2019年03月28日

平成の労働市場を振り返る~働き方はどのように変わったのか~

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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図表23 パートタイム労働者、派遣労働者の雇用契約期間 4失業化率が高い非正規雇用
雇用の非正規化は、労働市場全体の雇用を不安定化させる可能性がある。一般的に、非正規雇用は正規雇用に比べて契約期間が短い。たとえば、厚生労働省の「派遣労働者実態調査(2017年)」によれば、派遣労働者の契約期間は3ヵ月以下が全体の5割以上、1年以下が9割以上を占めている。また、厚生労働省の「パートタイム労働者総合実態調査(2016年)」によれば、パートタイム労働者の67.5%が「雇用期間の定めがある」となっている。雇用期間の定めがあるパートタイム労働者の中では、雇用契約期間「12ヵ月」が42.3%と最も多く、それに続くのが「6ヵ月」の29.3%となっている(図表23)。パートタイム労働者の平均雇用契約期間は9.6ヵ月である。
非正規雇用比率の上昇は労働者の平均雇用期間の短縮化につながり、雇用情勢が悪化した場合の雇用調整をより厳しいものとする可能性がある。「労働力調査(詳細集計)」では、過去1年間の離職者について前職の雇用形態が調査されている。そこで、雇用形態別の雇用者数に対する、その雇用形態から過去1年間に失業した者の割合を、雇用形態別の「失業化率」、同様に過去1年間に非労働力化した者の割合を、雇用形態別の「非労働力化率」として計算した。

正規雇用の失業化率、非労働力化率はともに低水準で安定している。正規雇用の失業化率は、リーマン・ショック後の2009年には一時3%まで上昇する局面もあったが、近年は概ね1%程度で推移している。また、正規雇用の非労働力化率は概ね1%台の低水準で推移しており、足もとでは1%を割り込む水準となっている。
図表24 雇用形態別失業化率 これに対し、非正規雇用の失業化率は正規雇用を大きく上回っている。雇用情勢が最も厳しかった2009年にはパートタイム労働者の失業化率は5%台、派遣社員の失業化率は20%台まで跳ね上がった(図表24)。
図表25 雇用形態別非労働力化率 派遣社員は契約期間が短いため、雇用情勢が悪化した場合には契約期間の満了とともに職を失いやすい。非労働力化率についても、非正規雇用は正規雇用よりも大幅に高くなっているが、パートタイム労働者のほうが派遣社員よりも水準が高い傾向がある(図表25)。

パートタイム労働者の場合には、離職した後に職探しをせずに非労働力化する者が多いのに対し、派遣社員の場合には契約期間が終了した場合でも派遣会社に登録を続け、次の派遣先を待つケース(求職活動をしているため失業者となる)が多いことが推測される。このことが派遣社員の失業化率が高い理由のひとつだろう。いずれにしても、パートタイム労働者、派遣社員などの非正規雇用は、失業化率、非労働力化率が高く、正規雇用に比べて安定性に欠ける雇用形態とみることができる。
 

4――潜在的な労働力の活用が重要

4――潜在的な労働力の活用が重要

ここまで見てきたように、平成30年間の就業者数増加の主役は女性、高齢者、非正規雇用であったが、このような傾向は今後も続く可能性が高い。

生産年齢人口が1995年をピークに20年以上にわたって減少する中でも、平成の終わりにかけて就業者数が増加を続けたのは、景気回復の長期化によって雇用情勢が大きく改善したことに加え、それまで就業を希望しているにもかかわらず様々な理由で求職活動を行わないために非労働力化していた者(以下、潜在労働力人口)の多くが労働市場に参入するようになったためである。
図表26 労働力人口と潜在労働力人口の関係 潜在労働力人口は、「労働力調査(詳細集計)」が開始された2002年の529万人から2018年には331万人(▲198万人)まで減少し、この間に労働力人口は6689万人から6830万人(+141万人)へと増加した(図表26)。女性、高齢者の労働力率が大きく上昇しなければ、人口減少、高齢化の影響で労働力人口は大幅に減少していたはずである。
図表27 年齢階級別潜在労働力人口(2018年) 先行きについても、潜在的な労働力の掘り起こしによって人手不足のさらなる深刻化を回避することは可能と考えられる。2018年の潜在労働力人口(331万人)は完全失業者(166万人)の2倍の水準となっている。男女別には、男性の93万人に対して、女性が237万人と女性が男性の2倍以上、年齢階級別には、女性は25~44歳が、男性は高齢層の潜在労働力人口が多い(図表27)。

人口減少、高齢化が進む中で労働力人口を増やすための近道は、現在非労働力化している女性、高齢者が新たに労働市場に参入することだ。
図表28 非求職理由、希望している仕事の形態別の潜在労働力人口 潜在労働力の非求職理由を見ると、男性は「適当な仕事がありそうにない」が最も多く、「健康上の理由のため」がそれに続いている。女性は「出産、育児のため」が最も多く、「適当な仕事がありそうにない」がそれに続いている(図表28)。近年は介護・看護のために職探しをあきらめる者の割合も高まっている。潜在的な労働力を活用するためには、景気回復の持続によって労働需要の強さを維持するとともに、育児と仕事、介護と仕事の両立を可能とするような社会基盤の整備を進めることが重要だ。また、就業意欲の高い高齢者がより長く働くことができるようにするため、企業は健康経営に重点を置くことが求められる。

潜在労働力の希望している仕事を雇用形態別にみると、男女ともに非正規が正規を大きく上回っており、女性は雇われてする仕事の8割以上が非正規となっている(図表28)。今後新たに労働市場に参入する者の多くが非正規となることが想定される。日本では、非正規労働者と正規労働者の待遇格差の大きさが指摘されることが多いが、雇用の非正規化がさらに進む中では、同一労働同一賃金を徹底することの重要性はより高いものとなるだろう。

また、現在は労働市場が非常に良好な状態にあるが、雇用の安定性に欠ける非正規雇用の割合が高まる中で景気が悪化した場合には、従来よりも速いペースで雇用調整が進む可能性がある。雇用情勢の悪化に備えて雇用保険の拡充など非正規労働者に対するセーフティーネットを強化しておく必要がある。政府は非正規労働者の雇用保険の適用範囲の拡大を段階的に行っているが、非正規化の進展に合わせて一段の要件緩和も検討に値するだろう。

さらなる増加が予想される女性、高齢者、非正規雇用は相対的に労働時間が短い傾向がある。政府が推進する働き方改革の影響もあり、労働時間の減少ペースは今後加速することが見込まれる。こうした中で日本経済全体の付加価値を高めるためには、一人当たりの生産性を向上させることがこれまで以上に重要となることは言うまでもない。
 
 

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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

(2019年03月28日「基礎研レポート」)

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