2019年03月04日

EUソルベンシーIIにおけるLTG措置等の適用状況とその影響(8)-EIOPAの2018年報告書の概要報告-

中村 亮一

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(2)会社のALMにおける計算された感応度の調査結果の反映
MAのために、関係するNSAはソルベンシーII指令の第44条(2a)(b)項の要件に関する会社からの情報は制限されている、と指摘した。NSAは、会社のORSA(リスクとソルベンシーの自己評価)やSFCR(ソルベンシー及び財務状況報告書)で特徴付けられるこの情報のテーマ別レビューを実施していないが、内部モデルにおいてMAへのモデル変更を行う会社に対して行われる関連作業があり、そこでMAの前提に対する感応度を定量的に評価している。NSAはさらに、MAポートフォリオがよくマッチしているので、特定のALMリスクは市場リスクに関連しており、信用リスクには関連していない(全ての信用リスクが格付け及び評価に取り込まれると広く想定される)、と指摘した。これらは、NSAが公表したマッチングテストでカバーされているが、いくつかの会社は自身のために他のテストを開発した。

VAに関して、NSAsは、VAの感応度又は補外の知見は、会社のALMに大きな影響を及ぼさないと述べた。あるNSAは、これらの調査結果は経済状況を変更しないと述べた。同様に、あるNSAは、感応度は管理委員会に報告するための規制上のリスクとして関連性があるが、直接的な経済的影響の特定にはつながらないと述べた。

あるNSAは、ALMの範囲内で、自国の市場での会社は、通常、特定の戦略的資産配分に対して一定の目標機能又は比率を最大化しようとしている、と述べた。NSAは、株主に帰属する利益又は損失、ならびに保険契約者に裁量的利益(配当)をもたらす利益が決定されるのは法定貸借対照表においてであるため、法定貸借対照表は、市場において、会社の戦略の中心的役割を果たすと指摘した。法定貸借対照表上の損益はまた、納税の主な「推進力」である。従って、ALM内で設定された目標関数又は比率は、通常、ローカルの法定貸借対照表の損益をもたらす予想利益に基づいている。法定貸借対照表は市場価値ではなく簿価を使用しているため、目標値とソルベンシーII比率の間の相互関係は通常あまり強くはない。従って、VA又は補外に関して計算された感応度は、通常、ALMに限定的で間接的な影響しか及ぼさないため、様々なレベルの規制上の制約が生じている。

自国の市場での会社が技術的準備金の個別評価を行うために自国の経済的期間構造を使用しているNSAは、これらの会社は、この経済的期間構造に基づくSCR(ソルベンシー資本要件)比率が特定の臨界値を下回ったときに対策を開始すると述べた。これに基づいて、会社は配当支払いを決定する際にこのSCR比率も考慮に入れる。これらの会社では、ソルベンシーIIのSCR比率はALMの決定にとって依然として重要であり、彼ら自身の経済的ソルベンシーは、当面のALM問題にいくつかの境界を追加する。
(3)会社のALMに対するVA、MAの使用又は補外の設計の影響
MAについて、関係するNSAは、MAの要件を満たすためには、それらがよくマッチしていることを実証することが義務付けられていると述べた。従って、歴史的な文脈では、この市場における年金引受会社は既に長年にわたり密接にマッチングアプローチの下で運営されてきたけれども、MAの使用はALMに(キャッシュフローの観点から)プラスの効果をもたらした。

VA又は補外について、NSAsは、これらの措置が会社のALMに与える影響は重要ではないと述べた。

あるNSAは、インタビューの中で、VAがかなり小さい金融環境では、ソルベンシーIIの予測におけるVAの影響は同様により限定的であることを会社が指摘したと説明した。従って、会社はVAがALMに重大な影響を及ぼさないと考えていた。

補外に関しては、この市場での会社は、LLPの選択など、リスクフリー曲線の補外のパラメータを変更すると、会社のソルベンシーポジションに大きな影響を与える可能性があると説明した。ALMの中では、EIOPAによって実施された新しいUFR方法論を考えると、殆どの会社は彼らが経時的にUFRのレベルの予想される減少を考慮に入れるだろうと説明した。LLPの選択に関しては、ALMは通常、現在の規制の枠組みに基づいている。全体的に見て、これらの会社はALMに補外又はVAの直接的な影響はないと述べた。

別のNSAは、VAがその投資による自身のファンドのボラティリティを抑制するため、その会社によるVAの適用はスプレッド・リスクにさらされる資産を比較的魅力的にすると指摘した。彼らの戦略的資産配分では、一部の会社はソルベンシーIIのVAをモデル化しているが、他の会社は信用スプレッド資産のボラティリティを調整、即ち減少させている。

この管轄地域では、いわゆる「UFRとVA」効力も考慮されている。最終流動性点を超えた負債を有する会社は、それらが市場のリスクフリーレートを上回る十分な収益を生み出さなければ、年々自己資本が減少するという現象を経験する。それに加えて、1つの会社は、ソルベンシーII基本金利期間構造の入力として使用されるスワップレートを下回る利回りを有する投資によるそのような抗力を考慮に入れている。現時点では、これはいくつかの国債に当てはまる。
(4)リスクの高いALMポジションに移行するためのVA、MAの使用、又は補外の設計からのインセンティブ
MAに関しては、関係するNSAは、より危険なALMポジションへの移行を特定していないと述べた。MAのマッチング要件は、ALMを監視し、資産負債のキャッシュフローが厳密にマッチングするように保証することを促進すると説明した。会社がより高いスプレッド資産に移行した場合、信用格付けがより低いリスク投資を示している場合にのみそうするように注意してきた。NSAは、内部格付の使用は、MAの観点からも、内部モデルにおけるMAの許容度の観点からも、監督上の検討と精査の対象となっていると述べた。

VA及び補外に関して、NSAsは、(VAの場合)よりリスクの高い資産ポジションに移動する、又は(補外の場合)デュレーションのミスマッチを増加させるインセンティブを観察していない、と述べた。もう1つのNSAは、その会社はVAの参照ポートフォリオに向けてのインセンティブを見ていると指摘した。これにより、自己資本のボラティリティが低下する。ただし、ALMとリスク管理では、これらの会社は、自己資本のボラティリティの低下という恩恵を受けて、信用度が低くリスクの高い投資への変更を防ぐための適切な措置を講じている。

あるNSAは、彼らの市場では、サンプル中の多くの会社が非常に長期の保険保証を有しており、それが、保険会社のバランスシートをリスクフリーレートの水準の変動にさらすようなデュレーションミスマッチを制限するために、長期資産とマッチさせようとしている、と述べた。と同時に、保険会社は、(任意給付による恩恵を受ける)保険契約者及び該当する場合には株主に対する投資からの十分な利益を確保する必要がある。これは、保険会社が限定された強制売却のリスクにのみさらされているため、(スプレッドのうちデフォルトリスクに起因する部分を除く)スプレッドを稼ぐことができるという前提のもと、一定のスプレッドを有する長期資産に会社が投資することを意味している。VAの使用はそのようなアプローチを容易にするかもしれないが、会社のALMポジションはVAの使用がなければ基本的には変わらない。従って、VAを使用しても、リスクの高いALMポジションに移行するための追加のインセンティブは生まれない。この市場での会社は、同じことが補外の設計にも当てはまると説明した。

補外の設計に関しては、いくつかの会社が、リスク管理/ALMの観点からは、理想的には彼らの負債のキャッシュフローと完全に一致させるだろう、と指摘した。しかし、これにより自己資本とソルベンシーIIのSCR比率のボラティリティが生じるため、これらの会社はソルベンシーIIのSCR比率のボラティリティを低下させるために、少し低い程度に負債のキャッシュフローとマッチさせる。一部の会社は、SCR比率が高いほどキャッシュフローマッチングの程度が高まるため、SCR比率が高い場合は、SCR比率のこの変動性をおそらく受け入れると述べた。
(5)会社のALMに対するVAを計算するための、会社の個別資産ポートフォリオとEIOPA参照ポートフォリオとの間の乖離の影響
あるNSAは、VAを使用する彼らのサンプル中の会社はEIOPA参照ポートフォリオからのいかなる乖離も観察していないと述べた。

あるNSAは、サンプル中の大部分の会社は「彼らの」個々のVA、即ち、会社の特定の資産構成から生じるであろうVAを観察していると述べた。しかしながら、EIOPA のVAからのこの「個々のVA」の乖離は、その会社の戦略的資産配分の「推進力」ではないと全ての会社が説明した。特に、そのような乖離を最小限に抑えるために戦略的資産配分を使用することはない。それにもかかわらず、この情報は、その会社が実際にVAを達成することができるかどうかを評価するために関連性があると考えられた。

あるNSAは、会社が保有している実際の資産が、EIOPAが規定するVAの適用を正当化するために十分な利回りを生み出すことを期待していると述べた。このNSAは、会社がこれを定期的かつ継続的に監視する方法について、まだ徹底的な調査を行っていない。

別のNSAは、会社は資産ポートフォリオとVA参照ポートフォリオとの乖離を監視していると述べた。これらの会社は、投資はしていないが、VAの適用を通じてエクスポージャーがある政府及び社債へのエクスポージャーについて報告している。どの会社も、乖離が彼らのALMに影響を与えるとは報告していない。
 

3―まとめ

3―まとめ

以上、今回を含めたこれまでの8回のレポートで、EIOPAの報告書に基づいて、EUのソルベンシーIIにおけるLTG措置や株式リスク措置に関しての保険会社の適用状況やその財務状況に及ぼす影響、さらには、これらの措置が保険契約者保護、保険会社の投資、消費者及び商品、EU保険市場における競争と公平な競争の場、金融安定性に与える影響について、そしてトピック項目として、LTG措置等の適用に関連したリスク管理の状況について報告してきた。

今回のEIOPAによる報告書は、ソルベンシーIIがスタートして2年間を経ての数値や状況に基づいている。2016年、2017年の報告書に続く3回目の報告書であることから、より内容の充実が図られ、さらには各種の措置が会社の財務状況に与える影響について、これまでの報告書との比較ができる形となっている。加えて、これらの措置が財務状況以外に与える影響についても、措置適用からの一定の経過を踏まえて、それなりの特徴が現われて、一定の判断に用いることができるものが示されてきている。

また、今回の報告書においては、各種措置の取扱における各国のNSAsの間での取扱の差異や課題意識等の状況も公表されており、これらを踏まえて、今後各国のNSAsや各(再)保険会社・グループがどのように対応していくのかが注目されるところとなってくる。

いずれにしても、EIOPAによるLTG措置や株式リスク措置に関する報告書については、まずは2021年のLTG措置と株式リスク措置のレビューに向けて、毎年、その焦点となるトピックを変化させつつ、公表されていくことになる。報告年数を重ねていく中で、より詳細な情報が収集・蓄積されていくことで、これらをベースにした各国の監督当局やEIOPAによる分析も、より充実した安定的で信頼性のあるものへと高度化されていくことが期待されることになる。

年次の経過とともに、さらには市場環境の変化に対応して、各種措置の適用状況やその影響の程度がどのように変化していくのか、これに対して各(再)保険会社や保険グループ及び各国の監督当局やEIOPAがどのように対応していくのか、そしてこれらを踏まえて、2021年のLTG措置と株式リスク措置のレビューがどのような形で行われていくことになるのかについては、多くの保険ステークホルダーが強い興味関心を持っている。

引き続きこうした状況を観察していくために、EIOPAによるLTG措置や株式リスク措置に関する報告書について継続的に注視していくこととしたい。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2019年03月04日「保険・年金フォーカス」)

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【EUソルベンシーIIにおけるLTG措置等の適用状況とその影響(8)-EIOPAの2018年報告書の概要報告-】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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