2019年03月11日

インドの生命保険業界及び主要会社の状況-2017年度の決算数値を踏まえての成長性・効率性・収益性・健全性等の動向-

中村 亮一

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4―主要会社の収益性の状況

1|会社全体の収益状況
LICと民間の5社の収益状況を比較した場合、商品や販売チャネルの違い等から、保険料との比較での収益性は大きく異なる状況となっている。なお、利益水準は、責任準備金評価のための計算基礎の設定によっても影響を受ける形になっている。

2017年は、LIC、HDFC Standard及びSBI Lifeの利益は増加したが、ICICI Prudential、Max Life及びBajaj Allianzの利益は減少している。なお、対保険料利益率で見た場合、民間5社の水準は全体的には低下傾向にある。
LICと民間5社の利益(税引後)の状況
2|商品種類別の収益状況
ICICI Prudentialは、商品種類別の収益状況も開示しており、それが以下の図表の通りである。

これによると、これまでは、年金保険(リンク型)が高い収益を上げる形になっていたが、最近は、生命保険(有配当)及び生命保険(リンク型)の収益が、実額及びウェイトとも着実に高まってきている。
ICICI Prudentialの剰余(Total Surplus)の商品種類別内訳

5―主要会社の健全性等の状況

5―主要会社の健全性等の状況

1|責任準備金の計算基礎
インドの生命保険会社の責任準備金の計算基礎については、全社統一の計算基礎率が定められているわけではない。毎年度末決算において、それぞれの会社の状況を踏まえて決定されるため、各社毎に異なっている。ロック・フリー方式6で定められるため、契約毎に毎年の計算基礎率が変化することにもなる。以下では、代表的な計算基礎である、予定利率と予定死亡率の状況について、報告する。
 
6 責任準備金評価において用いる計算基礎について、契約時に使用したものを固定(ロック・イン)するのではなく、評価時毎にその時々に適正と考えられる計算基礎等で評価する方式
(1)予定利率
個人生命保険(有配当)契約の場合の水準について、各社の状況を見てみると、民間の5社に比較して、LICが相対的に高い予定利率を採用している。

2015年度から2016年度にかけては、民間の4社が予定利率の引き下げを行ったが、2017年度においては、LICは最高利率を引き下げたが、ICICI PrudentialとBajaj Allianzは予定利率を引き上げた(以下の各図表において、前年度から変更が行われた部分に網掛けを行っている)。
責任準備金計算基礎(予定利率)―個人生命保険(有配当)契約の場合―
LICの予定利率については、商品毎に異なっており、無配当商品では有配当商品よりも低い予定利率を採用しているケースもある。これは、一般的に、有配当と無配当のファンドの期待利回りや配当によるバッファー的要素を反映したもの、と説明されている。LICは2015年度に幅広い商品の予定利率を引き下げ、2016年度は前年と同水準に留めていたが、2017年度は再びいくつかの商品の予定利率を引き下げている。
責任準備金計算基礎(予定利率)―LICの場合(個人保険商品毎)―
事業年度毎の予定利率の変化については、LICの場合、個人生命保険(有配当)では、2014年度までの5年間は同水準で推移していたが、2015年度は引き下げを行い、2016年度はこの水準を維持していたが、2017年度では再度引き下げを行っている。なお、個人年金保険(有配当)では、以下のようになっている。
責任準備金計算基礎(予定利率)―LICの個人年金保険(有配当)の場合(事業年度毎)―
(2)予定死亡率
予定死亡率については、基本的には、最新の標準生命表である「IALM(2006-08)Ult.」をベースにしている。ただし、この生命表をそのまま使用しているわけではなく、商品毎、性別、年齢別、対象市場毎に異なる調整を行った死亡率を採用している。さらに、その水準や方式についても、各社毎に異なっている。
責任準備金計算基礎(予定死亡率)2017年度末―個人生命保険(有配当)契約の場合―
2017年度末において、個人生命保険(有配当)契約の責任準備金評価における予定死亡率について、2016年度と同様にICICI Prudentialを除く民間の4社は見直しを行っている。
(参考)責任準備金計算基礎(予定死亡率)2016年度末―個人生命保険(有配当)契約の場合―
また、LICにおける商品毎の予定死亡率は、下記の図表の通りである。生存保障要素の高い商品等については、低めの割増率や年齢のセットバックによる割引を行い、死亡保障性の高い商品では、相対的に高い割増率を採用している。

LICは、個人年金保険契約の年金受給後の予定死亡率について、2015年末にセットバック年齢を3歳から4歳に引き上げるという変更を行ったが、2016年末にはさらに5歳に引き上げ、2017年末には6歳に引き上げるという変更を行っている。
責任準備金計算基礎(予定死亡率)―LICの場合(個人保険商品毎)―
以上のように、予定死亡率については、各社の経験データ等に基づいて、対象とする市場における経験発生率の状況等も勘案する中で、各社が合理的・妥当と考える水準に設定されてきている。
2|ソルベンシー比率(Solvency Ratio
6社のソルベンシー比率の推移は、以下の図表の通りである。各社毎に絶対水準は大きく異なっているが、各社ともIRDAIが最低基準としている1.5(150%)の水準を上回っている。
大手各社のソルベンシー比率(Solvency Ratio)
なお、LICのソルベンシー比率は安定的に推移しているが、民間の5社は規模の拡大に合わせて、基本的には絶対水準は低下傾向にある。ただし、引き続き高水準を維持している。
3|剰余の分配(契約者配当)の状況
保険契約者に対する配当としては、保険金増額式配当(Reversionary Bonus)と消滅時配当(Terminal Bonus)がある。このうち、例えば、2017年度決算に基づいて、2018年度に割り当てられる、2017年度の保険金増額式配当率については、以下の図表の通りとなっている。

2016年度から2017年度にかけては、ICICI Prudential、HFDC Standard及びBajaj Allianzが配当率の一部引き下げを行っているが、他社は2016年度と同水準となっている。

なお、例えば、LICの養老保険や終身保険の場合、ここ7年間の配当率は同水準であり、安定的な配当が行われている形になっている。
契約者配当率―個人生命保険(有配当)契約の場合(保険金増額式配当率)―
(参考)EV(Embedded Value)の公表
EVについては、大手の生命保険会社が公表している。算出方式は、ICICI PrudentialとSBI LifeがIEV(Indian Embedded Value)という方式で、HDFC Standard等がMCEV(市場整合的EV)となっている。 ここで、IEV(Indian Embedded Value)というのは、インド・アクチュアリー会が作成しているアクチュアリー実務基準に基づいており、基本的には資産と負債の市場整合的な評価を行うMCEVと調和している方式である。

EVや新契約マージンは、会社の成長性や収益性を示す1つの指標となっている。これによれば、各社の2017年度の新契約マージンは13%~23%の範囲にあり、引き続き新契約における高い収益性を確保している。また、EVについては、2015年度に増加率が低下していたが、2016年度及び2017年度においては各社とも大きく増加し、会社の価値を着実に高めてきている。
インド生命保険会社のEV

6―まとめ

6―まとめ

ここまで、2017年度決算に関するIRDAIのAnnual Report 及び各社のPublic Disclosures資料等に基づいて、インドの生命保険業界の全体の状況及び主要各社の成長性・効率性・収益性・健全性等の状況について報告してきた。

インドの生命保険市場は、大きな潜在力を有し、今後さらなる成長が期待できる市場であるが、市場の変化に対応して、これまで、各種の保険監督規制の改革等が行われてきている。こうした環境下で、生命保険会社は、商品開発とチャネルの改革、リスク管理体制の充実等の課題に取り組み、経営効率化を進めてきている。

昨年のレポートで述べたように、インドの生命保険市場においては、昨今、外資系保険会社を中心にM&A(合併と買収)やIPO等を通じて、資本の増強を図り、積極的な事業展開を行っていく動きが見られ、今後もこうした動きを通じて、市場がさらにダイナミックに変化していくことが想定されている。

成長性が高く、健全性を維持しつつ、一定の収益性が期待できる市場だからこそ、日本の保険会社も含めて、欧米の主要保険グループが、この市場に魅力を感じて注力してきている。

今後とも、その動向は極めて注目されることから、引き続き注視していくこととしたい。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2019年03月11日「基礎研レポート」)

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