2019年03月13日

韓国の合計特殊出生率、ついに1を切る

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中

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1――はじめに

韓国の出生率がついに1を切った。韓国統計庁が2019年2月27日に発表した「2018年出生・死亡統計(暫定)」1では、2018年の合計特殊出生率(一人の女性が一生に産む子供の平均数、以下、出生率)が2017年の1.05を下回る0.98まで低下すると予想した。出生率が1を下回ることは関連統計を発表してから初めてだ。
 
1 「2018年人口統計調査出生・死亡統計(暫定)結果」は、2018年1月から2019年1月までに申告された実際の出生・死亡件数と追加的に申告されることが予想される遅延申告分を推定して集計・分析した結果である。確定値は2019年9月に発表される予定である。
 

2――出生率の現状

2――出生率の現状

韓国が直面している最大の課題の一つが「少子化」である。韓国政府は少子化の問題を解決するために、2006年から「セロマジプラン」という少子高齢化対策を実施し、10年間にわたり、莫大な予算を投入したものの、2006年に1.12であった出生率は2017年にはむしろ1.05まで低下した。さらに、「2018年出生・死亡統計(暫定)」によると、韓国の2018年の出生率は0.98まで低下することが予想されている(図表1)。

韓国統計庁の将来出生率推計(低位)では、韓国の人口減少時点を2028年と予想しているものの、すでに出生率は低位基準を下回っていることを考慮すると、人口減少の時点はより早くなる可能性が高い2
図表1 韓国における最新の出生児数と出生率の動向
出生児数は、1970年の102.5万人をピークに減り続け、2002年には49.7万人まで、さらに2018年には32.7万人まで減少した。一方、死亡者数は高齢化の進化と共に増え続け2018年には29.9万人で、死亡関連統計を作成し始めた1983年以降最大値となった(図表2)。出生児数から死亡者数を差し引いた人口の自然増加数は2.8万人で(1970年以降最低値)、ソウル市(1.3万人増)、京畿道(2.8万人増)等9つの広域自治団体の人口は自然増加したことに比べて、慶尚北道(6千人減), 全羅南道(6千人減)等8つの広域自治団体の人口は自然減少した。
図表2 韓国における出生児数と死亡者数の推移
地域別出生率は、世宗特別市が1.57で最も高く、次は全羅南道(1.24)、済州特別自治道(1.22)の順であった。一方、ソウル特別市(0.76)と釜山広域市(0.90)、そして大田広域市(0.95)、光州広域市(0.97)、大邱広域市(0.99)のような大都市の出生率は1を下回った(図表3)。
図表3 地域別出生率(2018年暫定値)
第1子出産時の母親の平均年齢は31.9歳で2015年調査の31.2歳と比べて0.7歳も高くなった。また、母親の年齢階級別出生児数は40代を除いてすべての年齢階級で減少した(図表4)。
図表4母親の平均出産年齢および年齢階級別出生児数(2018年暫定値)
 
2 韓国の国会立法調査処は、2014年8月22日に、今後、出生率が2013年の出生率1.19のままなら、2014年時点で5075万人(将来人口推計)である韓国の人口は、2056年に4000万人になり、2100年には2000万人へと半減すると予想した。また、2136年には1000万人まで人口が減り、2256年には100万人に人口が急減し、少子化が改善されない場合、韓国は2750年には消滅すると予測している。
 

3――結びに代えて

3――結びに代えて

韓国における少子化の原因は様々であるものの、最近は未婚化や晩婚化が大きな影響を与えている。しかしながら、韓国政府の少子化対策は、出産奨励金、保育費、育児費の支援、教育インフラの構築など主に結婚した世帯に対する所得支援政策に偏っている。韓国政府がこのような少子化対策を実施したことにより結婚した世帯の出生率は少し改善され、子育て世帯も少しは経済的に助けられたと思う。一方、未婚化や晩婚化の進展は全体の出生率を引き下げている要因になっている。従って、今後は未婚化や晩婚化を改善する対策により力を入れるべきであり、何よりも雇用の安定性を高める必要がある。特に、男女間における賃金格差、出産や育児による経歴断絶、女性の昇進におけるガラスの天井など結婚を妨げる問題を改善し、女性がより安心して長く労働市場に参加できる環境を作ることが大事だと思う。OECD諸国の中で最も低い出生率をどうすれば改善できるのか速やかで持続的な対策が必要である。
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生活研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

金 明中 (きむ みょんじゅん)

研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
    独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職

    ・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
    ・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
    ・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
    ・2021年~ 専修大学非常勤講師
    ・2021年~ 日本大学非常勤講師
    ・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
    ・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
    ・2024年~ 関東学院大学非常勤講師

    ・2019年  労働政策研究会議準備委員会準備委員
           東アジア経済経営学会理事
    ・2021年  第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員

    【加入団体等】
    ・日本経済学会
    ・日本労務学会
    ・社会政策学会
    ・日本労使関係研究協会
    ・東アジア経済経営学会
    ・現代韓国朝鮮学会
    ・韓国人事管理学会
    ・博士(慶應義塾大学、商学)

(2019年03月13日「基礎研レター」)

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