2019年03月05日

【アジア・新興国】ベトナム保険市場(2017年版)

保険研究部 専務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長 松澤 登

文字サイズ

1――はじめに

米朝首脳会談が開催された地ということで注目を浴びたベトナム(正式名称:ベトナム社会主義共和国)は人口9368万人(2017年)、面積32万9241k㎡の新興国である。名目GDP総額は2230億ドル、一人当たり名目GDPが2389ドルで、いずれも同じく新興国であるタイの約半分程度である(タイの人口は約6500万人)。

実質GDP成長率の伸びはここのところ6%台を記録し、安定的な成長を続けている。ベトナム統計総局の資料によれば、2017年の実質成長率は政府目標の6.7%を上回る6.8%(2016年6.2%、2015年6.7%)を記録し、ここ10年で最も高い成長率を確保した。日米中欧州等の世界経済の好調さを受け、ベトナムの投資・貿易面で大きな成長がみられ、国内生産にも良い影響を与えたと統計総局は分析している。

好調な経済情勢を受け、失業率は3.2%と依然として低い(2016年も3.2%)。また、消費者物価上昇率は3.5%となった。これは政府目標である4.0%は下回ったものの、2016年(2.7%)、2015年(0.6%)を上回る水準である。

本稿ではベトナム財務省保険監督部が発行した2017ベトナム保険市場年次レポートのデータを元にベトナム生命保険市場について解説を行いたい。以降の数字、図表は同レポートよりの引用である。
 

2――保険市場の概況

2――保険市場の概況

1976年の南北ベトナム統一時、南ベトナムにあった既存生保は消滅し、以降は、1964年に当時の北ベトナムで設立された国営保険会社であるベトナム保険会社(現在のBao Viet Holdings)による一社独占体制が長らく続いた。現在も共産党一党独裁制が続くが、1986年に開放政策であるドイモイ政策が打ち出された後、保険市場の開放が進み、1996年には外資系保険会社とベトナム国内社の合弁会社の設立が、1999年には外資系保険会社の100%子会社設立が認められるようになった。これを受け、1999年にPrudentialとManulifeが参入してのち、外資の参入の本格化が進んだ。

2017年の生命保険会社数は2016年から増減はなく18社であり、内訳は一人社員の有限責任会社(=親会社の100%子会社、Sole member LLC)が13社、通常の有限責任会社(LLC)が4社、ジョイントストックカンパニー(株式会社,株式社団等と訳される)が1社である。

市場規模としては、生命保険料収入が66兆2260億ドン(3311億円(2017年末円ドン為替レート1円=200ドンで計算、以下同じ))で、対前年31.15%増となった。市場浸透率(Insurance Penetration、対GDP保険料収入)は上昇し続けているが、いまだ1.32%(2016年1.12%)であり、アセアン諸国の中でも低位にある。
 

3――新契約の状況

3――新契約の状況

ベトナムにおける生命保険契約の伸びは大きく、2017年の生命保険新契約件数は1,964,262件で対前年28.64%増となった。うち、個人保険が1,963,970件、団体保険が292件(加入者は140,605人)である。

新契約について、収入保険料は22兆5520億ドン(1127億円)で対前年28.88%増となった。付保保険金額は579兆6870億ドン(2兆8984億円)で対前年35.26%増であり、個人保険の平均付保保険金額は2億8640万ドン(143万円)となっている。

新契約の会社別マーケットシェアであるが、収入保険料ベースで順に、Bao Viet Life (20.60%)、Prudential(18.34%)、Dai-ichi(第一生命ベトナム、16.11%)、Manulife(13.75%)、AIA(10.50%)、Generali(4.80%)、Chubb Life(4.45%)となった(図表1)。2016年にBao Viet LifeがPrudentialを抜いて首位に立ったが、2017年もその地位を譲らなかった(ただしシェアは微減20.91%⇒20.60%)。また、2017年はDai-ichiが大きくシェアを伸ばし(12.97%⇒16.11%)、Manulifeを抜いてシェア3位に上昇した。
(図表1)2017年新契約会社別シェア(新規収入保険料)
新契約の商品状況を見ると、収入保険料ベースでは投資連動型保険(investment-linked products)1の55.88%と養老保険(endowment)の38.79%がほとんどであり、保障性の強い保険としては定期保険が2.10%となっている(図表2)。保険金ベースで見ても投資・貯蓄性保険がほとんどである点は同様であり、投資連動型保険が76.58%、養老保険が14.38%、定期保険が5.61%となっている。定期保険は販売件数ベースで見ると22.19%であるが、小口契約が覆いようであり、収入保険料は保険金ベースでの割合は非常に小さい。このような販売傾向はここ数年変わっていない。
(図表2)2017年新契約商品別シェア(新規収入保険料)
 
1 ユニットリンク保険とユニバーサル保険とをまとめて投資連動型保険として分類されている。
 

4――保有契約の状況

4――保有契約の状況

生命保険の保有契約は、総件数で7,380,129件、対前年15.40%増であり、内訳として個人保険は7,379,799件、団体保険は330件(加入者は273,410人)となっている。

保有契約について、上述の通り、収入保険料は66兆2260億ドン(3311億円)で対前年31.15%増となり、また、付保保険金額は1597兆8180億ドン(7兆9890億円)で対前年36.57%増となった。

保有契約の収入保険料ベースの会社別マーケットシェアであるが、順に、Bao Viet Life(26.38%)、Prudential(24.48%)、Manulife(12.27%)、Dai-ich(12.16%)、AIA(9.51%)、Chubb Life(3.92%)、Generali(2.95%)となっている(図表3)。上述の通り、新契約ではBao Viet LifeがPrudentialを2016年に抜いたが、保有契約における収入保険料でも2017年にはBao Viet Lifeがトップに立った。
(図表3)2017年保有契約会社別シェア(保有契約収入保険料)
保有契約を商品別に見ると収入保険料ベースで養老保険が49.28%、投資連動型保険が47.72%、定期保険が1.01%であり(図表4)、また付保保険金額ベースで、投資連動型保険が74.09%、養老保険が21.17%、定期保険が2.22%となっている。
(図表4)2017年保有契約商品別シェア(保有契約収入保険料)
なお、保険金の支払状況(解約返戻金払戻を含む)であるが、総計で15兆9470億ドン(797億円)、対前年28.9%増となっている。また、責任準備金は169兆3410億円(8467億円)、対前年32%増となった。
 

5――販売チャネル

5――販売チャネル

販売チャネルとしてはエージェント(個人、法人)、ブローカー、銀行窓販などがあるが、近時は生命保険会社と銀行との業務提携による銀行窓販が注目されている2。一方でブローカーは主に損害保険分野での取扱が多く、生命保険契約の取扱は収入保険料ベースでブローカー取扱全体の0.41%に過ぎない。ただ、終身保険(whole life insurance)は1121%増、定期保険は525%増と保障性商品の分野で取扱実績を増やしてきている。

エージェントについては、個人・法人とも数を増やしており、個人エージェント(営業職員等)と、法人に属するエージェントを足した数が641,880人に達し、対前年26.56%増となった(図表5)。
(図表5)エージェントについて
 
2 ベトナム保険協会 http://www.iav.vn/News/Detail/53235
 

6――おわりに

6――おわりに

ベトナムの生命保険会社の内訳は外資17社、国内系1社であり、外資が市場を席巻している状況にある。日本からも第一生命が2007年にBao Minh生命保険会社を買収し、Dai-ichi Life Insurance Company of Vietnam, Limited (第一生命ベトナム)と社名変更した。その後、2016年にはベトナム郵便会社に独占的に商品を取り扱ってもらう業務提携を開始した。結果として2017年の新契約シェアは3位まで上昇した。

また、2012年には住友生命がBao Viet Holdingsに18%出資し、ベトナム政府に次ぐ第二位の株主となり、子会社であるBao Viet Lifeと業務提携をおこなっている。

なお、損保分野では東京海上グループが1996年にBao Viet Holdingsとの合弁会社である    Bao Viet Tokio Marine Insurance Company Limitedを設立し、2016年には出資比率を当初の49%から51%に引き上げた。

ベトナムの生命保険市場は経済成長率を大幅に超過して成長している。一方で、生命保険の普及率はいまだ低位にとどまっており、今後の更なる発展が期待される。
Xでシェアする Facebookでシェアする

保険研究部   専務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長

松澤 登 (まつざわ のぼる)

研究・専門分野
保険業法・保険法|企業法務

経歴
  • 【職歴】
     1985年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
     2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
     2018年4月 取締役保険研究部研究理事
     2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
     2024年4月より現職

    【加入団体等】
     東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
     東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
     大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
     金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
     日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等

    【著書】
     『はじめて学ぶ少額短期保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2024年02月

     『Q&Aで読み解く保険業法』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2022年07月

     『はじめて学ぶ生命保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2021年05月

(2019年03月05日「保険・年金フォーカス」)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【【アジア・新興国】ベトナム保険市場(2017年版)】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

【アジア・新興国】ベトナム保険市場(2017年版)のレポート Topへ