、消費者物価は2%台前半で推移、18年の抑制目標「3%前後」を下回った(図表-1)。
米中貿易摩擦が激しさを増し、景気が悪化する中で、株価は18年1月をピークに下落に転じ、18年秋にはチャイナショック後の安値(2655.66)を割り込んだ。そして、株価の下落は消費者マインドを冷やし、自動車販売は前年割れに落ち込んだ。しかし、18年12月の米中首脳会談を経て、次官級協議から閣僚級協議へと貿易協議が進み始めると株価は反発、足元では3000ポイントの大台を回復した。自動車販売低迷の背景には、株価下落に伴う逆資産効果があっただけに好材料である。また、4月1日からの増値税(付加価値税)引き下げに加えて、米中貿易協議の進展で追加関税が取り消されれば、自動車の販売価格が下がり、販売量は持ち直す可能性がある(図表-2、3)。
(図表-2)上海総合の推移/(図表-3)自動車販売の推移

2.景気10指標の点検

2.景気10指標の点検

【生産面の3指標】
工業生産(実質付加価値ベース)の動きを確認すると、19年1-2月期は前年比5.3%増と18年10-12月期の同5.6%増(推定1)を0.3ポイント下回った。業種別に見ると、米中貿易戦争の激化により「中国製造2025」の先行きに不透明感が浮上し、戦略的新興産業の隆盛に水を差した一方、景気悪化を受けた中国政府の景気対策で、構造不況産業は持ち直した。構造不況業種では粗鋼が前年比9.2%増と高い伸びを示し、セメントも同0.5%増と2年連続の前年割れからプラスに転じた。一方、中国経済の新たな牽引役と期待される業種では、集積回路が前年比15.9%減、工業ロボットが同11.0%減、携帯電話が同12.3%減、自動車が同15.1%減と前年を大きく下回る生産に留まった。但し、例年1-2月期は春節連休の影響で落ち込むため(18年は好調で落ち込みは小さかった)、半導体(シリコン)サイクルの動きを見極めるには、3月の統計を待つ必要がある(図表-4)。

他方、PMIの動きを確認すると、製造業PMI(製造業購買担当者景気指数、中国国家統計局)は、1-2月期平均で49.35%と10-12月期平均(49.87%)を下回った一方、非製造業PMI(非製造業商務活動指数、中国国家統計局)は1-2月期平均で54.5%と10-12月期平均(53.7%)を上回った。したがって、製造業は不振だが、非製造業は堅調と見られる。なお、製造業PMIの詳細をみると、19年2月には同予想指数が56.2%へ上昇(1月は52.5%)したのに加え、新規受注も50.6%と3ヵ月ぶりに50%を上回っており、製造業は底打ちしたのかも知れない(図表-5)。
(図表-4)集積回路(IC)の生産量/(図表-5)製造業PMI
 
1 中国では、統計方法の改定時に新基準で計測した過去の数値を公表しない場合が多く、また1月からの年度累計で公表される統計も多い。本稿では、四半期毎の伸びを見るためなどの目的で、中国国家統計局などが公表したデータを元に推定した数値を掲載している。またその場合には“(推定)”と付して公表された数値と区別している。
【需要面の3指標】
個人消費の代表指標である小売売上高の動きを確認すると、1-2月期は前年比8.2%増と18年10-12月期の同8.1%増(推定)からほぼ横ばいだった。内訳を見ると、日用品や化粧品は伸びを高めたものの、家電や家具の伸びが鈍化した。なお、米中貿易協議の進展を受けて株価は反転上昇したものの、自動車販売の不振は続いている(図表-3)。また、1-2月期の電子商取引(EC、商品とサービス)は、前年比13.6%増とその勢いは鈍ったものの、BAT(百度、阿里巴巴、騰訊)などプラットフォーマーが新たな消費を生み出す流れを背景に、全体を上回る2桁増を維持した。

次に、投資の代表指標である固定資産投資(除く農家の投資)の動きを確認すると、1-2月期は前年比6.1%増と前期(10-12月期)の同7.4%増(推定)を下回った。内訳を見ると、不動産開発投資は前年比11.6%増と前期の同8.3%増(推定)を上回ったものの、製造業が同5.9%増と前期の同11.9%増(推定)を下回り、インフラ投資も同4.3%増と前期の伸びをやや下回った(図表-6)。

一方、もうひとつの経済の柱である輸出(ドルベース)の動きを確認すると、1-2月期は前年比4.6%減と18年10-12月期の同3.9%増からマイナスに転じた。輸出先行指標となる新規輸出受注は9ヵ月連続で50%を割り込んでおり、また昨年は米国が中国製品に制裁関税を課したことを背景に、関税引き上げ前の駆け込み需要が中国の輸出を押し上げていた面があり、19年はその反動減も加わってくるだろう。輸出の先行きは楽観できない状況となっている(図表-7)。
(図表-6)固定資産投資(農家の投資を除く)/(図表-7)新規輸出受注指数の推移
(図表-8)社会融資総量の推移 【その他の重要な4指標】
電力消費量の動きをみると、1-2月期は前年比4.5%増と10-12月期の同7.3%増(推定)を2.8ポイント下回った。特に工業部門が同1.0%増と低い伸びに留まった。また、貨物輸送量は前年比4.6%増と10-12月期の同7.4%増(推定)を下回った。輸送手段別にみると、水路貨物は同7.8%増と高い伸びを示したものの、鉄道貨物、道路貨物、航空貨物が前期の伸びを下回った。また、工業生産者出荷価格の動きをみると、ここもと18年6月の前年比4.7%上昇をピークに低下傾向が続いており、19年2月は前年比0.1%上昇に留まった。内訳をみると、生産財は同0.1%下落となったが、消費財は同0.8%上昇と小幅ながら上昇している。他方、金融面の代表指標である通貨供給量(M2)を見ると、19年2月は前年比8.0%増と低い伸びが続いた。但し、中国人民銀行が預金準備率を引き下げるなど金融を緩和気味に調整したことを受けて、社会融資総量は18年12月の前年比9.8%増をボトムにやや伸びを高め、19年2月は同10.1%増となった(図表-8)。
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三尾 幸吉郎

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