2019年02月20日

働く女性のメンタルヘルス-何より経済・体力・時間の余裕のなさが悩みやストレスを増やす。若いと独身、40代以上は既婚者で悩みは多い?

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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4――働く女性の悩みやストレスへの影響要因の重回帰分析結果

1就業女性全体の結果~悩みを増やすのは何より経済状態や体力、時間の余裕のなさ。ハラスメントを告発できない職場や長時間労働の職場、子どもがいないことも悩みを増やす
次に、働く女性の悩みの有無に対して具体的にどのような要因が影響を及ぼすのか、重回帰分析を用いて、その影響度合いを捉えたい。

分析では、先に示した5段階の尺度から成る悩みやストレスの有無を目的変数とし、説明変数は、これまでに見てきた年齢(25~59歳)や最終学歴2、未既婚3、子の有無4、本人年収5、実家との距離6、体力7のほか、職場のそれぞれの状況8として重回帰分析を行う。

分析において、独立変数間の相関係数を見たところ、「男性も女性も、性別によらず、業績で公平に評価されている」と「年齢に関係なく、業績で公平に評価されている」、「残業の必要がなくても、終業時間直後は帰りにくい」と「上司や先輩より先に帰りにくい」、「上司や先輩より先に帰りにくい」と「部下や後輩より先に帰りにくい」では相関係数0.7以上の強い相関が見られたため、「年齢に関係なく、業績で公平に評価されている」「上司や先輩より先に帰りにくい」「部下や後輩より先に帰りにくい」を除いて分析する。このほかの相関係数は中程度以下であり、多重共線性の問題はないと考えられる。なお、変数は強制投入とする。

重回帰分析の結果、重決定係数は0.2189であり、1%水準で有意な値であった。それぞれの説明変数から目的変数への標準回帰係数を示す(図表7)。図表7より、働く女性の悩みやストレスの有無の度合いについて5%水準で有意な変数のうち、「セクハラやパワハラを受けても告発しにくい」職場や「結局、長時間働ける人が評価されやすい」職場は悩みやストレスを増やす影響がある。一方で、それ以上に経済状態の余裕や体力、時間のゆとりがあることは悩みを減らす影響がある。裏を返すと、経済状態の余裕や体力、時間のゆとりがないことはハラスメントや長時間労働などの職場の悪環境以上に悩みを増やす影響がある。さらに、子どもがいることや「長時間労働を減らすための仕事の効率化がなされている」職場は悩みを減らす影響がある。なお、有意な値ではないが、結婚していることも悩みを減らす影響がうかがえる。
図表7 働く女性の悩みやストレスの有無についての重回帰分析結果(25~59歳、n=2,909)
 
2 中学卒=1、高校卒=2、高等専門学校卒=3、専門学校卒=4、短期大学卒=5、大学卒=6、大学院卒=7、その他=8のうち、8以外が分析対象。便宜上、順序尺度に見立てているが、例えば、専門性の高さなどの軸で見ればこの通りではない。
3 未婚=1、既婚=2。学歴同様、便宜上、順序尺度に見立てている。
4 子どもなし=1、子どもあり=2
5 収入はない=1、300万円未満=2、300~700万円未満=3、700万円以上=4
6 同居=1、近居(同一区市町村内)=2、別居(同一区市町村外)=3、その他(すでに亡くなっているなど)=4
7 体力がない=1、どちらかと言えばない=2、どちらともいえない=3、どちらかと言えばある方=4、体力がある=5
8 あてはまらない=1、ややあてはまる=2、どちらともいえない=3、あまりあてはまらない=4、あてはまらない=5
9 決してモデルの適合度が良いわけではないが、|R|=0.467であり、中程度の相関があると認識している。
2年代別の結果~若いと独身の方が、40代以上は既婚者の方が悩みは多い?
同様に年代別に分析したところ、全体と比べていくつかの違いがあった(図表8)。30歳代以下では未既婚が有意な値となっており、未婚であることは悩みやストレスが増やす影響がある。特に25~29歳では未既婚の影響が強く、経済状態の余裕や体力があること、ハラスメントのある職場であること10を越えた影響がある。一方で、40歳代では有意な値ではないものの、逆に結婚していることが悩みを増やす影響がうかがえる。50歳代でもごく僅かだが同様の傾向がある。つまり、いわゆる結婚適齢期の年代の女性では結婚していないことは悩みの種となりやすいが、40歳代以上では逆に結婚している方が悩みは増えるようだ。

40歳代は子どもの進学など子育てで難しい問題も重なる時期であり、徐々に親の介護問題なども始まる時期でもある。また、「女性のライフコースの理想と現実」等11でも述べた通り、40歳代以上と30歳代以下では女性が外で働くことに対して、女性自身も親世代も(おそらく夫も)ジェネレーションギャップがあるようだ。40歳代以上の夫婦では、昔ながらの男女の性別役割分担意識が残っているために、仕事と家事・育児・介護の両立において妻の負担感が大きく、さらに、義理の実家との関係性の問題なども相まって、結婚している方が悩みが増えるのかもしれない。

子の有無については、必ずしも有意な値ではないが、子どもがいることは25~29歳では悩みを増やす影響が、逆に30~50歳代では悩みを減らす影響がうかがえる。なお、50歳代のみ有意な値である。つまり、子どもはある程度の人生経験や経済力が増してから持った方が悩みは生じにくく、50歳代では子育てにかかる労力が減るとともに、自分自身の老後が見えてくる時期でもあり、子どもがいることで一層悩みが減る傾向があるのだろう。

なお、40歳以上では結婚していることは悩みを増やす傾向がうかがえたが、子どもがいることは逆に悩みを減らす傾向を示すことは興味深い。子どもの進学問題などがあっても、悩みやストレスを増やすのは子ども要因ではなく、配偶者要因ということなのだろう。

また、40歳代では「男性も女性も、性別によらず、業績で公平に評価されている」職場であることが唯一、有意な値で悩みを減らす影響を示しており、男女の不公平感に対する不満の多い年代(不満に直面している年代)である様子もうかがえる。

さらに、就業女性のうち既婚女性や既婚で子のいる女性に限定して、説明変数に配偶者の年収や義理の実家との距離を加えて分析したところ、どちらも「休暇が取りにくい」ことが悩みを増やす影響として強く表れた。また、必ずしも有意な値ではないが、年齢別に見ても配偶者の年収の高さはどちらかと言えば悩みを増やす影響が、義理の実家との距離の遠さは悩みを減らす影響があった。

配偶者の年収の高さについては意外なようだが、非就業の既婚女性でも同様の結果を確認できている。詳細は別途報告したいが、配偶者の年収と悩みの有無の関係を見ると、配偶者の年収が300万円~1,000万円未満では年収の増加とともに悩みは減るが、年収1,000万円以上では悩みは若干増え、年収300万円未満では若干減る。このことは、例えば、夫が高年収の家庭では夫は仕事に邁進して家庭をあまり顧みないことで、妻は家事・育児の負担の全てを担うことで悩みが多いといった状況が考えられる。
図表8 働く女性の悩みやストレスの有無についての重回帰分析結果
図表8 年代別に見た働く女性の悩みやストレスの有無についての重回帰分析結果
 
10 女性の就労環境やハラスメント問題の整備が進むことで、若い年代ほどそもそもハラスメントのない職場で働いている可能性もある
11 久我尚子「女性のライフコースの理想と現実」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート(2018/11/27)及び「続・女性のライフコースの理想と現実」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レター(2018/12/12)
3その他~ハイキャリア女性では経済状態より時間や体力、職場の状況
働く女性の悩みの割合や内容は最終学歴や本人収入でも異なる傾向が見られた。その中で特徴的だった大学院卒や年収300万円以上について同様に分析すると、経済状態よりも時間や体力、あるいは職場の状況の方が悩みを増やす傾向がある(図表9)。
図表9 属性別に見た働く女性の悩みやストレスの有無についての重回帰分析結果

5――おわりに~働き方改革、就労環境整備は悩みやストレスも減らす

5――おわりに~働き方改革、就労環境整備は悩みやストレスも減らす

本稿では、女性5千人を対象とした調査結果を用いて、働く女性の悩みやストレスの状況を捉えた。非就業女性と就業女性では、若いほど非就業女性の方が悩みは少ないが、50歳代では同程度であった。働いている女性の方がやや悩みは多いものの、年齢とともにその差は縮んでいく。

また、悩みやストレスの内容を見ると、就業状態によらず最も多いのは「収入・家計・借金等」であったが、非就業女性では家庭内のこと、就業女性では家庭外のこと(仕事)で悩みが多い傾向があった。また、高学歴や高収入、若い年代などキャリアに邁進しているような女性では最も悩みとして多いのは「収入・家計・借金等」ではなく、「自分の仕事」であった。

また、悩みを増やす要因の影響度合いを重回帰分析で捉えたところ、働く女性の悩みを増すのは、何より経済状態に余裕がないことであり、これは就業女性の悩みで「収入・家計・借金等」が最も多かったこととも一致する。また、体力や時間の余裕のなさも比較的大きな影響を与える。このほかハラスメントを告発できない職場であることや未だ長時間労働が評価される職場であること、子どもがいないことも悩みを増やす。

年齢別の結果で興味深かったことは、若い年代では結婚していないことが悩みを増やすが、40歳代以上では結婚している方が悩みは増える傾向があることだ。加えて、30歳代以上では子どもがいることは悩みを減らす傾向があった。つまり、子どもの健康や進学問題などに直面しても、既婚の働く女性の悩みを増やすのは子どもではなく、(家事・育児に協力が少ないであろう)配偶者の影響のようだ。この点については、繰り返し述べているように、40歳代以上とそれ以下では、女性が外で働くことや男女の役割分担に関わる価値観にジェネレーションギャップもあるだろう。

また、高学歴や高収入のハイキャリア女性では経済状態よりも体力や時間の余裕、職場の状況が悩みを増やす影響があった。職場の状況については、就業女性全体でも「長時間労働を減らすための仕事の効率化がなされている」職場や「仕事と育児や介護を両立するための制度が整っている」職場などでは悩みを減らす傾向がある一方、「セクハラやパワハラを受けても告発しにくい」職場や「結局、長時間働ける人が評価されやすい」、「休暇が取りにくい」職場では悩みを増やす傾向がある。

今後とも女性の活躍が進み、管理職をはじめ男性と同様の働き方をする女性も増える中では、やはり悩みやストレスの軽減という観点からも、着実に働き方改革や両立に関わる就労環境の整備を進めていく必要がある。また、働く女性といっても悩みを増やす要因として家庭の影響も大きく、職場の制度環境の整備を進めるとともに、男性の育休取得促進など家庭の環境も整うような施策も強く進める必要がある。
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

(2019年02月20日「基礎研レポート」)

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