2019年03月11日

オーストラリア経済の見通し-減速する豪州経済。選挙後の政策効果による下支えに期待。

神戸 雄堂

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1――経済概況・見通し

(経済概況)  10-12月期の実質GDP成長率は前期比0.2%増。3四半期連続で伸びが鈍化
 
3月6日、オーストラリア統計局(ABS)は、2018年10-12月期のGDP統計を公表した。1-3月期の実質GDP成長率は前期比0.2%増(季節調整済系列)と、1991年から続いている景気拡大の世界最長記録1をさらに更新したが、3四半期連続で伸びが鈍化した。2018年の実質GDP成長率は前年比2.7%増と2017年の同2.4%増を上回った。
(図表1)【需要項目別】実質GDP成長率(季節調整済系列)の推移 需要項目別に見ると、外需の前期比成長率寄与度がマイナスに転じ、内需では消費が好調である一方で、民間部門の投資(民間固定資本形成)が弱含んでいる(図表1)。

GDPの約6割を占める民間消費は前期比0.4%増と前期の同0.3%増からやや加速した。政府消費も同1.8%増と前期の同1.2%増からさらに加速した。

前期から加速した消費に対して、総固定資本形成(投資)は前期比1.0%減と4四半期ぶりにマイナス成長に転じた。内訳を見ると、公的固定資本形成が同0.3%増とプラス成長であったのに対して、民間固定資本形成は同1.3%減と3四半期連続のマイナス成長となった。民間固定資本形成の内訳は、企業の設備投資が同0.4%増と3四半期ぶりにプラス成長に転じたのに対して、住宅投資は同3.4%減と前期(同0.5%増)から大幅に悪化した。

純輸出は輸出が同0.7%減、輸入が同0.1%増となった結果、成長率寄与度マイナス0.2%ポイント(前期:同 0.2%ポイント)と成長率を押し下げた。
 
供給項目別に見ると、第三次産業が引き続き堅調に推移するも、第一次産業と第二次産業がマイナス成長となった。

GDPの約7割を占める第三次産業は、前期比0.7%増と前期の同0.8%増からやや減速したものの、堅調に推移している。内訳では、政府行政・国防と医療・福祉業が好調であった。

第二次産業は、前期比0.7%減と2四半期連続のマイナス成長となった。内訳では、製造業が3四半期連続、建設業が2四半期連続のマイナス成長と不調が続いている。

第一次産業は、深刻な干ばつの影響を受けて前期比3.2%減と前期の同3.0%減からさらに悪化し、2四半期連続のマイナス成長となっている。
 
1 110四半期連続でリセッション(2四半期以上連続のマイナス成長)を回避しての景気拡大となった。
(先行きのポイント) 住宅価格の下落によって足元では減速懸念も、政策効果で底割れは回避と予想

2018年の実質GDP成長率は前年比2.7%増と2017年から加速したものの、四半期ベースでは直近2四半期で減速傾向が見られ、期待された3.0%増には届かなかった。住宅市場では住宅の供給超過によってシドニーやメルボルンなどの主要都市で住宅価格が下落し、住宅投資に水を差した。

今後も住宅価格が下落した場合、逆資産効果2を通じて民間消費にも悪影響を与える懸念はあるが、景気の減速が続くことはあっても大きく底割れすることはないだろう。足元では労働市場の改善が見られ、政府による大規模インフラ投資計画も進行している他、政策金利の利下げ観測も浮上している。また、総選挙に向けて与野党ともに財政拡大路線の公約を掲げており、金融政策と財政政策の両輪による景気の下支えによって、底割れは回避されるだろう。2019年及び2020年の実質GDP成長率は、2018年から減速し、2.0%台前半に留まると予想する。
 
2 保有する資産価値の上昇によって、消費や投資を拡大する資産効果に対して、逆に保有する資産価値の低下によって、消費や投資を控えること。
[住宅価格下落による影響]
オーストラリアでは、移民受入による人口増加、歴史的な低金利環境、中国からの投資資金流入など住宅需要の拡大を背景に、ここ数年で住宅価格が大幅に上昇してきた(図表2)。そして、住宅価格上昇の資産効果もあって、民間消費は2009年以降拡大が続いている。しかし、高額な住宅ローンの増加によって家計債務残高が増加してきたため3、政府は警戒を強め、融資規制や海外投資家への規制強化を行ってきた。その結果、住宅ローン承認額は、投資用が大きく減少、居住用も横ばいから減少基調となり、家計債務残高対可処分所得比の上昇にも歯止めがかかっている(図表3)。
(図表2)住宅価格指数の推移/(図表3)住宅ローン承認額と家計債務残高の推移
一方で、規制強化による住宅需要の縮小によって、2017年頃から供給超過に転換し、都市部を中心に住宅価格の下落が続いている。そして、住宅供給の抑制も続いており、住宅投資に水を差している。また、住宅価格の下落は逆資産効果を通じて、GDPの約6割を占める民間消費を下押しすることも考えられる。足元では既に新車販売台数や消費者景況感などの消費関連指標に落ち込みの兆しが見られる。また、貸出を行っている金融機関にとっても、住宅価格の下落が続くと、住宅ローンが不良債権化するリスクが高まる。オーストラリアの4大銀行は、住宅ローンが貸出全体の約3分の2を占めているため、住宅ローンの不良債権比率が高まると、金融システムを不安定化させるなどの悪影響が懸念される。
 
3 中には所得水準に見合わない高額のローンが含まれていると見られている。
[総選挙の行方]
オーストラリアでは、下院議会の総選挙と、上院議会の半数の入れ替え選挙が5月までに実施予定となっている4。調査会社ニュースポールの調査によると、支持率では2016年半ばから野党の労働党が与党の保守連合を上回っており、野党が優位と見られているものの、首相としては保守連合党首で現首相のモリソン氏の方が望ましいという調査結果もあり、予断を許さない展開となっている(図表4・5)。
(図表4)議会の情勢/(図表5)保守連合(与党)と労働党(野党)の二党間支持率の推移
(図表6)与野党の公約の比較(減税政策) 劣勢の与党は、改善する財政を背景5に、財政拡大路線の公約を掲げ、野党もこれに応戦するという様相を呈している(図表6)。また、与党は2019/2020年度(19年7月~20年6月)予算案の公表を、例年の5月上旬から4月上旬に前倒しすることを発表しており、選挙を前に有権者にアピールする狙いがあると見られる。現在、公約として掲げられている減税については、必ずしも短期的に実施されるわけではないが、与党が所得税減税の拡大や実施時期の前倒し、低所得者向けの一時金支給を検討しているなどの報道もあり、双方とも選挙が近づくにつれて公約を充実させると見られる。したがって、選挙の結果がどうであれ、財政拡大によって消費や投資は下支えされると予測する。
(図表7)オーストラリア経済の見通し
 
4 総選挙は、初めての国会召集後3年以内に実施しなければならず、今回はその期限が2019年5月となっている。ただし、現時点で日程は公表されていない。
5 連邦政府は2018年12月中旬に、連邦政府の2018/19年度年央経済・財政中間見通しを公表し、所得税税収の増加を背景に、2018/19年度の連邦政府の財政収支は予定通り黒字になると発表した。
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