2019年03月05日

年金改革ウォッチ 2019年3月号~ポイント解説:今年の財政検証の経済前提

保険研究部 上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任 中嶋 邦夫

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1 ―― 先月までの動き

年金広報検討会が初開催され、年金広報に関する各種事業の基本的方向や働き方の多様化等を踏まえた年金広報のあり方などについて、議論を進めることになった。また、企業年金部会が企業年金・個人年金部会に改組され、個人型確定拠出年金も議論することが改めて明示された。
 
○年金広報検討会(年金局)
2月7日(第1回) 検討会のスケジュール、年金ポータルの基本的方向、その他
 https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000212815_00007.html (資料)
 
○社会保障審議会  年金財政における経済前提に関する専門委員会
2月21日(第9回) 経済前提の設定に用いる経済モデル等、その他
 URL https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_03685.html (資料)
 
○社会保障審議会  企業年金・個人年金部会
2月22日(第1回) 企業年金・個人年金制度の現状等、次回以降の進め方(案)
URL https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000204064_00002.html (資料)
 
○社会保障審議会  年金事業管理部会
2月25日(第42回) 日本年金機構第3期中期目標、中期計画及び平成31年度計画の策定、その他
URL https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000213396_00005.html (資料)
 
○働き方の多様化を踏まえた社会保険の対応に関する懇談会(年金局)
2月26日(第2回) 関係団体からのヒアリング①、その他
 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_03652.html (開催案内)
 

2 ―― ポイント解説:今年の財政検証の経済前提

2 ―― ポイント解説:今年の財政検証の経済前提

先月の経済前提に関する専門委員会では、今年の財政検証で使う経済前提について具体的な設定方法が議論された。以下では、当日議論になった、運用利回りの設定方法と前提の構成要素の組合せ方について確認する。
1|運用利回りの設定:運用実績ベースに切替
今回の経済前提で、従来と設定方法が大きく異なるのが運用利回りだ。従来は長期金利の実績(過去20~30年間の平均)を基準にしていたが、今回は年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の運用実績を基準にする(図表1)。変更の理由は、異次元緩和とも呼ばれる金融政策の影響で、近年の長期金利と利潤率との関係が過去の関係から大きく外れたため、とされる。

ここで問題になるのが、運用実績として何を使うかである。GPIFの運用実績は17年分しかなく、従来手法の長期金利のような30年平均は利用できない。加えて、過去15~20年間の「企業収益率÷マクロ経済全体の利潤率」は過去30年間よりも大きく、過去17年の実績では従来手法(過去20~30年間の平均を利用)よりも高い設定になりうる。さらに、GPIFの運用実績は運用利回りの前提と循環的な関係にある*1

そこで厚生労働省は、10年移動平均の下位30%の水準と同20%の水準を他の構成要素(後述)に応じて使い分ける案を提示したが、委員からはより低い20%の水準に絞るべきという意見が出た。最終的にどう設定されるかが注目される。
図表1 実績に基づく運用利回り(長期)の設定方法の変更点 (2019.2.21時点の案)
 
*1 GPIFの運用実績は運用目標の影響を受けるが、運用目標は財政検証での運用利回りの前提の影響を受ける。
2|構成要素の組合せ方:長期予測は困難なため、過去を参考に幅広く設定
経済前提の設定には複数の要素が必要であるため、先月の委員会ではその組合せ方が話題となった。厚生労働省の案では、各構成要素の高めの値を組み合わせた結果から、低めの値を組み合わせた結果まで、幅広い6通りを提示していた(図表2)。この考え方は従来どおりだが、委員からは、労働参加が進む場合には高齢者の就労が増えるため生産性は現在よりも低下するのではないか、などの意見が出た。その一方で、長期の将来予測は困難であり、諸要素の過去の幅広い関係を将来に投影し、その結果を幅を持って理解することが重要、という発言もあった。

確かに、前者のような組合せは十分に考えられるため、試算してみる価値は大きいかも知れない。その一方で、このように高めの値と低めの値を組合せても結果は提示された幅(Ⅰ~Ⅵ)の範囲内にとどまると予想されるため、幅広さを重視するならば試算する価値は小さいかも知れない。幅広い経済前提を設定する意義を再整理し、国民の理解を得るための取り組みが、今後重要となるだろう*2
図表2 経済前提(2029~2115年度用)の幅(Ⅰ~Ⅵ)と構成要素の設定との関係 (2019.2.21時点の案)
 
*2 幅広い経済前提を設定することの理解は、マクロ経済スライドの停止判定の際にも重要となろう(拙稿「実はブレーキがない年金削減!?~マクロ経済スライド終了手順の議論、決定、周知を」参照)。
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保険研究部   上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任

中嶋 邦夫 (なかしま くにお)

研究・専門分野
公的年金財政、年金制度全般、家計貯蓄行動

(2019年03月05日「保険・年金フォーカス」)

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