2019年03月12日

平成における消費者の変容(2)-高まる女性の消費力とその課題~「おひとりさま」「ママでもキレイ」「パワーカップル」消費の登場と就業継続の壁

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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1――はじめに~平成は働く女性が増え、女性の経済力が増した時代

変わる家族の形と消費~平成における消費者の変容(1)1でも述べたが、子育て世帯では共働きが過半数を超えて、働く女性が増えている。長らく続いた景気低迷の中で夫の収入が減少したために家計を支えるという経済的な理由もあるが、女性の社会進出がさらに進んだ影響もある。平成は男性と同じように進学し、男性と同じように働く女性が増えた時代だ。外で働く女性が増え、女性の経済力が増すことで、これまでにはなかったような消費行動もあらわれた。未婚化の進行で「おひとりさま」市場が広がりを見せるとともに、結婚後や出産後も家族のための消費だけでなく、ファッションなどの自分のための消費も楽しむ女性が増えている。また、共働き世帯では妻が夫並みに稼ぐ「パワーカップル」の存在感が増し、都心の高額マンション市場の牽引役としても注目を集めている。
図表1 年収階級別に見た男女単身勤労者世帯の消費性向 女性の経済力が増すことで消費市場は底上げされる可能性がある。男女の消費性向を年収階級別に比べると、おおむねいずれの階級でも女性が男性を上回る(図表1)。つまり、同じだけお金を持っていれば女性の方が多く使うということだ。

一方で、女性の就労環境には依然として課題は多い。家庭との両立の困難さなどから、就業希望があっても働くことができていない女性は、人手不足の中でも約300万人も存在する。

本稿では「平成における消費者の変容」の第二弾として、「女性」に注目して暮らしや消費の変化を捉えるとともに、女性の消費をさらに活性化させるための課題を述べたい。
 
1 久我尚子「変わる家族の形と消費~平成における消費者の変容(1)」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レター(2019/3/4)
 

2――女性の就業環境の変化と高まる大学進学率

2――女性の就業環境の変化と高まる大学進学率~消えゆく「女の子だから短大」「寿退社」という価値観

平成の特にはじめの10年は、女性の就業環境に大きな変化があった時期だ。バブル景気とともにはじまった平成だが、すぐにバブルは崩壊し就職氷河期が到来した。さらに、平成7年(1995年)にWindows95が発売されオフィスのIT化が急速に進み、1990年代後半には「労働者派遣法」の改正が続いたことで、女性で多い一般事務職の採用は特に絞られていった。

「労働者派遣法」の適用対象は、1986年の施行当初はソフトウェア開発や通訳、秘書等の専門知識を要する13業務であり、正社員の業務を代替するおそれの少ないものが意図されていた。しかし、1996年の改正で対象業務は26業務に拡大され、1999年には原則自由化された。このような中で企業の一般事務職は派遣スタッフに代替されるようになった。

一方で、平成のはじめは、女性の就労環境の整備が進んだ時期でもある。1997年の「男女雇用機会均等法」の改正では、これまでは努力義務だった職業の募集・採用、配置・昇進などについて男女差別が全面的に禁止されるようになった。看護婦は看護師、保母は保育士と名称が改められるようになったのもこのタイミングだ。

女性の社会進出が進む中で、1991年には「育児休業法」が成立した。育児休業を理由に労働者を解雇することが禁止され、時間短縮勤務などの努力義務も盛り込まれた。1995年には介護休業制度も創設され、名称は「育児・介護休業法」に改められた。さらに、育児や介護を行う労働者の時間外労働の規制や育休期間の延長が定められ、2016年の改正では、就職氷河期世代を中心に増えている非正規雇用者の育休取得要件が緩和された。
図表2 大学進学率・短大進学率の推移 就労の面で進んだ男女平等は、教育の面でも広がった。女子のみの必修科目であった家庭科が、1993年度から中学校で、1994年度から高等学校で男女共修となった。つまり、現在のおおむね30代以下の世代は男女とも家庭科を学んでいることになる。

これらの社会環境の変化を背景に、1996年から女性の大学進学率は短大進学率を上回り、男性に追随するようになっている(図表2)。1996年入学は今年43歳(現役入学)を迎える年代だ。つまり、女子も大学進学世代は男子も家庭科必修世代とおおむね同年代ということになる。

男女が肩を並べて学び、肩を並べて働くことが自然となる中で、昭和の時代に存在した「女の子だから成績が良くても短大」「寿退社」という価値観は消えつつある。現在では結婚後も9割の女性が仕事を続けている2
 
2 国立社会保障人口問題研究所「第15回出生動向基本調査(2015年)」より、2010~2014年に結婚した女性のうち、結婚前に就業していて結婚後も就業継続している割合は89.8%。
 

3――未婚化の進行と「おひとりさま」消費

3――未婚化の進行と「おひとりさま」消費

1未婚化の進行~30代後半の女性の4分の1が未婚、7人に1人は「おひとりさま」の世の中へ
平成は社会環境が変化し、女性の生き方が多様化した時代だ。昭和の時代は皆同じような年齢で結婚や出産をしていたが、平成は未婚化が進行し「おひとりさま」という言葉が浸透していった。かつては30代後半ともなると結婚していることが当たり前だっただろうが、2015年では男性35.0%、女性23.9%が未婚であり、決して少数派ではない(図表3)。なお、2010年頃から20~30代の未婚率は頭打ちとなっているが、40代の未婚率は未だ上昇傾向にある。生涯未婚率は2015年で男性23.4%、女性14.1%となり、現在の日本では男性の4人に1人、女性の7人に1人が結婚をしなくなっている。
図表3 未婚率の推移
2「おひとりさま」消費~「ひとり○○」サービスの広がり、レジャー(コト消費)も「おひとりさま」で
「おひとりさま」の存在感が増す中で、消費市場にも変化があらわれている。前稿で示した通り、単身世帯が増えることで、カレーやコーヒー、野菜をはじめ従来商品のコンパクト化が進んでいるが、モノだけでなくレジャーなどのコト消費でも、「おひとりさま」向けのものが広がっている。

かつて、女性の一人旅は敬遠された時代もあったが、今では全くめずらしいものではない3。また、数年前から「ひとりカラオケ」や「ひとり焼肉」というサービスも耳にするようになった。これまでは複数人で楽しむ印象の強かったコトでも、現在では1人で楽しめる環境が広がり、世間的にも認知されつつあるようだ。

ひとりでもレジャーを楽しめるという流れは、スマートフォンやSNSが加速させている部分もあるだろう。SNSでは共通の趣味を持った他人と簡単に繋がることができる。例えば、インスタグラムでは「#○○好きさんとつながりたい」というハッシュタグが使われており、この「○○」には自分の好きなものや趣味が入る。好きな芸能人の名前を入れるとファン同士でつながることができ、約束をして一緒にコンサートなどへ行ったりすることもあるようだ。これは、必ずしも独身の「おひとりさま」に限らないが、SNSによってひとりでも気軽に参加できる環境は広がっている。
 
3 例えば、現在、「楽天トラベル」や「じゃらんnet」などで「おひとりさま」と検索すると、300件以上の件数があがる。
 

4――M字カーブの底上げと妻・母の消費行動の変化

4――M字カーブの底上げと妻・母の消費行動の変化

図表4 女性の労働力率の変化 1M字カーブの底上げ~最近の底上げ要因は未婚化ではなく既婚女性の労働力上昇による影響
働く女性が増え、M字カーブの底上げが進んでいる(図表4)。2001年~2016年までの15年間のM字カーブの上昇要因を分析したところ4、2001~2006年では未婚化の影響が大きく、30歳代の労働力率上昇の半分程度が未婚化によるものであった。しかし、2006年以降は未婚化の影響は弱まり、既婚女性の労働力率の上昇による影響が強まっている。その結果、2012年~2016年におけるM字カーブの上昇には未婚化による影響はほぼ見られなくなり、主に既婚女性の労働力率上昇によるものとなっている。
 
4 久我尚子「『M字カーブ』底上げの要因分解」ニッセイ基礎研究所、基礎研レター(2017/12/21)
2妻・母の消費行動の変化~家族のための消費も自分のための消費も、「ママでもキレイ」は当たり前
結婚後も出産後も外で働く女性が増えることで、女性の消費にも変化があらわれている。ひと昔前は、妻や母が独身時代のようにファッションやネイルなどを楽しんでいると、世間から白い目を向けられる風潮もあっただろう。しかし、現在では結婚後も出産後も独身時代に楽しんでいたファッションや趣味を楽しむ女性が増えているようだ。

当研究所の調査より、20~40代の働く女性の「日常生活でお金をかけたいもの」をライフステージ別に見ると、独身女性では1位の「国内旅行」から10位「音楽」まで主に自分のためのものが並び、妻になると「投資」が、母になると「子供の教育」や「ローンの返済」、「医療」など家族のためのものがあがる(図表5)。しかし、「国内旅行」や「貯蓄」、「外食(グルメ)」、「海外旅行」、「健康・リラックス」、「ファッション」の6つはライフステージが変化しても10位以内を保ったままだ。ライフステージの変化とともに、同じ消費項目でも消費主体は自分から家族の比重が高まるのだろうが、今の母達においては、特に「ファッション」などは自分の比重が高いままなのではないだろうか。
図表5 20~40代の働く女性が日常生活でお金をかけているもの(3つまで選択)
その様子は女性ファッション誌の創刊年表を見るとよく分かる。1980年代では女性ファッション誌は主に女子大生や若いOL向けのものしかなかったが、1990年代に入ると主婦向けのものが発行されるようになった。さらに、2000年代には母向けのものがオフィスで働くワーキングマザー向けやカジュアルファッションを好む母向けなど、母のタイプ別に細分化されるようになった(図表6)。また、ワーキングマザーが増える中で、これまでキャリアOL向けだった雑誌でも方針転換したものもある。

今では出産後もファッションを楽しむことは世間から白い目を向けられることではなくなり、「ママでもキレイ」が当たり前になりつつある。確かに母になると「家族のための消費」が増えるが、今の母はファッションなど「自分のための消費」にも意欲的だ。既婚女性の就業率は上昇傾向にあり、働く母市場は消費者層としての魅力を増している。
図表6 主な女性ファッション誌の創刊年表
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

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