2019年02月20日

働く女性のメンタルヘルス-何より経済・体力・時間の余裕のなさが悩みやストレスを増やす。若いと独身、40代以上は既婚者で悩みは多い?

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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1――はじめに~働く女性が増える一方で、女性の就労環境には課題も多い

図表1 6歳未満の子どもを持つ夫婦の家事・育児関連時間(1日あたり) 働く女性が増え、M字カーブも解消傾向にある。政策の後押しもあり、今後とも働く女性は増える見込みだ。一方で女性の就労環境には課題が多い。指導的地位に占める女性の割合は少なく、男女の賃金格差は依然として開いたままだ。

また、仕事と家庭の両立環境も十分に整備されているとは言えない。両立に関わる制度の利用状況は、正規雇用者か非正規雇用者かといった雇用形態で異なり、出産後の就業継続率にも大きな差がある。国立社会保障人口問題研究所「第15回出生動向基本調査」によれば、第1子出産後の就業継続率は、育休取得率が順調に上がっている正規の職員では69.1%だが、正規の職員と比べて育休取得などが難しいパートや派遣では25.2%に過ぎない。一方で制度の整っている正規雇用者でも、3割は出産後に退職している。これは、職場の環境整備は進んでいても、家庭の環境は必ずしも整っているわけではないということだろう。確かに、夫婦の家事・育児の分担を見ると、特に日本の家庭では妻への偏りが大きい(図表1)。夫婦ともにフルタイムで働いていても、家事・育児は妻に偏りがちな家庭は多いのではないか。

このような中で、悩みやストレスを抱えながら働く女性は少なくないだろう。本稿では、働く女性のメンタルヘルスの状況、具体的には悩みやストレスの有無やその内容、属性による違いについて、ニッセイ基礎研究所が昨年7月に実施した女性5千人を対象にした調査1を用いて分析する。
 
1 「女性のライフコースに関する調査」、調査時期は2018年7月、調査対象は25~59 歳の女性、インターネット調査、調査機関は株式会社マクロミル、有効回答5,176
 

2――働く女性の悩みやストレスの有無

2――働く女性の悩みやストレスの有無

1|就業・非就業による違い~若いほど非就業女性の方が少ないが、50歳代では同程度
はじめに、就業状態による違いを確認する。就業女性と非就業女性で悩みやストレスの有無に違いはあるのだろうか。
図表2 「普段の生活の中で悩みやストレスはありますか」 調査では「普段の生活の中で悩みやストレスがありますか」という問いに対して、「常にある」「しばしばある」「ときどきある」「ほとんどない」「ない」の5段階の選択肢で尋ねている。このうち上位2つをあわせた割合を悩みやストレスがある割合(以下、悩みがある割合)とすると、25~59歳の非就業女性では47.3%、就業女性では50.4%である(図表2)。
図表3 就業女性について属性別に見た悩みやストレスが「常にある」「しばしばある」の合計値 非就業の方が若干低く、若いほど差はひらくが(25~29歳で非就業46.9%、就業53.8%)、50歳代ではおおむね同程度である(44.4%、45.0%)。悩みやストレスは、就業女性の方がやや多い傾向はあるものの、年齢とともにその差は縮んでいく。

2働く女性の属性による違い~時間・経済状態の余裕・体力のない層、若い年代、未婚、子のいない女性、実家と同居で悩みが多い
ここからは働く女性に注目して、年齢に加えて、最終学歴や体力、未既婚、子の有無、年収といった属性による違いを捉えていく。
図表3 就業女性について属性別に見た悩みやストレスが「常にある」「しばしばある」の合計値 図表3より、働く女性の悩みがある割合は、若い年代ほど、また、最終学歴は高専卒や中卒、高卒で、既婚者より未婚者で、子どもがいる女性よりいない女性で、本人年収や配偶者の年収は低いほど、実家や義理の実家とは同居で、体力がないほど、経済状態に余裕がないほど、時間のゆとりがないほど高い。特に、時間のゆとりや体力、経済状態では差が大きく、悩みの有無に大きく寄与している子がうかがえる。

一方で、経済状態の余裕や時間のゆとり、体力があるほど、自営業・自由業、年収700万円以上、配偶者の年収が500万円以上、義理の実家と近居、50歳代で悩みがある割合は低い。
3職場環境による違い~ハラスメントを告発できない・長時間労働の職場は悩みを増やす
職場の状況別には、全体と比べて+10%pt以上多いものについて順に見ると「セクハラやパワハラを受けても告発しにくい」「休暇が取りにくい」「上司や先輩より先に帰りにくい」「残業の必要がなくても終業時間直後は帰りにくい」「部下や後輩より先に帰りにくい」「産休や育休の制度はあるが利用しにくい」「結局、長時間働ける人が評価されやすい」「時短勤務や在宅勤務の制度はあるが利用しにくい」があがる(図表4)。
図表4 就業女性について職場の状況別に見た悩みやストレスが「常にある」「しばしばある」の合計値 つまり、ハラスメントを告発しにくい閉塞感のある職場で働く女性は当然ながら悩みが多いほか、長時間労働を良しとするような旧慣習の残る職場でも悩みは多い。

一方で、悩みがある割合が低いのは、「年齢によらず業績で公平に評価されている」「長時間労働を減らすための効率化がなされている」「仕事と育児や介護の両立制度が整っている」といった職場であり、男女平等の認識が浸透しており、長時間労働の是正や仕事と家庭の両立制度が整っているなど働き方改革が着実に進んでいる職場だ。
 

3――働く女性の悩みやストレスの内容

3――働く女性の悩みやストレスの内容

1就業・非就業による違い~非就業では家庭内、就業女性は仕事など家庭の外の悩みが多い
普段の生活の中で悩みやストレスが「常にある」「しばしばある」と回答した女性について、その内容を見ると、25~59歳の女性全体(就業・非就業合計)で最も多いのは「収入・家計・借金等」(25.7%)であり、次いで「家族との人間関係」(14.1%)、「家族以外との人間関係」(10.3%)、「自分の仕事」(9.2%)、「自分の病気や介護」(7.3%)と続く。
図表5 女性の悩みやストレスのうち「最も気になるもの」 就業状態別に見ても、どちらも最も多いのは「収入・家計・借金等」だが、非就業女性で「自分の病気や介護」や「家族との人間関係」、「育児」が、就業女性で「自分の仕事」が比較的多い。一方で、非就業女性では「家族以外との人間関係」が、就業女性では「自分の病気や介護」や「家族との人間関係」が若干少ない。

やはり、当然ながら家庭生活が中心である非就業女性では家庭の中のことが、外で働く就業女性では家庭の外のことに悩みが多い。
2働く女性の属性による違い~年齢が高いほど家庭、若いほど自分、高年収・高学歴で仕事
働く女性について属性別に見ても、おおむね最も多いのは「収入・家計・借金等」だが、29歳以下や大学院卒、年収300万円以上、経済状態にやや余裕がある層では「自分の仕事」が最も多い(図表6)。

このほか就業女性全体と比べて、年齢が高いほど「収入・家計・借金等」や「家族の病気や介護」などの家庭生活に関わる悩みが多く、若いほど「自分の仕事」や「恋愛や性に関すること」など自分に関わる悩みが多い傾向がある。なお、若い年代の多い未婚者でも「自分の仕事」が多い。

最終学歴別には高学歴ほど「収入・家計・借金等」が少ない傾向がある。高専卒で「家族の病気や介護」が多いが、これは高専卒の内訳を見ると年齢層が高いためだ。さらに、年収が高いほど「収入・家計・借金等」や「家族との人間関係」、「子供の教育」が少ない傾向がある一方、「自分の仕事」は多い傾向がある。つまり、高学歴・高年収のハイキャリア女性では経済的な悩みや家庭生活の悩みは少ないかわりに、自分の仕事に関する悩みが多い。

このほか「部下や後輩より先に帰りにくい」職場で「家族との人間関係」が多い(図表省略)。
図表6 働く女性の悩みやストレスのうち「最も気になるもの」
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

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